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*23* プレゼント攻撃炸裂!

 この街で黒いレンガ造りの建物を目にするのも、慣れたものになってきた。


 専用窓口で『ギルド認定薬術師』のライセンス発行手続きをして、処理が終わるまでは自由時間。


「おまたせ!」


 小一時間ほどたったころかな。ノアが、待ち合わせにしていた二階フロアのカフェテリアにやってきた。


 パタパタと足取り軽く駆け寄ってくるその両手には、紙袋を提げている。


「すごい大荷物だね」

「リオにプレゼント。はいっ、どうぞ!」


 ノアはわたしの向かいの席に腰かけると、みっつある紙袋のうち、ふたつを差し出してきた。


「こんなにもらっていいの? ……わっ、かわいいローブだ!」


 ひとつには、魔術師系の冒険者が好んで着るローブが入っていた。


 クマのぬいぐるみみたいなテディブラウンカラーのフードつきロング丈ローブで、裏地がストロベリーピンク。胸もとで、ピンクゴールドのサテンリボンを結ぶデザインだ。


「ローブは、俺とおそろいにしてみた」


 ノアがもっていた紙袋から取り出したローブはネイビーで、裏地がサファイアブルー。リボンの代わりに、シルバーグレーのクロスタイになっていた。


 デザインはほとんどいっしょで、色違いのペアルックって感じ。


 おそろいがよかったのか。ふふっ、なんかかわいい。


「それで、こっちが本命」


 ノアに指さされて、もうひとつの紙袋を開けてみる。そこには、ショルダーバッグが。


 フェイクレザーでできたふっくらとしたシルエットで、ちょっとしたおでかけによさそうな小ぶりサイズ。


 これもストロベリーピンクで、留め具がリボン型のピンクゴールドになっている、かわいらしいデザインのショルダーバッグだった。


「これ、マジックバッグなんだよ。リオがいま使ってるのより、たくさん入ると思う」

「えっ、こんなにちいさいのに!?」

「調薬の道具とか、いろんな薬草とか、もっといっぱい入るようにってね。俺からのお祝いだよ。認定ライセンス取得おめでとう、リオ」

「ノア……」


 安物じゃないって、ひと目でわかる。ノアがこれまで貯めたクエスト報酬で、一生懸命えらんでくれたんだろう。


「ちょっと、わたしにはかわいすぎないかな?」

「ぴったりだよ。リオの瞳とおんなじ、ピンク色だ。絶対似合う、絶対かわいい」


 断言するノアに、ポカンとする。


 そうだ……そうだったっけ。


 黒髪に黒目の日本人じゃなくて、いまのわたしは、クルッとしたマロンの髪に、ストロベリーピンクの瞳の、リオなんだった。


 ゆっくり鏡を見ておしゃれをする余裕もないくらい、がむしゃらに働いてきて……わたし自身ですら気にかけられなかったわたしを、かわいいって、ノアはほめてくれる。


 独りで死んで、独りで生きてきたわたしを、やっと見つけてもらえたような、そんな気持ちになった。


「こんな素敵なプレゼントもらったの、はじめて……ほんとうにありがとう……うれしい」

「んッ……」


 変な声をもらして、口をおさえるノア。


 すぐにガタッと音を立てて椅子から立ち上がったと思えば、ばさり。プレゼントしてくれたばかりのローブを羽織らせてくる。


 フードをまぶかにかぶらせて、サテンリボンもしっかり結んでくれる、いたれりつくせり待遇。


 ノアの突然な行動のわけに、はてなを浮かべるしかない。


「もぉー、そういう顔、俺以外に見せちゃだめだよ?」

「えっ? どういう顔?」

「食べちゃいたいくらい、かわいい顔」

「えぇえっ!?」

「外じゃなかったら、もう食べてるのになぁ……」

「いやいやいや!」

「あっこら、またそんな真っ赤にかわいくなって!」

「だれかっ、だれかノアくんを止めてぇーっ!」


 口をひらけば、かわいい、かわいいって。


 お砂糖を煮つめても敵わないような甘い口説き文句を、サラッと口にするんだもんなぁ、この子は!


 ジリリリリ!


 そこへ、救世主とも呼べる音色が鳴りひびく。


 わたしの懐からきこえるベルは、懐中時計にセットしていたアラームの音だ。


「あっ、時間みたい! そろそろライセンスの発行手続きが終わってるだろうから、ささっと受け取りに行ってくるねっ! ノアはさきにランチ食べてて!」

「ちょっと、リオっ!?」


 呼びとめる声はきこえなかったふりで、あわてて駆け出す。


 ……顔が火照ってしかたないのは、ダッシュしたからだ。きっとそう。

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