*1* お菓子配りの魔女、ノリで美少年をひろう
人は、3日寝ないと生きていけないらしい。
じゃあ、不眠不休5日目の朝をむかえるわたしは、超人だ。
みんなに自慢してまわってもいいくらい。
いや、自慢するような友だちもいないけど。
(やっちまった……)
そんなわたし、リオは、夜更けの街で立ちすくんでいた。虚無顔で、だ。
まぁ、わたしが悪いっちゃ悪い。
軽率に、近道なんてしようとするから。
「僕を買ってくれますよね?」
んなアホな。
脳内でツッコミを入れる。
だからって、状況が変わるわけもなく。
「娼館街がどこか、知らないはずはないですが」
そりゃあね。
真っ暗な路地裏に引きずり込まれて、レンガ造りの壁に押しつけられてるんだ。
相手は、女性にからだを売る男娼。それなりに身の危険は感じる。
「どうされたいですか。ご要望にお応えします」
猫のように輝く蜂蜜色の眼光が、わたしをとらえて離さない。
「ごめんなさい、間に合ってます」
「……安くしますよ?」
「あのねぇ、そういうことが言いたいんじゃないの」
こんな路地裏で商売をしているくらいだ。
見つけた金づるを、逃したくないんだろうけど。
「じぶんを安売りしちゃダメってこと」
わたしを拘束した青年が、はたと呼吸を止める。
その隙に、腕のすきまからするりと脱出。
「暗くて見えないな。ちょっとこっちに来てくれます?」
「え……」
ようし、今度はわたしのターンだ。
青年の腕を引き、路地裏から連れ出す。
「うん、肌に発疹はなし。よかったよかった」
「あの……」
街灯の下で、さっと視診をすませる。
左腕に提げたバスケットからキャンディをひと粒取り出して、青年へにぎらせた。
青年が、蜂蜜色の瞳でぱちりとまばたきをする。
「男娼にキャンディをわたす、黒いローブの魔術師……まさか、『お菓子配りの魔女』ですか?」
「やだ、そんなふうに呼ばれてるの? わたし」
『お菓子配り』をはじめたのは、今日みたいに『お誘い』をかわそうとしたのが発端だ。
にしても、そんな通り名がついていたとは。
「でもまぁ、それなら詳しい説明はいらないかな。そのキャンディ、忘れずに舐めてくださいね。そしたら大丈夫なので」
わたしのキャンディは、特製の『予防薬』だ。これでしばらくは問題ないでしょう。
「お相手はしてあげられないから、これで勘弁してくださいね」
「あの……!」
「あぁそれと。あなた背が高いし、あとは前髪を切ったら人気者になるかも」
「待って……『お菓子配りの魔女』さん!」
「ではでは」
ひらりと右手を振って、ローブをひるがえす。
引きとめられた気がしたけど、青年が追ってくることは、なかった。
「ふぅ……なんとか切り抜けた」
こういうのは、うろたえたらおしまいだ。隙を見せた瞬間にヤられる。
「思わぬ道草食っちゃったけど……まだ間に合うでしょ」
カチリと蓋をしめた懐中時計をローブにしまって、ひと息つく。
あんなハプニングが、そうそう立て続くわけないしね。
そんなふうに思っていたことが、わたしにもありました。
──ガッ。
「っとぉ!?」
物思いにふけっていたら、なにかに足をとられて大きくよろめいた。
とっさにふんばってきょろきょろ見わたすけど、目の前にはなにもなくて。
でも、あった。いや、いた。
足もとに、うずくまった黒い物体が。
「…………人?」
『それ』は雨上がりの浅い水たまりに顔を突っ込んで、ぴくりとも動かない。
かがみ込むついでに肩へ手をかけ、ごろりと仰向かせる。
泥まみれの黒髪が、地面に散らばった。
「ふわーお。生きてんの? これ」
首すじに指を当ててみる。まだあたたかい。
脈は正常。よし、生きてるな。
推定種族、ヒト。
身長、わたしより上背があるかどうか。
性別、見たところ男子。
年齢、14~15歳?
なぜ行き倒れているのか、不明。
「きみ、こんなとこで寝てたら風邪引くぞ? 起きろー、おーい」
ぺちぺちとほほを叩いて刺激を与えてみるけど、反応なし。気絶しているみたいだ。
「うーん……どうしよ」
ここで、ふたつの選択肢が現れる。
少年を助けるか。もしくは、見捨てるか。
ちなみに補足すると、現在は取引先の娼館に『商品』を届ける道中だ。約束の時間は間近だったりする。
で、この取引を逃したら、しばらくパンを買えない生活とこんにちはする羽目になる。
「まぁ……今回は運が悪かったってことで」
わはは、とひとしきり笑い飛ばしたわたしは、立ち上がって。
「──極貧上等! 行くぞ少年っ!」
少年の足もとから頭のほうへ回り込むと、脱いだローブを適当に引っかける。
ついでに少年の腕も肩に引っかける。
「このまま見捨てたら薬術師が廃るってもんよ! どっこいせー! あはっ、わたし人間ひろってるー! ウケるー! アハハハハッ!」
担ぎきれてない少年をずりずりと引きずりながら、ケラケラと来た道をもどる。
道行く人からしたら、ドン引きな光景だったろう。
しょうがない。なんたって、モンスターの出没する森に薬草採取の遠征した帰り、五徹目の身だ。
なにを血迷って、爆笑しながら見ず知らずの人間をひろったのか?
その答えをここに示そう。
──早い話が、寝不足ってやつ!
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魔法が飛び交ったり、モンスターが登場したり、本格的な治療シーンがあったり、イケメンに溺愛されたり。好きなものを詰め込んだ異世界恋愛ストーリーです。
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