*16* 天使みたいな悪魔の誘惑
純情少年ノアくん、聞けば聞くほど、まさかのカミングアウトをしてきます。
「最近になってからだと思う……リオのこと考えてたら、股間が熱くなるの」
「へー」
「すごい腫れるし、今朝なんか、起きたら白いのが下着についてて……」
「ほぉー」
「あれ、なんだろう。病気になっちゃったのかなぁ……どうしよう、リオ……」
「ふーん」
平静を装っている虚無顔美少女(自称)だけど、内心発狂してる。
(男女のアレソレを知らないだとっ……インキュバスなのに!)
しかも今朝はじめて『白いの』を見たって……たしか、十六歳って言ってたよね?
しきりにノアが「落ちこぼれ」ってワードを口にしてたけど、まさか、そういう意味だったの……? 本人はいまいち理解してないみたいですけど!
「大丈夫です、安心してください、ノアくん」
不治の病なのかと、不安で泣きそうなノアの肩に、ぽんと手を置く。
「きみは健康そのものです。そして、またひとつオトナになったのです」
「どういうこと……?」
これでも前世は医療従事者。ならば教えてさしあげましょう。
かくして、リオ先生による特別授業『やさしい性教育~男の子のからだ編~』開講。
うるせぇ、ヤケクソとかいうな!
でもそこは勉強熱心なノアくん。
とりあえず男の子のからだについて集中的に講義をすれば、ふむふむと相槌を打ってくれて、そのまま無事授業を終えると思われた。
「大体はわかった。それじゃあ、自慰っていうのは、具体的にはどうやるの?」
ハッ、そうは問屋が卸さねぇってか。
そうですよね、座学のお次は実技ですよね!
* * *
わたしはいま、猛烈に動揺している。
「……はぁっ、はぁっ……」
原因はひとつ。ベッドで仰向けになり、天井に向かって荒い呼吸をくり返すノアくんのせいです。
「はぁ、ん……なんか、すごかった……」
ノアのほほは紅潮していて、サファイアの瞳は生理的な涙で潤んでいる。
「これが、『気持ちいい』ってことなんだ……癖になっちゃうかも……んっ」
うっとりと表情を蕩けさせたノアが、ベッドから上体を起こそうとして、艶っぽい吐息をもらした。まだ熱の余韻が冷めやらないらしい。
(うおおお! やっちまったぁ! 年下の子をヤッちまったぁ!)
そんなノアをよそに、もちろんわたしは内心発狂していた。
口頭で説明してもよくわからないからと、「リオがやってみせてくれない?」と純粋なまなざしでおねだりされたら、断れなかった。
ノアもノアだよ。じぶんでさわってたときは首をかしげてたのに、わたしがさわるとビクビク反応してたの、なんでかなぁ!?
と荒ぶりながらも叫び出さずに平静を保っていられるのは、これでも医療従事者だからだ。医者は患者さんの前で取り乱したりしないのです。
(これで三回目。今朝精通したばかりとは思えない量だけど、淫魔だから、仕方ないのか……)
わたしの手のひらに吐き出されたモノを濡れタオルで拭って、達した直後で弛緩したノアのからだも、ソフトタッチできれいにしていく。
「溜めるのはからだに悪いからね。次からはこんな感じで、気持ちいいところを擦って、出してね」
やり遂げたぞ、わたしは。
ここまでやれば、ノアもじぶんのいいようにするだろう。
「……リオは、もうさわってくれないの?」
「え? なんて?」
ぽつりとノアがひとりごとをつぶやいたみたいだけど、よく聞こえなかった。
新しいバスタオルを羽織らせたら、気だるげに起き上がったノアが、わたしにもたれかかってきて。
「すき……好きだよ、リオ……」
ちゅっ、ちゅっ。
耳に、ほほに、口の端にキスしてくるから、たまったもんじゃない。
「ひゃあっ! ちょっと離れようか!?」
「やだ」
「やだじゃなくてっ! くすぐったいってば~っ!」
「リオ、汗かいたから、一緒にシャワー浴びよ?」
「ラストにぶっ込んできおった!」
飼い主に甘える子犬みたいな上目遣いだ。
これで下心がないとか、罪すぎるぞ、ノアくん。
余談です。シャワーを断ってものすごく拗ねられましたが、添い寝をしてあげたらごきげんになりました。
天使みたいな悪魔との攻防戦は、しばらく続きそうだ。