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【93話】 二学期⑫(デート)

 何が起きているかわからない。

 ゴロゴロガッチャーンという音が絶え間なく響くボーリング場。

 ボーリングを楽しんでいる人達の後ろには一段高くなったレーンを一望できるカウンター席があって、変装をした私達はそこで18レーンの様子を見ている。



 中間テストで羽切君が優勝して佐切さんにデートを求めるとは思わなかった。

 羽切君の意図はわからないけど、ロッカーに嘘のラブレターを入れて屋上で会ったり、それを見ていた私にドッキリを仕掛けてきたりと知らない内に仲良くなっている事に少し危機感を感じている。

 ドッキリもイタズラもデートも私の専売特許だと思っていたのだが、徐々にそれが崩れてきていて、変な感情と共に胸の辺りがギューと締め付けられて苦しい。



 この感情はなんだろうか。

 嫉妬? それとも独占欲?

 


 これで私が知ってる限り羽切君とデートに行った女子は一色さんと佐切さんの二人。

 美香が言うには合コンで何人か他の女子ともチャットを交換しているらしいのでもしかすると私の知らないところでもっとしているのかも。

 羽切君って意外と積極的だし、普通の男子が躊躇するようなことも女子に対してするから不安だ。

 意外と女子ってグイグイ積極的に来られると断れない子もいるし、そうやってリードしてくれる男子が好きな子も多い。



 つまり何が言いたいかというと、羽切君にはヤリチンの素質があるということ。

 これは佐切さんと美香の三人で話してて得た結論。

 羽切君が他の女子とエッチをするのは当然耐え難いけど、それ以上に私を差し置いて大人になってしまう事がより耐え難い。

 人生の経験値が全く同じで、今一緒に成長しているという感覚があるのに勝手に一人で旅立ってしまって取り残されるのが何だか怖いのだ。



「誰だろ、あの人達」



 右隣にいる亀野君の声に現実に戻された私は、再度18レーンを見る。

 そこでボーリングを楽しんでいるのは羽切君と佐切さんの他に明らかに年上の男女四人。

 椅子に座ってお喋りしたり、ストライクでハイタッチしたりと賑やかで楽しそうだから変な人ではないのだろう。

 

 

「さぁ〜、どっかの大学のヤリサー集団じゃない〜?」



 亀野君の疑問に答えたのは左隣の美香。

 


「ヤリサーって何?」

「鹿沼さんヤリサー知らないの? エッチなことを目的としたサークル活動の事をヤリサーって言うんだよ」

「それって大学側が認めるわけ?」

「認めないよ〜。だから表向きはテニスサークルだけど実はテニスなんてほとんどしてなくて、毎週飲み会で酔っ払ってそのままホテルで乱交みたいな感じだよね〜」

「戸塚さん詳しいね」

「お姉ちゃん情報だけどね〜。やっぱどの大学にも一つや二つあるみたいだよ〜」

「でも表向き普通のサークルだと気付けなくない?」

「気づけないし気づかせようとしないだろうね〜。大体そういうサークルにいる男って高校生上がりの若いプリップリの体目当てに新入生を積極的に歓迎して飲みに連れて行くらしいからね〜。景も気をつけな〜、見た目可愛いしエロい体してるしで男惹きつけるんだからさ〜。そう思うでしょ、亀野君」

「っはあ!? 俺はプリップリでエロい体なんて言ってないからな?」

「プッハハッ、テンパってるテンパってる〜。まあそういうサークルって結構噂が立つから、焦ってサークル選ばずにちゃんと色んな人の話を聞いて選べば回避できるみたいだけどね〜」

「ふーん」



 大学生まで残り2年8ヶ月とまだまだ先。

 そんな先の事よりも目先の羽切君を惚れさせる方法を考えないといけない。

 夏休みで関係をだいぶ縮められたと思っているが、二学期に入って何をすれば良いのか分からなくなってしまっている。

 あのラブホテルで羽切君がキスをしてきて、私の胸を揉み、さらにその先に進もうとしていた。

 もしあのまま進むんでいたら羽切君は私のことを好きになってくれたのだろうか。

 美香が言うにはそういうのもあり得るらしいが、実際のところ分からない。

 何か別の風を吹かせないと……。



「亀野君」

「うん?」



 色々考えた結果、男子から意見を聞いてみる事にした。

 今まで私が相談してきたのはお母さんだったり美香だったりと女目線でしかないから。



「好きな男子を振り向かせるにはどうしたらいいと思う?」

「羽切の事か」

「それは内緒だけど」

「そうだな、うーん」



 室内でサングラス姿の亀野君は少し考える素振りを見せて、再度口を開いた。



「実際、特定の異性を振り向かせるって難しいと思う」



 亀野君は目を細めて言った。

 


「それはどうして?」

「好きな人にも好きな人がいて、その人を振り向かせるという事は、好きな人が好きな人を諦めないといけないから」



 亀野君が発した短い一文の中で好きな人という言葉が4回も出てきた。 

 しかしその中に真意があるという事なんだろう。



「好きな人と一緒になるのを諦めるって相当な事が無いと起き得ないと思わない?」

「そうだね、告白して失敗したとか何かひどく失望する瞬間を見ちゃったとかじゃないとあり得ないかも」

「でもほとんどの人は好きな人に告白する勇気は無いし、人は他人に痴態を晒さない様に隠すからそんな瞬間も見れない。だからバレない様にその人の事をチラチラ見て、やっぱ可愛いなぁとか付き合いてえなぁとか思うだけで諦めるって段階までいかないんだよ」

「確かにそうかも」

「そうやって悶々と好きな人の事を考えてる異性を振り向かせるって、やっぱ無理なんじゃないかなって僕は思うよ」

「なるほどね」



 確率論で言えば男子20人女子20人の40人クラスだと両想いになる確率は20分の1×20分の1で400分の1という事になる。

 それが学年とか学校の人数で考えると更に低くなる。

 もちろん理論上の確率でしかなく、実際の人間関係はもっと複雑で測れない要素は多いと思うが、それでも両想いになるというのは奇跡に等しい。



 それに感情的に考えても、妥協というのは中々しずらい。

 もし自分が本当に好きな人がいるにも関わらず妥協して他の人と付き合ったとすると、妥協した相手と別れるまでは本命と付き合える確率は0%となってしまう。

 400分の1の0.25%と0%では感覚的には天と地の差。

 いつでも自分はフリーでウェルカムっていう状態を作って置きたいという思いが出てきてしまってそう簡単には違う異性に振り向くことは出来ない。



 だけどどうだろう、実際には本命がいても他の女子と関わっていく内にその女子が本命に変わっていく事だってあるはずだ。

 そこが確率論では測れない人間の難しい部分。



「亀野君は今好きな女子とかいないの?」

「えっ、俺!?」



 私がそう質問すると、亀野君はギョッとした目で私を見た。

 


「い、いないよ? そんなの」

「嘘つきだね。私のを教えたら教えてくれる?」

「鹿沼さんが好きな人はもうわかってるから等価交換にならないよ」

「ふーん、誰だと思ってるの?」

「羽切だろ」

「何でそう思うの?」

「鹿沼さん隠してるつもりかもしれないけど、全然隠しきれてないもん。夏休みの海でもこの間のフードコートでもイチャイチャしてるし、学校では羽切の事ばっか見てるし」

「へ~、学校で景が羽切君の事ばっか見てるのを亀野君は見てて悶々としてたんだ~? もしかして亀野君の本命は景かな~?」

「ち、ちげえって!」

「じゃあ誰が好きなのよ~? うちのクラス~? それとも別のクラス~?」

「何で言わないといけないの」

「だってやっぱ不公平じゃん~? 景の好きな人知ってるのに自分のを隠すなんてさ~」

「俺はあくまで鹿沼さんが羽切を好きなのを隠せてないって言っただけで、鹿沼さんの口から確定的な事を聞いたわけじゃないから公平だ」

「わかった。じゃあ言うよ私」



 自分で自分の視線とか行動を隠せてない事はちょっと驚いたけど、ほとんどばれてしまったのだから仕方がない。

 むしろここで告白して亀野君の好きな人を教えてもらった方がお互いの好きな人を知っているという事で口封じにもなる。



「亀野君の想像通り、私は羽切君が好き」



 これで美香・お母さん・羽切母の他に亀野君が知ることになった。

 亀野君は特に驚きもせず、ため息を吐いた。



「僕は3年の十月とおつき先輩」



 十月とおつき先輩……知らない人だ。

 亀野君は幼馴染の佐切さんではなくて、その先輩が好きらしい。



「へ~、あの十月とおつき先輩か~」

「美香知ってるの?」

「可愛い人には目が無いからね~」

「実は元カノなんだ」

「えええええ~!?」



 元カノという事は一度は恋人関係になったけど別れたという事。

 別れたのにまだ追い求めているというのは一途で素敵と思うべきなのか、未練たらたらで気持ち悪いと思うべきなのかわからない。

 それは結局どういう過程で別れたのかにもよるのだろうけど。



「今でも好きって事は振られたって事なの~?」

「いや、自然消滅」

「亀野君はずっと想ってるのに自然消滅って意味わからないんだけど。何があったか教えてくれる~?」

「それはちょっと……」

「いいじゃんいいじゃん~。後悔とか後ろめたい事って人に話して初めて解放されるみたいなところがあるし、このままだとずっとその原因が足引っ張るよ~?」


 

 亀野君には過去に十月とおつき先輩という彼女がいて、その彼女と何かがあって恋愛関係に亀裂が入った。

 そしてその元カノが同じ高校にいる。

 本来ならば何があったかは聞かない方がいいのかもしれないが美香はノリノリだ。

 こういう時の美香は止められない。



「俺の男としてのプライドが大きく傷つくから教えない」

「あ、もしかして初エッチに失敗したとか~?」

「うっ……そ、そんなわけ無いだろ」

「あっ、今の反応絶対そうだ!」

「教えて教えて~!」

「私も知りたい!」

「ぜっっったい嫌だっ!」



 初エッチに失敗して関係がギクシャクしてしまうなんて話、聞かないわけには行かない。

 私だっていつの日か初エッチの日が来るわけだし、失敗のパターンを知ることは重要だ。

 


「じゃあわかった。月曜日に十月とおつき先輩本人に聞くから」

「ちょっ、鹿沼さんそれは駄目だって!」

「じゃあ教えて?」

「嫌だ。最低で意気地なしだと思われるから」

「じゃあ月曜日に直接聞きに行く。いいね?」

「わかった。わかったからっ! でも笑ったり、気持ち悪がったりしないでくれ」

「約束する」

 

 

 亀野君は覚悟を決めたかのように一度息を吐いた。

 私達3人は室内なのにサングラスを掛けてカツラまで被って変装中。

 そんな私達の間で今から繰り広げられるのは初エッチの話。

 今日は羽切君と佐切さんのデートを監視して何で佐切さんをデートに誘ったのかを解明しようとしたのだが、今は亀野君の話に集中しなくてはいけない。



 既に初体験を経験済みで私がその話を聞けるのはお母さんか美香くらいしかいない。

 つまり女子目線でしか知らない。

 だからここで男子目線での経験談というのを聞くのは重要だ。

 


「実は……」



 ボーリング場に響き渡るボールが転がる音、ピンとぶつかる音、音楽、話し声。

 そんな喧騒な空間の中、亀野君は話し出した。

 

中学生の時、僕も初体験失敗して結構長い間トラウマでした。



最近文字数少なくてすんません。

やらなきゃいけない事多くて毎日朝4時を限度にパソコンと向き合ってるから……。

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