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【92話】 二学期⑪(デート)

資格試験に落ちた予感しかしなくて、絶望なう。



【91話】の一番最後変えて、羽切が戸塚さんに連絡して追跡してもらうというのは辞めました。

それでも次の話で勝手に追跡させるんですけどね。


それと日曜日じゃなくて土曜日デートに変更しました。

「それでさ、なんで皆の前で私をデートに誘ったわけ?」



 レジャー施設“ラウンドツー”の一階。

 クレーンゲームが立ち並ぶその一角で、佐切さんは器用にゲームのボタンを弄りながら言った。

 高校生の男女が“ラウンドツー”でデートするなんてまず有り得ないと思うが、佐切さんがゲームセンターに行きたいと言ったのでここにきた。



「亀野の前で佐切さんをデートに誘ったら少しは意識するかなって」

「なるほどねー、ああっ! 難しいなこれ」


 

 佐切さんの視線の先にあるクレーンが、持ち上げた商品を落としゲームオーバー。

 既に2回失敗しており、悔しそうにこちらを振り向いた。

 


「そういう目的なら実際にデートしなくても良かったんじゃないの?」

「いいや、俺は優勝者権限を使ってデートに誘ったんだから実際にデートしてもらわないと」



 デートとは思ってないけど、あくまでデートという設定にしておかないと困る。

 なにせデートをしたという証拠を画像とか動画で送ってこいと言われているのだから。

 それに俺としてはせっかくゲームに勝ってその権限を使ったのだからただデートしてほしいと宣言して終わりというのは無駄遣い過ぎるし。



「まあ、デートするのはいいんだけどさ鹿沼さんにはちゃんと事情を説明したの?」

「してないけど」

「そういう事はちゃんとしてくれないと私が困っちゃうんだよね。これからも鹿沼さんとは良好な関係でいたいと思ってるし」



 佐切さんは鹿沼さんと良好な関係を望んでいる。

 どうして俺が佐切さんをデートに誘う事がその関係を良好ではなくすのかはよく分からないけど、佐切さんが少しでもそう思っているなら改善するべきだ。

 鹿沼さんも人の顔色を伺うのが得意だから、佐切さんがずっと後ろめたい気持ちだと鹿沼さんにもその雰囲気が伝わってしまう。

 せっかく良好な仲間が増えそうなのに俺の行動一つで気まずい関係にしてしまいかねない。



「わかった。ちゃんと説明しておくよ」



 俺がそう言うと佐切さんは薄く笑い、俺の手を引いて歩き出した。



「どこ行くの?」

「スポッチャデートしよう」

「スポッチャデートなんて初めて聞いたよ俺」

「そんなの存在しないからね」



 スポッチャとは“ラウンドツー”にあるスポーツやアミューズメント、ゲームなどを時間内で遊び放題にできるサービスの事。

 初めて海で佐切さんに会った時は人見知りでモジモジした人だったのに、俺に慣れたのか今はもう積極的だ。

 俺たちはスポッチャの受付に着き、料金表を見る。



 学生で六人未満の場合、三時間で一人1700円。

 学生六人以上ならば、時間無制限で一人1700円。

 どう考えたって六人で入った方が得な料金設定。

 俺が中学生の時はもう少し安かったが、やはり燃料費高騰で光熱費が高くなった影響がここまで出てきているという事なのだろう。

 

 

「時間無制限で1700円の方がお得だよなぁ」

「そんな遅くまでいるつもりなの?」

「だって朝までデートでしょ? 羽切君そう言ってたじゃん」

「まあ、言ったけど」



 あくまで冗談で言ったつもりだったのだが、佐切さんは本気にしているらしい。

 男女が朝までデートってなれば当然、お泊りでそういう事が行われると認識しているはず。

 家とかホテルとかだったら間違いが起きる可能性があるが、ここならば間違いが起きる可能性は低いと踏んだ自己防衛なのかもしれない。

 まあ朝まで一緒にいるつもりは全くないのだが。



「ねえ君たち、もしかして人数に困ってる?」



 料金表の看板を二人で見ていると、横から声を掛けられた。

 見るとそこには明らかに年上の男女4人。

 佐切さんはサササッと俺の後ろに隠れたので、視線は全部俺に向いた。



「はい、同じ1700円なのであと4人誘えばよかったと話してたところです」

「じゃあ僕たちと一緒に入らない? 僕らちょうど4人だし受付だけ6人で入ってその後は関わらなくてもいいからさ」

「いいですねそれ」



 大学生(?)グループの提案は魅力的だ。

 多分、この施設ではこういう事をしてほしくはないだろうが、まあそこはバレやしない。

 しかし6人入場で時間無制限1700円なのは全員が学生である場合のみ。



「あの、一応聞きますけど学生ですか?」

「一応学生だよ。大学院生だけど」



 大学院生という事は25歳から27歳くらいだろうか。

 俺達よりも年齢が10歳違うという事で凄く大人に見えてくる。

 男性は身長とか体格とかが俺と全然違うし、女性の方はお姉さんという感じだ。

 

 

「それじゃ、お願いします」

「こちらこそ」



 俺達は受付に行き、中に入った。

 


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 スポーツ女子の彼女がいたらこういうデートになるのだろうか。

 バッティングセンターでどっちが多く打てるか勝負したり、パターゴルフでどっちが早くカップにボールを沈められるか勝負をしたり、アーチェリーでどっちが中心に近い部分を射抜けるかを勝負したり、バスケでどっちが多く点を取れるか勝負したり。

 勝負じゃなくてもキャッチボールだったりテニスをしたりとスポーツ三昧。



 普段筋トレしかしていない俺と普段から部活動で運動をしている佐切さんでは基礎体力が違く、さすがに3時間も立ちっぱなしの動きっぱなしで疲労困憊だ。

 しかし佐切さんはまだまだ遊ぶつもりらしく、今はボーリング場へ移動中。

 屋上からエレベーターに乗りボーリング場のある2階で降りると、ゴロゴロガッチャーンという独特な音が聞こえてきた。



「ほーら、行くよ」



 俺は佐切さんに引っ張られてエレベーターから出る。

 疲れ切った脚を必死に動かして佐切さんと受付に向かうと、今日はイベントで恋人で一緒なら3ゲーム無料で遊べると看板に書いてあった。



「恋人だと3ゲーム無料だってさ」

「めっちゃお得じゃん。恋人じゃないけど行こうよ」

「これ思うんだけどさ、どうやって恋人かどうか確認するんだろ」

「さぁ? 男女だったら誰でもいいんじゃない?」

「もし恋人の証明としてキスしろって言われたらどうする?」

「それは無いでしょ」



 よく海外とかで目の前でキスしたら割引みたいな動画があるが、日本では見た事が無い。

 まあ俺もまさかここでキスしろなんて言われると思ってないから面白半分で言ったのだがもしも仮にキスで証明しろって言われたらどうしようという恐怖感がある。

 キスできないなら恋人じゃないって事ね? じゃあ嘘ついてたって事ね? ってなるからだ。

 最近、些細な事でも詐欺だとかで通報されるからそれが抑止力になっているんだと思う。



 佐切さんも平静を装ってるけど内心ビビってるだろう。

 一応デートなんだし俺からもドキドキを提供するとしよう。

 さっきまで有酸素運動でドキドキさせられたお返しとして。

 

 

 俺達は受付に行き、恋人キャンペーンでボーリングがしたいと告げた。

 すると受付の若いお姉さんは一度ニコッとした後、コインを二枚を手渡してきてレーン番号を教えてくれた。

 コインは横にあるサイズごとに並べられたボーリングシューズの自販機のようなものに入れて、靴を取得するために使う。

 3ゲーム無料なので料金は発生せず、受付としての全工程を終えて佐切さんが歩き出そうとしたところで俺はぶっこんだ。



「あの」

「はい?」



 俺は再度受付のお姉さんに話しかける。



「恋人の証明としてキスとかしなくて良いんですかね?」

「はあああ??」

 

 

 歩き出そうとした佐切さんは振り返りビックリ仰天の表情。

 受付のお姉さんも瞬きを5度ほどして再度ニコッと笑った。



「大丈夫ですよ。証明とかなくても」

「そうですか。ありがとうございます」



 受付のお姉さんに謝礼を言って歩き出すと、佐切さんは俺の肩をグーで殴ってきた。



「なんでわざわざあんな事言ったわけ!?」

「佐切さんをびっくりさせようと思って」

「もしキスしてしてくださいって言われたらどうするつもりだったの!?」

「さっき自分で言ってたでしょ。あり得ないよ」



 俺はボーリングシューズの自販機にコインを入れて、自分の足サイズのボタンを押す。

 するとガタンという音と共にシューズが落ちてきたのでそれを手に取り椅子に座って履き始める。



「鹿沼さんにもさっきみたいなイタズラしてるの?」

「イタズラしてるしされてるよ」

「なんか羨ましいなー。信頼し合ってイチャイチャするの」

「イチャイチャじゃなくて、攻防だけどね」

「攻防?」

「例えば俺が鹿沼さんを辱めたら、それがそっくりそのまま帰って来るみたいな」

「それをイチャイチャって言うんだけど」

「そうなの?」



 男女のイチャイチャってもっとロマンティックなものだと思っているのだが、俺の認識が間違えているのだろうか。

 佐切さんはシューズを履き終えたのか、呆れ顔で俺を見た。



「羽切君と鹿沼さんってしっかり者に見えてどこか抜けてるよね」

「そうかな?」

「どうせお互い自分の気持ち打ち明けてないんでしょ」

「お互いの気持ちって?」

「わかってるくせに」



 ……いや、マジでわからないんだが。

 佐切さんが立ち上がってレーンの方へ歩いたので俺もその後ろをついて行く。

 俺達のレーンは18番で一番端っこで少し遠い。

 まず指定のレーンについたら荷物を置いて一人が荷物を見ておいて、もう一人が自分に合った重さのボールを取りに行くというのが一般的だ。

 今日は土曜日でかなり繁盛していて、通り過ぎるレーンのほとんどが埋まっている。

 やっと一番端っこの壁沿いにある18と書かれたレーンが見えてきた時、その手前に見覚えのあるグループがいるのが見えた。

 

 

 俺達の右側には壁。左側には17番のレーン。

 17番のレーンにいるのはさっき入り口で出会った大学院生グループだった。

 一応目が合ったので会釈だけして通り過ぎ、18番レーンの椅子に座る。

 長い時間運動していたので、これから定期的に座っていられることに安心して体を弛緩させる。



「私、先ボール選んでくるね」

「オッケー」



 佐切さんは荷物を置いてボール選びのためにレーンを離れた。

 しばらく一人で佐切さんの荷物を見ながらくつろいでいると、後ろからトントンと肩を叩かれ振り返るとそこには大学院生グループの女性二人。


 

「よかったら、これ食べる?」



 俺から見て左手にいる女性が差し出してきたのは四角い形をしたチョコレート。

 


「いいんですか?」

「どうぞ」

「ありがとうございます。いただきます」



 あまり知らない人から食べ物を貰うのは良くないのだけど、まあ俺は男だし高校生でたいして金があるわけじゃないし、それに普通にお姉さんたちも机に置いてある同じ型のチョコレートを食べているから頂くことにした。



「二人は高校生?」

「はい」

「じゃあ今日はデートなんだ」

「いえ、俺たち付き合ってないです」

「え、じゃあこれからとか?」

「それもないですね。彼女、クラスの別の男子のことが好きみたいですし」

「へ、へー。なんか……ユニークな関係だね」



 ユニークな関係って言葉選びがちょっと面白くて笑いそうになった。

 最大限見繕って出たワードがユニークとはそれこそユニークだ。

 思えば年上の女性をこうやってお話しするのは親か先生くらいしかなく、10歳という遠すぎも近すぎもしない年齢差の女性とは初めてだ。



「最近の若い子は好きでもない男子と休日に二人きりで遊びに出るとかあるんだ」

「遊びに来たというか、ちょっと相談に乗ってるって感じです」

「もしかして恋愛相談?」

「はい」

「ふーん、なんか青春って感じでお姉さんには眩しいなあ」

「正直、恋愛相談されても困るんですよね。俺もどうすればいいか分からないので」

「どんな相談受けてるの? っていうか良かったら私達とボーリングしながらお話ししない?」

「うーん」

「あっ、そうだよね、怖いよね。今日初めて会った大人達と交流するの。ごめんね」

「いえ、お姉さんすごく美人で誠実そうなのでそういう心配はしてないですよ。むしろありがたいくらいです。ただツレが猛烈な人見知りでして……」

「君、なんかすごく女性慣れしてない? 初対面の女性に美人で誠実そうなんて褒め方普通の男子高校生はしないよ」

「女性慣れなんてしてませんよ。まだ童貞ですし」

「ぷははっ! やっぱ普通の男子高校生っぽくないね。男って童貞でもプライドのために自分は童貞じゃないって言い張るもんだよ。それも女性に自分からカミングアウトするなんて思わず笑っちゃった。まあツレの子に聞いてみてさ、一緒にゲームはダメでも隣同士だし、お話ししながら楽しまない? 今の高校生の話ってちょっと聞いてみたいんだよね」

「お姉さん達がそれで良いなら、俺は良いですよ」

「ありがとう」



 お姉さんは一度ニコッと笑うと立ち上がり、自分のレーンで投げる準備を始めた。

 

 

「なんかごめんなさい。うちのグループ積極的な人が多いからすぐ知らない人に話しかけちゃって……本当に嫌だったら断ってね」



 さっき話しかけてきたお姉さんの右隣に座っている女性が振り返って申し訳なさそうに言った。



「いえいえ、僕も年上の先輩と話す機会がほとんどないのでちょっと楽しみですよ」



 大学院生という事はもうすぐ就活が近いはずだ。

 もう既に高校生も大学生も卒業していて歳も10歳くらいしか離れていない人達と話す機会はほぼ無い。

 だからこそこの人達の高校生活とか夢とか経験した事とかを聞いてみたい。

 佐切さんの恋愛相談を話してその意見を先輩目線からアドバイスをもらったりするのも良いかもしれないし、この人達の恋愛経験とかも聞けたら何か得られるかもしれない。

 

 


 とはいえ初対面で、俺たちよりもだいぶ大人なわけだから警戒心は持っておいた方がいいだろう。

 変な勧誘とかそういうのは大学生くらいの年齢になると一気に増えるらしいし。

 

 

「羽切君、お待たせー」



 そんなことを考えていたら佐切さんが帰ってきた。

 手にはピンク色のボールを持っていて、重そうだ。



「じゃあ次は俺ね」

「はいはーい」



 俺は立ち上がり、ボールを探しにレーンを離れた。

一年が早すぎて怖いよもう。

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