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【86話】 二学期⑤(疑似・夫婦喧嘩)

昨日で投稿し始めて半年が経ったみたいです!

 ここ十数年で一番深い眠りだった。

 48時間ほとんど起きっぱなしだったからというのもあるが、それ以上に柔らかくて温かく、良い匂いの何かに包み込まれていて、心の底から安心しきっているのだ。

 こういう感覚は初めてではない。

 子供の頃、母さんと一緒に寝てた時に何度も感じた事がある。

 母さんに触れながら寝れば何があっても必ず守ってくれるという本能的な安心感。

 子供ながらに感じた無条件の愛。



 不思議な事に、親から与えられた愛情みたいなものは俺の心と体に刻まれている。

 人を好きになるという感覚がわからない俺にだ。

 


 俺は目を瞑ったまま顔に触れている柔らかいものにより強く顔を押し当てる。

 そして大きく息を吸うと、洗剤の香りとその奥には微かに女のニオイがした。

 母さんや妹、鹿沼さんに密着してニオイを嗅いだことがあるからわかる、俺とは違うニオイ。

 


 よく言われる事だが、男と女では汗や体のニオイが違う。

 それは産まれた時から違っていて、赤ちゃんの頭皮の匂いを嗅ぐと男の子と女の子では全くニオイが違うというのは有名な話だ。

 人間を含めた動物というのは自分にはないニオイを追い求めようとするように出来ているらしい。

 男は絶対に女のニオイを発せないし、女は絶対に男のニオイを発せない。

 だから男は愛する女をメチャクチャにして相手を自分と同じニオイにしたいという征服感のようなものがあり、女は抱かれて一つになりたい、同じニオイにしてほしいという感情があるらしい。

 そうやって惹かれ合い愛し合う。



 カップルとして長続きさせたいならシャンプーを共有しない方がいいのも似たような理由だ。

 現代人は柔軟剤や香水、シャンプーやボディーソープの香りを常に身に纏っていて本来のニオイをかき消している。

 そういう人工的な香りが産まれた時から存在していると、本来の男女の匂いで惹かれ合う事はなくなり、企業が売っている男用香水・女用香水のような香りに惹かれてたりする。

 だから同じシャンプーを使って同じニオイになると男は相手の女を自分のニオイにしてやろうという気が無くなり、女も抱かれて一緒のニオイになりたいなんて感情が湧かなくなる。

 結果セックスレスになり破局なんて事も現実にある。

 

 

 俺は何度も大きく息を吸ってそのニオイを嗅ぎ、吐いてを繰り返していると、ふと下半身が完全に反応している事に気づいた。

 妹や母さんではこうはならない。 

 では俺は誰のニオイを嗅いでるんだ?

 

 

 恐る恐る瞼を開けて寝息のする方へ視線を動かす。

 そこにいたのは黒と銀の髪を乱らせて寝ている少女。

 その人物を見た途端に昨日のことや、やるべき事が一気に脳みそに流れ込んできて目が覚めた。

 


 俺は鹿沼さんの胸に顔を埋めて一晩寝ていた。

 そして今そのニオイを深く嗅ぎまくって勃起している。

 今すぐスマホを取り出して確認すべき事を確認したいという気持ちともう少しこのままでいたいという欲求がぶつかり合い、俺は動けなくなっていた。

 


 学校もあるし起きなきゃな。

 そう思いつつ、脳が覚醒した状態でもう一度鹿沼さんの胸に顔を埋めてそのニオイを嗅いだ。

 こんなことができるのは鹿沼さんが同じベッドで熟睡してる時だけだし、もしかしたら最後かもしれない。

 こういう事をしていると、あのラブホテルの時みたいに服を脱がして内側の肉体を拝見したくなる。

 俺にもちゃんと男としての機能が備わってる証拠だ。



 しかし俺は手は出さず、起き上がってベッドに落ちているスマホを拾いリビングへ行く。

 昨日は晩御飯も食べてないし腹がグゥと鳴る。

 朝ご飯を作る前にスマホの電源をつけると、何件も通知が来ていた。

 俺は一個一個通知を確認して、絵麻から「鹿沼さんに相談したからお兄ちゃんは用無しだよん」という通知が目に止まった。



 昨日絵麻は相談があるから後で電話すると言ってきた。

 通話記録を見ると確かに絵麻から着信が大量に来ているが、一個最悪な事に気づいた。

 絵麻と鹿沼さんは話したんだろうが、それは鹿沼さんが自分のスマホで話したわけでも俺のスマホの着信を直接取ったわけでもなく、俺のスマホから絵麻に向けて発信しているのだ。

 

 

 つまり鹿沼さんはこのスマホのロックを解除した事になる。

 という事はチャットアプリでの鹿沼さん母や織田さんとの会話、このスマホに保存された画像や動画を見た可能性がある。



「おはよ……」



 そんな事を考えていると鹿沼さんの声が聞こえた。

 振り返ると鹿沼さんはベッドから起き上がっていて、こちらへ歩いて来る。

 胸を両腕で隠した状態で視線は斜め下で泳ぎ、恥ずかしそうだ。



「ずいぶん寝てたね。昨晩は何してたの?」



 俺が寝始めたのは多分19時頃。

 今は朝の6時30分で、つまり12時間半寝たという事になる。

 俺は48時間ほとんど寝てなかったからこれだけ寝れたけど、鹿沼さんは違う。

 普段の鹿沼さんは10時間くらい寝るが、流石に+2時間は寝すぎだ。

 という事は俺が寝てから鹿沼さんが寝る間に最低二時間の空白の時間が存在してることになる。

 鹿沼さんが俺のスマホの鍵を開いたのは間違いがなく、俺の中では鹿沼さんがこの空白の時間でチャットや写真、動画を見たんじゃないかという疑惑は強い。

 


「覚えてないの? 羽切君を寝かしつけてたんだけど」

「それは覚えてるよ。大胆だったね」

「だい……まあ、そうだったかも」



 鹿沼さんは更にギュッと自らを抱いて小さくなった。

 そして俺達の間に流れる沈黙。

 俺も鹿沼さんの胸で無防備に寝てしまった事は恥ずかしいし、鹿沼さんは自分の胸に男を迎えた事が恥ずかしいのだろう。

 

 

 鹿沼さんはそそそっと台所に入ってコーヒーメーカーでコーヒーを沸かし出す。

 俺も台所に入り冷蔵庫を開け、朝ごはんをどうするか思考する。

 

 

「それで……よく寝れた?」

「最高によく寝れました」

「それは良かった」

 

 

 自分のトラウマや発作がフラッシュバックするようなものを見て果たしてこんな普通に接することはできるのだろうか。

 チラリと鹿沼さんを見るとそこにはいつの間にかエプロンを着た鹿沼さんの背中。

 表情は見えないけど、いつもと変わらない雰囲気だ。

 しかし――。

 

 

「鹿沼さん昨日俺が寝た後、俺のスマホの中見たでしょ」

「ギクッ」

 

 

 漫画でしか見た事が無いバレた! という擬音語を口にしたと共に、鹿沼さんの肩が跳ねた。

 

 

「み、見てないよ?」

「嘘だね。絵麻と通話してたし」

「そ、それは絵麻ちゃんから着信来たのを私がとっただけ」

「それも嘘だね」



 俺は少し強気に行くことにした。

 仮に写真や動画を見てしまったのならちゃんと説明しなきゃいけないからだ。

 

 

「鹿沼さん正直に言って。見たの?」

「……」



 鹿沼さんの背中からは何の返答も返ってこないので、俺は冷蔵庫にもたれ掛かって一度大きくため息を吐いた。



「そっか……見ちゃったんだね。失望したよ鹿沼さん」

「……ッ!?」



 鹿沼さんはゆっくりとした動きでこちらを振り返ったが俺は視線を合わせず、斜め下に固定した。

 こうする事で不機嫌になってる事を演出できる。

 表情は見えないけど、鹿沼さんは俺の目の前で向かい合って停止しているのはわかる。

 


 今更だけど、これではまるで夫婦喧嘩だ。

 浮気を疑った奥さんが旦那のスマホを覗き見て、それに気づいた旦那が妻を問い詰める。

 俺達は夫婦でも喧嘩をしているわけでもないけど、その疑似体験をしてるようでちょっと面白くなってきた。

 


「羽切君のスマホの中を……見ました」



 少しの沈黙の後、遂に鹿沼さんは白状した。



「どうやってロック開けたの?」

「寝てる羽切君の指紋を使って……」

「何でそこまでして中を見ようとしたの?」

「だって羽切君、最近疲れてるみたいだったし……それに何か隠してるような気がしたから……」



 鹿沼さんは俺が何かを隠していると気付いてたみたいだ。

 これが女の勘ってやつか? 怖いな。

 


「ごめんなさい」



 女の勘に戦々恐々していると、小さな声でそんな事を言われた。

 不機嫌を演出して鹿沼さんに謝罪までさせてしまった事に罪悪感が押し寄せ、心臓がキューッとなる。

 自然と手を伸ばして甘い言葉を掛けそうになったが、グッと抑えて続ける。

 


「それで? 何をどこまで見たの?」

「ロックを外してホーム画面まで入ったけど、そこからは何も見てない」

「本当かなあ?」

「本当に本当。信じて」



 鹿沼さんが本当のところどこまで見たのかは本人にしかわからない。

 まあだけど、これまでの反応的には本当に何も見てなさそうだ。

 ただ最終確認だけはしておきたい。

 ここで俺は鹿沼さんを見ると、鹿沼さんは不安そうに俯いていた。



「わかった信じるよ」



 そう言うと鹿沼さんは少し安心した表情になった。

 


「それにしても良かったよ。鹿沼さんに見られたらまずい写真たくさん入ってたから」

「私に見られたらまずい写真? まさかエッチな写真じゃないでしょうね?」

「そうだよ。主に鹿沼さんの」

「わ、わ、私の!?」



 少しギクシャクさせてしまったが、ここでいつもの雰囲気に戻す。

 俺は鹿沼さんの右側を通り抜けてポコポコと沸騰したコーヒーをカップに注ぐ。

 


「鹿沼さんが子供の頃の写真がお母さんから大量に送られてきたんだよ」

「私の子供の頃の写真?」

「うん。中には赤ちゃんの鹿沼さんがお母さんにアソコ拭かれてる写真とか、お漏らしして泣いてる写真とか全裸でお母さんとお風呂に入ってる写真とかあったよ」

「なうえあうえなぁ!?」



 もちろん嘘だが、この慌て方は本物だ。 

 もし写真ファイルを見たならこんな事にはならない。

 とにかく鹿沼さんは何も見ていないと確証できたので、俺はコーヒーの入ったカップ二つを持ち歩き出す。

 台所から出る直前に振り返ると、そこには俺を見て呆然と立ち尽くす鹿沼さんの姿。



「あっ、それと……色々疑ってごめん」



 疑った事は謝らないといけない。

 俺はそれだけ言って台所から出る。

 とりあえず一件落着と思っていたのだが、すぐに追いかけてきた鹿沼さんが俺の背中に抱きついてきた。

 予想外な展開に俺はコーヒーを少しこぼしてしまう。



「熱ちちち、何!?」

「私のエッチな写真は消させてもらう」

「ちょっ、熱々のコーヒー両手に持ってるし危ないって!」

「私にとってはチャンス。スマホはどこかな」



 鹿沼さんは俺の制服の胸ポケットに手を当てて、スマホがないとわかると両手を俺のスボンの両ポケットに突っ込んできた。



「ぎゃはっははは! くすぐったいって!」

「あっ、みーっけた」



 鹿沼さんがそう言った瞬間、俺の下半身に握られた感触が伝わった。



「おふっ!」



 そして同時に俺の口からまるで腹を殴られたかのような声が漏れる。

 初めて他人にアソコを握られて、さらに大きくなっていく。



「あ、あれ? 何だろこれ……」



 流石に違和感に気づいた鹿沼さんは、握ったそれを横に動かしたり縦に動かしたりしている。

 鹿沼さんには当然無いモノなので、握る力だったり動かし方が乱暴で逆にそれが不慣れな感じで興奮してしまう。

 

 

「あ、あの鹿沼さん」



 俺のアソコが最大限大きくなったところで、肩にある鹿沼さんの顔を見る。

 鹿沼さんは俺のポケットの奥にあるものに必死でなかなか視線が合わない。



「それ、俺のチ〇コなんだけど」



 俺がそう言うと、鹿沼さんの手が握ったまま止まった。



「……今なんて言ったの?」

「それ、俺の、ち〇こ、なんだけど」



 伝わりやすくするために細切れでそう伝えると、鹿沼さんの唇がふるふる震え始め、顔も見る見るうちに赤くなっていく。

 


「ち、違っ! そういうつもりじゃ……」

「鹿沼さんも思春期だし仕方がないね」

「それはそうかもしれない」

「え?」



 まさかの肯定でもう一度鹿沼さんを見る。

 真っ赤な顔だが悪戯な表情。

 何だか久々にその表情を見て体がぞくっと震えた。



「せっかくだしお母さんが言ってた玉袋ってのを確認しちゃおうおかなー?」

「玉袋なんてエロい言い方しないでキンタマって言いなよ」

「どの辺にあるの? ここかな?」

「オフゥ! ちょっと鹿沼さん流石にマズい事になってるからっ!」

「でも羽切君、私の胸揉んだよね?」

「わかった。わかったから強く握るなよ」



 その後鹿沼さんは俺のブツに辿り着き、男の神秘の感触をしっかり手で感じたみたいだった。

 「凄い……本当に玉がある」と何度も感嘆としていて、なんだか辺な気分にさせられた。

 俺は鹿沼さんの胸を揉んだしキスまでした。

 だからこれはある意味等価交換でもある。



 鹿沼さんが触り終えるとやはり変な雰囲気になってしまい、その後は大した会話もなく朝ご飯とコーヒーを飲んで学校へ行った。


 

昨日で投稿し始めて半年が経ったみたいです!

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