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【76話】 夏休み㊱ (戸塚家)

【祝】30万文字達成


正直言って、だいぶ迷走してる。

戸塚家で書こうとしてた事は決まってたんですが、いざ書いてみるとまーじで微妙でビビってる。


 洗い物を終えてリビングに戻ると静かな寝息がスウスウと響いていた。

 羽切君と真里さんはどちらもテーブルに突っ伏して寝ているのだ。

 どういう成り行きでそうなったのかはわからないが、二人はお酒を酌み交わしていたようで私達が帰ってきたころにはベロンベロンだった。

 そしてその二人に飲むのを辞めるよう必死に説得していた美香の弟さんはまさかの夏祭りの時に私をナンパしていたあの男子で、晩御飯中にお話しした所ナンパをした訳ではなく、本当に足を踏んでしまい心配したから声をかけたらしい。



 弟さんは一つ歳下で受験生。

 見た目的には大人っぽくて少しチャラい雰囲気もあるが、性格は優しくて礼儀正しい。

 真里さんや美香とは全然性格も雰囲気もまともで少し安心した。

 彼は私が洗い物をしているときにキッチンに入ってきて感謝の言葉を掛けて自室に戻った。



「羽切君、大丈夫?」



 私はエプロンを脱ぎながらテーブルに突っ伏している羽切君の元へ歩き、声をかける。

 しかし反応がない。

 お母さんはお酒が飲めないし、お父さんは小さい時に亡くなってしまったので、私は酔っぱらった人の介抱の仕方を知らない。

 


「おーい、大丈夫?」

「うーん……」



 肩は上下に動いてるし息もスゥスゥと音を立ててしているので大丈夫なのだが、テーブルに突っ伏して寝る体勢はちょっと苦しそうだ。

 私は羽切君を起こそうと肩を持って揺らしてみたり、トントンと叩いてみるが全然起きない。

 そうこうしていると美香が両手にコップを持ってキッチンから出てきた。



「ほら景、お水〜」

「お水?」

「羽切君に飲ませてあげて〜」

「飲ますって起きないのにどうやって?」

「そこは多少強引にしないと〜」



 強引に飲ますとは結構難しい事を言う。

 しかし美香がコップをテーブルに置いた瞬間、まるでゴングが鳴ったかの様に羽切君は起き上がった。

 瞼はほとんど下がっていて、顔は赤い。

 小さく「うーんうーん」と唸っていて、やっぱり少し苦しそうだ。

 こんなに弱ってる羽切君は初めてみたので、何だか胸がドキドキする。

 羽切君の新たな一面を見たことに対する嬉しさと悪戯したいという二つが入り混じった感情。

 


「羽切君、お水飲むと楽になるよ?」



 その二つの感情をグッと抑えてまずは苦しさを軽減させるべく、私はコップを持って羽切君の唇につけ、少しづつ傾けていく。

 するとちゃんと水は飲んでくれている様で、コップの水が減ると羽切君の顔も少しだが良くなった。

 しかしそれでもフラフラで、すぐにテーブルに体を預けようとしたので私は彼の肩を持ってそれを阻止した。

 


「羽切君、相当酔っ払ってるね〜」

「こういう時、どうすればいいのかな?」

「そりゃそのまま寝かせてあげるか酔いを利用してベッドまで連れてくかだね〜」

「酔いを利用するってどうやって?」

「見てな〜」



 美香はそう言うと、座っている羽切君の横に立ち両手を広げた。

 羽切君は虚な瞳でその様子を見ていて、今から何が行われるのか私にはわからなかった。



「羽切君、おいで~。おっぱいここだよ〜」

「おっぱ!?」



 美香は何を言ってるの!? と驚いたが、どういうわけかその言葉は効果的面だったみたいだ。

 羽切君はフラフラと立ち上がって美香に抱きつき、胸元に顔を埋めた。

 美香はよしよしと羽切君の頭を撫でており、私は何が起きてるか理解できず混乱した。



「柔らかくて女のにおいもするでしょ〜。安心するよね〜」

「ちょっと美香!? 羽切君!?」

「このままベッド行こうか〜。ベッドに着いたら私の事は気にせず羽切君のしたい事していいよ〜?」

「ええっ!?」



 羽切君をあやしているように見えて、美香も顔が赤くなってきている。

 あまり美香の顔が赤くなっているところを見た事がないのでもしかすると本気なのかもしれない。

 酔っ払ってる羽切君が欲望のままに美香をベッドで何かをする。

 想像するだけで心臓にザワザワと不快感が込み上げてきた。



 美香はニヤニヤと私を見ながら羽切君と歩き出そうとしたが羽切君は動かず、その代わり更にとんでもない行動を始めた。

 羽切君は少し美香の胸から顔を遠ざけて両手で美香のシャツを上げ始めたのだ。



「おおっ?」



 その行動には美香も驚いた様だが、いつも通り美香は抵抗しないのですぐに美香の胸が露わになった。

 ブラジャーに包まれた胸。

 羽切君は美香の露わになった谷間に顔を埋めるのかと思いきや、その谷間をずっと凝視しながら両腕を美香の背中に回し、何やらゴソゴソとやっている。

 


「ブラ脱がそうとしてる〜。羽切君、本気だね〜」



 私は羽切君の一連の行動に唖然としてしまった。

 羽切君ですら酔っ払うとこんな事になってしまうんだと。

 羽切君でこうなるなら、あの日酔っ払ってしまった私は何をしたのか再度心配になってきた。

 絶対ただ寝てただけなんて事はない。

 酔っ払った私は羽切君に求めたり、告白したりなんてしなかっただろうか。

 記憶がないからわからない。



 そんな事を考えていると羽切君は美香のブラのホックを外した様で、美香の胸とブラとの間に空間ができた。

 そして今度は美香の肩に手を滑らせブラの肩紐を――。



「羽切君、私としてはこのまま脱がされてもいいんだけど、景がすごい剣幕でこっち見てるんだよね~」

 


 美香がそう言うと、羽切君の動きが止まった。

 そして美香の首に腕を回して寄りかかるようにして私を見る。

 うつろな瞳で私の顔を見て、その後徐々に視線が下がり胸で止まった。



「景の方が大きいし、柔らかいよ~?」

「ちょっと美香、嘘でしょ……?」

「じゃあこのまま私が羽切君貰っちゃっていいの~?」

「それはダメ」

「だったらほら、ちゃんと羽切君呼んであげな~」

 

 

 いくら美香でも羽切君と密着しているのは我慢できない。

 すごく恥ずかしいけど、やるしかない。

 それに私が酔っぱらってしまったあの日の恩返しでもある。

 今度は私が羽切君を介抱してあげなきゃ。

 私は両手を広げて言う。



「ナル君、おいで」



 は、恥ずかしい……。

 いつもなら羽切君に要求して許可貰ってから色々するのに、今回は違う。

 なんだが不思議な感情が体中を駆け巡った。



 羽切君は美香から離れてフラフラと私の方に歩いて来る。

 そして私の腰に腕を回し、胸に顔を押し付けてきた。

 触られたことは何回かあるけど、顔を埋められたのは初めてだ。

 不思議な感覚がどんどん強くなっていき、自分の心臓の音がバクバクと強く脈打つ。

 私は胸に顔をうずくめる羽切君の頭を両腕で包み込んだ。



「美香、私変な気持ちになってきたんだけど、これは何?」

「人の感情を何かって質問されても難しいよ~。具体的にどんな感じなの~?」

「なんか……守ってあげたい……みたいな」

「ああ~、それは母性本能だね~」

「母性本能……?」



 母性本能という言葉の意味は知ってる。

 それは母親が子供に対して抱く感情で、子供を愛おしく思ったり守ろうとしたりする生れつき女性に備わっている本能。

 でも羽切君は子供じゃない。



「羽切君は子供じゃないし、違うと思うけど」

「いいや~。子供じゃなくてもしっかり者で普段甘えてこない人が無防備に甘えてきたりすると母性本能がくすぐられる事もあるよ~。私も一応女だからちょっとわかるんだよね~」

「へー」


 

 本能って不思議。

 今まで羽切君に甘えてきた私が、今は甘えられて本能がくすぐられているらしい。

 初めて感じる母性本能にちょっと戸惑ったけど、なんだか心地が良い。

 子供が欲しいとか思った事がなかったけど、何故か今だけ子供を求めている。

 これが母性本能の効果なのだろうか。



「ところで羽切君は胸好きなの?」

「そりゃ男は誰だって女性の胸が大好きだよ〜」

「それはどうして?」

「やっぱり自分にはない膨らみだから興奮するんじゃないかな〜? 前に読んだ本では男が女性の胸に性的魅力を感じるのは、人間の進化も関係してるって書いてあったよ〜」

「人間の進化!?」

「人間は二足歩行をする前は四足歩行のお猿さんだったわけでしょ〜? 四足歩行の動物はいつだって目線の位置にお尻の膨らみがあるからその膨らみに興奮できたんだって〜。だけど人間は二足歩行になって目線の高さにお尻の膨らみがなくなって性的興奮がしにくくなったから、女性の胸が膨らむ様に進化して男が性的興奮させやすい様になったんだってさ〜。どんな動物にも種の繁栄のための本能って存在していて、本当に不思議だよね~」

「つまり羽切君は私と美香の胸で性的興奮をしてるってわけね?」

「そりゃしてるでしょ~。特に酔ってるし、今の羽切君は本能的になってるんだろうね~」



 何度も出てくる本能という言葉。

 今まで何度も美香から本能という言葉でいろんな事の説明を受けてきたが、結局その言葉が指すのって“なんとなく”って事なんだと思う。

 なんとなく胸が好き。なんとなく守ってあげたい。なんとなくこの人が好き。なんとなくこの人の子供を生みたい。

 私が羽切君のどこが好きなのかって事を前にも考えたが、結局のところ結論は出なかった。

 つまりこの恋心も“なんとなく”なのだ。

 


 人の恋心までもが“なんとなく”であるならば、私がいくら頑張っても羽切君の気持ちを変える事は出来ないのではないだろうか。

 胸の奥から一抹の不安が込み上げてくる。

 私は羽切君と両想いになって一緒に高校生活を過ごしたいと思っているが、それを実現するためには羽切君の“なんとなく”の本能を刺激しなくてはいけない。

 それって無理では?



 そんな事を考えていたら羽切君の腕がずるりと落ち、一層私の胸に強く寄りかかってきた。

 足もガクンと落ちたので体を支えながら私も床に座る。

 


「羽切君、ベッド行こっか」

 

 

 考えがまとまらないから再度保留にして、とりあえず羽切君をベッドに連れて行こう。

 私は羽切君の腕を自分の首へ回し、右腕で羽切君の背中越しに反対側の脇の下に固定。

 しっかりと体を密着させた状態で腰と足に力を入れて立ち上がった。



「お姉ちゃんは後で私が部屋まで連れて行くから、私のベッドに羽切君寝かしちゃいな~。私は三階で布団探してくるから~」

「美香、色々ありがと」

「いいのいいの~。あっそれと私のベッド汚しても良いから、景も本能に従うままにヤっちゃいなよ~」

「やらないってばっ!」



 美香は一度笑うと、ヒラヒラと手を振りながら階段に消えていった。

 私も羽切君を支えながら階段のほうへ歩こうとするが、羽切君は頑なに動かない。

 チラリと見ると羽切君は少し目を開けていて、口元には不敵な笑み。



「起きた?」

「散歩」

「……散歩?」



 いきなりそんな事を言われて困惑したが、羽切君は私から離れて玄関の方へ歩き始めた。

 時刻は20時34分で、窓から見える外は真っ暗。

 羽切君は酔っぱらってるので何をするかわからないし、酔っ払いを外に野放しにするのは危険だ。

 私は歩き始めた羽切君の腕を掴んで阻止しようとしたが、力負けして前進を止める事が出来なかった。

 


「ダメだって、危ないよ」

「……」

「せめて美香に伝えないと」



 私の制止をものともせず羽切君は靴を履きだし、玄関の取っ手に手をかけた。

 羽切君はもはや止まらないと感じた私はしゃがんで靴を履き始める。

 


「わかったから、ちょっと待ってってば!」



 先に靴を履いて外に飛び出た羽切君を、私は遅れて追いかけた。


たまーに失敗して投稿を削除してしまう現象が前回起きてしまった。

人間誰だって失敗するよね。

そうやって成長していこう。

ネット投稿はやり直せるから本当に助かってる。

ってか30万文字ってすげえな。

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