表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/122

【62話】 夏休み㉒ (ラブホテル)

 12時間が経ったが、俺達はまだホテルにいる。

 スマホで調べた鉄道会社の情報では8時20分に電車が動き始めるらしいが、延長した理由はそれだけでは無い。

 隣の部屋でドライヤーをかけている少女の説教タイムが始まるからだ。



 10分前、胸を隠してつま先座りした全裸の鹿沼さんは下から上がってくる壁が首まで隠れたところでキッと俺を睨みつけて「逃げないでよ!?」と言ってきた。

 本気の睨み顔と怒声に身震いをしたが、それでも裸を見てしまった興奮は収まらず座っている俺のアソコはビンビンだ。

 

 

 ドライヤーの音が鳴り止み、シャワー室の扉がゆっくりと開かれた。

 そして下着姿のままの鹿沼さんはベッドで正座している俺の前に立ち、腕を組んで俺を見下ろしている。

 怖くて顔は見れないが、怒っているのだろう。

 当然だ。鹿沼さんからしたらシャワーの最中に突然壁が降りてきて裸を見られたのだ。

 わざとじゃないにしても殴られてもおかしくないような行為だし、まだ説明していない今の段階では俺がわざとやったと思われているかもしれない。

 


「どういう事が説明してくれるよね?」

「……はい」



 いつもならソワソワと恥ずかしそうにしているところだが、今回はしっかりと仁王立ちだ。

 その態度が鹿沼さんの本気の怒りを表している。

 俺は膝の上に置いてあるタブレットを持って、説明を始めた。



「この御開帳というオプションがあると思うんですけど、これが何なのかわからなくて、とりあえず押してみたらああなりました」



 鹿沼さんは両手をベッドについて、前かがみになる。

 タブレットの御開帳の枠は小さいので近くで見ようとしたのだろう。

 鹿沼さんが前かがみになったことで胸の谷間が俺の目線に降りてきたが、俺はそれをガン見することなく顔を逸らす。

 


「それで?」

「それで……とは?」

「だ、だから! どこまで見たの!?」




 鹿沼さんは再度体を起こし、王立ちになって俺を見下ろしている。

 俺は鹿沼さんの顔を見上げることはせず、申し訳なさそうに俯く。

 俯いて反省の色を見せることが重要だと思ったからだ。



「この角度から見えるほぼ全部かな」

「……ッ!」



 俺がそう言うと、仁王立ちの鹿沼さんの太ももがキュッと少しだけ内側に寄った。

 


「ぜ、全部って!? 具体的に!?」

「聞かない方が良いと思うけど……」

「言って!!!」



 いつもの鹿沼さんじゃ発しないであろう声量に驚きつつ、俺は一度顔をあげてその表情を見てみる。

 すると真っ赤な睨み顔で俺を見下ろしている鹿沼さんと目が合った。

 こうなったらもう腹を割って話すしかない。

 100%俺が悪いのは明確なのだから。



「まず左の脇の下から胸は先端も含めて全部見えました。シャワーの水がその上で弾けるのも、へそを伝ってお尻の割れ目の中に入っていくのも全部見てました」

「んくぅっ!?」



 聞いたことが無い声が鹿沼さんから発せられた。

 そして1歩俺の方へ近づいて来た。

 俺はビンタでもされるのだと思い、目を瞑って歯を食いしばる。

 しかし10秒程経っても何も起きず、その代わりトントンと何かを叩く音が聞こえ、そして――。



「お母さんに電話するから」

「……!?」



 や、やばい。

 鹿沼さんは親に報告するつもりだ。

 なんとしてでも阻止しなければ。



 俺は目を開け、鹿沼さんを見る。

 鹿沼さんの左手にはスマホが握られており何やら操作しているので、視線は俺には向いていない。

 これはチャンスだ。

 鹿沼さんがどこまで報告するつもりかはわからないが、とにかく俺が鹿沼さんの裸を見たなんて報告されたら俺は終わりだ。

 だから今は鹿沼さんのスマホを取り上げ、説得する。

 それしかない。

 

 

 俺はスマホに釘付けになっている鹿沼さんにバレない様にゆっくりとした動きでベッドから片足を地面につけ、スマホに勢いよく飛び掛かかる。

 しかし鹿沼さんの反射神経は俺の想像を越えており、ひょいと容易く避けられた。



「な、何!?」


 

 鼻先が付きそうな距離に急接近した鹿沼さんの表情は驚いている。

 スマホを俺に奪われないためか、鹿沼さんはつま先立ちをして腕を大きく上にあげているが、残念ながら俺の方がリーチが高い。

 

 

「鹿沼さんを説得しようと思って」

「ふーん、説得するためにスマホを奪おうとしてるんだ?」

「まあ、そうなるな」

「強硬手段ってやつね。でも私、運動神経かなり良いし奪えると思ってるの?」

「運動神経は無関係だし、リーチのある俺が有利だよ」

「じゃあ勝負だね」

「言っとくけど、正当な手段で勝負しないからな?」



 俺はそう言ってゆっくりと空高く上がっている鹿沼さんの左手に向かって右手を伸ばす。

 普通なら俺の方がリーチがあるので俺がつま先立ちをすれば届くのだが、鹿沼さんは体を反らせているため届かない。

 いやそれだけではない。

 単純に鹿沼さんの胸に体が当たらない様に少し間を開けているからというのもある。

 


「残念、届かないね」

「ああ。だけど鹿沼さん、脇下が丸見えだよ?」

「あっ……」

 

 

 勝負に集中しすぎて、自分が醜態を晒していることに気づいてなかったらしい。

 俺は鹿沼さんの現状を口に出せば鹿沼さんは脇を閉めてスマホの頂点が下がると踏んでいたのだが、脇を閉めるか勝負を優先するかのせめぎ合いの末に勝負を優先することに決めたらしい。

 鹿沼さんはスマホの頂点を下げることはしなかった。



「だから?」



 今すぐにでも脇を閉めて隠したいだろうが、良く耐えている。

 


「いいの? 全部見えちゃってるけど」

「べ、別に恥ずかしくないし」

「へー」



 もはやこれは俺の生死を分ける勝負。

 鹿沼さんという唯一の愛娘がラブホテルで男といるなんて鹿沼さん母が聞いたら大変なことになる。

 そこで裸を見られたなんて伝わった時には、卒倒するかもしれない。

 しかも男が酔っぱらった鹿沼さんをラブホテルに連れ込んだなんて伝われば、最悪の場合俺は少年院行きになるかも……。

 そう考えるともう手段を選んでられない。



 俺は恥じらいに赤面する鹿沼さんから視線を外さず、上げていた手を下げる。

 そしてその手の親指以外の4本の指で鹿沼さんの脇腹に軽く触れる。

 するとぴくっと体が少し跳ねたが、鹿沼さんの瞳の奥に輝く覚悟はまだ健在だ。

 なので俺はコリコリする肋骨を上へすぅーっと滑らせ、脇下の胸の側面辺りで一度手を止める。



 鹿沼さんはシャワーを浴びた後なので、少し肌が湿っていた。



「スマホ渡さないと、さらに進むけどいいの?」

「……変態。絶対に渡さないから」

「じゃあ遠慮なく」



 俺はさらに進んで脇下を一度通過して二の腕の方まで滑らせる。



「……ッ!」



 鹿沼さんは一瞬ビクッとなったが、これで終わりではない。

 俺は通過した箇所へ再度戻って脇下の一番深い部分を細かく指を震わせながら摩った。

 昔、妹の絵麻とくすぐりあっていた時に見つけた一番くすぐったい場所。



「あっんっ……!」



 鹿沼さんからエロイ声が漏れ、脇下が勢いよく締まった。

 脇下が締まったことでスマホまでの頂点が下がったので、俺は逆の手でスマホに左手を伸ばす。

 しかし鹿沼さんは俺の行動を予測していたかのように、右手でパシッと手首を握られて阻止された。



「ざ……残念でした」

「まだ終わってないよ」



 俺は鹿沼さんの脇下に挟まっている指を再度振動させる。

 


「ああんっ……だめっだめっ、指抜いて……ッ!」



 どうやらこの攻撃は効果抜群らしい。

 徐々に鹿沼さんの握力と腕力が弱体化しているのを感じる。

 そして最大まで力が弱まったと感じた瞬間、再度スマホに手を伸ばす。

 今回はスマホの側面を親指と人差し指で掴むことができたが、鹿沼さんの意地と気合なのかまだ離そうとしない。

 しかし俺達は男と女。

 男の俺が本気を出せば、力で制圧は簡単にできる。

 俺は力いっぱいにスマホに力を入れて取り上げた。



「あっ!」



 しかし再三に渡り、予想外な事が起きる。

 力いっぱいに取り上げたスマホが俺の手汗で滑り、空中を飛んで後ろのベッドの中心にぽふんと音を立てて落ちたのだ。

 


 先に反応したのは鹿沼さん。

 俺の横を素早くすり抜け、ベッドへとダイブ。

 そしてコンマ1秒程遅れて俺もベッドへとダイブ。

 


 先にスマホにたどり着いたのは鹿沼さんだった。

 スマホを手に取り胸に押し込もうとしたが、俺はその手首を握ってベッドに押し付ける。

 鹿沼さんの右の太ももに跨り固定。そして俺の右手は大きく万歳した鹿沼さんの左手首を握って頭の上の遠くに固定。

 太ももの付け根まで俺の膝が入っているので右足を動かすことはもはやできまい。そして右手で左手を抑えているので、左の腕自体も動かない。

 こうやって左右の腕と脚を固定されると、人は身動きが取れなくなるらしい。

 格闘技をたまに見るから知っている。



 鹿沼さんは下でしばらくもがいていたが、身動きが取れないとわかると静かになった。



 勝った……。



 俺は心の中で勝利宣言した。

 後は空いている左手で右手のスマホを奪えば終わりだ。

 終わりなはず……なのだが。



 俺は勝利宣言をしようと、鹿沼さんを見る。

 そこには、はぁはぁと息を切らしている鹿沼さんの姿。

 シャワーを浴びた後なのでまだ下着姿で、いい匂いもする。

 しかし俺が感じた“何か”はそういった五感とは違う何かだった。



 鹿沼さんの瞳の奥から訴えかける何か。

 どのくらい見つめ合っていただろうか、時間の感覚すらわからなくなるおかしな感覚が続いていた。

 その間、脳のあらゆる思考は遮断されていていたが、遂に俺の体が勝手に動き出した。

 まるで体にプログラムされたシステムが勝手に動き出したかのように、ゆっくりと鹿沼さんへと顔を近づける。



 ――なんだ? これは。



 鹿沼さんの瞼がゆっくりと閉じていくのを見て、まるで許可を与えられたかのような感覚に陥った。

 俺の内側にある何かおかしな気持ちが、漏れ出しそうになっている。

 いつもなら絶対に開かない開かずの扉がガタガタと音を立ててノックされている感覚。

 

 

 もう止められなかった。



 俺は鹿沼さんの淡い桜色をした唇に、自分の唇を重ねる。

 鹿沼さんは唇を重ねた瞬間「んっ」と微かに声を漏らした。

 柔らかくて温かい。そして湿った唇。

 多分5秒程していたと思う。

 俺は緊張でか、息が続かなくなり一度離す。



 鹿沼さんは惚けた顔で、はぁはぁと小さく呼吸をしている。

 そして俺の首に空いている右腕を回し、自分の方に力を入れてきた。

 俺はその力に従い、2度目の口づけをする。 

 


 もはや欲求の限界が来ていた。

 俺は右手を鹿沼さんの手首から離して、ゆっくりと右胸の上に置いて軽く握る。

 5秒程の口づけを終え、再度顔をあげると鹿沼さんと目が合ったが、鹿沼さんは顔ごと左に傾けて視線を逸らした。

 当然右の胸を軽く揉んでいることは鹿沼さんも感じているだろう。

 しかしそれに関して何も言ってこない。

 


 表情や態度からしてまだ進んでも大丈夫だと体が判断したのか、次のステップへと移行した。

 俺の右手はブラを少しづつ上へとずらしていく。

 しかし俺の頭はそれと同時に少しづつ正常に戻っていく。



 本当にこれ以上進んで大丈夫か?



 微かな思考力が危険信号を送っている。

 ストップをかけるなら今しかないと。

 これ以上進めば、もう後戻りはできないと。



 少しづつ露出される乳房の肌。

 そしてほんの微かに色が変わった部分がチラリと見えた瞬間、俺の右手はピタリと止まった。

 欲と理性のせめぎ合い。

 そして今と将来とのせめぎ合い。



 俺が動きを止めると、鹿沼さんは違和感を感じたのか再度俺を見た。

 しかし今度は俺が視線を逸らした。

 なんだが、今視線を合わせるのは危険だと感じたからだ。



 視線を外した先には、鹿沼さんの頭の右上にあるスマホ。

 その画面に表示されている、“通話中”の文字。



「鹿沼さん」

「……はい」

「スマホ、通話中になってる」

「えっ?」



 鹿沼さんは我に返ったのか、左手でスマホを取り画面を見た後、耳に当てる。

 そして――。



「お母さん?」



 その言葉を聞いて、俺も我に返った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ