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【6話】 一学期 (お泊り初日)

 鹿沼さんが風呂に入っている間、俺は飯を作る事にした。

 今日の晩飯はカレーだ。

 野菜を入れて、カレールーと肉を入れて、30分ほど煮込む。

 白ご飯も同時に炊いておいたので、同じタイミングで出来上がった。

 後は鹿沼さんがお風呂から出てきてから皿に盛り付ければ完成だ。

 


 しかし女子というのは風呂が長い。

 髪が長いのが理由なのか、風呂好きが多いからなのかはわからないが、統計的に見ても間違いなく男子よりも長いと思う。

 妹も母親も長かったし。

 


 鹿沼さんが出てくるのを待っていたのだが、あまりに長いので心配になり脱衣所のドアを叩いてみる。

 


「は、はい」



 ドアのすぐ向こう側から声が返ってきた。

 とりあえず倒れているわけでなくて安心した。



「あまりに長いから心配しただけ」



 そう言ってその場を離れようとしたら「ちょっと待ってください!」と呼び止められた。



「どうした?」



 何かトラブルだろうか。



「服が無くて……」

「あっ」



 完全に忘れていた。

 俺は下着に気を取られ過ぎていた。

 しかしどうしよう、この家に鹿沼さんが着るような服はない。

 妹の下着はあっても服まではない。母親の服もスーツばっかりでTシャツのような普段着はない。



「ちょっと待ってて」

 


 俺は自分の部屋に戻り、服の収納棚を物色する。

 6月上旬といえど、寒い夜はある。

 選んだのは半袖のI'm hungry! と書かれた白Tシャツ。

 それと寒かった時用の無地の真っ赤なパーカー。

 ズボンはバスケ用の短パン。

 


 俺は脱衣所まで戻り、扉の前に置く。


 

「ここに置いとくぞ」

「あ、ありがとう」


 

 俺はその場を離れ、カレーの入った鍋に火を入れる。

 しばらくすると鹿沼さんが出てきた。



「あの……色々ありがとうございます」



 鹿沼さんは申し訳なさそうに頭を下げた。

男の家でシャワーを浴びたという事実が恥ずかしいのか、少し落ち着きがない。

 


「いいって別に。それより飯にしようぜ」

「手伝います」



 そう言うとこちらに近づいてきた。

 俺のTシャツを押し上げる二つの双丘がi'm hungry!の文字をぐにゃっと曲げている。それにTシャツの丈が長く短パンが隠れているので一見何も履いてないようにも見える。



 何だが凄いことになってしまった。

 

 

 鹿沼さんは楕円形のお皿にご飯を盛り付け、そこに俺がカレーを乗せる。そして机まで鹿沼さんが運ぶ。

 その流れで二つのカレーを運び終え、向かい合わせに小さな食卓に着いた。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「で、どうしてこうなった?」


 

 俺達は飯を食べ終わり、食後の休憩中。


 

 俺は何故いきなりうちに押しかけて来たのかの説明を求めた。

 


「傘を持ってなかったから学校でやむのを待ってたの」

「ほう」

「だけど全然やまなくて、走って帰る事にしたの」

「ほうほう」

「で、家の前まで着いたんだけど、鍵を落としちゃったみたいで」

「なるほど」

「来た道を歩きながら鍵を探したんだけど見つからなくて」

「で、うちに来たわけだ」

「うん」



 どうりで制服が泥とかで汚れてたわけだ。



「親は帰ってこないのか?」

「帰ってこない。君もそうでしょ?」

「まあな」



 同じ転勤族で同じ境遇らしい。



「だけど、友達とかの家の方が良かったんじゃないか? 例えば戸塚さんとか」

「美香は電車通いだから歩ける距離じゃない」

「他にも友達たくさんいるだろ? 中には地元の奴もいるだろ」

「……」



 どこか複雑な表情。



「有象無象の住所なんて知らないし」

「有象無象って……いつも親し気に話してるじゃん。連絡先くらいは知ってるんだろ?」

「知ってるけど、気軽に連絡できる仲じゃないし」

「そうなの?」

「合コンに参加してくれとか、先輩の誰かさんが私に気があるから会ってほしいとか。そういう話ばっかり」

「それはだるいな」

「でしょ」



 どうやら、鹿沼さんは順風満帆とは行ってないみたいだ。

 何にせよ、事情は理解した。

 

 

「でもさ、そういうのも参加したほうがいいんじゃないか?」

「そういうのって合コンの話?」

「これから3年間あるんだぞ。クラスの女子ともそうだが、他校の人とも仲良くしておくと安心だと思うが。それに彼氏とかほしくないのか?」



 鹿沼さんはうーんと唸る。



「クラスの女子と仲良くするのは私も重要だと思う。だけど、恋愛とかよくわからない。人を好きになったことが無いから」

「ふーん」

「君もそうでしょ?」

「まぁな」



 誰かを好きになる前に、俺達はいなくなる。

 いや、いなくなるから人を好きになる事がなくなった。

 親密になればなるほど別れがつらいのが目に見えているから。

 でも今の鹿沼さんは違う。

 もう転校する必要が無くなったのだから。



「同類だね」



 鹿沼さんは可笑しく笑った。



 その後、俺達は多くの事を語り合った。

 中学の時の事。

 お互い何のキャラを演じてたか当てゲームをしたり。

 そのキャラでどういう経験をしたのかを話し合った。

 


 夜遅くまで。

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