【57話】 夏休み⑰ (海)
予告通り、7月の新規投稿は不定期となっております。
なんという絶景だ。
視界には青い空、眩い太陽。
そして女性陣のぷりぷりのお尻と脇下。
学校では絶対に見れないであろう角度で同級生が必死に一つの作業に集中している姿を見ている。
俺の体に乗っている砂にスコップをトントンと押し当てている姿はまるで子供が公園の砂場で遊んでいるかのようだ。
まるで子供だが実態は高校生。
しっかりと胸の谷間もあるし、無邪気に遊びを楽しんでいるというよりもお互い世間話をしながら交友を深めるために共同作業をしているような感じ。
「あのー、お水頂けませんか?」
上で世間話をしている女子3人と男子1人は楽しそうだが、砂に埋まっている俺の体は猛烈に熱くなっていて楽しめる状況じゃない。
しばらく我慢して彼女たちの肢体を撫でまわすように観察して楽しんでいたが、さすがに限界みたいだ。
「はい、アーン」
パラソルから水の入ったペットボトルを持ってきた鹿沼さんが、俺の顔の真上から覗き込んできた。
そうやって前かがみになると、鹿沼さんの大きな双丘の谷間に視線が移ってしまう。
とはいえ、喉が渇きすぎたので口を開ける。
鹿沼さんはペットボトルのキャップを開けてその開け口を俺に向けて傾けた。
そして綺麗な透明の水が、俺の口に入っ――。
「ゴボボボボッ!? ちょっ、ンゲッゴホッウェッ!?」
水は俺の口ではなく、俺の顔面にドボドボと落ちてきた。
仰向けになっていた俺の鼻に勢いよく入ってきて、一瞬息ができずビックリした。
俺は命のために瞬時に顔だけ横を向き、水を放出する。
水が放出されても鼻の奥がツンと痛い。
「あはははははっ」
「ちょっ、鹿沼さんマジで死ぬからそれ」
「今なら羽切君にイタズラし放題だね」
鹿沼さんはニヤリと笑った。
「後で後悔することになるよ?」
「そんな事言うなら、水あげないよ?」
「水だけは飲ませてください。お願いします」
俺は首から下全部が砂に埋まっているので自力で水を飲む事すらできない。
灼熱の太陽に晒されて砂の中がサウナのように熱く、あり得ないくらいの水分が体から流れ出ているのを感じる。
「しょうがないね。ほら口開けて」
俺は言われるがまま口を開ける。
するとちゃぷちゃぷと俺の口の中に水が注がれて、口の中いっぱいに注がれると一度口を閉じてごくごくと飲む。
「まだほしい?」
「俺はもういいけど、鹿沼さんが飲んだ方がいいよ」
「えっ、私?」
「鹿沼さん意外と汗っかきだし」
「……」
出る汗にも個人差がある。
鹿沼さんは俺が見るに、汗が出やすい体質なんだと思う。
それは別に悪い事ではなくて、体温調節が正常に行われているということや老廃物や余計な水分を排出することで美肌効果やストレス解消効果というメリットも多い。
鹿沼さんが体質的に汗が出やすいといえ、大した事ではない。
俺の体や今見えている女子たちと比べているだけで、多分平均的な汗の量だ。
それをわざと汗っかきと表現したのは、さっきの水のお返し。
現に鹿沼さんはちょっと不安げだ。
そして鹿沼さんは伸びた自分の髪や腕、そして脇下を自分の顔に近づけてくんくんとその匂いを確認し始めた。
「臭かった……?」
「なんて?」
「さっき、臭かった?」
うーん。
自分の体臭を気にしている素振りを見せる鹿沼さんも中々良い。
そして自分ではわからない臭いを異性である俺に対して不安げに確認しているその姿も何だか変な気分にさせられる。
エロではない、何か別の感情。
特別感? のような優越感? のような。
とにかくここは臭くないと言うべき所だが、もし臭かったと言ったらどういう行動に出るだろうか。
色々考えてみたが、どういう行動に出るか予想できない。
「何も言わないってことは、臭かったんだ」
俺が返答するのに間が空いたことを臭かったと解釈したらしく、鹿沼さんは見るからに落ち込んだ。
「ごめんね」
「ば、ばか。俺は一度も臭いなんて言ってないだろ」
「言いにくかったんでしょ」
「いつになくネガティブだね。どうしたの?」
鹿沼さんは今、ネガティブ思考だ。
何故か彼女が落ち込んでいたり、傷ついたりしている表情や仕草を見ると、自分の事のようにモヤモヤする。
「自分が臭いかどうかって、人にしかわからない事だから。臭くて嫌われちゃったら嫌だなって……」
「鹿沼さんは臭くないよ。むしろ良い匂いだと思うし」
「じゃあさっきの間は何?」
「臭いって嘘ついたらどうなるのか考えてただけ」
「本当に?」
「本当に」
「なら良かった」
人は臭いのはわかっている。
それは男性であれ、女性であれだ。
しかし俺は女性の臭いにおいというのを実際に経験したことが無いので、女性を神聖化しているのも事実。
そういえば小学校の時、国語の授業でこんな話があった。
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大昔、誰もが惚れる美女がいた。
その女性を好きで好きでたまらなくなった男はある日、彼女に愛の告白をする。
しかし彼女は人妻だった。
その事実に衝撃を受けた男だったが、それでも諦めきれなかった男は、夜な夜な彼女の家へと忍び込む。
男の狙いは彼女の排便。
男はどうしても諦めきれない美女の臭く醜いものを見れば、幻滅して彼女を諦められるだろうと思い、こういう行動に出たのだった。
しかし美女は男が部屋に忍び込んでいることを知っていて、排便の代わりにお香を入れておいたことで、男はさらにその美女に夢中になったとさ。
――――――――――――――――――――――――
これは1000年以上前の話だが、現代にも通じるものがある。
人は本来の臭いを香水とかシャンプーとか口臭剤とかで紛らわしているだけだ。
もちろん排便の臭いを自分から嗅ぎに行くなんて事はしないけど、その人本来の体臭や汗の匂い、口の臭いが臭いと感じたら、どんなにその人を好きでも一瞬で幻滅してしまうのだろうか。
正直、俺の人生経験では答えが出ない。
しかし現に鹿沼さんはそれを危惧していた。
俺は一度も鹿沼さんを臭いと思ったことは無いが、もしも彼女のそういう臭いを嗅いだら俺は彼女を幻滅して嫌いになってしまうのだろうか。
それなら逆に興味がある。
俺は現状、不思議と鹿沼さんを大切に思っている。
そんな彼女を一瞬で幻滅して、大切に思えなくなるってどんな感じなんだろうか。
「鹿沼さんは、臭いって理由で誰かを嫌いになったことがあるの?」
「ないよ」
「じゃあなんでそんな気にしてるの?」
「だって……」
鹿沼さんは何やらボソボソと言ったが、聞き取れなかった。
「お二人さん、またイチャイチャしてるの?」
俺と鹿沼さんの沈黙を破ったのは、佐切さん。
協力関係を結べたという事と「私はいっくんだけのもだから」と恥ずかしい事を言って亀野を赤面させれたのが嬉しかったのか、ご機嫌だ。
「世間話をしていただけだ」
「羽切と鹿沼さんはやっぱ付き合ってるんじゃないの?」
パラソルから戻ってきた亀野が佐切さんの隣に座って言った。
「付き合ってないぞ」
「でも、鹿沼さんの初めては奪ったと?」
「さっき言ってた初めてってのはな、そういう行為をしたって意味じゃないからな?」
「じゃあ、羽切は鹿沼さんのどんな初めてを奪ったんだ?」
「それは……」
下手なことは言うべきじゃない。
安全に逃げることにしよう。
「鹿沼さんが男と海に来たっていう初めてを俺が奪ったんだ」
「なら羽切が鹿沼さんを誘ったって事だよな?」
「そうだが?」
「僕は鹿沼さんが色んな男子に遊びに誘われてるのを知っているが、こうやって実際に男子と遊びに行ってるって噂は聞いたことが無いんだけど。僕が知らないだけで結構遊びに出かけてるの?」
「いいえ、羽切君とだけですよ」
「じゃあ、羽切と鹿沼さんはどういう関係なの?」
何だか尋問を受けているようだ。
「逆に聞くけど、何でそんなに俺達の関係を気にしてるんだ?」
「それはだな……」
亀野は何やら微妙な顔つきになった。
「僕は……羽切に興味があるからだ」
「「えっ、えええええっ!?」」
声を出して驚いたのは、鹿沼さんと佐切さん。
俺も予想外の告白を受けて、顔が引きつっている。
亀野の恋敵は鹿沼さんじゃなくて俺だっただと!?
「それで羽切……」
亀野は鹿沼さんの隣に座り、俺の顔を上から覗き込んできた。
俺に興味ある男の顔が、俺の顔にどんどん近づいて来る。
そして俺は首から下は全く動かない。
「やっ、やめろっ!」
俺は最悪な事態を回避するために顔を左右にフリフリする。
「羽切君~、電話来てるよ~」
遠くから聞こえる戸塚さんの声にピタリと亀野の動きが止まった。
助かった……。
まさか亀野に戸塚さんと同じ気質があったとは……。
遠くから戸塚さんが走ってきて、俺の体に座った。
「お母さんからだって~」
「え……母さんから?」
見ると確かにスマホの画面には母さんと表示されている。
親から電話が来ると何か悪い事でも起きたのかとドキドキするのは俺だけだろうか。
とにかく電話には出たいが、手が塞がってて出ることができない。
「出たいんだけど、誰か持ったままスピーカーにしてくれる?」
「じゃあ私が」
その役目は鹿沼さんがするみたいだ。
そして通話ボタンが押され、通話が始まった。
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『もしもし成ー? 元気にしてる?』
「俺は元気だけど、母さんは?」
『私も元気よー。ところで絵麻から聞いたわ』
「聞いたって何を?」
『景ちゃんと仲良くしてるみたいねー』
「ま、まあそこそこね。それより家に帰ってきたらしいじゃん」
『そうなのよー。景ちゃんが脱衣所で裸になっててびっくりしちゃったわー』
チラリと鹿沼さんを見ると、少し赤くなっていた。
その表情を見て少しイタズラしたくなってきた。
「へー鹿沼さんが裸になってたんだ。具体的に母さんはどこまで見たんだ?」
『気になる?』
「そりゃ、もちろん」
鹿沼さんは口をパクパクしながら何かを俺に訴えているが、何を言おうとしているかわからない。
というかわかろうとしていない。
『そうねー、まずお尻はプリプリで可愛いかったわ。胸も大きく育っていたけど、先っちょはピンと張りがあって小さめ。色も薄くて綺麗だったわ。そうね後は……毛の処理はしっかりしてたわ』
「……ッ!?」
声を出しかけた亀野の口を佐切さんと戸塚さんが塞いだ。
それにしてもさすが母さん。
多分一瞬しか見れていないだろうが、その一瞬で情報を掻き集める観察眼は恐ろしい。
俺は目の前で真っ赤な顔でわなわなと震えるし鹿沼さんを見ながら先程の説明を脳内で想像していた。
だから水着を着ているといえど、その内側が透けて見えているような感覚に陥って変な気持ちになる。
自分の体の説明をされた鹿沼さんは太ももを閉じて腕で胸を隠した。
戸塚さんはニヤニヤしていて、佐切さんは鹿沼さんをガン見。亀野は硬直している。
「そりゃ良い目の保養になったな」
『最初は景ちゃんってこと気づかなかったけど、気づいてたらもっとじっくり観察してたわ。惜しいことしたわね』
母さんならやりかねないな。
「で、電話してきた要件は何?」
『たまには息子の顔が見たくなったのよ。だからテレビ電話にしてくれる?』
「うーん」
テレビ電話自体は別にいいんだけど、砂に埋まってる俺を映したら俺以外に誰かいるってバレてしまう。
別にバレてもいいんだけど、友達を紹介しろとか言われたら厄介だしな……どうしよう。
『成は今海にいるんでしょう? それもお友達と一緒に』
「何でわかったんだよ」
『波の音が聞こえるわ。それ以外は勘だけど』
地獄耳に、正確すぎる勘。
昔からこの人の勘は当たりすぎて怖い。
『私も海見てみたいわ。だからビデオ・オン・プリーズ?」
「まったく、しょうがないな」
俺は鹿沼さんを見て首を縦に振った。すると鹿沼さんはビデオボタンをタップしてスマホこちらに向けた
どうやら母さんとの通話はまだまだ続きそうだ。
【祝】20万文字!!!!!。
人生初の執筆作業。人生初のネット投稿で20万文字書いているとは……。
そして100万文字以上書いてる人はバケモノだと思い知らされるこの頃。
それにしても海編が長いし内容が薄い気がする。反省反省。
もう海だけで10話だもんなぁ。
ちなみに、美女のうんちの話は『今昔物語集』や『宇治拾遺物語』に載っている平 貞文の話です。
少し内容は違うけど、まぁ大体こんな感じの話だったはず。
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