【56話】 夏休み⑯ (海)
7月は不定期投稿となっております。
人肌が温かくて気持ちがいい。
修学旅行の時と同様に布一枚隔てただけなので、胸の柔らかさがダイレクトに伝わってくる。
また、抱き心地も柔らかくていつまでも抱き締めていられそうだ。
暑い外気に晒され続けた鹿沼さんの体には汗が流れており、首筋の粒が俺と鹿沼さんの密着した肌で弾けてツルツルと潤滑剤のような働きをしている。
今回は前回の発作よりも乱れ方が激しく、殴られたり、引っ叩かれたり、引っ掻かれたりして身体中が痛い。
佐切さんは俺が無理矢理鹿沼さんを押さえ込もうとしている姿を見て何度も止めに入ろうとしていたが、今では目を丸くしてこちらを見ている。
何も知らない佐切さんから見れば、男の俺が力の弱い鹿沼さんを力づくで襲っているように見えたのかもしれない。
しかし途中から鹿沼さんの方から抱きついてきたのを見て眼を丸くするのも仕方がない。
そして今、鹿沼さんは俺に抱きついたまま大人しくしている。
「落ち着いた?」
「……うん」
俺の耳元で鹿沼さんが囁いた。
こうやって密着したのはこれで二度目。
前回と同様、不本意だが下半身が反応してしまっていた。
そして鹿沼さんは俺の太ももの付け根で跨っているので、大きくなったソレが鹿沼さんの体のどこかに当たっている。
約5分ほど鹿沼さんの体温と感触、匂いを堪能していると、鹿沼さんは腕を俺の首に回したまま顔だけ離した。
俺の目線には鹿沼さんの豊満な谷間。
そして少し上には鹿沼さんの紅潮した何とも言えない顔。
「また迷惑かけちゃったね」
「男としてはご褒美だけどな」
「変態」
「そっちからしてきた事だろ」
前回の時と同じような会話。
だけど鹿沼さんは離れようとせず、再度俺の体へと寄りかかった。
鹿沼さんの肩越しにはビーチマットに座る佐切さん。
彼女は俺と目が合うと、視線どこに向ければ良いのかわからないようにあちこちに動かした。
「あのさ、佐切さん」
「ひゃ、ひゃい!?」
俺に声をかけられて佐切さんは変な声で驚いた。
鹿沼さんの温かい肌を感じながら、俺は続ける。
「鹿沼さんはもう俺の女だし、亀野にチャンスは無いから安心していいよ」
俺がそう言うと、抱きついている鹿沼さんの体がピクっと小さく跳ねた。
もちろん俺の女になったわけじゃない。
しかし今この場で鹿沼さんと佐切さんを同時に安心させる方法はこれしかない。
それにこんだけ過激な場面を見られたのに、俺の女じゃないなんて言えば、また鹿沼さんが淫乱女だと思われるかもしれない。
表の顔は男子を忌避しているが、裏の顔は淫乱女。
まるであの時のようなことになるかもと鹿沼さんが思い続ければ、学校生活も苦痛になってしまう。
俺もちょっと考え過ぎかもしれないけど、親友も恋人も幼馴染もいた事がない俺の唯一の同類。
だから彼女のことを大切に感じるし、3年間楽しんでほしいと心から思う。
でもまあ、佐藤さんは他校だからいいものの、同じ学校の佐切さんに嘘をつき続けないといけないのは結構大変だ。
「いっくんが鹿沼さんを好きなのは確定じゃないけど、今の言葉聞いて安心した。ありがとう」
「それと、さっきの鹿沼さんの行動なんだけど……」
「それも気になるね。もしかして鹿沼さんはてんかん持ちなの?」
「いや、実は俺達色々なプレイを試してて……」
「プ、プレイ!?」
「そう。さっきのは彼氏と上手くいっていない鹿沼さんが彼氏以外の男子に恋愛相談したんだけど逆に襲われちゃって、必死に抵抗したけど結局快楽と好奇心に負けてしまってという感じのアレで……」
自分でも何を言ってるか分からん。
全然状況と違うし、支離滅裂。
自分でもよくこんな嘘をスラスラと噛まずに言えたなと感心してしまうくらい頭のおかしい内容だ。
しかし佐切さんは何故か首を何度も縦に振っている。
「つまり、NTRみたいなシチュエーションね!?」
NTRって何だ? 初めて聞いたぞ。
よく分からないけど、納得してくれたらしいので良しとしよう。
「ま、まあそんな感じ」
「普通のプレイに飽き足らず、そうやっていろんなシチュエーションを試すなんて……大人だなぁ」
佐切さんは眼を輝かせながらこちらを見た。
大人じゃなくて、ド変態の間違いじゃないか?
今日初めて佐切さんと関わってわかったのだが、彼女は下ネタなどの恥ずかしいこともズバズバ言えるタイプだ。
そういうタイプは経験上スポーツをやっている女子に多い気がする。
彼女は人見知りが激しいということを除けば、戸塚さんタイプ。
しかし見た目は小柄で、ウブな感じが可愛い女の子。
「ねえ、羽切君」
しばらく佐切さんの羨望の眼差しを受けていると、鹿沼さんが耳元で囁いた。
「どうした?」
「お母さんがね、男は猿だけど同時にオオカミにもなるって言ってたの」
「……オオカミ?」
「だからね、私を押し倒して?」
男はオオカミ→だから押し倒して欲しい。
この押し倒して欲しいの意味はもちろんただ力で地面に倒すというだけの意味ではないだろう。
もちろん俺が鹿沼さんに対して今ここで理性を無くしたオオカミになることはないが、こうやって相手から許可を貰うと理性とかをかなぐり捨てて目の前にいる女子をメチャクチャにしてやりたいと思うのは俺が異常だからか?
それともオスとしての血が騒いでいるのだろうか。
とにかく、公共の場でそんな事は出来ない。
だけど鹿沼さんの要求だし、満足させる必要がある。
「仕方ないな」
「えっ?」
鹿沼さんは俺が拒否すると思ったのか、耳元で驚いた。
俺は鹿沼さんの背中を支えながら、ビーチマットに向けて前向きに倒れた。
もちろん鹿沼さんの背中が強打しないようにゆっくりだ。
「ひゃっ!?」
驚いた声を発した鹿沼さんは俺の首に回している腕を緩めた。
ビーチマットの上で仰向けに横たわる鹿沼さん。そしてその上で見下ろす俺。
鹿沼さんの腕は今だに俺の首に回っていて、跨っていた状態からそのまま前に倒したので、鹿沼さんのそれぞれの脚が俺の太ももに巻き付いている。
これはまるで俺が押し倒したかのような姿勢。
鹿沼さんの要求通り。
隔てているのはたった一枚の水着。
もしこれが無く、ベッドの上だったらもうエッチをする時の姿勢でしかない。
俺の影の下で赤くなっている鹿沼さんと至近距離で見つめ合う。
鹿沼さんは緊張しているように震えた瞳で俺の左右の目を交互にみていて、何かを待っているのような雰囲気を出している。
しかしこれ以上過激な事が出来るはずもなく、俺から口を開いた。
「これで満足?」
「……不満」
初めての回答、不満。
何か間違った事でもしただろうか。それとも鹿沼さんが期待していた事と違ったのか。
何にせよ、鹿沼さんを満足させられなかった。
鹿沼さんは唇を尖らせて不満そうにしている。
「何が不満だった?」
「羽切君は今の状況でも権利使わないんだ?」
「あ、あー」
現状権利と聞いて思い当たるのはキスの権利だけ。
俺がしたい時に出来るというゴールドチケット。
どうやらそれを消費しなかった事に不満を持っているらしい。
もしかすると俺にその権利を与えた事を後悔していて、早く使わせて楽になりたかったのかもしれない。
「美味しいものは後で食べるタイプなんだ」
「お、美味しいもの!?」
「そう。極上の唇をね」
「ば、ばかぁ」
鹿沼さんは俺の首から腕を外し、自分の口元を掌を俺に向けて隠す動作をした。
どこかの洋楽映画の臭いセリフを言ってキモがられようとしたのだが、逆効果だったらしい。
俺は視線すら合わせなくなった鹿沼さんから体を起こし、普通に座る。
1分ほどすると鹿沼さんも起き上がって座った。
ビーチマットの上に俺と鹿沼さんと佐切さんが久々に全員座った状態で対面した。
やっと正常に戻ったみたいだ。
しかし女子二人はまだ落ち着きがない様子だったので、落ち着くまで待って再度話し始めた。
俺達は話し合いの中で様々な約束を交わした。
まずは鹿沼さんと俺の関係を誰にも話さない事。亀野に関しても学級委員長という立場やら何やらと説いて、とにかく情報が広まらないように徹底する事。
そして2学期が始まったら、俺は亀野が好きな女子、気になっている女子を模索する事。
正直こちらに負担はほとんど無い。
むしろ鹿沼さんと俺との嘘の関係を拡散しないことを約束してくれるだけありがたいと思った。
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「お待たせ〜って、あっれ〜?」
亀野と腕を組んで帰ってきた戸塚さんは何か違和感に気付いたみたいだ。
亀野は戸塚さんの胸が腕に当たっているせいか、ちょっと恥ずかしげにしている。
「ビーチマットがシワだらけで砂も乗ってるし、パラソルの位置もちょっと変わってる。そして何より恵麻と景の顔が赤いって事は〜?」
「って事は〜?」
亀野はヘトヘト声でオウム返しした。
「二人と羽切君はさぞかし激しい運動をしたんだね〜」
「激しい運動?」
亀野はパチクリと瞬きをした。
確かに激しい運動はした。
鹿沼さんが発作を起こし、それを止めるための激しい攻防。
いくら男子と女子の力の差があるとはいえ、暴れる女子を完全に抑え込むのは簡単じゃ無い。
特に腕の3倍以上の筋肉があると言われる脚。そして高校生になった肢体全体の力。
それらを抑え込むのにはまるでレスリングのようにこちらも全身を使わないと無理だ。
そのため激しく疲れたし、所々の場所が痛い。
「まあ、確かに激しい運動はしたな」
「羽切君は意外と女子に積極的だからね〜」
「その所為で疲れたし、怪我もした」
「景は抵抗しないだろうから、その傷は恵麻の抵抗にあったんだね〜」
ん? どういう意味?
抵抗にあったのはむしろ鹿沼さんの方なんだが。
何だかよくない誤解があるような気がして、考える。
戸塚さんが言いそうな激しい運動の意味。
それはつまり下ネタだ。
「恵麻も大人にされちゃったんだね〜」
「「ええっ!?」」
驚きの声をあげたのは、佐切さんと亀野。
「いっくん!」
先に声を出したのは佐切さん。
佐切さんはパラソルの外に出て、亀野の前まで走った。
「違うの! 私は何もされてないの!」
「で、でも戸塚さんが大人の階段を……」
亀野はそう言いながら俺を見た。
その瞳には怒り50%、侮蔑30%、わからない感情20%。
不良でも何でもない生徒のそういう眼差しを受けたのは初めてだ。
「私は羽切君と鹿沼さんのその......模擬演習を見てただけで!」
「模擬……演習?」
「そうなの! 鹿沼さんが羽切君に跨って腰を振ったり、そのまま羽切君が押し倒して、正常位になったりしたのを見てただけなの!」
なんて事言うんだ。
「私はいっくんだけのものだから!」
そう言って亀野に抱きつく佐切さん。
俺はその姿を見て、先程の事を弁明することが出来なかった。
【祝】ユニーク2000人突破!
7月は不定期投稿となっております。
海編が長すぎるような、そうでもないような。