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【50話】 夏休み⑩ (海)


 夏休みが始まって10日が経った。

 俺の目の前には地平線まで広がる青い海。

 パラソルの陰にいるので太陽の光は当たらないが、ビーチマットの下の砂から込み上げてくる熱がお尻と太ももを蒸している。



 やはり夏休みという事もあって人が多い。

 大学生らしき集団がビーチバレーで遊んでいたり、同い年くらいの男女が海の水を掛け合ってキャッキャ言っている。

 もちろん学生ばかりではなく、小さな子供が親と一緒に浜辺の砂で山を作って遊んだりもしている。



 そんな青春や親子の1ページを作っている人たちを見て、俺は恥ずかしくなってきた。

 何故なら俺は今パラソルの下で独りぼっちなのだ。

 


 今日はかねてより予定していた戸塚さんと鹿沼さんの三人で海に行く日。

 待ち合わせ場所は俺達の家で三人で一緒に行こうという事になっていたのだが、鹿沼さん達が今日も夏期講習の日だったらしく現地集合となった。



 夏期講習の一コマは50分。

 そして海までは徒歩で少なくとも30分はかかる。

 俺はもちろん時間がかかるのを見越して現地入りしたのだが、それにしても遅すぎる。

 俺の見立てでは俺が現地入りしてから10分ほどで来ると思っていたのだが、もう30分以上来ていない。



「あれ? 羽切じゃない?」



 そうやってボケッと景色を眺めていたら、声をかけられた。

 声のした方に視線を移すと、二人組の男女が俺を見ていた。

 男の方は見覚えがあるが、女の方は知らない。



「よお、学級委員長さん」

「学校外では苗字か名前で呼んでくれよ」

「よお、亀野」



 亀野樹。

 クラスメイトであり1年の学級委員長。

 学級委員長という堅苦しい肩書を持ちながら、外では青春しているみたいだ。



 俺は亀野の隣の女子をチラリと見る。

 亀野の彼女らしき人物はどこか気が弱そうでもじもじしている。

 そしてゆっくりと亀野の背中に隠れた。

 

 

「亀野は彼女連れか」

「彼女じゃなくて幼馴染だよ」

「幼馴染と海に来るなんてなんか羨ましいな」

「そうか?」

「ああ」

 

 

 俺には幼馴染と呼べる存在がいないし、単純に幼馴染と高校生になっても一緒にいられるなんてちょっと羨ましい。

 なんか漫画とか恋愛小説に出てきそうな関係を想像してしまう。

 

 

「羽切は一人か?」

「いくら何でも一人で海に来る悲しいやつではない」

「誰か待ってるって感じ?」

「そんな感じ。もうすぐ来ると思うけど」

「そうかそうか、ここで会ったのも何かの縁だ。少しお邪魔してもよろしいかね?」

「どうぞ」



 断りようがない。

 今回は鹿沼さんと二人きりではなく、戸塚さんもいるので途中で二人が来ても特に問題はなさそうだ。



「お邪魔しまーす」



 亀野とその幼馴染は俺のパラソルに入って、ビーチマットに座った。

 幼馴染の方は俺とあまり目を合わせてこない。



「ごめんな、こいつ昔からめっちゃ人見知りで」

「ああ……別に大丈夫だけど」

「普段はバリバリのバスケ部で活発なんだけどな」

「へー」



 初対面の人に人見知りをしてしまう人は少なくない。



「ほら羽切に自己紹介しなよ」

「いや、無理しなくてもいいよ」

「いーや、自己紹介は自分でするってこないだ決めたんだ」



 亀野がそう言うと、幼馴染は自己紹介を始めた。



「佐切恵麻です。その……」

「エマ!?」



 妹の名前と全く同じで俺が驚きに声をあげると、佐切さんはビクッと肩を跳ねらせた。



「ご、ごめん。妹と同じ名前でビックリしちゃって」

「あ、え、そうなんですか」

「佐切さんはどこの学校なの?」

「えっと……羽切君と同じ学校ですよ」

「そうだったんだ」



 しばらく話してると、少し人見知りが薄れてきたのか目を見て話してくれるようになった。

 どうやら同じ学校の他クラス。

 俺は部活動に入っていないので他クラスの人と関わることが無く、これが初めてだ。

 そして亀野が俺が入学初日に鹿沼さんを見て椅子から転げ落ちた話をすると、声を出して笑った。



「鹿沼さん可愛いもんね、仕方ないよ」

「そんな理由で転げ落ちたわけじゃないからね?」

「またまた~、女子の私から見ても鹿沼さん可愛いくてスタイルも良いのに、男子から見たらもう毎晩のオカズでしょ?」

「こらっ恵麻。下品だぞ」

「あ、口が滑った」



 佐切さんは自分の右手で口をふさいだ。

 どうやら下ネタを言うほど俺に慣れたみたいだ。

 しかし下ネタを言うような雰囲気の子じゃないと思っていたので意外だった。



「それで、羽切は誰を待ってるんだ?」

「それは――」

「お待たせ羽切君……と学級委員長さん?」



 友達と言おうとした瞬間、後ろから声がした。

 振り向くとそこにいたのは鹿沼さん。

 俺が選んだビキニタイプの水着を身に着けていた。

 


 左右に蝶結びのついた黄色のアンダーと地色がネイビーの小さな白の花が咲いた柄のトップス。

 パラソルの日陰から太陽の日差しに晒されている水着姿の鹿沼さんを見ると、天使のように綺麗で可愛い。



「え? え? え? 鹿沼さん!?」

「どどどどどどういうこと!?」



 亀野と佐切さんはひどく動揺している。

 鹿沼さんもまた困惑している。

 戸塚さんと一緒に来ると思っていたのに何故か鹿沼さん一人。

 速足で走ってきたみたいで少し息が切れている。



「とりあえず、座ったら?」



 一度全員で落ち着いて話をしよう。

 じゃないとまた変な誤解を招く恐れがある。



 俺はビーチマットの隣をトントンと叩いて座るよう促した。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 小さなビーチマットに4人。

 俺と鹿沼さんは隣同士で、前には亀野と佐切さん。

 亀野と佐切さんの目は鹿沼さんに釘付けになっている。



「あの……そんなに見られると恥ずかしいんですけど」



 鹿沼さんがそう言うと、現実に引き戻された佐切さんは両手で亀野の目をバッと隠す。

 その勢いのまま亀野は後ろに倒れ、佐切さんは倒れた亀野に跨る。



「な、何!?」

「いっくん、こんな姿の鹿沼さん見たら目が焼けちゃうよ!」

「痛たたたっ、痛いよ!」



 人のパラソルの中でイチャイチャしやがって。

 そんな事を思っていると、俺の手に温かい何かが上から包まれた。

 見ると、鹿沼さんの手が俺の手の上に乗っていた。

 その手はブルブルと細かく震えている。

 

 

 亀野に見つめられて軽い発作が起きてしまったみたいだ。

 海に来た以上、そういう目で見られるのは仕方がない。

 発作は起きてしまうかもしれないが、こうやって少しづつ慣れていけばいつかは発作が起きなくなるかもしれない。

 そう考えると、今後の学校の水泳の授業もしっかりと出た方がいいかもしれない。

 

 

 そこまで考えて視線を上げると鹿沼さんと目が合った。

 その瞳には不安の色が見える。

 

 

「ところで、どうして学級委員長さんと佐切さんがいるの?」

「みんなが浜辺で楽しんでるのに30分以上男一人パラソルでボケッとしてた俺を哀れに思って話しかけてきたんだ」

「それはごめん」

「ところで戸塚さんは?」

「美香はジュース買ってくるってさ」

「3人分買ってくるって?」

「うん」

「それは良かった。めっちゃ喉乾いてるし」



 俺はまた視線を二人に戻す。

 未だにイチャイチャしていて、もはやどう声をかければいいかわからない。

 幼馴染の男女ってこんな感じなのか。

 やっぱりちょっと羨ましいと感じてしまう。



「ところで学級委員長さんと佐切さんは付き合ってるの?」

「いいや、幼馴染だってさ」

「へー」

「てか鹿沼さん、学級委員長の名前覚えてないな?」

「そ、そんな訳ないじゃん。同じクラスメイトだよ?」

「ふーん、じゃあ言ってみてよ」



 鹿沼さんは苦笑いをして「えーっと」と声を漏らした。

 そして思い出そうと必死に考えている様子だったが、やっぱり出てこなかったらしい。



「オーイ、学級委員長さん。鹿沼さんお前の名前覚えてないってさ」

「嘘でしょ鹿沼さん!? 同じクラスメイトですよ!?」




 亀野は佐切さんの背中を左手で支えながら、グイッと上半身を起こした。

 水着姿の佐切さんは亀野の下半身の部分に跨っていて、亀野が上半身を起こしたことでエロい体勢になっている。

 佐切さんは起き上がった亀野の首周りに腕を回して姿勢を維持している。



 仲が良い幼馴染ってやっぱいいな。

 恋心とか無くてもこういう事が出来るんだから。



「残念だったねいっくん」



 鹿沼さんが亀野の名前を憶えていない事を聞いて、佐切さんは何故か嬉しそうだ。



「くっそ~」

「ところで鹿沼さんと羽切君は付き合ってるの?」



 当然そう思われても仕方がない。

 海に二人きりで来ていると思われているんだから。

 

 

「いいや」

「でも二人っきりで海に来るなんて相当親密なんだね」

「後で戸塚さんが来るけどね」

「美香も!?」



 佐切さんが異常に驚いた事に俺は違和感を感じた。



「そんなに驚くこと?」

「美香とは中学が一緒だから知ってるんだけど、すごく躾に厳しい家だから中学時代あまり遊べなかったんだよね」

「へー」



 それは初耳だ。

 いつも自由奔放な感じだったから、てっきり遊びまくってるのかと思ってた。

 


「桐谷さんも同じ中学で、美香と特に仲良しだった」

「ほ、ほーん」



 中学時代からそういう関係だったのか。

 


「私が何だって~?」

「ひゃっ!?」



 隣に座る鹿沼さんの肩がビクンと跳ね上がった。

 見ると、戸塚さんが鹿沼さんの頬に後ろから缶ジュースを引っ付けていた。



「ちょっと美香ー?」



 鹿沼さんは膨れっ面で振り返った。



「あっれ~? 亀野君と恵麻じゃん~?」

「やっほ~美香」

「良かった。戸塚さんは俺の名前覚えてくれてた……」



 ひらひらと手を振る佐切さんと胸を撫でおろす亀野。



「ところでさ~」



 戸塚さんはニヤニヤ顔に変化した。



「こんな場所で騎乗位してると、警備員さんに引っ張り出されるよ~?」

「えっ?」



 戸塚さんに言われて二人は少しの間見つめ合った。

 そして佐切さんは恥ずかしそうな表情を浮かべながら亀野の体から降りた。



【祝】ブックマーク二桁

【祝】5000PV


ブクマ二桁目標にやってたので、目標達成できて嬉しい!


ブ11 評3 46-24

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