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【49話】 夏休み⑨ (遊園地)

二日ぶりで申し訳ない。



今回は説明文が多いので読みにくいかも。

「それじゃ、お兄ちゃんバイバイ」

「じゃあな」

「鹿沼さんもまたね」

「絵麻ちゃんまた来てね」



 朝の7時になり、俺は絵麻を駅まで見送った。

 3年ぶりに再会して、たった二日しか一緒にいなかったのに何だか寂しい。

 5月後に俺はイギリスに転校するならまた長い時間会えなくなってしまう。

 絵麻はちょっと涙ぐんでいたが、必死に隠していた。



 俺達は絵麻を見送って、家までの帰路を歩き出す。

 それにしても昨日は大変だった。

 人生で一番死と向き合った1日だったのだから。



 しかし今日目が覚めて感じたのは、生きていることへの喜び。

 死ぬかもという恐怖があったからこそ感じられる感情が心地いい。

 セミの鳴き声。肌で感じる太陽の光、風に乗ってくる匂い。

 五感すべてを使って、命を感じている。



 キスの件については、昨日の夜に考えた。

 あれは恐らく、死を前にした生存本能の一種だったのだと思う。

 よく言われることだが、弱肉強食の世界で捕食される側の生物は常に命を脅かされていて、そういう生物は子供を大量に産む傾向にある。



 つまり昨日の鹿沼さんの行為は、死の脅威にさらされて生物的な本能が出たという事で説明がつく。

 もちろんキスをするだけでは赤ちゃんはできないけれど、その前段階としての行為であるのは間違いない。



 人間も生物である以上、本能というのは存在するだろう。

 鹿沼さんは本能的に自分の種を残そうとしたに違いない。

 


 もし本当にあそこでキスをしていたらどうなっていただろうか。

 その先は未知の世界すぎて、俺には想像できない。

 

 

 チラリと横を歩く鹿沼さんを見てみる。

 雰囲気も態度もいつもと変りないが、今は少し眠そうだ。

 家のインターホンを何度も鳴らしたのに中々起きなかったので、絵麻と無断で家に入り、ベッドで寝ている鹿沼さんを叩き起こしたので仕方がない。



「何見てるの?」



 大きなあくびをした鹿沼さんは、横目で俺を見た。

 


「別に」

「変態」

「こんな朝から変態呼ばわりかよ」



 見ただけで変態呼ばわりされるとは、中々に心外だ。



「私、帰ったらもう少し寝ようかな」

「生活リズム終わるぞ」

「じゃあさ、10時頃に起こしに来てよ」

「変態に起こされるよりも目覚まし時計設定しなよ」

「えー」



 鹿沼さんは何やら不満そうな表情になった。

 そんな表情を見ていると、俺もあくびがでた。

 俺も帰ったら少し寝よう。

 どうせ今日は何も予定は無いし、久々に一人でゆったりと過ごそうと思った。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 家に帰るとすぐにシャワーを浴びた。

 シャワーを浴び終えて、パンツ一丁でリビングに行く。

 いくら妹とはいえ、絵麻がいる時はこういう事が出来なかった。

 俺はソファーに腰掛けて、テレビの電源をオンにする。



 朝のニュース番組の左上に表示された時刻は7時30分。

 何か朝ごはんでも食べようかと思ったけど、何の準備もしていない上にシャワー後で体が面倒くさがっている。



 今日は朝ごはんを抜いて、昼ご飯を多めに食べればいいか。

 そう思っていたら、ニュース番組に昨日の遊園地が映った。

 

 

『昨日午後19時10分ごろ、大人気ジェットコースター「クレイジーロックドロップ」が高さ80m付近で緊急停止しました』



 上空からドローンで撮影された停止したジェットコースターの映像に切り替わる。

 俺はあの時地上ばかり気にしていて、ドローンの存在に気付けなかったみたいだ。



『なお、乗客34人は無事救助されました』



 救助隊が登って行く姿が映し出される。

 鹿沼さんから要求があった時間帯はこの辺りだろう。

 流石にドローン映像で顔を近づけてるかどうかは見てとれない。

 救助隊が頂点に辿り着いた。

 ここではもう鹿沼さんの呼吸がわかるほどに接近している時間帯だ。

 


 息が吹きかかり、触れても無いのに唇の温度が少し感じられるほどの近い距離。

 昨日のことを考えていたら、下半身が反応し始めた。

 今日はどうせ家に一人。

 抑える必要もない。



 俺は大きく突起したパンツ姿でソファーに横たわり、目を瞑る。

 鹿沼さんは昨日のことをどう思っているのだろうか。

 さっきまで一緒にいたが、様子はいつもと変わらなかった。

 もしかして気にしてるのは俺だけなのか?

 鹿沼さんは本能で俺は意識。

 その違いがこうやって後味に違いを出すこともあるのだろうか。



 わからん。

 いくら考えてもその答えは出てこなさそうだ。

 結局は頭で考えるよりも実際に経験する事でしか答えを得られない事はある。

 同時に疑問も出てくるだろうが、それもまた新たな経験を重ねる事で理解できる事もある。

 何にせよ、今気にしても仕方がない事だ。



 俺は思考を停止した。

 すると徐々に意識薄れていき、ついには完全に途切れた。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 窓から差し込む強い光で目を覚ますと、私は自分の寝室にいた。

 時計の時刻は10時30分。

 どうやら羽切君は起こしに来てくれなかったみたいだ。

 


 昨日の夜はなかなか寝付けなかった。

 それは電車の中で寝てしまったというのもあるが、それ以上にあの出来事が原因だ。

 私はジェットコースターのトラブル中に、羽切君にキスを要求してしまった。

 


 羽切君はそれに応じて顔を近づけてきた。

 私も自然と顔を近づけてキスを――。

 そこまで考えると心臓が高鳴り、体が熱くなってきた。

 昨日の夜もずっとこんな感じで寝れなかったのだ。



 私はこんなにも感情に揺さぶられてるのに、今日の朝に見た羽切君の様子はいつもと変わっていなかった。

 そんな彼を見て私だけオロオロするのも恥ずかしかったので必死に隠した。

 


 羽切君は昨日のこと、どう思ってるんだろう。

 私が要求してそれに応じただけだったのだろうか。

 それでもキス未遂まで行けば少しは動揺すると思うんだけど……。



 羽切君は、私に興味が無いのかなぁ。



 私はそんな不安を抱えながらベッドから降りて、脱衣所に向かった。

 パジャマを脱いで風呂場に入り、シャワーを浴びる。

 そしてシャワーを浴び終えて再度リビングに向かうと、お腹が鳴る。



 もうすぐ11時になる。

 今日は羽切君と何かする予定はないけど、お母さんの助言通り一緒にいる時間をできるだけ確保したほうがいいだろう。

 お昼ご飯を一緒に食べないか直接聞いてみることにしよう。

 


 私は身なりを整えた後、玄関を出て羽切君家の扉の前まで歩き、そしてインターホンを鳴らす。

 しかし出てこない。

 


 私はポケットから財布を取り出し、小銭入れから一本の鍵を取り出す。

 これは絵麻ちゃんがくれた羽切君家の鍵。

 絵麻ちゃんがどこからこの鍵を手に入れたのかはわからないけど、羽切君もうちの鍵を持ってるので、これでおあいこだ。



 羽切君家の玄関のカギを開けて扉を開く。

 電気はついていて、奥のリビングからはテレビの音が聞こえる。

 間違いなく、羽切君は家にいる。

 という事は羽切君は私がインターホンを鳴らしたのを無視したことになる。



 無視されたのに勝手に家に入っていいのだろうか。

 私は靴を脱いで、恐る恐るリビングの扉の隙間から覗いてみた。

 リビングに人影はない。

 もしかして外出しているのだろうか。



 私はリビングにお邪魔する。

 するとキッチンの死角で見えなかったソファーに目が留まった。

 


「ええっ!?」



 思わず声が出てしまい、口を両手で抑える。

 ソファーの上に寝ていたのはパンツ一丁の羽切君だった。

 仰向けに寝ていて、パンツが大きく尖っている。



 そんな羽切君を見て、私は迷った。

 見なかったことにして帰るか、ここに残るか。

 あんだけ突起したブツを前にして、私はどういう顔で接すればいいかわからないからだ。

 もう三回見たけれど、三回とも誰かが傍にいた。

 一回目は美香で、二回目はお母さん。そして三回目は絵麻ちゃん。

 誰かがいたから平常心を保てたというのはある。



 しかし今は家の中で二人きりだ。

 


 深く悩んだ末に、私は残ることを選んだ。

 思い返せばこの二日間、私はやられてばっかりだった。

 絵麻ちゃんがいるから復讐はしなかったけれど、そろそろ私が攻める番ではないだろうか。

 そして突起したパンツ一丁で寝ている羽切君が目の前にいる。

 これは復讐の絶好のチャンスだ。



 脳裏に浮かぶ羽切君が恥ずかしそうに下半身を隠す姿。

 その妄想だけでニヤニヤが止まらなくなってきた。

 私は羽切君を起こすため中腰の姿勢になって、彼の顔を上から覗き込む形で声をかけた。



「羽切くぅーん? もう昼ですよー?」

「うぅん……」

「おーい」



 しつこく呼びかけると、薄っすらと目が開いた。



「おはよう」

「……」



 私が声をかけても反応がイマイチだ。

 目も半開きで私を見ているが、意識がハッキリとしているかはだいぶ怪しい。



 しばらく見ていると一度開いた瞼が徐々に下がって行ったので、私はソファーの空いた小さなスペースに座って真上からさっきよりもかなり近い距離で覗き込む。



 起きたらいるはずのない私がこんなに近くで見つめていることで驚いた顔と起き上がったら生理反応中のパンツ一丁状態でおどける姿を二段階で堪能しよう。



 羽切君の瞼が完全に閉じる直前。

 羽切君を再度起こすために口を開こうとした瞬間。



「うわあっ!?」



 羽切君が勢いよく上半身を起こした。

 私は近距離で突然羽切君の顔面が急接近したので回避する事ができなかった。

 ゴツンという鈍い音が部屋に響く。

 その音の源はオデコでも顎でもない。

 


「痛ッ!?」

 


 私は咄嗟に手で口を押さえた。

 主な痛みは口と鼻。

 お互いの鼻と頬がぶつかり、唇と唇がぶつかった。

 勢いよくぶつかったので、唇が奥にある歯と、羽切君の唇に挟まって猛烈に痛い。



 羽切君も両手で口元を押さえていて、痛そうにしている。

 そして涙目でこちらを見た。



「鹿沼さん? 何でここに!?」



 驚きと痛みが混じったような表情。

 


「そ、それは……」



 私は色々説明しようとするが、混乱して中々頭が整理できない。

 痛みもそうだが、それよりも重大なものをたった今失ったのだ。



 私の初キス……。

 まさかこんなに痛いものになるとは思っていなかった。



 それに最悪だ。

 こんなキスをしても、羽切君とそれ以上の何の発展も起きそうにない。

 


 私の人生一度きりしかない初キスと羽切君を振り向かせるために必要なキスという選択肢を同時に失い、私の頭は真っ白になった。


二日ぶりで申し訳ない。



今回は説明文が多いので読みにくかったかも。



ブ10 5000PV

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