【42話】 夏休み② (夏期講習)
「景と羽切君はお隣さんだったんだ~?」
戸塚さんと俺は今、鹿沼さんの家にいる。
鹿沼さんと戸塚さんはソファーに座り、俺は何故か地面に正座。
そして頭上の鹿沼さんからはゴミを見るような目が突き刺さっている。
「それで、羽切君が美香を無理矢理押し倒したって事で正しい?」
「いいえ、正しくありません」
「汗臭いかもだからってやんわり拒否したんだけど、羽切君は気にしないって続きを要求してきたんだよね~」
「ちょっ、何言ってんの!?」
とんでもない拡大解釈をされた。
チラリと戸塚さんを見ると、ニヤニヤと楽しんでいるのが伺えた。
「最低」
対して鹿沼さんは怒り心頭の模様。
しばらく沈黙していると、俺の右肩に鹿沼さんの左足がドスンと乗った。
ここは鹿沼さんハウスで女子2の男子1という不利な状況。
そして鹿沼さんは俺にどういうことなのか説明しろと言っているような目をしている。
しかし俺の視線は鹿沼さんの目ではなく、ソファーの上にあった。
鹿沼さんが左足を俺の肩に乗せたことによって、パンツが見えているのだ。
夏休みなのにも関わらず、何故か制服姿の鹿沼さんのスカートの中が丸見え。
ここは作戦変更だ。
なるべく話を伸ばして長い時間パンツを拝見させていただくとしよう。
理不尽に虐げられている対価として。
「戸塚さんがですね、俺の部屋にあるエロ本を見つけたんです」
「え、エロ本!?」
鹿沼さんは少し驚いた。
しかし俺は嘘を続ける。
「そして戸塚さんはそのエロ本を読んで興奮してしまったらしくて、俺に襲い掛かってきたんです」
「美香~?」
鹿沼さんは隣に座る戸塚さんを睨んだ。
「ち、違うって~! 私がベッドの上で四つん這いで本棚を漁ってたら、羽切君がいきなりベッドに乗ってきて私の胸をを――」
「ちょっと待った! さすがに正直に話しませんか!?」
さすがに嘘が過激になりすぎていたので、制止する。
そして何があったかを正直に鹿沼さんに話した。
「へー、じゃあその封筒にエッチなものが入ってるんだ?」
「入ってませんって」
「あの焦り方と隠し方はエッチなものが入ってると思うよ~?」
「ふーん、じゃあその中身を見せてくれたら今日の事は見なかったことにしてあげる」
どういう事だってばよ……。
あれは鹿沼さん母から送られてきた脅迫文と写真。
脅迫文は見られても問題ないが、写真は鹿沼さんの尊厳のためにも阻止しなければ……。
「多分、見ない方がいいかと……」
「羽切君は動画でも漫画でもなく、写真派なんだ~? さぞかしすんごい写真が入ってるんだね、楽しみかも~」
「そんなんじゃないですよマジで……」
「じゃあ、見ても問題ないね?」
鹿沼さんも戸塚さんと同様ニヤニヤとし始めていた。
戸塚さんはTシャツの中に手を入れて何やらゴソゴソし始める。
何をしているのかと見ていると、Tシャツの中から赤封筒を取り出した。
「何で持ってんの!?」
「羽切君のセキュリティー甘々すぎて、簡単だったよ~?」
「美香、貸して」
戸塚さんは鹿沼さんにその赤封筒を手渡した。
こうなっては仕方がない。
俺は鹿沼さんのパンツと表情を交互に見ながら楽しむことにした。
鹿沼さんは封筒を開けて中を覗き見る。
「うーん、これかな?」
そしてその中から一枚の何かを取り出す。
そしてそれを見た瞬間、鹿沼さんの太ももがきゅっと締まった。
「ナニコレ!?」
鹿沼さんは真っ赤な顔になり、あわわわと慌てだす。
「私にも見せて~?」
「だ、ダメだよっ!」
「何でさ~?」
戸塚さんは不満そうに口を尖らせた。
「だだだだって!」
「その慌てよう……景の全裸でも映ってるの~?」
「そうじゃないけど……」
「だったら見てもいい~?」
鹿沼さんはコクリと頷き、戸塚さんがその写真を見た。
「うわ、こりゃすごいね~」
「ちょっと羽切君?」
俺は絞られたパンツを見るのをやめて、チラリと鹿沼さんを見上げる。
鹿沼さんは胸を腕で隠しながら、俺を睨んでいた。
「これはどういう事!?」
「それは……その……」
「羽切君は景の寝込みを襲ったんだね~」
「別に襲ったわけじゃないです」
「もしかするとパジャマと下着をまくり上げて、景の胸を観察してたのかもね~?」
「ちょっとストップ!」
さっきから戸塚さんの発言が過激すぎてついていけない。
「俺はそんな変態じゃないからな?」
「ふーん、さっきから景のパンツ覗き見てるのに~?」
「へっ!?」
鹿沼さんはスカートを押さえて中をバッと隠した。
「変態」
その後、鹿沼さんは同じ封筒に入っている鹿沼さん母の便箋を読んで納得してくれた。
俺は危なく犯罪者になりそうだったが、何とか難を逃れた。
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「それで、鹿沼さんは何で制服なわけ?」
「午後に学校に用事があるから」
「用事?」
「夏期講習があるの」
夏期講習?
そう言えば先生が終業式の時に言ってた気がする。
「でもなんで夏期講習なんて行くの?」
「何でって、夏休みが終わったらすぐに定期テストあるからね」
「なるほど……じゃあ戸塚さんは?」
「私も夏期講習だよ~」
「でも私服じゃん」
「服装は自由だよ~」
戸塚さんと鹿沼さんは午後に夏期講習のために学校に行くらしい。
高校1年生だとしても、その内申は大学進学に大きな影響を与える。
それを理解してテストに向けて夏期講習で復習をするというわけだ。
思っている以上に二人はしっかり者なのだと驚いた。
「羽切君は行かないの?」
「だって申し込んでないし」
「どうせ暇でしょ? 一緒に行かない?」
「行っても授業受けれないし」
「高校1年生で夏期講習申し込む人少ないと思うし、もしかすると受けれるかもよ?」
「うーん」
鹿沼さんはどうしても俺を学校に連れていきたいらしい。
それが何故なのかはわからないが。
「ていうか、羽切君の学力ってどうなの~?」
戸塚さんは何故か俺ではなく、鹿沼さんの方向を向いて言っている。
「それが意外と頭いいんだよね」
「意外は余計だ」
「へ~」
俺は勉強が得意な方だ。
毎日少しだが授業の復習をするという習慣がついているというのも大きい。
転校が多いと、学校によって内容の進み具合が違うので突然ついていけなくなる可能性があるので、勉強する習慣がついたというわけだ。
「景と羽切君は出身中学が同じなんだね~」
俺の学力を鹿沼さんが知っているという事は、当然そうなる。
別に今更戸塚さんに隠す必要もない。
「ま、そういうことだな」
「二人こんなに仲いいのに、中学の時付き合ったりしなかったの~?」
「付き合うどころか、話すこともほとんどしなかったけどな」
「えー? 変なの~」
これに関しては鹿沼さんとこの前話した。
お互いもっと早く話せる関係になっていたらという後悔はあるみたいだ。
まあ、後悔したって仕方がない事だが。
「それより、夏期講習は何時から?」
「13時から」
「じゃあそろそろ出たほうがいいんじゃない?」
時刻は12時34分。
学校まで歩いて20分なので、結構ギリギリだ。
「そうだね、そろそろ行こっか」
「おっけ~」
「ほら、羽切君も行くよ」
鹿沼さんはどうしても俺を連れていきたいらしい。
「しょうがないな」
俺は立ち上がって、鹿沼さん達と玄関に向かった。
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学校に着いたはいいが、やはり俺は夏期講習を受けれなかった。
まあ、1科目1000円の料金を払っていないのだから当然だ。
鹿沼さん達は1コマ50分しか取っていないらしい。
俺は夏期講習を受けれないと知って帰ろうかと思ったが、やめた。
真夏の暑い中、20分かけてきたのにすぐに帰るのが勿体ないと感じたからだ。
この学校に来て1カ月が経ったが、行ったことが無い場所がまだまだ多いので、学校内を探検することにした。
この学校でずっと不思議に思っていた事がある。
俺達1年の教室は1階にあるにも関わらず、さらに下に続く階段があるのだ。
俺はこの謎を解明すべく、階段を下りる。
するとすごく分厚い扉が目の前に現れた。
俺はドアノブを90度回して、重い扉を開ける。
すると中は2クラス分くらいの長方形の空間が広がっていた。
そしてドラムやギター、スピーカーやマイクなどが定位置に置かれている。
恐らくだが、軽音楽部の部室。
俺は中学一年生の時、軽音楽部に所属していたので馴染みのある風景だ。
俺がバンドマンキャラをしていた時、ギターとドラムを担当していた。
正直言ってギターよりもドラムの方が得意だ。
俺はドラムの前に座る。
中学1年生の時はロックンロールで行っていたが、実は俺はジャズドラムが大好きだ。
俺は右手でシンバルレガートを叩きながら、左足でハイハットを2拍と4拍の裏刻みで音を出す。
これだけでジャズの美しいリズムが刻める。
そこから左手と右足をどこに入れるかが重要なのだ。
そしてジャズにおける音の強弱は死ぬほど大事で、一番練習が必要な所だ。
俺は15分ほど叩いていると、ガチャリと扉が開いた。
どうやら軽音楽部の人が帰ってきたみたいだ。
「あれ? 羽切君じゃん」
「どうも」
入ってきたのは桐谷さんだった。
「綺麗なビートが聞こえてたけど、羽切君ドラム叩けるの?」
「まあ、多少は」
「ふーん、意外かも」
桐谷さんは俺の後ろに回った。
初めて彼女を見た時は、ロックンロールの怖い人だと思っていたが意外と普通の人だ。
まあ、修学旅行の時に戸塚さんと二人っきりで夜のお楽しみをしていた事を知っているので、普通の人と言う表現が正しいかどうかは怪しいけども。
「桐谷さんは夏休みも毎日ここに来るの?」
「練習しなきゃいけないし、毎日来るよ」
「文化祭で演奏したりするの?」
「文化祭の事はまだわからないけど、夏休み中にライブがあるんだ」
学校以外でライブをするのは結構ハードルが高い。
しかし日程が決まっているような言い方だし、本当の事なのだろう。
桐谷さんは何やらゴソゴソとポケットを漁って何かを取り出した。
「これあげる」
桐谷さんは俺に紙のチケットのようなものを手渡してきた。
「何これ?」
「今度私達、ライブハウスで演奏するからそのチケット」
「えっ、いいの?」
「夏休み中だから、良かったら鹿沼さんと来てね」
「何で鹿沼さんと?」
「ほら、鹿沼さんがいるだけで客増えそうだし?」
「それは無いと思うけど……」
正直、夏休みは暇な日が多いし助かる。
鹿沼さんが来たところで客が増えることはないが、桐谷さんが鹿沼さんを連れてきてほしいと言っているので、それを反故するわけにはいかない。
「鹿沼さんに聞いてみるよ」
「そう、良かった」
桐谷さんは何やらニコニコしながら、ギターを担いだ。
その後、鹿沼さん達の一コマが終わるまで桐谷さんと雑談しながら音を合わせて過ごした
ちょっと微妙か