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【41話】 夏休み① (夏期講習)

 夏休みが始まった。

 俺はクーラーをガンガンに利かせて、ソファーでごろんとしながら映画を見ている。

 外からはセミの悲鳴が絶え間なく聞こえてきていが、それもまた夏を感じさせて良い。

 今日は35℃という誰もが外に出ることを億劫と感じる猛暑日。

 それは人間だけでなく、動物たちも命の危険にさらされる暑さだ。



 ――最っ高~



 外がクソ暑い日に家の中をキンキンに冷やすことで得られる優越感。

 それと同時に感じる、夏休みの暇感。

 現状俺には夏休みの予定は3つある。



 八木が主宰する合コン。

 八木と佐藤さんと行く海。

 そして鹿沼さんと行く、戸塚さん家。

 

 

 30日あるうちの、3日が埋まっている。

 それが多いとみるか少ないとみるかは人それぞれかもしれないが、誰でも長期休暇は家で過ごす時間の方が多いのではないだろうか。

 それに、合コンや戸塚さん家に行くことでさらに予定が更に増える可能性は大いにある。



 ピンポーン。

 


 そんな事を考えていると、家のインターホンが鳴った。

 俺はインターホンの画面を見ずに玄関まで行き、ドアを開ける。



「あっれ~? 羽切君なんでいるの~?」



 玄関の外には、私服姿の戸塚さんが立っていた。

 デニムのショートパンツに白のTシャツ一枚。

 


「何でって、ここ俺の家なんだけど」

「私、景の家の住所に来たんだけどな~? もしかして同棲してるの~?」

「同棲してるわけないだろ。鹿沼さんの家はとな――」

「まあいいや! ちょっと羽切君の家で涼むね~」



 戸塚さんは俺を押しのけて玄関に入ってきた。



「お邪魔しま~す!」



 靴を脱いで、何やら楽しげにリビングの扉までキョロキョロ周りを見渡しながら歩いている。そしてリビングの扉を開けると。



「涼しい~!」

 


 玄関から見える戸塚さんは、リビングで両手を広げて天井を仰いでいた。

 


 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「どうぞ」

「ありがと~」



 俺は台所で作った冷たいミルクコーヒーを戸塚さんの前に置いた。

 突然冷たい美味しい飲み物を作って~と要求があったので、冷蔵庫にあった牛乳と作り置きのコーヒーで作ったミルクコーヒー。

 俺は戸塚さんの対面に座って、様子を伺う。



 戸塚さんは美味しそうな顔でストローでミルクコーヒーをチューチュー吸い上げている。

 たまに片目を開いて、俺をチラチラ見てくる。



「羽切君ってエッチだね~」

「は? どこが?」

「私の事すっごい凝視してるし~」

「別に変なところ見てるわけじゃないだろ」

「見られてる私としてはドキドキしちゃうな~」



 戸塚さんは再度ストローに口をつけてチューチュー飲み始めた。



「鹿沼さんに連絡しなくていいの?」



 鹿沼さんの家に行く用事があったのに、俺の家に来て休憩をしている。

 本来ならば早めに連絡を入れるべきだとは思うが。



「それなら大丈夫、予定より1時間以上早いし~」

「ならいいんだけど」



 家も隣で10秒もあれば行けるし、問題はなさそうだ。

 戸塚さんはミルクコーヒーを飲み干して立ち上がった。



「男子の家に来たののすっごい久々なんだよね~」

「へー意外だね」

「意外ってね……前にも言ったけど、私コッチだからね?」



 戸塚さんは右手の小指を立てて、左胸に置いた。

 その意味はバイセクシャル。

 つまり女子でありながら女子にも男子にも恋愛感情や性的欲求が向くというLGBTの一つ。

 修学旅行の時はカミングアウトされて驚いたが、今では別に何とも思っていない。

 


 戸塚さんは一度伸びをして歩き出す。

 


「ここが羽切君の部屋?」

「そうだけど……」

「ふーん」



 行き先は俺の部屋だった。

 俺は戸塚さんが俺の部屋で何をするのか見守るために後を追って、入り口でその様子を監視する。

 戸塚さんは何をするかわからないから怖い。



「結構、綺麗にしてるんだね~」

「一人暮らしが長いからな」

「えっ? 一人暮らしなの?」

「そうだが」



 戸塚さんは目をぱちくりしながらこちらを見た。

 そして徐々ににやけ顔に変わっていく。

 


「この部屋を探索したいと思いま~す」



 戸塚さんは部屋にある小さなゴミ箱を漁り始めた。

 ごみは昨日が収集日だったので、ほとんど何も入っていない。

 次に屈んでベッドの下を覗き始める。

 残念ながら戸塚さんが探しているようなものはベッドの下にはない。



「あっれ~? 男子ってこういう所にエッチな本とか隠してると思うんだけどな~」

「残念でした。俺の家にそういうのは無いからな」

「ねえ、ベッドの上に上がってもいい~?」

「別にいいけど」



 許可すると戸塚さんはベッドの上に両膝を乗せて、前かがみでベッドの後ろにある本棚に手をかけた。

 本棚には漫画や小説、雑誌などが置かれている。

 戸塚さんは一つ一つ取り出しては戻すを繰り返して、遂に何かを発見したかのように声を上げた。



「あっ! みーつけたぁ~!」



 本棚の本の後ろから取り出されたのは、真っ赤な封筒。

 前に鹿沼さん母が送ってきたものだ。

 そして中には当然あの写真が入っている。



 戸塚さんはその封筒を取り出し、こちらを見てニヤリと笑った。

 そして体をこちらに向けて、両膝立ちで封筒の中に指を入れた。



「ちょっと待った!」



 俺は瞬時にベッドの上に乗り、それを奪い取ろうとする。

 しかし戸塚さんはその封筒を高く上げて阻止する。

 男の俺の方が身長が少し高いので、全力で腕を伸ばせば届くのだが、戸塚さんは少し体をくねることでその差を埋めている。



 それに届かない理由はもう一つある。

 お互い膝立ちで全力で腕を伸ばしていて体がかなり密着しているが、俺は戸塚さんの胸にギリギリ接触しない距離を保っているからだ。



 戸塚さんの顔がすごい近くにあるのはわかっているが、それ以上に封筒の中の写真を見られるのは阻止しないといけない。

 しかしこの姿勢をこれ以上に前に傾けると、バランスを崩して戸塚さん押し倒して怪我をさせてしまうかもしれない。

 だから俺はもう片方の腕を戸塚さんの腰に回し、逆に戸塚さんを俺の方に引き寄せることで距離を縮めることにした。



「ひゃっ!?」



 珍しく戸塚さんが悲鳴を上げる。

 体との距離が0になったことで、戸塚さんの手首の少し上あたりまで掴むことができた。

 そして体が近づいたことで、当然顔の距離も近づいた。



「えっちだね~」

「すいません」



 一応謝っておく。



「羽切君って結構大胆だよね~」

「戸塚さんだからできるんだけどね」

「何それ~、私が女として見られてないって事~?」

「別にそういう意味じゃないよ」



 ただ戸塚さんなら多少の事は水に流してくれそうというだけだ。

 いつも楽観的な感じだし。



 手首を掴めたのでもう観念したのかと思ったが、戸塚さんは頑なに封筒を渡そうとしてこない。

 

 

「ちょっ、そろそろ諦めてくれない?」

「や~だ~」

 

 

 もうここまで来たら力ずくで取り返すしかない。

 俺は全力で戸塚さんの手首を下すように力を入れる。

 やはり男と女の力の差があるので、少しづつだが手首が下がってきた。

 

 

 しかし戸塚さんは予想外の行動にでる。

 彼女は体全体の力で後ろに倒れたのだ。

 手首を掴んでいる俺は、その力に抗えることができずに前に倒れた。

 

 

 むにゅという感触が俺の胸辺りに感じ、おでこがベッドにドスンと音を立てて沈んだ。

 突然の事で受け身をとれず、顔面をベッドに打ち付けたが痛くはなかった。

 そのまま顔を左に向けると戸塚さんと目が合った。

 鼻先が触れそうなくらい近い距離で瞬きをしている。

 

 

「ぷははははっ」

 

 

 そして爆笑しだした。

 

 

「危ない事しないでよ、まったく」

 

 

 俺は体を起こすと、とんでもない事になっていることに気づいた。

 俺の下半身は戸塚さんの太ももの間に入っていて、顔を上から見下げる形になっている。

 そして右手は戸塚さんの手首を頭の上で押さえつけていて、まるで俺が戸塚さんを押し倒しているような体勢になっていた。

 

 

 そして戸塚さんは爆笑の影響で少し涙目になっている。

 何だかすごくいけない事をしているようで、変な気持ちになってきた。

 

 

「私……汗臭いかもよ?」

「汗の匂いなんて気にしないけどね」

 

 

 むしろ洗剤とかのいい匂いがしているし。

 

 

「だったら……好きにしていいよ?」

 

 

 どういう意味かよくわからない。

 ただいつもの語尾伸ばしが無いので、楽観的な雰囲気は消えていた。

 戸塚さんは体を脱力して、そっぽを向く。

 それが何をしても抵抗しないという意思表示にも感じた。

 

 

 これじゃまるで……。

 

 

「それじゃ、遠慮なく」

 

 

 しかし俺は怯むわけには行かない。

 俺はそう言って、ゆっくりと左手をベッドに沿って動かす。

 そして戸塚さんの顔の横を通り過ぎて、頭の上にある赤の封筒を取り上げる。

 

 

「残念。その手には乗らないよ」

「ばれたか~」



 戸塚さんが上半身を起こす。

 それによって再度、顔が急接近した。

 その瞬間――。



「ふぇっ!?」



 ……ん?

 


 どこからか声がした。

 戸塚さんも聞こえたのか、パチクリと瞬きをしている。

 そして同時に部屋の窓の外を見ると、誰かが立っていた。

 


 いきなり外の光を見たので、眩しくてよく見えない。

 しばらくその人物を見ていると、目が光に慣れてきたのかその人物の輪郭が少しづつ見えるようになってきた。

 


「景~!」

「へ?」



 先に目が慣れたのか、戸塚さんはひらひらと手を振りながら窓の外の人物にそう声をかけた。

 俺は今度は目を細めて窓の外の人物に視線を送ると、とんでもなく慌てている鹿沼さんと目が合った。

 俺は今の状況を大声とジェスチャーで説明しようと試みるが、鹿沼さんは走って窓枠から消えてしまったので失敗した。



「あちゃ~、まずいところ見られちゃったね~」

「とりあえず、鹿沼さんの家に行って状況説明しようか……」

「その方が良さそうだね~」



 俺がベッドから降りると、戸塚さんは足をぐっと伸ばして再度仰向けに寝転ぶ。

 そして腕と足を大の字にして目を閉じた。



「何してるの?」

「ちょっと興奮しちゃったから、休憩させて~」

「はいはい」


 俺としては今すぐにでも説明に向かいたかったのだが、戸塚さんなしで説明したところで説得力が無いと思い、戸塚さんの興奮が静まってから行くことにした。


思ったんだけど、普通夏休み前に定期テスト1回挟むよなぁ。

忘れてた。

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