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【40話】 夏休み前⑨ (女の子の日)

40話!

 ついに来たこの日。

 今日の学校は午前中の終業式で終わり。

 そこから夏休みが始まる。



 外からチュンチュンと可愛い小鳥の鳴き声が聞こえてきた。

 俺はゆっくりと目を開けると、腰と首、そしてお尻が猛烈に痛い事に気づく。

 硬い床に座ってソファーに寄りかかるという負荷のかかる姿勢で寝ていたらしい。

 

 

 俺は起き上がり、一度伸びをしてソファーで寝ているであろう鹿沼さんを見る。

 しかしそこには鹿沼さんの姿はなかった。

 ベッドに寝ているのかと思いベッド部屋に入るがいない。

 ならばお風呂かトイレに入っているのかと思って確認するがいない。



 脱衣所には昨日鹿沼さんが着ていたパジャマが脱いだままで散らばっていた。

 それらを拾って洗濯機の中に入れようと覗き込むと、恐らく昨日着ていたであろう下着が入っていた。

 俺は洗濯機にパジャマを入れた後、一度リビングに戻りふと時計を見る。

 時刻は9時10分。



「嘘だろ……?」



 朝のホームルームは8時から。

 つまりすでにホームルームは終わっていて、終業式が始まっている時間。

 そしてさらに言うなら、鹿沼さんは寝ている俺を置いて行ったという事になる。

 どうやら鹿沼さんの女の子の日はまだ継続中みたいだ。



 鹿沼さんは先週、俺を失望させるかもしれないと言っていた。

 いつもと違う態度や表情にビックリはしたが、失望はしていない。

 むしろいつもは見せない一面を見れて、何だか嬉しいとまで思っている。

 女子というのは本当に不思議な存在なんだなと改めて思い知らされた。

 

 

 俺は急いで鹿沼さん家を出て鍵をかけ、自分の家に帰って制服に着替える。

 そして学校までの道のりを、歩いた。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 校舎に入ると、誰もいなかった。

 今の時間は全校生徒が体育館で終業式を受けているので、廊下を歩く生徒も先生すら見当たらない。

 俺は廊下を歩いて、自分の教室に入った。



「遅刻」



 教室には一人の女子が座っていた。

 

 

「お前が起こしてくれなかったからな」



 俺は自分の席まで歩き、カバンを置く。

 夏の熱風の中で歩いてきたので、汗がすごい事になっていた。

 俺はべたつく汗を乾かしたかったので涼しい教室にしばらくいてから、体育館に向かう事にした。



「で、なんで教室に残ってるわけ?」

「生理で体調悪いって言ったら、教室に残ってていいってさ」

「へー」



 だったら学校にも来なくて良かったと思うんだが。

 鹿沼さんは昨日よりもピリピリしていないように感じる。

 もしかしてそういう日が終わりかけているのか?

 だが安心はできない。

 同じ部屋にいたにも関わらず、学校に自分だけ行くなんて非行はいつもの鹿沼さんなら絶対にしないからだ。



「怒ってる?」



 鹿沼さんは目も合わさず、言った。



「怒ってないよ」

「なんで?」

「なんでって言われても……」

「それは私に興味が無いからじゃない?」



 辛辣だが、的を射てる。

 興味は大いにある。だけど、その花を咲かせるわけには行かない。

 人は喜怒哀楽を誰かと共有した時、本当に親しい関係になるのだと俺は思う。

 5ヶ月でお別れなのに、親しい関係になれば辛いだけだ。



 鹿沼さんだってそのことはわかってるはず。

 わかってるのにあえて口にしてきたので、俺は少し動揺した。



「興味はあるよ」

「だけどお別れが辛くなるから、親しくなりたくない……でしょ?」

「わかってるじゃん」



 さすが同じ転校人生を歩んできた人だ理解が早い。

 しかし鹿沼さんの貧乏ゆすりが始まった。



「ねえ」

「はい」

「羽切君は私の事、どう思ってる?」

「それを説明するのすごく難しいと思うんだけど」

「頑張って言語化してみて」

「そうだなぁ……」



 鹿沼さんの事をどう思っている……か。

 いつもトラウマに怯えてる可哀そうな女子だろうか?

 いや、それは違う気がする。

 


 こんな事考えた事が無かったから、すぐには答えが出ない。

 彼女は一人の人間で、自分から邪魔しないでくれと言ったのに最近は積極に関わろうとしてくる矛盾だらけの女の子……とは言えないしな。

 もっと根本的な部分を考えた方が良さそうだ。

 しばらくの沈黙の間、俺は考えた。

 そして出てきた俺の答え。



「中学1年生の時からこうやって話せる仲になってたら、本当の親友みたいな存在になれたのかなって思ってる」



 全然答えになっていないけど、現状これくらいしか出てこない。

 だって鹿沼さんについてどう思っているかなんて質問、どうやって言語化すればいいかわからないし。

 その答えは好きとか嫌いとかそういう抽象的な言葉にしかならないと思う。

 


「親友……ね」



 鹿沼さんは貧乏ゆすりをやめて、前を向いた。



「恋人だったかもよ?」



 チラリと鹿沼さんを見ると、その横顔は少し照れていた。

 何だか久々にこういう顔を見たので、安心した。

 


「何度転校しても必ず一緒の学校になる恋人……か。ドラマになりそうだね」

「転校するたびにお互いについての記憶は無くなっちゃうけど、結局その学校でまた惹かれあって恋人になっちゃうなんてどう?」

「鹿沼さんは恋愛作家になれるね」



 久々に二人でクスッと笑った。

 


「本当はね、私も同じことを思ってた」

「恋人になれたかもって?」

「うん」



 鹿沼さんは俺を見て微笑んだ。

 その表情も何だか久々でドキッとした。



「中学1年生の時に付き合ってたら、今年で4年目だね」

「そしたらやることやってたんだろうな」

「中学生で?」

「ちょっと早いか?」

「どうだろ、今度美香に聞いてみる?」

「戸塚さんはそういう経験、豊富そうだしね」



 鹿沼さんの顔色が少し良くなってきている。

 女の子の日の終焉が近いのかも。

 


「まあ、あくまで仮定の話だけどな」

「でもさ、今からでも間に合うと思わない?」

「遠回しに俺に告白してるようなものだよそれ」

「……」



 鹿沼さんから何も言葉が帰って来ない。

 チラリともう一度見ると、何やら焦っている。



「も、もしもだよ? 私が本気で羽切君の事が好きって言ったらどうする?」

「全力で逃げるよ」

「……どうして?」

「鹿沼さんを幸せにできる人は俺じゃないと思うから」

「自己評価低いんだね」



 それに残りの時間は5ヶ月しかないし。



 鹿沼さんは立ち上がって、一度大きく伸びをした。



「体調良くなってきたかも」

「今週は地獄みたいな態度だったぞ」

「それはごめん。失望しちゃった?」

「大いに失望した」



 俺がそう言うと「えっ?」と大きく瞳を見開いて俺を見た。

 


「舌打ちされるし、貧乏ゆすりすごいし、態度冷たいし、無視されるし、学校置いてかれるし」

「ご、ごめん……」

「昨日俺が帰ろうとしたら泣き始めるし」

「そ、それは……」

「部屋の地面に寝かされるし」

「……」



 俺が受けた仕打ちを一個一個言う。

 すると鹿沼さんは立ち上がって、俺の前まで来た。

 そして俺の首に腕を回して、抱きついて来る。

 


「こ、これで許してくれないかな?」



 学校でこういう事をしたのは初めてだ。

 


「最初から失望なんてしてないよ。だって仕方がない事なんだろ?」

「……うん」

「久々に鹿沼さんをからかってみたかっただけなんだけど……」

「バカ」



 そう言うと、鹿沼さんは離れた。

 真っ赤な顔で視線をそらしている。

 その表情を見て、ようやくいつもの彼女に戻ってきたのだと確信した。



「そろそろ体育館行こうかな」

「私も行く」



 俺達は終業式を受けに、体育館に向かった。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




 終業式が終わり、再度教室に戻った。

 先生が壇上で夏休みの宿題の事や、注意事項の話をし始める。

 そして教室の整理整頓と大掃除をした後、それぞれの机の中やロッカーの整理を始めた。

 教科書などは基本的にロッカーに残しておくことが許可されているため、持ち帰るものはほとんどない。


 

 1学期の最後の学校がチャイムと共に終わった。

 すぐに家に帰る者もいれば、ゆっくり教室に残る者もいる。

 


「んじゃ、次は合コンでな」

「おう」



 八木は佐藤さんとデートの予定があるらしく、教室から消えていった。

 一人一人教室からいなくなる中、俺は何となく帰る気が起きなかった。

 登校してきてから学校が終わるまでの時間が短すぎて損した気分になるからだ。

 


「景、体調戻ったの~?」

「うん、もう大丈夫。機嫌悪くてごめんね」

「もうびっくりしたよ~」



 隣で鹿沼さんと戸塚さんが雑談を始めていた。

 クラスにはもう俺達3人と他2人しかいない。

 


 昨日夜遅くまで鹿沼さんの手をさすっていたからか、あくびが出た。

 いくら今日起きる時間が遅かったとはいえ、朝方まで面倒を見ていたから少し眠い。

 俺は帰ろうと立ち上がる。



「羽切君もう帰るの~?」

「昨日遅かったから眠いんだ」

「ふ~ん」



 俺は持ち帰る必要のあるものをカバンに入れると、ふと見慣れない物に目が留まった。

 今日朝に鹿沼さん家のトイレに落ちていた物で、何故かパジャマのポケットに入れて制服に着替える時になんとなくカバンの中に放り入れておいた物。

 まるで先端が丸い銃弾のような形をしていて、お尻から導火線のような紐がついている。

 俺はそれをカバンから取り出す。

 すると、隣の鹿沼さんと戸塚さんは驚いた声を上げた。



「何でソレ持ってるの!?」

「これ……何?」

「それは……」



 鹿沼さんは何やら困惑している。

 どうやって説明しようか迷っているような様子。



「それはね~」



 ここで助け船を出すかのように戸塚さんが口を開いた。



「タンポンって言うんだよ~?」

「たんぽぽ?」

「タ・ン・ポ・ン~」

「って何?」



 聞いたことが無い言葉。

 しかし中々続きの説明が返って来ない。



「これ、花火か何か?」

「ぷはっ、花火だって~」



 戸塚さんは爆笑していて、鹿沼さんは恥ずかし気にしている。

 


「今、景の中にそれが入ってるんだよ~?」

「ちょっ、美香! 恥ずかしいって!」

「……どういう事?」



 まったく意味不明だ。

 しかし女子の二人がソレが何かわかってる時点で、女子専用のアイテムなのだろう。

 まだまだ俺には知らない世界があるみたいだ。



 戸塚さんは俺の首に腕を回して、耳元でそれが何なのかを説明してきた。



「そんなのもあるのか……」



 俺は説明を受けて驚愕した。

 


「指で一番奥まで入れないとだめだからね~?」

「へー」

「景、次の時は羽切君に入れてもらったら?」



 戸塚さんがとんでもない事を言い出す。



「そ、そんな事頼めるわけないでしょ!?」



 鹿沼さんはとんでもなく慌てながらそっぽを向いた。



 何だかやっと日常に戻った感じがした。

いい加減夏休みに行きます。

明日新規投稿あるかわからないです。

すみません。


ブ8 30

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