【37話】 夏休み前⑥ (水泳の授業)
水泳の授業が終わり、俺は教室に戻った。
教室の中は塩素の臭いで充満していて、正直くさい。
俺は窓を開けて、着替え始める。
水着からパンツに履き替えて、ズボンを履く。
そしてインナーシャツを着てからワイシャツを着る。
プール後とはいえ、熱いので前の上から3つ目くらいまでは開けておく。
着替え終わってしばらくボケッとしていると、教室のドアから女子が入ってきた。
「羽切君、ちょっと来て~」
見ると戸塚さんだった。
俺は戸塚さんのいる廊下に出る。
「何?」
「ちょっと来てくれる~?」
「どこ行くの?」
「女子更衣室~」
「何故?」
「それは来てからのお楽しみ~」
戸塚さんはニヤニヤしている。
戸塚さんに女子更衣室に呼ばれるって何事だよ……。
何だか嫌な予感しかしない。
俺は戸塚さんに連れられて、女子更衣室の前まで来た。
そして戸塚さんはその更衣室を、中に何の断りもなく、開けた。
「うおい!?」
俺は瞬時に後ろを向く。
「大丈夫だって~、ほら」
再度女子更衣室側に視線を向けると、一人の女子以外誰もいなかった。
その一人は未だに水着を着用したまま、突っ立っている。
そして何やら恥ずかしそうにしていて、俯いている。
そこにいたのは鹿沼さんだった。
彼女を見た瞬間、発作が起きたのかと思ったがどうやら違うらしい。
「あのね、その……」
女子更衣室に水着姿の女子と俺。
彼女はソワソワしていて、何かを伝えようとしている。
そんな様子を見ていると、俺もドキドキしてきた。
「下着を忘れてきちゃったの」
「……は?」
「だから私の家まで取ってきてほしいの」
「いや、ちょっと待った」
意味が分からない。
鹿沼さんは今日、ノーパンノーブラで登校してきたって事なのか?
いつからそんなド変態になったんだ?
もしかして戸塚さんの影響か?
色々な疑問が浮かんだが、直接聞いてみる以外でどういう状況なのかを詳しく知るすべはないと思い、俺は口を開いた。
「鹿沼さんはノーパンノーブラで今日登校してきたの?」
「……うん」
「そういうの好きなの?」
「……?」
鹿沼さんは首をかしげて、何を言ってるの?と言いたげだ。
だから俺はより詳しく言う事にした。
「鹿沼さんは下着を着けずに学校に来て、誰かに胸や下半身を見られるかもしれないという背徳感を楽しむような性癖を持ってる人だったってことで正しい?」
俺の解説を聞いて、鹿沼さんの顔が赤くなって歪んでいく。
鹿沼さんに発作がある以上それは無いと思うが、ちょっと万が一のために聞いてみた。
「ち、ち、違うってば! バカ!」
「じゃあ、どういう……」
「水着を下に着て登校してきたけど、下着を持ってくるのを忘れたって言いたいの!」
「あ、あー」
全てを理解して安堵した。
水着を下に着て登校する場合、下着を別で持ってくる必要がある。しかし鹿沼さんは下着を忘れてしまったため、水着から制服に着替えられないという事だ。
これは男子にもよくある事で、男子の場合はノーパンでも問題ないが、女子は大問題だ。
ブラウスに胸の中心部分が透けたりする可能性は大いにあるし、スカートだから風や階段などの角度によってはお尻が見られてしまう。
「いいけど、時間かかるよ?」
「この後、昼休みだから時間はある」
「だけど、俺が下着見ていいの?」
「何回も見てるじゃん」
確かに何度も見ている。
それは置かれた下着じゃなくて、着用している下着だが。
そっちの方が過激なんだけどね。
「羽切君にしか頼めないことだし……なんかごめんね」
「別にいいよ」
戸塚さんを見ると、彼女も何故かソワソワしている。
「戸塚さんはここに?」
「うん、羽切君が戻ってくるまで景と一緒にいる~」
「了解。このまま行ってくる」
そう言い、俺は更衣室から出ようと歩き出す。
「ちょっと待って、鍵渡さなきゃ」
「持ってるからいいよ」
「ふぇっ!?」
鹿沼さんの変な驚き声を後ろで聞いてから、俺は校門まで走った。
実は今日の朝に再度玄関のポストに封筒が入っており、開けてみたら鍵が同封されていた。
『夜這いしちゃダメだぞ(ハート)』というメッセージが書かれた便箋と共に。
自分の娘の家の鍵を男に送るなんて、何考えてんだ……。
家の鍵を男の俺が持ってると知ったら夜も不安だろうし、今日中に鹿沼さんに返そうと思っている。
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俺は誰にも見つからないように校門まで歩いた。
さっきまで泳いでいたので体力的にかなり疲れているが、鹿沼さんを水着姿でずっと待たせるのも可哀そうだと思い、家まで走ることにした。
真夏の炎天下による熱気と運動によるエネルギー代謝によって体が猛烈に熱い。
家までは歩いて20分の距離なので、走れば10分以内には着くと思っていた。
しかしやはり水泳の影響なのか途中で息切れを起こしてしまい、少し歩いたりしたので10分と少しかかってしまった。
俺は鹿沼さん家の玄関の鍵を開けて中に入る。
家の中は外とは違う熱気に満ちていた。
誰もいない女子の家に上がるってのは何だか変な感じだ。
何を見ても怒られないし何をしてもばれることは無い。
やりたい放題したいという感覚に襲われる。
そんな開放的な感覚を一度落ち着かせて脱衣所に向かう。
鹿沼さんがどこに下着を保管しているのか知らないので、まずは脱衣所の引き出しを一つ一つ開けてみることにした。
しかしそこにはバスタオルや小サイズのタオルしか入っておらず、なんとなく洗濯機の中とかを見ると使用済みの下着が入っていた。
さすがに使用済みの下着を持っていくわけにもいかず、少しドキドキしたけど早々に脱衣所から出る。
今度は鹿沼さんの部屋の中に入り、クローゼットの引き出しを物色する。
するとビンゴ。下着が入っていた。
一段目には様々な色のパンツが綺麗に並べられていて、二段目には様々な形と色のブラジャーが並べられていた。
俺はそのうちの同色のセットを取り出して少し観察してからリビングに戻ったが、重大なミスに気が付いた。
俺は学校にカバンを置いてきてしまったので、下着を入れるものがない。
ポケットに入れることもできるが、左右にはスマホと財布が入っているので結構パンパンだ。
パンツならスマホ側のポケットに入るかもしれないが、ブラジャーはどちら側にも入らない。
それに下着をスマホや財布と同じ空間に入れるのも衛生的にどうなの? と感じたので、外から透けないような手持ち袋を探すことにした。
しかしどこを探しても見つからず、断念。
手に上手く隠して持っていくとも考えた。
しかし学校までの通学路で誰かに通報されるかもしれないし、学校に入っても下着泥棒と勘違いされるかもしれない。
仮に事情を分かってもらえたとしても、鹿沼さんの上下の下着を家から持ってきたなんて学校の誰かにばれれば噂になってしまう。
男の俺が鹿沼さんの家に入り、下着を持ってきていたなんて噂は鹿沼さんの今後にも関わる。
仕方がないので俺はビニール袋に鹿沼さんの下着を入れて、それを俺の服の中に隠した。
しっかりシャツインしてへその部分に入れて、その上から腕で隠す。
これなら外からばれることはない。
声をかけられても腹が痛いと言えばいいのだ。
俺はもう一度誰もいない鹿沼さん家の空気を肺いっぱいに吸い込んで、玄関に向かった。
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学校までの道のりはスムーズだった。
誰にも声をかけられることも無かったし、変な目で見られることもなかった。
俺は無事にプールの女子更衣室の前までたどり着く。
今は昼休みの時間なので、中にいるのは鹿沼さんと戸塚さんだけのはずだ。
俺は更衣室の引き戸を開けた。
「ひゃっ!?」
すると目の前には半裸の鹿沼さんがビクッと肩を跳ねらせた。
スカートは履いているが、上半身は裸で胸を両腕で抑えて背中をこちらに向けている。
鹿沼さんの水着を買いに行った時の試着室での出来事と似たような状況。
さすがにずっと水着姿なのは嫌だったのか、着替えている最中だったらしい。
「ここ女子更衣室なんだけど!?」
「それはごめん」
確かにそうだし、開ける前に声をかけるべきだった。
同じ空間にいる戸塚さんを見ると、何故か興奮していた。
最近戸塚さんの顔を見るだけで興奮してるかどうかが分かるようになってきている。
「戸塚さん興奮しすぎ」
「景が水着から制服に着替える一部始終がエロすぎて~」
鹿沼さんは水着を全部脱いで一度全裸になってから下着を着けずにスカートを履いた。
そして今、ブラを着けずにブラウスを着ようとしていた……か。
確かにエロいかもしれない。
更に今は、中に何も履いていないのにスカート姿で上半身は裸。
胸を隠す仕草と脇の下から後ろに漏れている指。
や、やばい。
「ちょ、ちょっと羽切君!?」
「わかってるよ、もう出るから」
「そうじゃなくて、鼻血」
「……え?」
見ると、俺のワイシャツに赤い血がポタポタと落ちていた。
頭もくらくらしてきたし、これはもしかして……。
「景がエロすぎたのかな~?」
「それもあるけど……」
戸塚さんがティッシュをポケットから取り出し、俺に差し出した。
俺はそのティッシュを使って左手で鼻を摘まむ。
そして右手でワイシャツの中に手を入れて、鹿沼さんの下着を取り出す。
「どこに入れてきてるの!?」
「ここくらいしか隠せる場所が無かったんだ」
鹿沼さんはあわわわと肩を震わしている。
そして鹿沼さんの前にそれを差し出すが、正面や横を向くのが嫌なのか受け取ろうとしない。
戸塚さんに渡せばいいと思ったが目線で拒否されたので、脇の下から後ろに伸びている指に渡そうと鹿沼さんの背中に近づく。
「な、何!?」
「鹿沼さん胸隠すのに必死だから、スカートめくろうと思って」
「だ、だ、ダメだってば!」
最近やられてばっかりだから、たまにはお返しがしたくなった。
両腕で胸を隠しているから、お尻のガードはない。
それにパンツを履いていないから、スカートを捲ればそのまま生のお尻があらわになる。
俺が近づくと鹿沼さんが遠のいていく。
しかしすぐに壁に当たり、俺と壁の板挟みになった。
「そんじゃお尻、拝見させて頂きます」
「ちょっ!? ほんとにダメだってばっ!」
戸塚さんが俺の横に立って鹿沼さんのスカートをひらひらと縦に揺らしている。
俺は鹿沼さんの耳元に顔を近づけて言う。
「なんちゃって」
「バカ!」
鹿沼さんは真っ赤な顔でふくれっ面になった。
俺は鹿沼さんの指先に下着を渡し、更衣室から出た。
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