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【3話】 一学期 (ドジっ子彼女)

 今までにない転校初日だった。



 当初の計画はとん挫してしまい、どんなキャラでいこうかも決まらず一日が終わってしまった。

 クラスはホームルームが終わって帰宅ムードになっていた。



「羽切はこの後暇?」



 前に座る八木は俺の机に頬杖をついて言った。



「暇だよ」



 本当は引っ越しの準備をしなければならないのだが、この誘いを断る事はしない。

 今頃俺の家には大量の段ボールが運び込まれているだろう。それを開封して家具を定位置に配置するのは時間がかかる。まぁ、一日で終わらせる必要はないのだが。



「駅前に新しくフルーツカフェが出来たんだけど、行ってみね?」



「お前は女子か?」



「実はな……」



 八木はグッと距離を詰めてくる。

 まさか、俺の心は女子だ! なんてカミングアウトされないだろうな?

 ごくりと俺は喉を鳴らした。



「俺の彼女がそこで働いてるんだよ」



 思わず、「はぁ?」という声が漏れた。



 こいつの距離の詰め方おかしくねぇ?

 俺、転校初日ぞ?

 彼女紹介する相手間違えてね?

 てか、こいつ彼女いたの?



「お前、相当変な奴だな」

「そうか?」



 俺たちは雑談をしながら校内を出て駅前へと歩いた。

 海が近くにある町とはいえ、駅前はかなり栄えている。



 駅周辺には個人営業のおしゃれなカフェやパン屋が立ち並び、学生やOLで賑わっている。

 更に駅から少し歩いたところにはファッションをはじめ、食やエンターテイメントなどを一か所に集めた巨大なショッピングセンターも建っていて、俺達の目的はショッピングセンターの中にあるらしい。


 

 ショッピングセンターの自動ドアが開くと、涼しい風が吹いた。



 その瞬間、

 ガッシャーン。

 という大きな音が鳴り響いた。



 音の出所はショッピングセンターに入ってすぐ右手にあるフルーツの写真でいっぱいのお店。



「ここだ」



 不穏な音が鳴り響いた店が八木の彼女が働くお店みたいだ。 

 中に入ると学生服をまとった若い客が数十人と、ベージュ色のエプロンを着た従業員らしき二人。



 一人はキッチンにいて、一人は床に散らばったガラスの破片やらフルーツの残骸やらを片付けていた。



「い、いらっしゃいませ~」



 苦笑いの女性従業員。

 死んだ目をしている女性従業員はこちらを見ると、目を輝かせた。



「来てくれたの!?」



 クリームやらチョコレートやらがべっちょりと付いたたエプロンを着たまま、従業員女性は隣の八木に抱きつく。



「これ、俺の彼女」

「熱烈な彼女だな」



 俺たちは八木の彼女に席まで誘導された。

 外の席が見える窓際の席はピンク色のソファーで通路側の席は木製の椅子。俺は窓側に座り、八木は通路側に座った。



 メニューはシンプルに2つ。

 イチゴパフェかパイナップルパフェ。

 八木はイチゴパフェを選び、俺はパイナップルパフェにした。


 

「あれ、鹿沼さんじゃね?」



 八木の視線の先は俺の後ろの窓の外にあった。

 振り返ると、鹿沼さんがクラスの女子と二人で歩いているのが見える。

 こちらに気づいたクラスの女子はこちらに手を振って鹿沼さんを連れて小走りで店内に入ってきた。



 そして俺らの席の隣に座った。



「お二人さん、転校祝いですか~?」



「まぁ、そんな感じ?」



「私、同じクラスの戸塚美香で~す。よろしくね~」



「よろしく」



 第一印象は元気すぎる少女。


 

「そしてこちらが、羽切君が一目ぼれした~、鹿沼景ちゃん!」



 さーっと血の気が引いた。

 ちらりと隣に座る鹿沼さんを見てみる。

 すると鹿沼さんは先にこちらを見ていたようで、自然と視線が合った。



「よろしくね」

「ど、どうも」



 自然な笑顔と簡単な相槌。

 何も身構えることはない。

 普通に会話して、普通に接していればいいんだ。

 邪魔さえしなければ問題はない。



「てか、一目惚れしたわけじゃないからな?」

「ええー? それ以外であんな驚く要素ある~?」

「あれはただ足を滑らせただけだ」

「本当かな~?」

「俺も足を滑らせたようには見えなかったけどな?」



 八木と戸塚さんはニヤニヤとこちらを見てくる。



「やめなって二人とも」



 鹿沼さんからのナイス援護射撃。


 

「そうね、今のところはこの辺にしておこうかな~。ところで、二人は何を頼んだの~?」

「俺はイチゴで羽切はパイナップル」



 戸塚さんはメニューを開き、どっちを頼もうか悩み始める。

 しばらく悩んでいると、メニューを閉じた。



「二人のが来てから決めよっと。景はどうする~?」

「私はパイナップルにしようかな」



 と女性陣がメニューを置いたところで八木のイチゴパフェが届いた。



 15cmくらいの筒状のコップの一番下の層はイチゴと冷たいヨーグルト、次にイチゴシロップとカステラ、その上に生クリームとチョコレートそして一番上にはコップから飛び出す形でデコレーションのイチゴとアイスクリームにチョコスティック3本という構成。



 運んできてくれた男性店員は「ごゆっくり」と声を掛けて去ってく。



「豪華だなこりゃ」

「すっごい美味しそう~!」



 戸塚さんはキラキラと目を輝かせてた。



 俺はキッチンがどうしても気になった。

 人手不足のせいか、パフェを作った店員がそのパフェを直接運んでくるシステムらしいのだが、さっきから男性店員ばっかりが運んでいるのだ。



 八木のパフェは男性店員が届けてくれた

 という事は次は俺のパフェ。

 同タイミングで注文したので、俺のパフェを作っているのは八木の彼女の方。

 さっき落としていたが、今回は大丈夫だろうか。



 そんな事を考えていると、八木の彼女がキッチンから出てきた。俺のパイナップルパフェを丸型トレーに乗せて。



 しかしその足取りはかなり危うい。

 右によろけて左によろけて、前によろけて後ろによろけて。

 そしてぎりぎりのところで俺の前まで商品を持ってきて――



「おまっ、おまたせせ、おっまたせしっましたぁぁ~あああああ?!」



 傾く俺のパイナップルパフェ。

 それを阻止しようと体を前に出す俺。



 ガッシャーン。



 冷たい感触が頭部全体に感じたと思えば、耳や首筋、胸、へそ、そして太もも全般に伝わっていく。



 ぽつぽつと髪先から滴る黒い液体チョコレート。

 頭から落ちていくパイナップル。



 予感が現実になった。



「お前の彼女、バイトテロしてるのか?」

「こういうところも好きなんだよなー」

「えっ、彼女?」



 すかさず反応したのは戸塚さんだった。



「誰の?」

「そこ気にしてる場合か?」



 なんでそんな冷静にいられるのこの人達。



「あの」



 隣に座る鹿沼さんが声を掛けてきた。

 しまった、鹿沼さんの友達とのパフェタイムを邪魔してしまった。

 今頃隣で怒っているかもしれない。

 そう思い、ゆっくりと隣を見る。

 すると肩を震わしながら、ハンカチを差し出していた。



「今のは、セーフ?」



 鹿沼さんは声を出して笑った。

 どうやらセーフだったらしい。

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