【28話】 修学旅行 (終わり)
スマホで書くの辛すぎる〜。
早くパソコン届いてくれ〜。
修学旅行が終わる。
あとは新幹線に2時間乗って帰るだけだ。
俺達の学校は、先頭車両の1号車と2号車を貸し切っている。
そして俺達は1号車の後ろ側の席。
新幹線が発車して20分が経った時、俺はトイレに行きたくなり席を立った。
しかし1号車と2号車の連結部分にあるトイレは列をなしていたので、仕方がなく4号車と5号車まで向かった。
残念ながら修学旅行時期もあってかそこも別の学校の列ができていたので、7号車と8号車の連結部分まで歩くとやっとトイレが空いていた。
正確には男女共用トイレと女子トイレは列を作っていたが、男子専用トイレだけがすっからかんだった。
俺はラッキーと思い、そこで用を足した。
そして1号車まで戻ろうと歩き出した時。
「アレ? 羽切君じゃない?」
声をかけられた。
ここは7号車の11番。
つまりは7号車のほぼ真ん中。
声のする方を見ると、3列席の窓際に座る佐藤さんがヒラヒラと手を振っていた。
「やっほー!」
「どうも」
よく見ると、この車両には女子生徒しかいない。
つまりは佐藤さんが所属する女子校の車両に来てしまったということだ。
佐藤さんは隣の空席をトントンと叩き、俺に座れと促して来る。
道側の席には荷物が置いてあるので、誰かがいるのだろうが今は席を外してるらしい。
俺は促されるまま、空席の3列の真ん中に座った。
「羽切君は鹿沼さんとどこまでいったの?」
「どこまでって?」
「それはその……キスとかしたのかなーって」
佐藤さんは恥ずかしげに言った。
「俺は鹿沼さんと付き合ってないよ」
「そんな訳ないでしょ。リオンで引っ付いて歩いてたし、昨日だって手を繋いで旅館抜け出してたし」
「それは……」
もう見られた場面が悪すぎて、どんな言い訳も通じそうもない。
そういえば合コンの後、鹿沼さんが言っていた。
学校が違うと言うだけで壁を作ると、結果的に佐藤さんを傷つける事になると。
正直その論理は俺には理解できないけれど、ここは鹿沼さんの論理を信じる事にした。
佐藤さんの中ではもう俺たちが付き合っているのは既成事実になっているのは確実なのでーー。
「わかった、認めるよ。俺たちは付き合ってる」
否定しない事にした。
「だよねー。で、どこまで行った?」
「抱いた所までかな」
「だ、だ、抱いた!?」
佐藤さんは驚きの後、顔が赤くなった。
「佐藤さん、俺たちの事は内緒にしてほしい」
「わかった……」
ただ付き合っているというだけじゃ無く、より高度な行為をしたという部分まで引っくるめて秘密にしてもらう事で秘密のレベルが上がり、簡単には拡散されないというテクニック。
「で、どうだったの? 抱いてみて」
「そうだなぁ……」
あの時のことを思い出す。
「体は温かくて柔らかいし、(髪は)綺麗で、(汗で)すごい濡れてたよ」
「あわわわわわわっ!?」
「それに(心臓の音が)すごい激しくてーー」
「も、もういいですっ!」
見ると、佐藤さんは真っ赤な顔で何度も深呼吸していた。
「佐藤さんが聞いたんじゃん」
「まさかそんな詳細に言うとは思ってなかったから」
「気持ち良かったって言えばよかったのか?」
「気持ち……っ!?」
この人は何をそんな動揺してるんだ?
ただ鹿沼さんと抱擁した時の事を述べただけなんだが……。
まぁ、あの時は気持ちよさよりも心配が上回っていたので少し過剰な表現にはなっているが。
「鹿沼さんと羽切君はアツアツだったんだ……」
佐藤さんはボソリとそんな事を言った。
ちょっと佐藤さんの情緒がおかしいので、話題を変える事にした。
「佐藤さん達はどこまでいったの?」
「えっ? 私達?」
「俺達だけ言うには不公平だろ?」
「実はまだ手すら繋いでなくて......」」
「じゃあこれからだね」
「うん……」
そんな会話をしていると、前後にいる女子が椅子の上から覗いてきた。
「未央、顔真っ赤じゃん。もしかしてこの人が噂の彼氏さん?」
「ち、ち、違うよ!」
「じゃあ、ナンパでもされてるの?」
見ると、俺は前後と横の2列席の計8人に囲まれていた。それも全員女子。
共学とは違う女子校特有の匂い。
そして女子校特有の男子への警戒した視線。
佐藤さんはナンパされているのかと言う質問に何故か反応しない。
頼むから早く否定してくれ。
否定しない彼女を見た、女子生徒の一人が大きめの声で叫んだ。
「先生ー! ここにウチの生徒をナンパしてる男子がいまーす!」
「何だと!?」
俺の肩がギクリと跳ねる。
車両の前から歩いて来る180cm位ある女子教員。
そして俺を見るなり、ギロリと睨みつけた。
俺と何故か惚けてる佐藤さんを交互に見て、言う。
「惜しかったな少年。あと少しで佐藤を落とせる所だったぞ」
「だ、だから違いますって!」
女子教員は俺の襟首をあり得ない握力で掴み上げ、とんでもない腕力で俺を引きずりながら車両の廊下を歩き始める。
そして6号車と7号車の連結部分にゴミを放るかのようにつまみ出された。
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「羽切君、女子校の車両まで行ってナンパなんてとんでもない事してくれましたね!?」
俺の班のいる車両まで戻ると、真っ先に先生に説教を受けた。
どうやら制服で学校がバレてしまった上に、学校自体が近いので何らかの手段で連絡が入ったらしい。
もう誤解であることを説得するのも面倒臭く、ただ静かに説教を受ける事にした。
席に戻るまでの道のりで、「ナイストライ!」や「ナイスガッツ!」とか言って男子達が背中やお尻を叩いてきた。
そして席に戻ると、鹿沼さん以外がニヤニヤして俺を見ていた。
鹿沼さんは何やら怒っている様子で、席に座ると話しかけてきた。
「修学旅行でナンパするなんて最低」
「ナンパなんてしてないっての」
「女子校の車両に長い時間いたのは認める?」
「それは認める」
鹿沼さんの視線は窓の外から動かない。
横顔を見るに、やっぱり怒ってる。
「女子校の女子達に囲まれて楽しかったって顔に書いてある」
「佐藤さんと話してたら、他の女子にナンパに間違われてつまみ出されたんだよ!」
「バカ」
それだけ言って、鹿沼さんは沈黙した。
「未央がいたのか? 今度は俺が行こうかな」
「辞めとけ。ゴリラみたいな女教師につまみ出されるだけだぞ」
「それでも俺は……行ってくる!」
八木は席を立ち、車両を登って行った。
馬鹿だなアイツ。
「羽切君、景が怒ってるよ〜?」
戸塚さんはニヤニヤが止まらないらしい。
「わかった。どうしたら機嫌治してくれる?」
「夏休み、デート行こ?」
夏休みは7月20日にスタートする。
今日は7月8日なので、後約2週間後だ。
「デートなんていつでも行ってやるのに」
「羽切君はもっと過激なの求めてるんだ?」
「別にそういう訳じゃないけど」
そこまで言って気づいた。
八木はいないが、ある程度の関係性を知っている戸塚さん以外にも班には二人残っていることを。
周りを見渡す。
原田はイヤホンでアニメを見ていたため、セーフ。
しかし、桐谷さんが俺たちの会話を聞いて目を丸くしていた。
「えっ、何? 羽切君も鹿沼さんの事好きなの?」
……“も”?
「鹿沼さんにデート誘われて断る人いないでしょ?」
「でも、なんか今までも何回かデートしましたみたいな感じの会話だったけど!?」
桐谷さんが何やら驚いているが、俺はさっきの“も”が気になった。
それは鹿沼さんが俺のことが好きで、俺たちが両想いだったの?の意味なのか、それとも桐谷さんが鹿沼さんの事が好きで、さっきの会話で俺も鹿沼さんの事が好きなの?の意味なのか。
ほぼ確実に後者だろうな。
鹿沼さんは俺と同じで好きの感情は知らないはずだ。それはお泊まりの時にも確認した。
つまり桐谷さんは、戸塚さんと鹿沼さんが好きだと言う事になる。
正直、そっち側の人の恋愛事情はわからないので、今は置いておくとする。
「それで、デートでいいの?」
「そこまで言うなら、もう少し考える」
桐谷さんの問いかけをガン無視した会話。
「そうだ景、ウチいつ来る〜?」
修学旅行が終わったら、戸塚さんの家で診療を受けるという話をした。
診療場では無く家にしたのは一度、戸塚さんの親と顔を合わせた方がいいと思ったからだ。
それはもしかすると、俺がいなくなっても戸塚さん家が鹿沼さんの助けになると踏んだから。
「うーん、夏休み中か終わってからにしようかな」
「じゃあ、いけそうなときはチャットするね〜」
やはり戸塚さんの存在は大きい。
鹿沼さんをサポートしてくれる人がいれば、あとはトラウマをどうにかした後、俺は不必要になる。
何の気がかりも無く転校ができる。
そう思い、窓の外に視線を移した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
新幹線を降り、俺たちは新横浜で解散した。
家まで鹿沼さんと道のりが同じなので、隣り合わせで歩いた。
「修学旅行楽しかったね」
「ああ」
そんな会話をしながら歩いていたら、鹿沼さんは「えっ?」という声を漏らして立ち止まった。
「どうした?」
「アレ」
鹿沼さんが指を差した方向を見る。
そこには俺の家と鹿沼さんの家があった。
「私の家、電気ついてる」
確かに部屋の電気がついているように見える。
「消し忘れたとか?」
「それはあり得ない」
俺達は玄関の前まで行く。
そして家の周りをグルリと回ってみるが、部屋と玄関の明かりは間違いなくついている。
そして中には人影らしき物も見えた。
俺達は玄関の前に戻る。
「どうしよう……泥棒かな? 警察呼ぶ?」
「一回落ち着こう」
確かに鹿沼さんは鍵を落とした過去がある。それを利用されて泥棒に入られる事だって可能性としてはある。
だが、それ以上に可能性が高い事が一つあった。
「鹿沼さんはここで待ってて」
そう言うと、俺は玄関を開ける。
鍵は掛かっていなかった。
そして中に入って、リビングの方へ。
リビングのドアをゆっくり開けると、やはり人がいた。
その人はキッチンの方に消えていったので、俺は戻ろうとドアを閉めるが、開けた時よりも強めに閉めてしまったのでドアの上部にある鈴が鳴ってしまった。
近づいてくる人影。
「あら景? 帰ってきた――のお!?」
フライパンが俺の顔面を直撃した。
これにて修学旅行編、終了です。
次は夏休み編。
パソコンのデータが消えたので、ロードマップが無くなって焦りまくってるなう。