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【26話】 修学旅行⑧ (抜け出し)

パソコンが突如壊れた為、スマホで書きました。

全角半角数字とかダッシューーが変になってるかもですがご了承ください。

 俺たちはタクシーの後部座席に座った。

 


「それで、運転手さんはどうしてここにいるんですか?」



 鹿沼さんの当然の疑問。



「タクシー貸切の契約は今日までだからだYO!」

「今日までってことは、0時までって事ですか?」

「そうだYO!」



 どうやら学校との貸切契約は今日の0時までで、それを律儀に守っているらしい。

 夜に学生が抜け出してくるなんて想定していないので、他のタクシーは通常業務に戻ったのだろう。



「それでお客さん、どこに行きたいのYO?」

「どこかに行きたくて抜け出してきたわけじゃないので、大丈夫です」



 こんな時間に旅館から女子と抜け出したのも問題なのに、タクシーで移動したなんて知られたら大問題になりかねない。

 それに俺たちだけじゃなく、運転手さんにも迷惑がかかるかもしれない。

 


「俺のことは心配しなくていいのYO?」



 俺が何の心配をしているのか気づいたのか、そんなことを言ってきた。



「せっかく旅館から抜け出したんだし、彼女さんと夜のデートに行きたくないのかYO?」



 そこまで言うならと思い、真剣に考えてみる。

 しかし夜の京都で行きたい場所なんて無かった。

 しばらく考えていると、鹿沼さんが前のめりになって口を開いた。



「ねえ運転手さん、私行きたいところあるの」

「どこだYO?」

「――ってところなんだけど」



 おいおい、マジか。



「――かYO?」



 運転手さんもマジかよって顔になる。

 それでもエンジンをかけて、タクシーは動き出した。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 


 15分ほど走ると、窓の外に見覚えのある建物や道路、公園が見えてきた。

 あの時と雰囲気魔が全く変わらない。



「着いたYO!」



 タクシーが止まりフロントガラスを見ると、あの日のままの学校が建っていた。

 そう、俺たちが中学2年生の時に通っていた学校。



「いこっか」

「ああ」



 俺は鹿沼さんと一緒のドアから外に出る。



「運転手さん、ありがとうございます」

「いいんだYO! それよりこれ持っていきなYO!」



 運転手さんは俺に懐中電灯を手渡してきた。



「ありがとうございます。帰りもお願いします」

「了解だYO!」



 そう言ってタクシーの運転手さんはエンジンを切る。すると一気に辺りが静かになり、不気味さが増した。



 校門の前まで歩くと、一枚の張り紙が目に止まる。

 


『――中学校は廃校となりました』



「廃校……」



 鹿沼さんが呟く。

 俺達が在学していた頃、一年生が居なかったことを不思議に思っていたのだが、こういう事だったのか。

 


「中、入ろっか」

「いいね」



 せっかくここまで来たんだから中まで見ないと損だ。それにいつ壊されるかもわからないし。

 校門の柵門は鎖で固く結ばれていたので、俺達はよじ登って上を飛び越えた。



 無駄にでかい校庭が目の前に広がる。

 俺達は校庭の真ん中をまっすぐ校舎に向かって歩き始めた。

 


「ねえ、ナルくん」



 校庭の真ん中まで来たところで、鹿沼さんが立ち止まった。



「手、つなごっか」



 そう言って手を差し出してくる。



「しょうがないな」



 俺はその手を握る。

 合コンの帰り以来の手繋ぎ恋人キャラ。



「景は恋人キャラ好きだね」

「この学校では私達、本当の恋人でしょ?」

「2年前まではな」



 俺と鹿沼さんは形式上、確かに恋人だった。

 正確に言うと俺が鹿沼さんと付き合ってるという噂をわざと流した。

 しかしそれは2年前の事。



 俺は鹿沼さんと恋人的なことは何もしなかったし、転校してからは完全に忘れていた。

 鹿沼さんの風貌は何となく見た事があったが、まさか自分と同じ境遇にいる同一人物だとは夢にも思わなかったから。



 もっと早く認識していたら、今頃もっと親密な関係になっていたかもしれない。

 唯一、中学時代を一緒に過ごした特別な存在。

 もしかしたら本当の恋人になっていたかもしれない。



 いや、考えないようにしよう。

 転校人生の後悔を数えたらキリが無い。

 


 そうこう考えていると、校舎についた。

 正面から入ると最初にあるのは下駄箱。所々に傷がついていてボロボロだ。

 下駄箱を抜けると一気に暗くなったので、俺は懐中電灯をつけて足元を照らす。



「結構怖いね」



 夜の廃校に二人きり。

 まるで肝試ししているかのようだ。



「どこ行く?」

「とりあえず……私達のクラスとかどう?」

「いいね」



 当時2年生だった俺達の教室は2階にある。

 下駄箱をまっすぐ行った場所に階段があるので、そこまで移動する。

 遠めにある教室の窓ガラスや暗くてよく見えない廊下の奥の方が不気味で仕方がない。

 鹿沼さんも怖くなってきたのか、俺の腕にしがみ付いている。

 


 夏なのに冷たい空気が吹き抜ける階段をゆっくりと上がっていく。

 そして2階の廊下を見る。

 俺たちの教室は5つある教室の手前から3つ目だ。

 一つ目の教室を抜け、二つ目の教室の奥のドアを通り過ぎた瞬間。



「ばあっ!」

「ひやっ!?」



 脅かしてみた。

 鹿沼さんはビクッと体を大きく跳ねらせ、膨れっ面で睨みつけてきた。



「ビビった?」

「うるさい」



 俺はかつての教室を開けた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 私は今、かつての自分の席に座っている。

 私の時は「死ね」やら「淫乱」やら書かれていたが、今は傷こそあるが綺麗だ。


 

 教室をぐるりと周り、再度廊下に出る。

 そして1メートル程進んだ所にトイレがあった。

 


「ナル君トイレ行きたい」

「わかった」


 私は女子トイレを開けて中に入る。

 そしてトイレの角に立って、入り口に体を向けた。

 


「ナル君入ってきていいよー?」



 あの日と同じように扉が開き、羽切君が私のところに真っ直ぐ歩いてくる。

 そして胸ぐらを掴まれた。



「私、ナル君に襲われちゃう?」

「襲ってもいいの?」

「ナル君になら……いいよ」



 そこまで言うと、彼の顔が赤くなった。

 最近気づいたが、何だかんだで彼も顔に出る。

 


「冗談だよ?」

「わかってるよ」



 そう言うと私の胸ぐらから手が離れる。

 すると静かなはずのトイレにポツポツと音が鳴り始めた。



「何の音?」

「雨……か」


 

 そしてその音は次第に激しくなっていった。

 


 私達はトイレから出て、廊下を歩き始める。

 5つ目の教室の先は保健室で、その先にはすぐに階段がある。

 保健室を見てから階段を下がって、1階の廊下を歩いて元の下駄箱まで歩くつもりだった。

 しかし5つめの教室に途中で羽切君が立ち止まる。



「どうしたの?」



 羽切君は真剣な眼差しで廊下の奥の方を見ていた。

 


「今、光が見えた」

「雷とかじゃ無い?」

「いや、階段のところから……」



 また羽切君が私を脅かそうとしているのだと思ったが、何やらそんな雰囲気じゃ無い。

 恐怖で身の毛がよだつ。

 


 私達は足音を立てないように歩き出し、保健室を通過した。

 そして階段の所で羽切君が懐中電灯の光を下の階に向けて照射する。



 すると――。



 そこには真っ白な顔をした人が立っていた。

 一瞬何が起きたか分からず、見入ってしまう。

 1秒程見合った後、全力で走った。



「うわわわわわわ!?」

「きゃああっっ!?」



 何度も転げそうになるのを堪えて、どこかの教室に飛び込んだ。扉を閉めると私は羽切君を押し倒すように倒れてしまった。



 沈黙。

 そして途轍もない緊張。

 羽切君の太ももに跨ったのは今日で2回目。

 1回目は抱擁だったが、今は違う。

 10cm程の距離に羽切君の顔がある。

 彼の視線はドアの小窓にあったが、私は彼をずっと見ていた。



 10秒ほど彼を見つめていると、私は何故かゆっくりと彼に顔を近づけた。

 近づくにつれて顔も体も熱くなっていって、息も荒くなる。

 そして、彼は嫌がらないと何故かわかる。



 そう言えば美香が言っていた。

 好きという感覚は無意識に体が求めるんだと。

 そしてそれは体から心、頭に伝達していくんだと。

 


 ああ……ダメ、止まれない。

 私は羽切君の唇に自分の唇をーー。



 ギリギリのところだった。

 羽切君の手のひらが間に入って、私の口を塞ぐ。

 


「しっ!」



 私の初めての感覚をよそに羽切君は真剣だ。

 興奮が少しづつ収まってくると、現実に引き戻された。こんなことをしてる場合じゃない。

 廊下に意識を集中させると、誰かが走っている音が聞こえた。



「ヒョヒョヒョヒョヒョ」



 という奇声を発して。

 サァーっと血の気が引いていく。

 羽切君を見ると、同じく血の気を引いた表情だった。



 5分ほど隠れていると、ヤツの気配が消えた。

 私は羽切君に連れられて廊下に出る。そして歩いて一階まで降り、下駄箱まで見つかることなく辿り着いた。



 そして校舎から早足で出る。

 こういう時不思議なもので、走る事ができない。

 下手に走ると見つかってしまうと感じてしまうから。



 私と羽切君は雨に濡れながらタクシーの中まで入った。



「肝試しは楽しかったかYO?」

「ヤバイですよ、変な奴がいました」

「変なやつって……こんな奴かYO?」



 そう言って振り向く運転手さんは真っ白だった。



「うわああああああっ!?」

「きゃあああああっ!!」



 変な奴は運転手さんだった。

 

 


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 私達は運転手さんから貰ったタオルで頭と体を拭き、旅館に戻った。

 時間は2時を過ぎていた。



 私は羽切君と2階で分かれ、自分の部屋に入った。

 そして思い返す自分の初めての感覚。

 私はあの時、羽切君にキスを……。

 体と顔が再度燃焼する。

 そしてひどく動揺した。



 私はこの感覚をいち早く知らせたかった。

 美香の布団の中に入って、寝ている美香の肩をトントンと叩く。



「美香! 美香! 起きて」

「うん……?」



 ゆっくりと美香の目が開いた。



「アレ……景、帰ってきたの〜?」

「うん、それより聞いて」

「うん〜?」



 美香は眠たそうだが、こちらを見ていた。



「私、羽切君の事が好きかもしれない」



 美香の目が大きく開かれ、ニヤリと笑った。



「何があったか話そうか〜」



 さっきの出来事を朝まで美香と語り合った。

 









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