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【23話】 修学旅行➄ (奈良県)

 

 

 修学旅行の最後の1泊は、この2日間とは違う旅館で寝泊まりする事になっている。

 私達は3日目の観光を終え、一度タクシーで元の旅館に戻った後、荷物を持って新しい旅館に移動した。

 タクシー運転手は少し寂しそうにしていたが、それでも別れ際まで「フォ~!」と元気いっぱいに振舞ってくれていた。

 


 私達は旅館に入り、男子とはエレベーターで別れた。

 今回の旅館も男子は3階で女子が2階だ。

 私達はエレベーターを降り、指定された部屋に入る。

 そこは畳部屋で部屋の中央には四角いテーブルが置いてある。



「ほとんど前の旅館と同じじゃん」



 その部屋を見て、桐谷さんが言った。

 私と美香も苦笑いする。

 


 間取りは前の旅館と全く一緒で、唯一違うとすれば押入れがあるくらい。

 まぁ、そこには布団が入っているのだろうけど。

 美香が押し入れに近づき、開けた。



 私は鹿に弄ばれて汚れた制服を脱ぎたかったので、ブラウスのボタンを外した。そして脱いで、部屋着を着る。



「景、こっち着た方がいいんじゃない~?」



 美香は押入れから何かを取り出した。

 それは背景色が白で黒の蜂の巣のような模様がついた衣服だった。



「それは……浴衣?」

「んまぁ~、寝巻きかな~?」



 それは浴衣風の寝巻きだった。

 


「お風呂入ってから着ようかな」

「そっちの方が良さそうだね~」



 せっかくだから旅館の寝巻きを着る事にした。

 


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 



「景、髪洗ってあげる~」



 風呂場の鏡を見ると、美香が後ろに立っていた。

 今回の旅館ではお風呂の時間が3班ごとに決まっている。私達は一番最後の時間帯に決まっており、その中でも私と美香は遅めに風呂場に入った。

 1番最後の時間帯というのは人気が無く、私達は時間帯決めの段階で競合する他の班は無かった。

 

 

 美香はシャワーのノズルを持ち、私の頭にお湯をかける。

 そして自分の持ってきたシャンプーを手に取り、私の頭皮を揉むような手つきで洗い出す。

 


「美香、上手いね」

「そうでしょ。将来の夢は美容師なんだぁ~」



 誰かの夢を聞いたのは、初めてだった。

 同時に自分の夢って何だろうと考えてみる。

 けど、すぐには思い浮かばず、断念。



「あっれ~? お客さん髪の毛染めてますか~?」

「痛んでますか?」

「いいえ~、凄くお綺麗ですよ~?」

「それは、ありがとうございます」

「お客さんには、私のトリートメント使いますね~」



 そんなやり取りをして、髪の毛を洗ってもらった。

 同級生に髪の毛を洗われたのは人生初の事で恥ずかしかったけど、途中で美香のシャンプーやトリートメントの手つきの気持ち良さが上回り、気にならなくなった。

 

 

「じゃあ次は~、お体を洗いますね~?」



 それにしても、今回の修学旅行は楽しかった。

 今までの修学旅行では皆とバカなことをしたり、こうやって友達とお互いを洗い合うなんてことも無かった。

 それに前から聞いてみたかった羽切君の転校の件についても聞けたし。

 

 


 そんな事を考えていると、体がゾクゾクっとした。

 見ると、美香が私の胸と内太ももを素手で優しく洗っていた。


 

「お客さん、この辺汚れてますね~?」

「くすぐったいってば!」



 美香は私の両腕を包み込むように抱き着いてきていて身動きが取れなかったが、手の甲を思いっきりつねって何とか抵抗した。

 


「痛てててて」

「背中だけにしてください美容師さん?」

「ハーイ」



 私は自分の体を自分で洗い、美香は私の背中を洗った。

 そして私も美香の髪と背中を洗い、浴槽に入る。



 浴槽に入ると「ふぅ~」と反射的に声が出た。

 目の前にいる美香もリラックスしている様子だ。



「ねえ、美香」

「なあに~?」



 初日のお風呂と全く同じ会話の始まり方。

 あの時はゴムについてだったが、今回は美香について聞いてみることにした。



「美香は誰かと付き合った事あるの?」

「あるよ~」



 リラックス状態の惚けた声だった。



「人を好きになるって、どんな感じ?」

「景は誰かを好きになった事がないの~?」

「ない……かな」

「マジか~」



 美香は尚もリラックス状態。

 少し沈黙した後、再度美香が口を開いた。



「でも私の場合は少し特殊だから参考にならないかもな~?」

「どういう意味?」

「それは内緒~」

「えー」

「それを言ったら嫌われちゃうかもしれないからね~」



 言うと嫌われる特殊な何かが美香にはあるらしい。

 

 

「景は誰かと良く目が合うって経験ない~?」

「あるけど……それが好きって事なの?」

「それはまだ気になってる段階かもしれないし、好きなのかもしれないね~」

「それじゃ何もわからないじゃん」

「そうでもないよ。気になってるって事はその理由があるはずだよ~」



 気になってるからには何かしらの理由がある。

 そしてその理由を見つけるのが大事って事なのかな。



「その人といると安心するとか、匂いが好きとか、笑顔が好きとかね~」

「なるほど」

「極端な所まで行くと、その人とエッチしたいとかも一つの“好き”なんだよ~」

「うーん、難しいね」

「そう、難しいの。ほとんどが“本能”だからね~」



 “本能”で片付けられてしまった。

  


「それでね、好きな人を体が求めるの。本当に無意識にだけど、気づいたらその人の近くにいるとか、ボディータッチしちゃうとか~」

「へー、頭より先に体が動いちゃうんだ?」

「そうそう、体が先で後から心そして頭って順に理解していく感じかな~」



 なんだか少し分かった気がする。

 美香は自分が特殊だから参考にならないって言ってたけど、十分参考になった。

 


「ありがと、美香」

「いいよ~」

「美香は精神科医にもなれそうだね」

「親が精神科医だから、ならないかな~」



 へー、それは初耳。

 でも美香を見てるとなんだか納得しそうになる。

 美香は感情という形の無い物も上手く分析して説明してくれてる。

 何かを細かく人に説明するのが上手い人なんだと思う。



 それにしても、美香の嫌われる特殊な何かって何だろう……。

 


「じゃあ次は私からの質問で~す」

「はい、どうぞ」

「景と羽切君は本当はどういう関係ですか~?」

「ただのクラスメイトですよお医者さん」

「羽切君が転校して来てたったの3日で家でお泊りをして、リオンで引っ付きながら歩く関係になったんですか~?」

「そ……それは……」



 今更だが違和感しかない。

 一度打開策を考えてみるが、見つからない。

 てかよくよく考えてみると、私と羽切君が同じ中学校に在籍していたという事を言ったところで別に何にも問題ないのでは?

 


 それに美香はもう私達が今年初めて会った関係ではない事は薄々気づいてると思うし、誤魔化し続けて美香との関係に亀裂が入るのも嫌だった。



「羽切君に許可をもらったら教えてあげる」

「は~い」



 私達は浴槽から出て脱衣所に向かった。

 体は少しのぼせていた。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 



 お風呂から出て私達は寝巻きに着替えた。

 浴衣風の寝巻きが歩いてる途中ではだけない様に紐を強めに結んでおく。

 


「結構涼しいじゃんこれ」



 美香が言う通り意外と風通しが良くて涼しい。

 旅館の廊下を歩いている人のほとんどが同じ寝巻きを着ていた。

 私達はご飯もお風呂も終わったので、この後は就寝時間まで暇だ。

 

 

 とりあえず部屋に戻り、寝る準備整える。

 中央にある机をどかして布団を敷く。

 私は一番壁際で美香がその隣。そして美香の隣が桐谷さんという並びで布団を敷いた。

 桐谷さんは同じ軽音学部の部屋で音楽についての話をしているらしく、就寝時間まではいない。

 


 時計を見ると、20時30分になっていた。

 これが修学旅行最後の夜だと思うと少し寂しい。

 そんな事を考えていると、部屋の扉が勢いよく開いた。



「道場破りじゃ~~!!!」



 見ると、他クラスの女子5人が部屋の中にドカドカと入ってきた。

 


「ここ道場じゃないんだけど~?」

「関係な~い! 一つ一つの部屋で暴れているのだ!」



 どうりで外が騒がしかったわけだ。

 


「二人が参ったと言うまで何でもやるのだ!」

「私に勝てると思ってるの~?」

「美香の弱点はもう分析済み! やっちゃって!」



 そう言うと、4人が美香の手足を抑える。

 


「ちょ、ちょっと~?」

「美香の弱点は~、わきの下だ!」



 5人組の一人が美香の浴衣風寝巻きの紐を引っ張る。

 そして開けたわきの下に手を伸ばして、くすぐり出す。



「こちょこちょこちょこちょ!」

「ぎゃははハハっ参った参ったって~!」

「まだまだ~!」


 30秒ほどそんな事が続けられると、美香はその場でゼーハゼーハと息切れしながら倒れ込む。



「次は~鹿沼さんなのだ!」

「ええっ!?」



 私もまた、両手両足をがっしりと固定される。

 そして一人が私の前で立ち止まる。

 


「鹿沼さんの弱点はどこかな~?」



 目の前に立つ一人が、私の首筋を擦りだす。



「ひゃうっ」



 変な声が出た。



「景は全身が性感帯だからね~」

「ちょっと美香!?」



 その言葉を聞いた一人が私の紐を引っ張る。

 ひらりと地面に落ちる紐。

 


「御開帳!」



 そして前が開かれた。

 私はインナーを着ていなかったので、中はすぐに下着だ。

 夜に男子と会う事は無いと思って、着なかった。

 寝る前にブラだけ外して、インナーを着ようとしていた。

 6人組はニヤニヤしながら私の体中を触り始めた。



「ちょ、ちょっと、くすぐったい!」



 他クラスの女子と戯れている。

 それが何だか楽しかった。

 でも時間と共に、心臓の音が高鳴り始める。



 ――あ、あれ?



 ニヤニヤと笑う女子。

 無理やり体を拘束され、肌を露出してる私。



 記憶の中のあの日と重なって見えた。

 そして聞こえた気がした。



 ――鹿沼さん、久しぶりだね。



 ドクンと大きく脈打った。

 恐怖に手が震え、声が出ない。

 少しづつ聞こえなくなってく耳。

 奪われていく体温。



「今日の――は――だ!」



 何かを言って、彼女らは部屋からドタドタと部屋を出て行った。



 私はその場に倒れ、うずくまる。

 もう何をされても抵抗はしない。

 殴られても蹴られても。

 耐えればいいだけ。

 ああ、怖い。



 ――助けて……羽切君……。

 

 

 

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