【20話】 修学旅行② (伏見稲荷神社)
「ふぁああああっ」
畳の宴会場に並ぶ朝食を目の前に、大きな欠伸が出た。
「羽切君、寝不足?」
見ると、戸塚さんも目をしょぼしょぼさせていた。
「戸塚さんも眠そうだけど」
「昨日遅くまで喋ってたからね……そっちは?」
「夜中に2階に降りたら、先生に見つかって2時間説教」
「ああ……夜這いしようとしたってわけだ」
「あながち間違ってない」
八木が、だが。
昨日……というか今日だが、体育教師に見つかって、2時間も正座をさせられた。
部屋に戻れたのは3時30分。
起床時間が8時なので、4時間くらいしか寝れなかった。
「ちょっと風花? 何、朝から何赤くなってるの?」
戸塚さんの隣に座る桐谷さんを見る。
桐谷さんの顔は確かに赤くなっていた。
そういえば、先生に見つかる直前にとんでもない顔をした桐谷さんに会ったな。
「そういえば、鹿沼さんは?」
八木もまた眠たそうに目をしょぼしょぼさせている。
「景はまだ寝てる」
「起こさなかったのか?」
「後10分したら起こしてきてって言われた」
時計を見る。
時刻は8時20分。
「もう起床時間から20分経ってるけど?」
「じゃあ羽切君起こしてきて」
「なんで俺が?」
「男の方がびっくりして起きるでしょ」
「しょうがないな」
俺は朝食を途中で終え、鹿沼さんを起こしに行くことにした。
鹿沼さん達の部屋は2階の廊下の奥。
ちょうど俺達の部屋の真下に位置している。
俺は宴会場を出て、目的の部屋の前まで歩いた。
中からゴソゴソと何かをしている音が聞こえるので、鹿沼さんは起きているのだろう。
20分遅れで起床してくるとは、相当なお寝坊さんだ。
ここは一発景気づけに驚かせてやろう。
そう思い、俺は襖を思いっきり開けた。
「朝だぞ起きろ!!」
「きゃあああああああっ!!」
鹿沼さんは制服に着替えてる最中だった。
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「ねえ、美香」
「なあに~?」
私は今、大浴場のお風呂に美香と浸かっている。
他の女子は既に出てしまっていて、広い浴場を二人で独占状態だ。
美香はお風呂にぷっかーと体を浮かせながら、返事した。
「ゴムって何か知ってる?」
「ゴム?」
美香は尚も体を浮かせながら、ゆったりしている。
「それって、輪ゴムとかの事?」
「いや……そうじゃないと思うんだけど」
「じゃあどういうの?」
「多分その……あっち系の……」
「ああ」
美香は姿勢を正し、私の前に座った。
「コンドームの事?」
「コンドーム?」
聞きなれない言葉が出てきた。
「えっ、景コンドーム知らないの?」
「何ソレ?」
「うっそー!?」
美香は信じられないという表情でこちらを見つめた。
この人と関わって初めて驚いたような顔を見た。
それくらい常識的なことを私は知らなかったのだろうか。
「景ってさ、性教育とか受けてきた?」
「うーん、ほとんど受けてないかも」
中学時代は転校ばっかりで、保健体育の性の分野のところはいつもいなかった。
友達もいないからそういう話になる事も無かったし。
美香は「はぁ~」と大きなため息をつき、額に手をあてて悩んでいる様子。
「じゃあさ、羽切君とは生でやったんだ?」
「生?」
「ちょっと羽切君の事、見損なったなぁ~……」
「美香? 何の話してるかわからないんだけど?」
「景、体調に変化とか無い? 生理はちゃんと来てる?」
美香は凄く真剣にそんな事を聞いて来る。
こんな彼女見たことなかった。
「だ、大丈夫だよ」
「なら、妊娠の確率は低いか……一応明日検査キットを……」
「妊娠!?」
一体本当に何の話してるの!?
「私、羽切君とエッチなことしてないよ!?」
「え?」
美香は真剣な顔から変な声が漏れた。
「でも景、羽切君と寝たでしょ?」
「うん」
「同じお風呂使ったでしょ?」
「うん」
「じゃあエッチしてるじゃん!」
美香はやはり真剣な眼差しだ。
「美香、こんな私でもエッチしたかどうかくらいわかる」
「本当に? 絶対に?」
「それは、もちろん」
美香はしばらく私の目をじっと見ていたけど、私が嘘をついていないと確信したのか「よかった~」と胸を撫でおろした。
「そ、それで美香、コン、コン、コンドル?って何か教えて?」
「コンドルは鳥の名前だね~。コンドームでしょ」
美香は私に体を密着させた。
「それは夜に教えてあげるからさ~、私は羽切君との関係教えてほしいな~?」
「そ、それは……ッ!?」
美香は私の体の様々なところを柔らかい手つきで触ってきた。
「くすぐったいよ美香ッ……!」
「景って結構エロい体してるよね~」
「わ、わかったからっ! 教えるから!」
そう言うと美香の手が止まった。
私は羽切君との関係を話した。
話したと言っても、羽切君との関係なんてほとんど無いから話すこともあまりない。
あるとすれば、同じ転勤族で中学1年生の時から同じ学校だった事と、あの3泊4日についてくらいだ。
中学1年生の時から同じ学校だった事は隠し、あの3泊4日を中心に話した。
「美香はどうしてお泊りの事わかったの?」
もし羽切君が陰で言いふらしていたらどうしよう。
そんな不安を感じながら、聞いてみた。
「だって、匂いが一緒だったんだもん」
「匂い?」
「合コンの日、羽切君が隣に来た時にピーンと来たんだよね~。髪の匂いも体の匂いも全く一緒だったからさ~」
これは盲点だった。
こんな嗅覚の持ち主がいるなんて。
私は美香と色々お話をした後、お風呂を出た。
その夜、私は美香と隣り合わせで寝て、美香から性教育を受けた。
ゴムが何なのかやその注意点。
その他の避妊用具の存在。
そして、どういう行為や姿勢があるかについても緻密に美香は教えてくれた。
私の持っている知識よりも、かなり動物的で過激だった。
その夜はムズムズして眠りにつけなかった。
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修学旅行2日目。
俺達は今、京都の伏見稲荷大社に来ている。
今日の予定は伏見稲荷大社の「お山めぐり」をするらしい。
「お山めぐり」とは、伏見稲荷大社の稲荷山を一周するというもの。
全長約4キロメートルの石段を登って、山頂まで行って降りる。
途中に大量の真っ赤な鳥居があり、定期的に参拝できる場所が存在している。
所要時間は混雑していなければ2時間。しかし、混雑していると3時間4時間かかる場合もある。
よって、今日はこの後の予定は入れていない。
もしも時間が余ったなら、近い観光地に行く予定ではあるが。
「すっげえ」
楼門前で八木が声を漏らした。
ここは伏見稲荷大社の正門とされてていて、東京都内の神社の楼門の中でも最も古く、最大のものだ。
さらに国の重要文化財にも指定されていて、真っ赤で美しい。
「キツネちゃん可愛いね」
鹿沼さんが後ろから歩いてきて、隣に立った。
楼門前の左右には神様の使いであるキツネが鎮座していた。
左側のキツネは「鍵」を咥えていて、右側は「玉」を咥えている。
「お前の鍵、コイツに盗まれてたりしてな」
鹿沼さんが落とした鍵はいまだに見つかっていない。
今は母親から郵送された鍵で家を出入りしている。
「そういう事言うと、バチが当たるよ?」
「そういうの信じてるの?」
「信じてるよ」
「意外と信心深いんだな」
「おーい! お二人さん、行くよ~!」
呼ばれた方角を見ると、戸塚さんが門の下で手を振っていた。
「それじゃ、行きますか」
鹿沼さんはそう言うと、階段を上がっていった。
もう20話まで来てしまったみたいです。
ここまで読んでくれている方々に感謝しかありません。
ありがとうございます。
それと昨日、累計PVが1000を超えました。
ま、数打ちゃPVは増えるんですけどね。
何もかもが人生初なので、全てが嬉しいです。
本当はもう1作品同時進行で書こうと思っているんですが、世界観の特性上かなり難易度が高いと思っていて、思いとどまっています。
いつの日か、出せるといいなとは思ってます。