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【18話】 いじめ④

「久しぶりだね、鹿沼さん」



 リーダー各女子はニヤッと笑った。

 顔にはいくつかの小さな痣と鼻に大きなテーピングがされていた。



「鼻の骨にね、ヒビが入ったんだって」



 どうやら私は彼女の鼻を傷つけてしまったらしい。

 


「医者が言うにはね、鼻の形が少し変わっちゃうかもだって」



 彼女の息が少しづつ荒くなっていく。

 


「私はあなたに女として大事なものを傷つけられたの」

「それは……ごめんなさい」

「前にも言ったけど、謝罪とかいらないんだって!」



 彼女は他の4人より前に出て、私の目の前まで来る。



「その代わりあなたには、女としてもっと大事なものを傷ついてもらおうと思うの」



 目には目を、歯には歯をという事らしい。

 でも、女として大事なものって何だろう。



 確かに鼻というのは顔の中で特に重要な部位だ。それを傷つけてしまったのは申し訳ないと思っている。

 でもそれ以上に大事なものって何?



「それは……何でしょうか」



 素直に聞いてみた。

 すると、彼女はニヤリと笑って言った。



「鹿沼さん、撮影会しよっか」

「撮影会?」

「やっちゃって」



 彼女がそう言うと、後ろにいた女子二人が私の両腕を抑えた。

 


「鹿沼さんの裸、男子達は興味あるだろうな~」



 ……裸? まさか。



「やめてっ!」



 私は必死に抵抗するが、両腕を二人に抑えられてて動かせない。

 足も恐怖でブルブル震えてきて、まともに動かせなかった。

 


 ああ……だめ……。



 リーダー格が私のネクタイを乱暴に取った。そして、ブラウスのボタンを一つ一つ外し始める。

 


 これ以上は……。



 ブラウスのボタンが全部外され、私の前は大きく開かされた。

 もう私を守るのは、布一枚。

 リーダー格の背後には二人の不良女子がスマートフォンを取り出し、こちらに向けている。



「学校中の男子に送ってあげるんだ~」



 もう……ダメだ。



 彼女らに裸を撮影されてしまう。

 そんな事されたら、この学校から転校しても安心できなくなっちゃう。

 次の学校もその次の学校も、高校生になっても。

 どこで誰が持ってるかわからない私の裸写真に、ずっと怯え続けなきゃいけないの?



 心が折れる寸前。

 頭は真っ白になり、周りの音も聞こえなくなっていた。

 


 リーダー格の一人が私のブラに手を伸ばしてきた。



 ――終わった。



 しかし、その手が止まる。

 私の前にいる女子3人が後ろを振り返っていた。

 見ると、女子トイレの入り口に金髪の男子が立っていた。

 

 

 さっきまで喧嘩してたかのように怪我だらけの不良男子。

 身長も体格も恵まれているわけではないが、不良男子としての地位は相当上位にいる転校生。

 


 彼と不良女子達は何やら話している。

 彼は怖い顔をしているが、不良女子達はニヤニヤしながら話している。

 

 

「この子、淫乱だから――」

「――楽しませてもらう」



 会話の一部が聞こえてきた。

 表情や会話の一部から、彼と彼女らが結託していると理解する。

 そして彼は、私の目の前まで歩き立ち止まった。

 

 

「今むっちゃ溜まってんだ――」



 そう言って、彼は開かれた私の胸倉の左右を両手でつかんだ。

 私は襲われる恐怖に、目を強く閉じる。

 しばらく暗闇の中で恐怖に震えていたが、彼の手が私の肌に触れることは無かった。



「ごめん」



 彼は私のブラウスから手を放す。

 それと同時に私はゆっくりと目を開いた。

 そこにいたのは、悲しい瞳をした不良。



 自分の体を見下ろすと、ブラウスのボタンが全て留められていた。

 周りを見渡してみると、不良女子はいなかった。



「な、何に謝ってるんですか……?」

 

 

 保健室で初めて話したときと立場が逆だった。

 私が質問者で、彼が回答者。

 凍り付いた唇に体温は戻っていなかったが、何とか声を発せた。

 

 

「俺のせいで君を傷つけてしまった」



 彼らしくない言動。

 彼らしくない表情。

 彼らしくない行動。



 やっと動き出した頭で彼の言葉を咀嚼する。

 確かに彼が来てから、この学校で喧嘩は増えた。

 そのせいで私は当初よりも多くの不良男子と面識を持つようになった。

 そのせいで私はいじめられた?



 確かにその一端は彼にある。

 けど、大部分は私に問題があったはずだ。

 介抱キャラを選んだことも、不良男子に優しくしたことも。

 それによって男子が私を好きになるなんて知らなかったし、不良女子がそういう女子を嫌うなんてことも知らなかった。



 彼が転校してこなくても、いつかはこうなっていたと思う。

 でも今は――。



「そうだね、全部あなたのせい」



 彼のせいにしておくことにした。



「だから、責任取って」



 彼は難しそうな顔になった。

 何かを考えている様子だ。



「卒業までは無理だけど、俺がいる間は守るよ」



 トクンと心臓が脈打った。

 それが何なのかはわからないけど、胸が急に熱くなったのを憶えている。

 その後、私達は一緒に女子トイレを出た。

 トイレから出てきた私達を不良女子達はニヤニヤしながら見ていたけれど、何もされてないし、もうどうでも良かった。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 



「それにしても、あいつ凄い顔だったな」

「羽切君が言ったんだよ? 全てを捨てて全力でやれって」

「まさかあんなボコボコにするなんて思わなかった」



 私はクスッと笑った。



「それに、殴り合えば女子でも仲良くなれると思ってた」

「羽切君は女子を知らないね?」

「そうみたいだな」



 本当に不思議な感覚だった。

 彼の隣にいるだけで、この半年で一番安心しているのだから。

 ずっと危険だと思って近づかなかった彼が隣にいるのに。

 私達の家は近いようで、途中まで一緒に帰った。




 次の日から、私と羽切君は付き合っているという噂が流れた。

 多分流したのは羽切君本人だと思う。

 すると誰も私を誘わなくなったし、傷つけようともしなくなった。



 一緒に帰った日以降、話すことは無かった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 2週間後、私は転校した。



 そして転校先で2カ月が経つと、転校生が来た。

 名前は羽切成。

 アニメTシャツの透けたワイシャツで。

 彼は完全なアニメオタクになっていた。

 正直目を疑ったが、間違いなく彼だった。



 私は声を掛けてみたけど「だ、誰ですか?」とビビりながら言われてしまった。

 どうやら彼は、前の学校に全てを捨てて来たらしい。



 そんな彼を見てると、私も頑張れる気がした。

次からは通常の話に入っていきます

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