【17話】 いじめ➂
チャイムが鳴った。
「今日はここまでにしてあげる」
そう言うと、不良女子5人組は教室を出て言った。
真っ暗な教室で私はうずくまっている。
体中に鈍い痛みを感じながら私はゆっくりと、目を開けた。
彼女らは私を殴ったり、蹴ったり、首を絞めたりしてきた。
ほとんどが体や腰、お尻や太ももなどの見えない所ばかり。
私は途中から悲鳴を上げることも、抵抗する事もできなくなった。
彼女らは楽しそうだった。
男子に気に入られている私をいじめて、滅茶苦茶にする事で優越感を感じているようだった。
初めて彼女らにいじめられてから2週間。
私は毎日のように彼女らにボコボコにされた。
場所は空き教室だったり、校舎裏だったり、トイレだったりと様々だ。
そんな毎日に耐え続けていたら、制服のブラウスやスカートも少しづつ汚れていった。
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転校まで残り2カ月となった。
8月中旬になり、今年一番の真夏日らしい。
電気のついていない教室は太陽の光だけで明るくなっている。
今日の“調教”が終わった。
彼女らは私をいじめる事を“調教”と呼んでいる。
彼女らが教室を出た後もしばらく床に横たわっていた。
終わったという安心感もあったが、それ以上に立ち上がる元気も気力も残されていなかったからだ。
今日は体だけでなく、顔もヒリヒリとしている。
彼女らはいつもの調教方法に追加して顔へのビンタもして来るようになった。
私は立ち上がり、自分の教室に戻る。
クラスの一般生徒の視線が私に集まったのを感じた。
しかし誰も駈け寄ったり、話しかけたりはしてこない。
彼らは私と関わろうとしなくなった。
私は孤独になった。
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「鹿沼さんさー」
「……はい」
転校まで残り1カ月と少し。
私は学校終わりに空き教室に呼び出された。
そこにいたのは、不良女子5人組のリーダー格ともう一人の二人。
もう心も体もボロボロで、彼女らを刺激しないように言われるがままだった。
「うちの彼氏が別れたいって言ってきてるんだよね」
「……はい?」
「それでね、理由を聞いたの」
リーダー格は座っていた机から腰を浮かせ、立ち上がる。
「好きな人が出来たんだって……誰だと思う?」
そんなのわかるわけがない。
私は無言で俯いた。
するとリーダー格の彼女は私の顎を下から鷲掴みにして、強制的に顔を上げさせる。
彼女と目が合う。
一見落ち着いてるように見えるが、瞳の奥にはとんでもない怒りが垣間見える。
「お前だよ!」
いきなり大きな声を出され、体がビクッとした。
「ほんっと、男を惹きつけるよねあんた」
「そ、そんな事ないです……」
「人の彼氏奪っといて、謝罪もないわけ?」
「……ごめんなさい」
私は謝罪をした。
別に奪ったわけじゃないけど、謝罪しておいた方がこの話が早く終わると思ったから。
「言葉の謝罪なんていらない。その代わり、あんたには罰を受けてもらう」
「罰……ですか?」
「淫乱なあんたにとっては興奮できるご褒美かもしれないけど」
いやな予感がした。
「今日から下着禁止な?」
「……へ?」
「ブラもパンツも履いて来るな」
「そん……な」
私のブラウスはボロボロで生地自体が薄くなっている部分もあれば、肌が見えるくらいに切り裂かれている部分もある。
そんな状態で下着を着なかったら、いくら中にシャツやキャミソールを着ていたとしても、形がハッキリと見えてしまう。
それにパンツだって風に吹かれたり、階段の上段にいたら下から見えてしまう。
「毎日朝にチェックして、着けてきたら没収して調教」
「……」
「悪いけど、あんたに拒否権は無いから」
そう言うとリーダー格は、ブラウスの腕の隙間から手を入れてきた。
そして背中のプチッと引きちぎられる音と共に、ブラを無理矢理脱がされそうになる。
ブラの双丘の片方が腕の隙間から出たところで、私は彼女の腕を握った。
「やめてください!」
震える声で言った。
殴られるのも蹴られるのも、首を絞められるのも、顔をビンタされるのも死ぬほど苦しかったけど、転校までの期間は耐えられると感じていた。
でも、これは私の許容を遥かに超えている。
私が抵抗したことで、強烈なビンタが飛んできた。
ブラは完全に脱がされ、すうすうした風が体を巡った。
私は震える手を強く握る。
――何かあったら、全てを捨てて全力で。
羽切君が言ってた言葉が脳裏に浮かぶ。
私は、全てを捨てた。
優しい私、大人しい私、抵抗しない私。
思い返せば、転校するたびに色々なものを捨ててきた。
私は自分を捨てるのは得意だった。
そして再度近づいて来るリーダー格の彼女の鼻先にめがけて、その拳を伸ばした。
人生で感じたことの無い、拳の痛み。
パコーンという音。
「テ、テメェ……」
もう自分を止められなかった。
地面に倒れている彼女に馬乗りになって、やられた全部を返すかのように殴った。
そして首を絞める。
呆然と立っているもう一人が止めに入るまで。
力加減がわからなかったので白目を剥いた彼女を見て、殺してしまったんじゃないかと怖くなった。
私は逃げた。
取られたブラも、教室においてあるかばんも持たないで家まで全力で。
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次の日から3週間いじめは無くなった。
正確には、リーダー格の彼女が学校に来なくなった。
彼女がいなければ他の4人も私をいじめようとしてこなかった。
気づけば、転校まで残り2週間となっていた。
心の中にはまだ恐怖はあった。
彼女が帰ってきたらどんな反撃が待っているかわからないからだ。
それでも、残り2週間という事を考えれば、どんな反撃にあっても抵抗できるし、我慢も出来ると思っていた。
そして、登校した。
やはり何事もなく6限が終わり、自分の教室に戻った。
そして自分の机を見たとき、心臓が跳ね上がった。
「死ね」「いんらん」「消えろ」の文字が太い黒の油性ペンで書かれていた。
私は急いでトイレに駆けた。
彼女が帰ってきたと確信したからだ。
私はトイレの個室に入り、身をひそめる。
ここにしばらく身をひそめ、彼女らに見つからないようにしたのだ。
2時間恐怖で汗を流しながら潜んでいると、尿意を感じたので静かにパンツに手をかけた。
その瞬間――。
視界が一瞬真っ白になった。
気づくと、私の全身は濡れていて、地面には水溜まりが出来ていた。
銀髪から滴り落ちる水滴がその水溜りに模様を作り出す。
そして扉の足元の隙間から何人かの影が入り込んでいた。
乱暴に開けられる扉。
髪の毛を引っ張られ、個室から連れ出されてタイルで出来たトイレの壁に叩きつけられる。
「久しぶりだね、鹿沼さん」
そこにいたのは、包帯だらけの彼女だった。
いじめ編が長くて申し訳ございません。
これでもだいぶ減らしたし、表現も優しくしたつもりです。
次でいじめ編は終わりで、通常の話に入っていきます。
ストックなしで毎日空いた時間に執筆しているので、誤字脱字があるかもしれません。随時内容を精査し、改善していきます。