【15話】 いじめ①
2年前――。
中学2年生の4月18日。
私は京都のある学校に転校した。
そこは治安のあまりよくない地域にある学校で、私が不良という存在を初めて目にしたのがそこだった。
常にどこかで殴り合いの喧嘩が行われている。
それは学校内だけでなく、学校外でも行われていた。
特に隣町の夜山中学校との仲は猛烈に悪いらしい。
そんな学校にも一般的な生徒もいたが、毎日ビクビクしながら生活しているように見えた。
各クラスの3分の1が不良で、不良が学校を支配していた。
不良の多い学校でどうやって半年を平穏に過ごせるだろうか。
それを考え辿り着いたのは、介抱キャラだった。
いくら不良でも傷を治してあげて優しく接していれば、危害を加えてくることは無いと思ったからだ。
介抱キャラなら自分を守りつつ、一般の生徒とも関われる。
私は一般の女子生徒と仲良くしながら、傷を負った不良がいたら保健室で介抱してあげるというスタンスで半年を過ごすつもりだった。
そしてそれは成功した。
最初は怖いと思っていた不良男子も、私が優しく怪我の治療をしてあげたら嬉しそうにしていたし、少しづつ世間話もするようになった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「なあなあ、鹿沼ってめっちゃ可愛いよな?」
「あ、ありがとうございます」
「俺と付き合わねぇ?」
保健室で不良男子の怪我を手当しているとそんな事を言われた。
「ごめんなさい」
「あーあ、振られちゃった!」
「ブハッ、ダッセー!」
「っるせーな!」
不良3人組は、今にも保健室で暴れ出しそうだ。
「でもさでもさ、今から俺達とデートに行かない?」
「それも……ちょっと……」
「いいじゃん、いいじゃん、絶対楽しいって」
「ごめんなさい」
転校して1カ月を過ぎた頃から、遊びの誘いをされるようになった。
本当に稀だったし、断れば引いてくれるので何も問題ない。
「えー、付き合いわりーの」
不良男子の一人はつまらなさそうな顔になる。
「そういえばさ、今日転校生くるらしいぜ?」
「マジ? 女?男?」
「男だってよ」
「鹿沼付き合いわりーから、転校生君いびるか」
「ぷっは、泣かせてやろうぜ」
そんな話をした後、不良男子3人組は保健室を出ていった。
「鹿沼、今度遊ぼうな」
という言葉を最後に残して。
新たな転校生。
私の中には一人の顔が浮かんでいた。
中学1年生の時2回転校したが、そのどちらも私の後に転校してきた男子。
3回目は無いと思っていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「羽切成です。よろしく」
教団に立っている転校生はまさに私の知っている男子だった。
去年はバンドマンだったり、クラスのムードメーカーの役割をして良い意味で印象的だったのを憶えている。
しかし今回の彼は違った。
金髪に染め上げ、制服の着こなし方も別人のようだった。
クラスの不良男子と変わらない見た目と態度。
この学校では普通の男子生徒。
一瞬別人かと思ったが、名前も顔の面影も間違いなく彼だ。
クラスで明るいムードメーカーだった彼がたった2カ月で不良少年になっている。
「ブハッ! コイツの名前ナルだってよ。今日からお前のあだ名、アナルな?」
さっき保健室で「転校生をいびる」と話していた不良男子がクラスの笑いを取るかのような口調で言った。
クラスは不良達の爆笑に包まれた。
しかし羽切君は何も気にしてないかのようにその発言主の不良のところまでまっすぐ歩いて、突然前蹴りした。
後頭部から転げ落ちる不良男子。
すると彼の仲間が一斉に立ち上がる。
「転校生が調子乗ってんじゃねえぞ!?」
教室で乱闘騒ぎが始まった。
殴り、殴られ、蹴り、蹴られ。
彼にとって最悪な転校初日になったと思った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
転校して2カ月が経った。
羽切君が転校してきてから喧嘩が一段と増え、保健室に来る怪我をした不良男子も増え続けた。
羽切君は転校して早々にクラスで喧嘩騒動を起こしていたが、どういうわけか次の日から喧嘩した相手と仲良くしていた。男子は拳を交えると、仲良くなるって聞いたことがあったけど、あれは本当だったみたいだ。
羽切君は喧嘩ばかりしていた。
流れてくる噂も悪い噂ばかり。
それでも彼は、確実に不良男子の中で地位を確立していた。
「ねえ、鹿沼さん」
廊下を歩いていると、女子生徒から声を掛けられた。
振り返ると、廊下を塞ぐように不良女子5人組が立っていた。
「な、何ですか?」
5人のうち1人が私に近づいて来る。
そして私の事をジロジロ見始めた。
顔、体、太もも、足。
視線が一番下まで移動した後、再度私の目を見る。
「あんた、最近調子乗ってるよね」
心臓の音が早くなる。
ここでの返答は内容も大事だが、声の強弱も重要だ。
弱々しく返答すれば、彼女らは私を自分よりも弱いものとみなし虐げ続けるだろう。逆に強めに返答すれば、彼女らの内にある怒りを逆なでする事になる。
私は喧嘩をしたことが無いし、しても弱いと思う。
「調子になんて、乗ってません」
私は返答した。
自分の頭で思っていた声量よりも随分と小さくなってしまっていた。
緊張が原因だろう。
「ふーん」
不良女子の一人はこめかみから流れる私の髪を軽く掴む。
「綺麗な髪だね」
「……ありがとう」
「顔も可愛いし」
「……」
そして彼女は私を睨みつけた。
「ムカつく」
そう言うと、彼女は他の4人のもとに帰っていった。
私は感じたことの無いざわざわした何かを胸に感じていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
転校してから3カ月が経った。
私はこの頃から、違和感を感じていた。
保健室に来る不良男子の私を見る目が、少し変わってきたような気がしたのだ。
怪我をしていないのに保健室に来たり、今までは来なかった3年生の先輩まで来るようになった。
彼らが私のところへ来る頻度は増え続け、遊びの誘いもしつこくなってきた。
私はしつこい懇願に弱い事を自覚している。
粘り強く誘われ続ければ、いつかは折れてしまう性格なのだ。
それでも不良男子と遊びに行くのは、危ない気がして何かと理由をつけて拒否し続けた。
そんな事をしていたある日の下校途中、私は不良男子につけられている事に気づいた。同じ学校の先輩だった。
どれだけ角を曲がっても、一定の距離でついて来る。
私は怖くなった。
その日から、家のインターホンが鳴るたびに心臓が高鳴るようになっていた。もう正常な精神状態ではなかったが、3カ月後に転校が決まっていたのでそこまで耐えればいいと思っていた。
しかし、状況は悪化する一方だった。
家のインターホンモニターに他校の不良男子が映っている事もあるくらいに。
「鹿沼さーん、あーそーぼ」
と窓を叩かれたこともあった。
私は不良から目を付けられないように優しく接していたのだが、それが逆に一番目を付けられる結果となってしまっていた。
私は恐怖で学校に行けなくなった。
まだまだ執筆技術が無さ過ぎて、
読みにくかったら、ごめんなさい。