【14話】 修学旅行メンバー決め
合コンの日から3日が経った。
今日は6月20日。
今日までに鹿沼さんに彼氏がいるという噂は流れていなかった。
恐らくだが、佐藤さんが八木に口止めをしているんだろう。
天然だと思っていたが、意外としっかりしているみたいだ。
「夏休みまで1カ月を切りました」
教壇に立った先生が言った。
クラスは少々浮足立っている。
「……と、その前に修学旅行があります!」
先生は先頭の席に座る生徒に何かを渡している。
次々に後ろの席にわたっていき、俺の席にも届いた。
届いたのは、パンフレット。
夏休み前に修学旅行がある。
公立高校なら6月から7月頃に修学旅行があるのが一般的だ。
問題はどこに行くのかという事。
高校一年生の修学旅行で定番なのは、やはり京都や奈良だろうか。
いや、もしかすると沖縄かもしれない。
パンフレットの一枚目をめくる。
「まぁ、そうだよな」
二枚目には京都・奈良の文字。
沖縄は2年生の夏もしくは3年生の卒業旅行が定番だ。
高校生活が始まってまだ3カ月も経っていない状態では、京都・奈良がベストだろう。
関東周辺の学校に通っている学生の定番は京都・奈良だ。
実は西日本の学校での定番は九州か東京。
東京人からしたら、東京のどこに観光するところあるの?って感じだが、観光地はかなり多い。
中学時代、中部地方を転々としていた時期があるので京都・奈良はもはや地元だ。
まぁ、修学旅行の目的は友達や異性とワイワイすることであり、歴史学習や観光は二の次なので、地元でも楽しめると思うが。
「今日の1限は班決めをしてもらいます」
班決め。
男子3人と女子3人の班を作らなくてはいけないらしい。
前に座る八木が「いち、にー、さん、よん」と振り返って数えだした。
指をさされたのは、八木自身と、鹿沼さんと戸塚さんと俺。
「男子一人と女子一人が足らないな?」
「小学生か?」
戸塚さんは「きゃははははは」と大笑いした。
「てか、鹿沼さんと戸塚さんに許可取れよ」
「私はいいよ~?景は~?」
「私も大丈夫」
いつものメンバー+二人が必要。
「男子は俺が探してくるから、女子は探してくれない?」
「おっけーい」
八木がそう言うと、戸塚さんは席を立った。
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1限が始まって5分も経たずして班が決まった。
八木が拾ってきた男子は、鹿沼さんの前に跪き、何度も「よろしくお願いします!」と頭を垂れている。
体系がぽっちゃり系の男子。
名前は、原田大樹。
そして戸塚さんが拾ってきたのは――。
「あーん?何だこのメンツ?」
個性的な少女だった。
一人一人の顔をぎろりと睨み見つけている。
「この子こんなだけどさ、根は凄くいい子なの~」
戸塚さんは何も気にせず、説明している。
「バ、バカ! 私はそんなんじゃないってば!」
少し赤くなっている。
すぐに顔が赤くなる女子が二人いる班。
これはまるで――。
「まるで、ワタカレですね」
原田が顔を上げて言った。
「なんて?」
「“私は彼の言いなり”っていうアニメです」
「オタクがいんのかよ」
原田はオタク。
そしてロック風女子の桐谷風花。
彼女はよくベースを背負っている。
多分、軽音楽部。
中々に個性的なメンバーが集まった。
修学旅行はどうなるのやら……。
とにかく、早めにメンバーが決まって良かった
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7月5日。
俺達は新幹線の中にいる。
俺たちは朝、新横浜駅に集合し、そこから新幹線で京都駅まで約2時間。
新幹線の中ではトランプをするグループや雑談をするグループなど、お祭り騒ぎだ。
何度も先生からの注意を受けているが、修学旅行の興奮を注意で抑えるのは難しいだろう。
「羽切君、ポテチ食べる?」
話しかけてきたのは鹿沼さん。
ポテトチップスの開け口をこちらに向けていた。
俺たちは三人席を180度回転して、六人席にしている。
そして俺の向かい側には鹿沼さんが座っている。
うちのグループは静かだ。
原田はイアホンでアニメを見ているし、桐谷さんは音楽を聴いている。八木は席を離れていて、戸塚さんは寝ている。
鹿沼さんはポテトチップスを頬張っていて、俺はただ窓の外の景色を見ていた。
「サンキュ」
俺は袋からチップスを一枚とり、頬張る。
「まさか、京都に行く事になるなんてね」
「ほんと、それな」
京都は俺にとってもはや地元。
それは鹿沼さんにも同様の事だ。
それにしても鹿沼さんの表情は少し暗い。
修学旅行を楽しんでない様子だ。
「何かあった?」
「京都はあまりいい思い出がないの」
「ふーん」
京都に住んでいた時は中学2年生の前半。
俺は不良キャラで喧嘩ばっかりしていた。
それも関係しているのだろうか。
「その良くない思い出って、俺も関係してる?」
直球で聞いてみた。
「関係……してる」
鹿沼さんはポテトチップスの袋を胸の前で抱きしめ、俯いた。