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ずっっっと投稿してなくてごめんなさい。

長すぎたのでに二つに分けました。


 レンタルパーティールーム。

 それは時間単位で借りられるスペースで、大人数でのパーティーやイベントなどに利用できる部屋。

 今回の合コンは参加費3000円を取るが、部屋の中は既にかなりの人数になっていた。



「今日って、何人くるんですか?」

「合計48人」

「48人? そんなにいるようには見えませんけど」

「2部屋借りてるからね」

「結構お金掛かってますね」

「1部屋1時間1万円。3時間借りてるから6万円だね」



 一人3000円で48人だと14万4千円。

 差し引き8万4千円。

 もしそのまま懐に入れるのであればかなりの儲けだ。



 この部屋には4つの机があって、それぞれに同じ制服の女子が集まって席に座っている。

 私の座っている机も私と同じ学校の制服を身にまとった人達ばかりだし、自然とそういう形になったのだろう。

 しかし女子しかいない。

 男子とは別部屋という事なのだろう。


 

「鹿沼さん、ゆっきー。男子の部屋に行って点呼取ってきてくれる?」

「点呼?」



 十月先輩は紙を一枚こちらに差し出してきた。



「一応、事前に誰が参加するかっていう連絡はもらってるんだけどさ、突然の用事とか部活とかバイトとか塾とかで突然これなくなった人もいるし、そういう場合は他の人に譲っても良いって事にしてるの。だからこの紙にどこの学校の何年生かと氏名を書いてもらってほしいの」

「なるほど。わかりました」

「後、3000円回収するのも忘れないでね」

「はーい」

「部屋は廊下に出ればわかると思うから」

「わかりました」



 私はゆっきーと呼ばれる女子と席を立ち、廊下に出る。

 このパーティールームは1フロアに大部屋が二つあって、小部屋が5つ存在している。

 小部屋の方は2~3人くらいしか入らないような場所で何に使うのか、そもそも使っていいのかも分からない。



「よろしくね。鹿沼さん」

「はい、よろしくお願いします」

「私は二年生の雪下雪音」

「一年の鹿沼景です」

「知ってる。有名人だし」



 雪下先輩の第一印象はおっとりしたおとなしい感じ。

 でも今まで色んな人と関わってきたけど、第一印象と実際が全然違うなんてこともよくある事だ。

 十月先輩がまさにそれで、あの人と仲良くしているという事はもしかしたら裏の顔があるのではないかと疑ってしまう。

 

 

 目の前の扉を開けて中に入ると、三種の制服を着た大勢の男子達の視線が一気に私達へ向いた。

 十月先輩が人選したからなのか見た目が良く、だからなのか第一印象は遊んでそうな男子達という感じ。

 女子の部屋と同じで制服でまとまって座っていて、見た目からして三年生っぽい人もいる。

 合コンに来ているという事なので、この人たちには彼女がいないという事なのだろう。


 

「みなさーん。こちら今回の目玉少女、鹿沼景ちゃん。今日は一人でみんなの相手してくれるみたいですよー!」

「ちょっ、何言ってるんですか!?」

「冗談でーす!」



 ほんのりと室内に笑いが生まれ、私は逆になんだか恥ずかしくなった。

 やはりというべきか、この人もこういう場に慣れているみたいだ。

 


「今から一人づつ参加費を集めて、この紙に学校名・学年・名前を書いてもらいます。じゃあ手前の机から」



 雪下先輩は一番手前の机に座る人達からお金を回収し、私は紙を手渡す。

 そんな作業をしていると結構なお金が集まり、A4の紙もどんどん埋まっていく。



「やあ」



 一人一人回収しては渡してを繰り返していると知っている顔があった。



「芳賀君、来てたんだ」

「まあね」



 文化祭で舞台上でおミスコンの後、外で話しかけてきた男子の一人芳賀君。

 王さんの学校で二年生。

 前に王さんと私、芳賀君と斎藤君の四人で遊びに行ったし、その後も何度か遊んだ。

 弓道部で女子からの人気も高いと聞いてたし、その評価も頷けるくらい清潔感があって緊張していた私を何度も気遣ってくれる優しさもあった。



「今度、また会わない?」

「いいですよ」

「できれば二人で。実は相談もあるんだ」

「……相談? 予定が合えば、いつでもかまいませんよ」

「また連絡するね」

「分かりました」



 ニコリ笑った芳賀君は紙を手渡してくる。

 この人はグイグイとくるタイプでは無く、一定の距離で関係を縮めようとしてくるからやり易い。

 手前から順にお金の回収と紙への記入をしてもらって最後に私達と同じ学校の制服纏った男子が座る机へと向かう。

 そこでも同じ作業をしていき、最後の男子の後ろへと立つ。



「お疲れさん」



 振り返った男子は亀野君だった。



「亀野君も来てたんだ」

「招待状貰ったからね」

「ふーん......あれ?」

 

 

 亀野君は24人目の男子。

 つまり招待状が送られた全ての男子がこの場所にて、一人一人と顔を合わせたはず。

 しかし羽切君がいない。

 私は昨日、間違いなく渡したし、快く受け取ってくれたはずなのに。



「もしかしてその招待状って」

「羽切がくれた」

「どうして......」

「鹿沼さんがいるから俺は参加しないからあげるって。何かあったの?」

「いや......別に」



 羽切君は私を拒絶している。

 もう転校まで25日しかないから徹底的に関係を切ろうとしているのかもしれない。

 私も文化祭で羽切君とお別れする決意をしてから二ヶ月間、色んな男子と関わってきたし、羽切君を忘れる準備はしてきた。

 けど時間が近づくにつれてその決意はぐらぐらと揺らいでしまっていて、今ではまた前の関係に戻したいなんて考えてる。

 

 

 羽切君が求めているのは私との関係終結。

 イギリスに行きたいという気持ちも関係終結も尊重したいけど、私の本当の気持ちは全く逆でその矛盾した感情にずっとモヤモヤしている。

 結局どうしたいのかもわからないし、どうすればいいのかも分からない。

 

 

「十月先輩は来てる?」

「うん」

「鹿沼さんにだけは話すけど、もう一度告白しようと思ってる」

「こく......はく!?」



 亀野君が十月先輩に告白。

 中学時代に付き合っていて自然消滅したという話は聞いたが、亀野君に未練があるのは明らかだった。

 しかし十月先輩の現状を知る私からしたらもう結果は見えている。 

 もしかしたら振られた亀野君を慰めるのは私になるかもしれないし、正直言ってそれは勘弁してほしい。

 


「わ、わかった。頑張ってね」

「うん」



 私は一度、雪下先輩の元へ戻りお金と紙に書かれた人数を確認する。

 そしてその全てを一つの箱に入れて、再度廊下に出て下の部屋へ戻った。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 12月に入って雪が降っている。

 昼間であれば遠くには山があって手前には広大な農地があるはずなのだが、今は夜なので車のライトが照らす舗装された道路しか見えない。



 いよいよというべきなのか、もう転校まで一カ月を切っている。

 今までと違って今回は海外転勤。

 国内であればその気になれば会いに行くなんてことも出来るだろうが、海外となるとそうはいかないし、母さんの話では最低でも2年は帰ってこれない。



 今頃、鹿沼さんは合コン中だろう。

 昨日貰ったあの招待状が結局なんだったのかよくわかってない。

 十月先輩が俺に参加して欲しいという事で鹿沼さんに頼んで渡しに来たのか、それとも鹿沼さんが俺に参加して欲しくて渡してきたのか。

 前者も後者も可能性としては低い。 

 そもそも十月先輩と俺は接点がないし、鹿沼さんも残り一カ月の俺に招待状を渡すなんて意味のない事はしないだろうし。



 そうやって答えが出ないまま俺はその招待状を亀野に譲渡した。

 どちらにしても今日、俺は母さん達と出かける予定があったから参加できないし、この招待状を受け取るにふさわしい人間は亀野だと思ったから。

 そして鹿沼さんにこの招待状の事を聞かれたら“鹿沼さんが参加するなら俺は参加しない”と言っていたことを伝えてほしいということと、これが十月先輩の本当に最後のイベントだから何か行動を起こした方が良いと背中を押してみた。



「本当にこの道で合ってるかしら」

「ナビがそう言ってんだから間違いないだろ」

「でもなんかこの辺だったような気がするのよね」

「この辺って、真っ暗じゃん」

「そうだけどなんか……雰囲気的に?」

「なんじゃそりゃ」



 田舎という事もあって街灯もなく、真っ暗な車内はちょっと不気味な雰囲気だ。

 車のヘッドライトに照らされた母さんの横顔も青白く、外の風景も暗くて何も見えない。

 カーナビに表示された目的地はまだまだ先なのにこの辺かもしれないなんて言うのは、なんだか母さんらしくなくてそれもまた恐怖感を煽っている。



『目的地周辺です』



 無情に流れるカーナビの音声にドキッと心臓が跳ね、車内は更に不気味さを増し、チラリと母さんを見ると一瞬目があった。

 ナビが指し示す場所はまだ先なのに目的地周辺なんて言葉を発するこの機械に何やら不気味なものを感じる。



「目的地、まだ先よね?」

「う、うん」

「バグ......?」

「だと思う」



 エンジン音しか聞こえない車内には緊張感で張り詰めた。

 得体のしれない非現実的な何かと遭遇したかのような季節とは関係のない冷たい空気を感じて、背中にも変な気配。



「ねえ」

「うわっ!」



 突然、背中から女の声が聞こえ体がビクッとなった。

 振り返ると妹の絵麻。

 寝起きで目をしょぼしょぼさせている。



「まだ着かないの?」

「もうすぐだと思う」

「思うって、ナビに従ってるんでしょ?」

「目的地まだ先なのに目的地周辺ですってナビが言ったんだよ」

「こ、怖わわっ」

「あっ」



 母さんは何か発見したのか車を止めた。



「な、なになになに? 何で止まったの!?」



 パニックに陥る絵麻。

 絶叫マシンは超好きなのにこういうのはダメなのかよ。



「二人共、ちょっと待ってて」



 そう言って母さんは車から降りてさっき通り過ぎた道路を歩いて逆走し始めた。

 真っ暗な道で母さんの姿が完全に見えなくなり、俺も少し不安になる。



「お母さん、幽霊に取り憑かれたわけじゃないよね!?」

「んなわけないだろ」

「じゃあ何で止まったの!? どこ行っちゃったの!?」

「知るかよ」



 兄として強がってみるものの、絵麻の恐怖が伝染してきて怖くなってくる。

 こんな場所に取り残されたら運転できないし、ホラー映画さながらの状況になりかねない。



「ちょっと俺、見に行ってくる」



 ジッとしてるよりも行動したほうがいいと判断して俺もシートベルトを外して外に出る。



「一人にしないでよ、お兄ちゃん!」



 焦るようにして絵麻も出てきて、俺の腕を抱き抱えるようにして掴んできた。

 


「車で待ってろよ」

「嫌だ。怖い」

「ったく」



 まあ俺としても誰かいてくれた方が心強いし、いいや。

 そう思い道路を逆走するとしばらくして母さんの姿が見えた。

 真っ暗な道路で電柱の前で座り、両手を合わせて祈っている。



「やややややっぱり、取り憑かれてるんだぁ......」



 絵麻は怯えているが、俺は母さんが何をしているかすぐに分かった。

 母さんに聞いた事がある幼少期時代の出来事。

 俺は母さんの隣まで歩いて座り、同じように手を合わせて拝む。

 すると絵麻は一人ぼっちにさせられた絵麻は静かになる。

 俺と母さんが拝むのを終えて立ち上がると、今度は狼狽しはじめた。



「何が起きてんの!? おーい二人共!」



 絵麻は俺達が幽霊に取り憑かれておかしくなっていると思っている。

 最初はそんな絵麻をからかおうと思ったが、母さんはそれには乗らなかった。

 腕を上げて薄く見える畑の奥を指を差し、見ると明るい人口的な明かり。

 


「見つけた」

「本当にあそこ?」

「間違いないわ。子供の頃、住んでたんだから」



 俺たちの目的地。

 それは母さんの親の家で、つまり俺からするとお爺ちゃんお婆ちゃんの家。

 イギリスに行くまで残り一ヶ月も無く、日本にいるうちに最後の挨拶をしに来たというわけだ。

 


「さて、遅くなったしお腹も減ったでしょ? 急ぐわよ」



 久々に親に会うのが楽しみなのか、母さんも何だかウキウキという感じ。



「さっきの結局なんだったの!?」

「後で話してやるよ」



 俺達は車に乗って、唯一の明かりのある家に向かって走り出した。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 合コンも中盤に差し掛かっている。

 飲み物の入ったグラスを片手に、まるでこのまま持ち帰りするような勢いで会話を盛り上げる男子やそれとは逆に少しづつお互いを知ろうと大人しい感じで会話を交わす男女と、それぞれ色んな形で異性との出会いを成し遂げ、花を咲かせようとしている。

 今回の合コンはいつも私が参加しているのと違って自由だ。

 席のローテーションとかそういうのも無くて、場をまとめる事もない。

 だから自分が気になる人の元へと行き、自分から話しかけるという行動力が求められる。

 

 

「それでさそれでさ、こいつその時ズッコケちゃってさ!」

「アハハハ」

 

 

 出来るだけ当たり障りのない笑顔で対応するのもそろそろ疲れて来た。

 私の周りには6人の男子がいて、全員同じ学校の制服を着ている。

 てっきりこの合コンはこの地域の3校だけの参加だと思っていたのだが、どうやら隣町の雄図先輩が通っている高校からも何人か招待状を送っていたらしい。

 

 

「鹿沼さーん。ちょっとこっち来てくれる?」



 グイグイ来る男子達で席を外しにくかったところで名前を呼ばれた。

 見ると三つ隣のテーブルにいる芳賀君が手を振っていた。

 


「すいません、ちょっとあっちの状況見てきますね」

「えー」



 自由で場をまとめる人がいないというのがこの合コンでのコンセプトだと思っているが、私は十月先輩と一緒にここへきたので一応、管理する側と認識されているだろう。

 だからこうやって席を外してもなんも変じゃないし、私を取り囲む男子も引き止めたりはしてこない。



 私は立ち上がって芳賀君の元へと歩く。

 芳賀君はやっぱり人気者で、女子に囲まれてハーレム状態。

 女子達の私を見る視線は一見、穏やかに見えるけど、奥には何か違う感情が渦巻いているのがすぐに分かった。

 


「ありがとうござます」

 

 

 耳打ちでそう告げると、女子達の視線から感じる不穏な感情が強くなる。

 いわゆるライバル心というやつか、とにかく邪魔だと思われている事は間違いない。



「いいよいいよ。隣座る?」

「い、いえ。中間報告を十月先輩にしなきゃいけないので……」

「そっか。じゃあまた後でね」

「はい」

 

 

 芳賀君に嘘をついたことに罪悪感を感じつつも、そこに座る女子達に配慮して、さっきの6人の男子達とも視線を合わせないように廊下の方へ向かう。

 廊下へ出る前に一度部屋を見渡すと、部屋の隅っこで竹内先輩が男子と凄く楽しそうに話しているのが見えた。



 高校生の間に恋愛とかしてみたかったとどこか諦めたように言っていた竹内先輩だったが、最後の最後に叶えようと頑張っているのかもしれない。

 心の中で「頑張れ」と応援して防音の分厚い扉を開いて廊下へ出る。



「はぁ」



 さっきまでの和気あいあいとした喧騒から一気に静かになり、身も心も安心した。

 合コンという場には何度も行っているが、こんなにも疲れたのは初めて。

 というのも皆んな積極的に話しかけてくるし、今回はいつもと違って時間で席替えみたいなシステムがなく自由って感じだから合わないと思ってもなかなか抜け出せないのだ。

 特に雄図先輩と同じ学校のあの6人は最悪だった。

 髪とか肩とか勝手に触ってくるし、愛想笑いとかで離れるタイミングを見計らったりしてかなり神経使ったし、加賀くんが助けてくれなかったらと思うとぞっとする。

 

 

 廊下を挟んだ向こう側の最初にいた部屋の扉を開けて中に入ると、雪下先輩がこちらに気づいて顔を上げた。

 何故か部屋の中心が大きなカーテンで区切られていて、最初の時に比べて狭い。

 

 

「雪下先輩は参加しないんですか?」

「うん、私彼氏いるし......それより鹿沼さん、早くこの部屋から出た方がーー」

「なにがもう一度やり直したいだっ! 本当にウザい! 死ねっ!」

 

 

 何故かカーテンで部屋が区切られていて、向こう側からはドンッって音と誰かの叫び声。

 突然の事で体がビクッと跳ねて一瞬で恐怖を感じた私に、雪下先輩は少し苦笑いしながら話し始める。

 

 

「ごめんね。十月先輩、今すごい機嫌悪いから」

「こんなに感情的になる事あるんですね」

「なんか元彼に復縁を持ち掛けられたらしくてね、ずっとこんな感じでキレ散らかしてる。今回はかなりストレス溜まってるね」

 

 

 学校ではどこか完璧に見える十月先輩もプライベートを見ると結構やんちゃで、人間的な部分が見る事が出来るのだろう。

 雪下先輩がどの程度十月先輩と関わってきたのかは知らないけど、少なくとも私よりは深くかかわっているように思える。

 これだけ大声でキレ散らかしててもそこまで困惑しているようには見えないし、ここまでではないにしても前にも何回かはあったかのような発言もあったし。



「ほら、あっちの部屋行ってきな。鹿沼さん狙ってる男子が寂しがってるよ」

「はーい」



 あっちの部屋にも行きたくないし、こっちの部屋にも残りたくない。

 けどまあ、時間的に残り半分くらいで解散になるから私からまだ話してない男子に話しかけてあの6人に拘束されないようにすればいいや。

 そう思ってもう一度、廊下に出て扉を閉めると、正面にある合コン会場の扉の前に亀野君が立っていた。


 

 制服の胸元第三ボタンまでちぎれていて、表情も物凄く暗い。

 右の頬は赤く腫れていて、髪も乱れている。

 三年越しの告白は失敗......いや、大失敗。

 十月先輩の事情を知ってる私からしたら復縁はありえない事だとは思ってたから別に驚きはしないが、まさか十月先輩の怒りが手を出すほどとは思っていなかった。

 

 

「大丈夫?」

「うん......」



 亀野君は過去の関係に戻したくて、十月先輩は過去に戻りたくない。

 まるで今の私と羽切君のようだ。

 もし私がこのまま羽切君以外の男と付き合って、初体験を迎えて成長していった後にずっと拒絶されていた羽切君から関係修復の申し出を受けたら十月先輩と同じように感情的に怒るのだろうか。



「と、とりあえず移動しようよ。ここにいると十月先輩と鉢合わせちゃうかもしれないし」


 

 廊下で十月先輩と亀野君を会わせるのは非常にまずい。

 っていうか、二人の抗争に巻き込まれたくない。



「いや......俺はもう帰るよ」

「そ、そう......」



 引き止める理由はない。

 亀野君は廊下をエレベーターのある方へと歩き出す。

 三年間の想いが一瞬にして消滅した亀野君の背中は寂しそうで、物凄く後悔しているように見えた。

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