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やっぱ長くなっちゃう。

投稿いつも遅くなってごめんなさい。

 夜の21時。

 私は家の玄関に座って黒封筒を見つめている。

 今日も予定にあった佐々木君とのデートを終え、家に帰るとすぐに羽切君のインターホンを押そうと外でウロウロしていた。

 しかし勇気が出ず結局、家に戻り今の状態。

 もう毎日こんな事を続けていて何度も諦めかけたが、それでもやっぱり十月先輩の許しの条件である事と少しでも羽切君とまた関係を築きたいという気持ちから挑戦し続けている。



 今日は11月30日。

 黒封筒に書かれている合コンは12月1日だからもう後二日しかないし、もう逃げるべきじゃない。

 そう思って再度立ち上がり外に出て羽切家の前に立つが、ここに立つと緊張して何もできなくなるにが今までの流れ。

 しかし再度、インターホンのボタンに指を当てると、もう時間がないという事もあってかすぐに押すことができた。

 


 ピンポーン



 その音が室内に響いた瞬間もう後戻りが出来ないんだと手が震え、そしてガチャリと扉が開く。



「夜遅くにごめんね」



 後戻りができないと分かると、自然とスラスラと言葉が出た。

 しかし玄関の内側に立つ脚が明らかに羽切君のではない事に気づき硬直する。

 靴下も履いてないしズボンも履いてない。

 毛一つ生えていないツルツルの女の股があって、更に上はヘソ、更に更に上は膨らんだ胸。

 そしてその上には......。



「ハーイ、鹿沼さん」



 金髪のハーフ、クリストファーさんの顔。



「……え?」



 乱れた髪におでこは少し汗ばんでいる。

 それに全裸で家の中は真っ暗。

 それが何を意味しているのかは、こんな私でもすぐに分かった。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「疲れたぁ」



 いよいよ12月もすぐそことなった11月30日。

 もうすぐ二学期も終わりで、期末テストも近い。

 そのため、金髪ハーフ美少女のクリストファーさんと俺の家で勉強をしている。

 


 クリストファーさんの学校のテスト期間は12月12日~18日の6日間なので今はちょうど二週間前。

 英語や理系科目はかなり出来るから教えるのは国語や日本史などの科目で俺の学校のテスト範囲とほぼ一緒だから一石二鳥だ。



 学校帰りに一時間ほどリオンの中を歩き回って、そのまま俺の家に来たからクリストファーさんも俺も制服姿のまま。

 クリストファーさんは三時間の勉強の末、疲れ果ててしまったのか、その場で仰向けに寝転んでしまった。



「背中冷たいでしょ」

「冷たーい」

「ソファー使いなよ」

「I’m hungry(お腹すいた)」

「もうそろそろ20時だけど、お母さんご飯作ってくれてるんじゃない? 帰らなくて大丈夫?」

「No problem! I told my mom that I was going to stay at a friend's house(心配ご無用! お母さんに友達の家に泊めてもらうって伝えてあるから)」

「……え?」

 


 泊まるって、俺の家に?

 それってつまり……いや、まさかな。



「ねえ、コンビニ行かない?」

「あ、うん。いいよ」


 

 不安と期待が入り混じった感情のまま、財布とスマホを持って立ち上がる。

 玄関でローファーを履いて外に出ると、空は既に暗く、既に12月の寒さとなっていた。



「寒いね」

「うん」



 クリストファーさんは黒のタイツにダッフルコート、手袋にニット帽と防寒対策が出来ている。

 とはいえ下はスカートだし寒いだろうが仕方がない。

 俺達は暗い空の下、手を繋いで駅の方へと歩き出す。

 


「ねえ、私たちが履いてるloafer(ローファー)ってどういう意味か知ってる?」

「うーん……知らないな」

「『怠け者』って意味なんだよ」

「怠け者? あぁ、簡単に履いたり脱いだり出来るからか」

「うん。だからね、ビジネスシーンではあまり履かない方がいいんだってさ」

「えぇ......大人の世界って面倒臭いね」

「元々はイギリスの王室とか貴族の室内用のシューズでね、かなり高価なものだったみたいだよ」

「服とか靴とかほぼ全部、欧米風だし、やっぱ使いやすい物が定着するのかね」

「そうかもしれないね。そういう意味では紐のある靴もいつかは消えちゃうかもよ?」

「靴紐絞めるくらいはこれからも皆んなするんじゃない? 靴擦れとか起きちゃうしフィット感あった方が歩きやすいし」

「自分で紐を結ばなくても自動でフィットしてくれる機械が入ったり?」

「それならあり得るかな」



 他愛のない話をしていると一番近いコンビニに辿り着いた。

 暗い場所に一際輝くその光にどこか安心して入店する。

 俺は緑色の小さなカゴを手に取ると、クリストファーさんは先に棚の奥へと歩いて行った。



 俺はおにぎりコーナーへ移動し、物色し始める。

 晩御飯をコンビニで済ませるのはどのくらいぶりだろうか。



 オニギリにしようか、お弁当にしようか。

 それともカップラーメンにしようか。

 もちろんレジ横にある揚げ物やら肉まんやらを買うのはマスト。



 そんなことを考えていると、俺の右手に持つカゴにドサドサっと物が入れ込まれ、重くなる。

 見るとそこにはお湯を棄てる系のカップラーメンやらポテトチップスなどが入っていた。



「クリストファーさん、歯ブラシとかも無いよ」

「あっ、そうか。持ってくる」



 クリストファーさんは再度俺の元から離れて日用雑貨類の棚へと歩いて行った。

 俺は取り敢えずオニギリやサラダチキン、チンするタイプの塩サバ、カップのアサリの味噌汁を入れる。

 クリストファーさんも追加で歯ブラシとソーセージと三種のチーズブリトーを入れてレジへ行く。

 


「いらっしゃいませー」

「肉まん二つと揚げチキン二つください。それとレジ袋お願いします」

「分かりました」



 店員さんはバーコードを読み込む作業を一時停止し、肉まんと揚げチキンを取り出してレジ袋へと入れる。

 一通り値段を打ち込み終えると、2600円と表示された。

 


「Pペイで」

「タッチお願いします」

「はい」



 俺はスマホで会計を済ませようと所定の機械にタッチしようとする。



「ちょっと待ってー!」


 

 しかしクリストファーさんの買い物がまだ終わってなかったらしい。



「これもお願いします」



 早足で来て店員に差し出したのは赤い箱の何か。

 店員さんは一度、俺とクリストファーさんを交互にチラ見した後、ピッと読み込む。



「3500円になります」



 さっきよりも900円値上がりした。

 俺はスマホで会計を済ませて、最後にクリストファーさんが何を買ったのか袋の中を見る。



「後で私の分のお金返すね」

「ううん、大丈夫だよ

「悪いよ。泊めてもらうのに」

「本当に大丈夫だよ。こないだバイト代入ったばっかりだし」

「じゃあ今日は思う存分、好きにさせてあげる」



 袋を持ってクリストファーさんとコンビニを出て再度、家まで歩き始める。

 3500円なんて安いものだ。

 何故ならそれ以上の対価を払ってもらえるのだから。



 高校生で男女の俺達が一つ屋根の下でお泊りするという事にずっとそういう事をするんじゃないかと思ってた。

 最初は疑心暗鬼だったけど、クリストファーさんが最後に買った赤い箱を見た時、それは確信に変わった。



 0.01mmの3個入りコンドーム。

 

 

 遂に俺にも来た、初体験のイベント。

 チラリと隣で手を繋ぐクリストファーさんを見る。

 綺麗な金髪が冷たい風で揺れて綺麗だし、横顔も整ってて可愛い。

 小柄で華奢な体には控えめに押し上げる胸。

 


 俺の初めての人はクリストファーさんとなる。

 服の上からその身体を想像して興奮し、アソコも反応し始めた。

 どんな形なのか、どんな色なのか。

 どんな表情をするのか、どんな反応をするのか。

 感触は? ニオイは? 棒を入れたらやっぱり気持ち良いのかな?



 いろんな疑問が一気に頭に浮かび、早くその答え合わせがしたいと体がうずうずしている。

 精通してから今まで憧れていたセックス。

 子供の頃からAVで観てて表面上の女の体については何度も見てきたけど、同級生でしかも知っている人の体を見れるなんて今から興奮が止まらない。

 

 

「隣の家、鹿沼って書いてあったけど……もしかしてあの?」

「そうだよ」

「へー、家も近いんだ」

「まあね」



 淡白に回答してその場を終える。

 今、鹿沼さんの話題でクリストファーさんの機嫌を損ねればセックスの話も無くなるかもしれないから。

 

 

 暖房で暖かくなった家に帰ると、安心どころか俺の興奮はグングンとむしろ向上した。

 もうこれから外に出る用事はなく、飯を食った後は流れのまま行為が始まるのだ。

 

 

「歯ブラシ置く場所ある?」

「脱衣所にあるよ」

「OK」



 リビングで買ったものを取り出す作業。

 クリストファーさんは自分の歯ブラシを袋から出して脱衣所へと向かった。

 机の上に無造作に置かれた食品。

 そして食品よりも手前でポツンと置かれたコンドームの箱。



「羽切君ー?」

「はーい」



 呼ばれたので脱衣所に向かう。

 開かれた脱衣所に入るとクリストファーさんが洗面台の前にいた。



「歯ブラシここで良いの?」



 洗面台の鏡の横にはコップがあって、歯ブラシが刺さっている。

 そこには俺のと母さんの、そしてーー。



「鹿沼さんの歯ブラシもあるんだね」



 鹿沼と油性ペンで書かれた歯ブラシ。

 週に数回うちでご飯を一緒に食べていた頃、家に帰って歯を磨くのが面倒臭いという事で置いておいたもの。

 

 

「処分するよ」

「いいよ別に。だって鹿沼さんとはもう何にもないんでしょ?」

「う……うん」



 何だろう不思議だ。

 もう鹿沼さんとは何もないって事を肯定すると俺の心がズキンと傷つく。

 本当に何も無いし、今はクリストファーさんに夢中な筈なのに。

 それに、他の女の歯ブラシを普通は処分してほしいはずなのにどうしてそのままでいいなんて言うのだろうか。

 


 ……ああそうか、俺達は別に付き合ってるわけじゃ無いからか。



 付き合ってないのに他の女の歯ブラシを処分してほしいとは言わない。

 むしろ問題なのは俺が勝手に付き合ってると仮定して接していたり、そう思い込んでいる事だ。

 良くしてくれる異性を勝手に俺の事が好きだと思い込むような拗らせ野郎。

 俺って結構、ちょろいのかもな。

 


「ご飯食べよう」

「はーい」



 俺達はリビングに戻り、晩御飯を食べ始めた。

 

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 遠くから聞こえるシャワーの音。

 俺はベッドの上に座ってクリストファーさんを待っている。

 シャワーにも入ったし、歯も磨いた。

 いよいよ初体験が始まる事に心臓がドキドキしていて、期待が止まらない。

 アソコも半分硬くなっていて、完全に硬くなるのをまだかまだかと待っている。



 シャワーの音が消えて、暫くしたらガラガラと脱衣所の引き戸が開いた音。

 そしてペタペタと小さな足音が聞こえ、俺の部屋へとクリストファーさんはが入ってきた。



「じゃーん」



 俺はてっきりタオルでも巻いて出てくるのかと思いきや、まさかの全裸。

 表情は少し恥ずかしそうだけど、体を隠す事はなく俺の部屋にピョンと跳ねて入ってきた。



 小柄の体には円柱型の少し突き出た胸があって、その先端は小さめ。

 体に脂肪はあまりなく華奢で細め。

 そして股には毛が一切なく、閉じた割れ目が見えている。



 俺が想像していた裸とは少し違うけど、それでも初めてちゃんと見る女の体に釘付けになった。

 心臓は痛いくらい脈打ち、早く触れたいとうずうずし始める。



「あまり見られると恥ずかしいんだけど……」

「ご、ごめん」



 サッと視線を外して謝罪する。

 とはいえ、見たいという欲求に抗えずチラチラと見てしまう。

 クリストファーさんは部屋にドアを閉めてコチラに近づいてきた。



「もしかして羽切君って童貞さん?」

「えっ」



 童貞……。

 男のプライドとして童貞とは言いたく無い。

 しかし言わないと間違った事をしてしまうリスクもある。



「別に童貞さんでも変とは思わないよ?」

「童貞……です」

「そっかぁ鹿沼さんとはしなかったんだね」

「……うん」



 鹿沼さんの名前が出てきてズンと胸が重くなったのを感じた。



「じゃあ私が初めてだね」

「優しくお願いします」

「それ、私側が言う言葉だから」



 ふふふっと笑うクリストファーさんに釣られて俺も笑う。

 雰囲気は凄く良い。

 クリストファーさんは経験者だし、一つずつクリアしていけば何も問題なく最後まで出来そうだ。



 少しの沈黙の後、クリストファーさんはベッドの上に座ってる俺の下半身に跨り、キスをしてきた。

 俺も腰に腕を回してそのキスを受け入れ、しばらくした後、手で胸を揉む。



「えっち」



 手のひらいっぱいに感じるのは柔らかい胸。

 決して大きくは無いけど、だからこそ揉みやすいちょうどいいサイズ。

 


「羽切君のも見ていい?」

「うん」



 クリストファーさんは俺のズボンをパンツごと掴んで脱がしてきた。

 俺がいつも寝ているベッドの上で、スッポンポンの二人。

 信じられない光景だけど、現実の光景。



「おっきいね」

「イギリス人よりは小さいと思うけど」

「同じくらいじゃないかな。まだ大きくなる?」

「まだまだ大きくなるよ」



 緊張しているのか、棒がなかなか大きくならない。

 こんな状況なのに完全体になれないなんて男としての機能がおかしくなっているんじゃないかと心配するレベルだ。

 クリストファーさんは再度、俺の下半身に跨って、今度は首に腕を回して抱き締めてきた。

 クリストファーさんの体温と柔らかさ、ニオイに興奮しながらも一瞬おかしな思考が頭をよぎった。



 ーーもし鹿沼さんだったら……。



 鹿沼さんだったらもっと柔らかいだろうし、もっと体温が高いだろう。

 それに鹿沼家のニオイと鹿沼さん自身のニオイが混じったあの香りで理性が揺さぶられておかしくなってしまうかも......。



 しかしすぐにその考えを吹っ切って現実に戻る。

 現実はクリストファーさんと全裸で抱き合っている状況。

 そんな状況で他の女の事を考えるなんてどうかしてると思ったから。



 俺は今日、初体験を終える。

 クリストファーさんが相手ならむしろ歓迎な事じゃないか。

 チャンスを厳かにするのは俺の悪い癖だと母さんも言ってたし俺も自覚がある。

 だからどんな考えや感情が出てきても、俺は歩みを止めたりは絶対にしない。



 もうこの人でいいんだ。

 何にも問題ない。

 だから何も考えるな。



 必死に頭をそういう言葉で埋めてもう一度強くクリストファーさんを抱き締める。

 


「今、鹿沼さんのこと考えてたでしょ」

「考えてないよ。今はクリストファーさんの事で頭いっぱい」

「嘘だね」

「どうしてそう思うの?」

「顔見ればわかる」



 グッと肩を押され体を少し離されると、クリストファーさんは俺の顔を覗き込んでクスッと笑った。

 

 

「ほら、やっぱり」

「どんな顔してる?」

「寂しそうな顔」

「そんな顔してない」

「この三週間、誰よりも羽切君と接してきたし見てきたからよく分かるよ。鹿沼さんの名前を出すたびにそういう顔になってたから」

「……」

「それにこんな状況でも鹿沼さんのこと考えてるみたいだし、アソコも硬くなってないよね。よっぽど鹿沼さんの事が好きなんだって伝わってくるよ」

「……」



 何も言い返せない。

 俺の心にずっと残ってる鹿沼景という女。

 何を見ても何をしてても、ましてや初体験を迎えようとしているこの瞬間ですら考えてしまう程に魅力的で、関われば関わるほど愛着が湧いてしまう一番近くにいた異性。

 クラスの話に耳を傾けたりインストでフォローしたりと無意識に動向を気にしているのもまた、鹿沼さんに心残りがあるという反応なんだろう。



 しかし俺はそれを認めたくない。

 俺から終わらせた関係をノコノコと復縁を迫るなんて有り得ない話だ。

 それにもう転校まで一ヶ月しかない。

 鹿沼さんは既に俺の知らないところで友達を作ったり遊びに行ったり、デートに行ったりと充実した高校生活を送っている。

 それは俺が望んだ事で、邪魔をするべきじゃない。



「私の経験上こういう状況の時、男の人って二種類いるんだよね。性欲頼みに好きじゃなくても抱けちゃう人と、好きな相手じゃないと抱けない人」

「俺は後者?」

「うん。後者の傾向は、本気で好きな人がいて、その人を裏切りたくないって気持ちが強い人。後ろめたさから他の女を抱けなくなっちゃうんだよね」



 鹿沼さんと俺は恋愛関係にあったわけじゃない。

 だから裏切りたくないなんて気持ちがあるわけがない。



「へー……でも残念ながら俺は前者だよ」



 俺はそう言い、クリストファーさんの谷間に顔を強く埋めてその体温を直接感じさせる。

 するとムクムクと棒が大きくなっていき、やがて完全体となった。



「ほらね、硬くなった。俺はクリストファーさんを女としてみれてるし、最後までしたいと思ってる。もう鹿沼さんの事はもうどうでもいいんだ」

「維持できないと意味ないからね?」

「分かってるよ」



 今にもフチャチンになりそうなのをグッと我慢してクリストファーさんの胸を触る。

 しかしすぐに何でこんな事してるんだろうと思い始めて頭が冷める。

 本来ならば棒が硬い状態を維持しているのはデフォルトで、相手との会話で気持ちの繋がりを確認して楽しんだり、スキンシップで気持ちを高めたたりしたい場面なはずなのに、俺はただ必死に棒の硬さを維持するためだけにクリストファーさんの体に触れている。

 


 頭が冷めると自動的に体も冷め、棒は下を向いた。

 精通してから人並みに性欲はあったし、女の体を見たりセックスするというのは男として夢見ていた事のはず。

 なのにできない。

 体がクリストファーさんを拒否している。

 別に緊張しているわけでも、クリストファーさんの体に問題があるわけでもない。


 

「残念」



 呆然とクリストファーさんの体を見つめて困惑していると、ベッドから降りてリビングに方へ歩き出した。



「あの......クリストファーさん」

「うん?」

「ごめん」



 心の底からの謝罪。

 今日はそういう事をするんだとクリストファーさんも思ってたはず。

 心の準備もコンドームの準備もして、裸を見られ、スキンシップもしたのに俺が棒がちゃんと反応できなかった。

 その謝罪。



「大丈夫だよ。なんとなくこうなる気がしてたからさ」



 クリストファーさんは何も問題ないよと言わんばかりに振り返ってニコッと笑う。

 その表情には曇り一つなくて安心したが、俺は自己嫌悪で笑顔を返すことは出来なかった。



 ピンポーン



 自分の中にある様々な感情に耳を傾けていると家の呼び鈴が鳴り、心臓が跳ねあがる。

 今はもう21時。

 この時間に呼び鈴を鳴らすような奴は営業マンでもN〇Kでもない。

 であれば誰か? という事になるし、ここはマンションとかと違ってエントランスがあるわけじゃないからドアの向こう側にはすぐに誰かがいるという事になる。

 それに家の正面から裏庭まではぐるっと一周できるし、この部屋の電気がついていると知ったら「居留守してる」ってバレバレだ。

 俺は音をたてないように静かにベッドから降りて立ち上がる。

 そしてクリストファーさんに何か言おうと視線を向けると、もうそこにはいなかった。

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 ――羽切君はね、私で興奮できなかったの。



 寝ていても頭の中でグルグル回るその言葉。

 ずっと浅かった眠りの中でぶるっと寒さで体が震え、目が覚める。

 寝起きで掠れた目で隣を見ると、寝ているはずのクリストファーさんはもういなかった。



 あの人はもう私と羽切君の事や、羽切君の転校について知っているらしい。

 羽切君はその上で私とはもう何の関係もないとオープンに説明して、クリストファーさんとの距離を縮めようとしていたのは明らかだ。

 つまりそれは好意があったという事であり、好意を持った女子の裸を見て興奮しないなんてやっぱりあり得ないんじゃないかと思っている。

 

 

 でももし二人が行為をしたとして、それを私に隠す理由って何だろう。

 いくら考えてもその理由は思いつかない。

 クリストファーさんの言っている事を信じるか、私の中にある羽切君……男の知識を信じるか。

 気持ち的にはクリストファーさんが本当の事を言っていて欲しいと思っているけど果たして......。



「寒っ……」



 今朝は寒いって言ってたけど、まさかここまでとは思っていなかった。

 私は布団の中で膝を体に近づけ、両腕も自分を抱きしめるようにして小さくなる。

 しかし布団やシーツと自分の体が擦れる感覚に違和感を感じ、布団の中を覗いてみるとまさかの姿だった。



 ......ッ!?



 羽毛布団の中の私は服が首まで捲れて胸が完全に出ており、下半身もパンツと共に膝まで下ろされていて、ほぼ裸状態だった。

 私は瞬時に服を下ろして胸を隠し、パンツとズボンを上げた。

 この家には私の他にもう一人いるし、犯人は分かりきっている。



「Good morning〜(おはよ〜)」



 犯人の声が聞こえたので上体を起こして声のした方を見ると、制服を着たクリストファーさんがドアの前に立っていた。

 


「何で私、脱がされてるんですか!?」

「私が脱がしたから」

「何の目的で!?」

「そりゃ……」



 クリストファーさんは少し俯いてモゴモゴと何かを小声で言ったが、私の耳には届かなかった。

 


「それより鹿沼さん」

「はい?」

「これ、何?」

 

 

 クリストファーさんの手には黒封筒。

 あれは昨日羽切君に渡すはずだった十月先輩からの招待状。

 

 

「こんなのに参加して、羽切君の事忘れられると思ってるの?」

 

 

 招待状は私へじゃなくて羽切君へのもの。

 しかしクリストファーさんはそれを知らない。

 

 

「じゃあどうやったら忘れられると思う?」

「そうだね......本気で愛し合えばいいと思うよ」

「忘れ方を聞いてるんですけど」

「鹿沼さん、本気で男と愛し合ったことないでしょ」

「な、無いですけど......?」

「色んな男に求められてるのに勿体ない」

「余計なお世話」

「精神的にも肉体的にもとことん愛し合って、相手の底が知れたって感じた時、その後どうなると思うかわかる?」

「より好きになるとか?」

「逆だよ。相手の欠点が見えて来る」

「えっ」

「その人といる日常とか会話とか行為とか、慣れてきちゃって物足りなくなるの。そうなって来ると何かと相手の欠点を探し始めて、もしかしたらこの人よりも良い人がいるんじゃないか? とか最初の頃みたいなラブラブな恋愛がしたいっていう。そういう考えが出てきちゃうともう終わり。何となくの雰囲気とかで相手に興味が薄れてきてるのがバレる。そしてお別れする」

「私も羽切君と愛し合えば愛し合うほど、そうなると?」

「可能性は高いと思う。羽切君の方は鹿沼さんの事を高嶺の花だと思ってずっと好きで居てくれるかもしれないけど、鹿沼さんの方が羽切君に物足りなさを感じて、お別れを切り出すかも」

「それはない」

「そうかな? 鹿沼さんはそれだけの見た目してるし、その気になれば男なんて選び放題なはず。そんな鹿沼さんがずっと羽切君にこだわるとは思えないけどね」

 

 

 恋愛経験0の私ではクリストファーさんの言っている意味が理解できない。

 この感情が、想いが長続きしないなんて話、クリストファーさんの経験談だけで私には当てはまらないと思ってるから。



 しかしなんだか腹が立つ。

 この人は羽切君をもらってもいいかと聞いてきて、私が出来なかったことまでした。

 にも関わらずまるで私が狙うに値しない男のような事を言われ、更に関われば羽切君に飽きて違う男へとくら替えをする可能性が高いとまで言われたからか。



「まぁ、残り一カ月で強制的にお別れになるわけだし、物理的に離ればなれになれば勝手に忘れちゃうって。それじゃ私、学校行ってくるね」



 残り一カ月で離ればなれ。

 そうなれば連絡を頻繁にすることも無くなるだろうし、お互いの生活もあるしでそうなる可能性はかなり高いと思う。

 でも本当にそれで良いのだろうか。

 


「あえ? 学校? 今何時ですか?」



 クリストファーさんはバッチリ制服姿でカバンを持って通学する気まんまん。

 私は起きたばっかりだからそんなクリストファーさんの姿を見て時間感覚が狂っている。



「もう8時だよ」

「ヤバっ!」



 8時30分までに学校に行ってないと遅刻扱い。

 今からシャワー入って、服着て、ご飯食べてなんてやってたら絶対に間に合わない時間。

 私は急いで布団から出てリビングへ行く。


 すると玄関にクリストファーさんが居て、外へと出て行った。

 玄関のドアが閉じかけている隙間から見えたのはクリストファーさんと羽切君の背中。

 ドアが閉まっても脳裏にその姿が浮かんで嫌な気分になった。

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