【110】 二学期(旅行②)
気温は寒くなってきているが、俺の体はのぼせそうなくらい暑い。
母さん達は先に出て行ってしまい、今は鹿沼さんと二人っきり。
折角絶景が広がってリラックス出来るはずの温泉が、ちょっぴり緊張感のある雰囲気へと変わっている。
理由は同じ温泉に全裸の鹿沼さんが入っているから。
濁り湯でバレていないが、俺の下半身はフルで反応していて、もはやこの状態で温泉から出ることは出来ない。
鹿沼さんに後ろを向いてもらって出る事も考えたが、俺はタオルを持って来てないし下の脱衣所まで混浴となったこの場所をギンギンになったモノをぶら下げながら歩くのは俺が恥ずかしい。
それに他の女性客が見たら、変態が自分を見て反応しているのではないかという疑いをかけられても困る。
それなら全く違うことを考えて下半身を抑えて出ようとしたのだが、視界の端にいる鹿沼さんに引力のような力で視線が吸い寄せられるし、完全に視界に映らないようにしても結局脳裏にはさっき見た鹿沼さんの裸が映像化されギンギンが治らないという悪循環が発生している。
「羽切君」
「なに?」
「さっき全部見えちゃった......よね?」
全部見てしまった。
二つの膨らみもその中心も下半身に薄く生えた毛も、そしてその下にあるほんのり左右が膨らんだ割れ目も。
しかし見たとは口が裂けても言えない。
「いや、湯気が凄い上に母さん達に無理やり目を開かされてすっっごいぼんやりとしか見えなかった」
「ぼんやりって......ど、どのくらい?」
「YouTubeで一番悪い画質にした時くらい」
「ほ、ほとんど見えてるじゃん!」
「全然見えてないって。それと濁ってて何も見えないからもっとリラックスしたら?」
濁り湯で本当に何も見えないのに、鹿沼さんは体を横にしてずっと体育座りで小さくなり体を隠している。
「に、濁り湯で見えないからって男の人の前で隠すのを止めるなんて無理っ。恥ずかしい」
「じゃあ俺は後ろ向いてるから、ちゃんとリラックスしなよ」
そういう事なら解決は簡単。
俺は後ろを向いて何もない壁を一点に見つめる。
すると後ろからチャポンチャポンと体を動かした水の音と小さな波がこちらに来て、ようやく鹿沼さんが自分の体を隠さずリラックス状態に入ったのだと確信した。
もはや現状を解決するには一つしか方法がない。
タオルを持つ鹿沼さんが先に出て、俺はそのあと下半身が通常状態になるのを待って出る。
問題は鹿沼さんがいつ出てくれるか。
もはや暑さで俺の方の限界が近い。
「私、そろそろ出るね」
ジッと体の暑さを我慢して耐えていると、ようやくその時が来た。
しかし最後に何かイタズラしてやりたいという感覚に陥り、俺は瞬時に温泉の中へ頭のてっぺんまで全部浸かった。
「うわあああっ!?」
ゴボゴボっと水の中に入った音と共に鹿沼さんの悲鳴が外から微かに聞こえ、そして出て振り向くと鹿沼さんが信じられないという顔でこちらを見ていた。
「変態!」
濁り湯で外から何も見えないとはいえ、湯の中に入ってしまったら見えるんじゃないかという心配と湯の中でどこまで接近しているのか分からないという緊張感を同時に当てられるイタズラ。
流石にこの悪戯は効いたのか、それとも温泉でか、鹿沼さんの顔は真っ赤になり俺を睨みつけてきた。
「出るからあっち向いて!」
「はいはい」
「本当に出るんだからこっち向かないでよね!?」
「わかってるよ」
俺は後ろを向き、後ろからジャボンと鹿沼さんが立ち上がった音が聞こえ、温泉から出て行くんだろうなと思っていたら何故か動きが静止したのが音で分かった。
「あれ?」
そして鹿沼さんの疑問の声。
「どうした?」
俺が言うと、再度ジャボンと湯に入って行く音と波が俺の背中へと伝わる。
「タオルが無くなってる」
「湯の中に落ちてるんじゃない?」
「それはあり得ない。ここに置いたもん」
「そっち向いてもいい?」
「いいよ」
俺は鹿沼さんの方へと体の向きを変え、近づく。
「近づくなっ!」
「なんで?」
「近くで見たら見えちゃうかもしれないでしょ!」
「じゃあ俺がそっちに行くから鹿沼さんは壁沿いに俺のいる方に来て」
「わかった」
俺は真っ直ぐしか沼さんの今いる場所へ行き、鹿沼さんは遠回りで俺のいた場所に行く。
そして俺は温泉の外にあるすべての場所に視線を動かして確認したり、湯の中を手探りで探したりしたけど確かにタオルらしきものはない。
俺も鹿沼さんが入ってきた時にタオルを陸で地面に落として飛び込んできたのを見ていたから間違いなくあるはず。
しかしどこを探してもないのを確認すると、一つの可能性が浮かび上がった。
「もしかしたら母さん達が持って行ったのかも」
「ええっ......」
「酔っ払いがまたしでかしたな」
「でもどうしよう」
母さん達の意図を考える事ができないほど俺の方が限界にきている。
既に暑さの限界を超えていて、もう出れると思って最後に頭まで浸かるイタズラをしたから頭がクラクラしてきているのだ。
「鹿沼さん、絶対に振り向かないから一緒に出よう」
「でも私、裸......」
「実は俺もう限界なんだ」
「限界って、何が?」
「のぼせてる。倒れそうなくらいに」
「えっ」
「俺の体を盾にして良いから一緒に出よう」
俺の焦りとは裏腹に、鹿沼さんは決断できかねている模様。
まあ男と女が全裸で一緒に歩こうなんて提案、女側の方が決断に勇気がいるのは当たり前か。
しかし時間がないので俺はギンギンの下半身をうまく手と腕で隠しながら立ち上がった。
「うわわわっ!?」
鹿沼さんは両手で自分の顔を隠し、悲鳴を上げる。
立ち眩みでクラクラな頭でヨロヨロと温泉から出ると、心地良い冷たい風が俺の全身を駆け巡って体を冷やす。
そして鹿沼さんに背を向けたまま、下り坂の方へと歩き出す。
「ちょっと待ってっ!」
置いてかれそうになって怖くなったのか、後ろで鹿沼さんが立ち上がった音が聞こえ、ペタペタと俺の元へ小走りで近づいてきたのが分かった。
結構強引な方法だったけど、とにかく何とかなった。
あとはこのまま下まで降りて、誰もいなければよし、誰かいればその時にどうするか考えればいい。
「絶対振り向いちゃだめだからね?」
「わかってる」
振り向くわけがない。
後ろにいるのは全裸の鹿沼さんなんだから。
「きゃっ!」
そんなことを考えていると後ろで悲鳴が聞こえ、ペチンと石畳にやわらかい何かがぶつかった音がした。
俺は無意識に何が起きたのか確認しそうになったが「振り向くなっ!」と言われてすぐに前へと顔を固定。
「ちょっと転んじゃっただけ」
「気を付けなよ。結構滑るから」
この坂の上と下で看板があって、そこには滑るからタオルで一度体の水気を切ってから入るよう注意書きがされていた。
石畳だから体が濡れていると滑るし、結構危ないのが理由だろう。
足元を照らす小さなランプに沿った降って行く。
今は多分、23時30分前後だろうし流石に人はいないと思っていた。
しかし、向こう側から人の話し声と近づいてくる足音も聞こえてきた。
狭い通路で隠れれる場所は左右の木々くらいだが、全裸で茂みに入るのは少々危険。
どんどん近づいてくる人の気配にどうしようか悩んでいると、ピタッと背中に人肌の感触が引っ付いてきた。
どうやら俺の背中に隠れるを選択したらしい。
胸を押しつけているわけではなく、両腕で隠した状態でくっついているのが感触でわかる。
できれば胸を押しつけてほしいという願望はあるけど、仕方がない。
そして遂に前から来る人と対面した。
幸い、女性二人組。
どちらも母さん達くらいの年齢で、タオルを巻いている。
「こんばんわー」
「こ、こんばんわ」
両手であそこを隠しての挨拶。
俺の後ろの人影を見て目を大きくして驚いていたが、すぐに俺の股間を手で隠すという立ち姿にくすくすと笑いながら通り過ぎて行った。
「ごめんね」
「えっ、何が?」
「私ばっかり隠れて、羽切君にだけ恥ずかしい思いさせてる」
「別に良いよ。俺は両手で全部隠せるから」
両手で玉を覆って隠し、腕で棒を隠せる。
女性は両胸と股を隠さないといけないから両手だと結構大変。
ようやく麓まで降りると、俺が思っていた以上に人が居た。
右側の温泉には男性が三人。
左側の温泉には女性が五人。
たまにその二つの間で会話を交わしている。
そして俺達はその二つの湯の間を通り抜けて脱衣所に行かないといけない。
どうしよう。
これだと絶対に見られちゃう。
女性陣に見られる事は問題ないかもしれないけど、男性陣に見られるのは嫌だ。
鹿沼さんは当然嫌だろうけど、なぜか俺も鹿沼さんが男性陣に見られるのが嫌だ。
しかしここにずっといればいつ男性陣に見つかるか分からないし、いつこの道を通ろうとするかわからない。
頭がフラフラな状態だけど必死に考え解決方法を探るが、そもそも脱衣所への通路がここしかいないから不可能だ。
「ナル君」
どうすれば良いか分からずにいると俺の体に腕が回り、今度は俺の背中に柔らかいものが強く押し当てられた。
ものすごく柔らかいと同時に背中に感じるポツッとした二つの違う感触に俺はのアソコは今までの人生で感じたことがない硬さへと変貌し、心臓のバクバクも激しくなる。
ただでさえのぼせて頭がフラフラなのにこんなことをされて俺の視界が歪み始める。
「このまま一緒に……」
「でもオジサンに見られちゃうよ」
「胸はナル君の背中で隠れてるし……下も何とか隠せる」
「本当に大丈夫?」
「ナル君と一緒なら……」
「じゃあカニ歩きで行こうか」
「カニ歩き?」
俺は体をゆっくり横向きにすると、鹿沼さんもまた背中に引っ付きながら横向きになる。
オジサン達と鹿沼さんの間に俺の体を入れることで視線を遮ろうという作戦。
しかしカニ歩きだから不自然で注目されるだろうし、進むのが遅くなってしまうのが難点。
「行くよ」
「うん」
俺は背中に感じる柔らかいものに意識を集中させながらゆっくりと前へと進む。
半分まで進むとオジサン達の視線がしっかり俺達に向いているのが見えた。
見ているのは俺じゃなくて後ろにいる鹿沼さんだろう。
オバサン達に見られるのは何とも思わないけど、オジサン達に見られていることにちょっとばかり怒りすら感じる。
俺の体じゃないのに何でこんな感情になるのか分からず、ようやく脱衣所の扉の前までたどり着くことができた。
脱衣所の引き戸を開けようと取っ手に指をかけようとした時、俺の意思とは別に引き戸が開いた。
出てくるのがオジサンだったら全力で鹿沼さんを隠さなきゃと思ったが、出てきたのは体にタオルを巻いたお姉さん。
「一般客のご利用時間はもう終わってますよ」
「え、はい。すいません」
一般客の利用時間は終わってるという事は、今温泉に入っているのはこの旅館で働いている人達という事か。
俺達は脱衣所に入り、それぞれ後ろ向きで着替えだす。
着替えるといっても私服じゃなくてこの旅館の浴衣だが。
「あ、あれ?」
「今度は何?」
「下着がない」
「あのババア共……」
酔っ払いババア共はわざとトラブルを起こしているとしか思えない。
しかし鹿沼さんの私服はかごの中に入ったままだったので、下着なしで私服に着替えてその上から浴衣を着ることで解決できた。
脱衣所から出ると脱衣所の前には“利用時間終了”の看板が立てられていた。
見ると利用時間は23時30分までで、23時から30分間は混浴と書かれている。
クラクラした頭と途轍もなく暑い体を鹿沼さんに支えられながら部屋へ戻った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「大丈夫?」
一度、母さん達の部屋に顔を出してから部屋に戻り今は部屋で大の字で休んでいる。
今は窓を全開にしていて俺の体を冷やしている状況。
外からの涼しい空気と畳の匂いでなんだかすごく安心する。
「だいぶ落ち着いたよ」
体はだいぶマシになったが、俺のアソコはビンビン状態から沈静する気配がない。
人生で初めて見た同級生の裸。
全く同じ時間を歩んできたはずなのに男女というだけでこれだけ体に違いがあることを認識させられてどうしようもなく体が興奮してしまっているし、その相手は鹿沼さんで、その体が俺の背中に柔らかく引っ付いていたあの感触が脳裏に焼き付いてしまっている。
今なら鹿沼さんで抜く事が可能かもしれない。
何故か今まで鹿沼さんを想像して一人で致す事が出来なかったが、今なら......。
「ナル君、あのさ......そろそろソレも落ち着かせられない?」
「ごめん……どうしようもなく体が興奮しててしばらく落ち着かないと思う」
「目のやり場に困るんだよね......」
鹿沼さんは椅子に座った状態で窓枠から外を眺めていて、チラチラと俺の方に視線を動かしては戻すをを繰り返している。
その横顔は紅潮していて、少しばかり落ち着きがない。
「まあ、鹿沼さんのあんな姿見せられたらそりゃ興奮するよね」
「......んあ!? やっぱり見たんだ私の体! バカ!」
「冗談冗談」
「待ってよ、じゃあ何でそんな興奮してるわけ!?」
「そっちが胸を押しつけてきたからな」
「あれは......仕方がなかったんだからっ」
「それでも男の俺にはどうしようもなく体が反応しちゃうわけ」
「じゃあそれは私で興奮してるんだ?」
「まあ、そうだね」
「ちょっと質問なんだけど、羽切君の体は私で興奮してるしその興奮相手といまは二人きりでしょ? 無理やり襲っちゃおうとかってならないの?」
「鹿沼さんはお腹が空いてる時にスーパーの弁当を見てその場で食べちゃおう! ってなるの?」
「ならない」
「そういう事でしょ」
「犯罪だからって事?」
「それもそうだけど、理性が働くって事だよ」
俺たちは動物だけど理性を持った唯一の動物。
たまにその理性がぶっ壊れて性犯罪を犯してしまう人もいるが、ある意味その人は本来の動物の本来の姿。
しかしそれが許されないのが人間の作ったルール。
そしてルールがあるからこそ俺達は安全に生きていられる。
ルールがなかったら生まれつき体が丈夫で喧嘩が強い男が欲望のままに好き勝手に女を抱き、好き勝手に弱い男や女性、知らない子供を殺して行くだろう。
そうやっルールには権力や生まれつき強い者を規制することでそれらを持ち合わせていない者を守るという側面がある。
他にも紛争を起こさないためのルールや物事をスムーズに動かすためのルールなどがあるが。
鹿沼さんがなんでこんな当たり前な質問をしてくるのかと思ったけど、よく考えたらそこまで変なことじゃないかもしれない。
俺は自分のソレが大きくなった状態を生まれた時から見ているが、鹿沼さんみたいな本当に初心で最近まで何も知らなかった女子からしたらこれを見て俺が途轍もない性欲と我慢に塗れていると思ってもしょうがない。
もしかすると今の俺の状態が鹿沼さんに対して硬くなっていると明言してしまった事で鹿沼さんは襲われるんじゃないかと怖くてこういう質問をしてきたのかも。
後者なら早めに抜いて一度沈静化して安心させたほうがいいかもしれない。
「鹿沼さん、寒かったら閉めていいよ」
「もういいの?」
「うん」
鹿沼さんは部屋の窓を閉め、布団を俺の隣に敷いて寝る準備を始めた。
「痛っ!」
そんな鹿沼さんを寝転びながら見ていると、鹿沼さんは突然体を硬直させて両手で右の太ももを抱えるようにして尻もちをついた。
「どうした?」
「何か太ももに激痛が……」
「つったとか?」
「いや、何かに刺されたのかも」
そう言う鹿沼さんの浴衣の足元から何か黒い物体が出てきて飛んで行ったのが見えた。
俺は立ち上がり、壁に引っ付いたその物体に近づく。
そこに居たのは、蜂。
それもミツバチではない。
その個体は黒く毒を持ってそうなボディーで、ミツバチよりも羽も含め大きい。
俺は近くにあるティッシュ箱で叩きつけて取り敢えず殺す。
そしてすぐに冷蔵庫の中を開けて氷を二つ取り出し、死んだ蜂を調べるより先に鹿沼さんの方へと駆け寄る。
「どこ刺された!?」
「太ももとお尻の境目あたり.....いてて」
鹿沼さんは俺に背中を向けてゴソゴソと痛みのある場所を見始めた。
俺はその間にスマホで黒い蜂と検索し、出てきた蜂の名前と毒性を確認。
個体名はクロスズメバチで、毒性は弱。
しかしながらスズメバチには変わりがないので応急措置とアナフィラキシーショックの危険があるので一時間程度様子見が必要と書かれている。
「ちょっとよく見えないけど、赤くなってるかも」
俺にパンツが見えないように後ろ向きで、頭を地面に近づかせて患部を見る鹿沼さん。
その肩に両手を置くと、サッと自分の股を浴衣で隠し、俺を見上げた。
「落ち着いて聞いて欲しいんだけど、鹿沼さんスズメバチに刺されたんだよ」
「えっ、スズメバチ!?」
「だから俺が応急措置する」
「......わかった」
やはりスズメバチというワードは強く、鹿沼さんの中で羞恥心よりも恐怖感が勝っている模様。
鹿沼さんは俺の方へ体の向きを変え、浴衣をパンツが見えるギリギリまで上げた。
「少しあるみたいだよ毒」
「どうしよう」
「一応、応急措置だけして痺れとか息切れとか感じたら救急車って感じだね。母さんたちにも伝えて、一時間くらい容態観察」
「救急車......応急措置って何するの?」
「針が残ってないかの確認と毒をつまみ出す。そしてこの氷で冷やす」
「じゃあナル君、お願い」
「わかった」
「えっ」
俺にお願いしたくせに目を丸くして驚く鹿沼さん。
「じゃあ足広げて」
「ちょっ、この下パンツなんだけど?」
「だから?」
「もしかしてナル君って、私のこと女として見てない?」
「すごく見てるよ。でも今は心配の方が勝つ」
「すごく見てるんだ.......」
鹿沼さんはパンツを隠しながら何故か少し嬉しそうに口元を綻ばした。
「どこ刺されたの?」
俺は太ももに顔を近づけて見る。
しかし患部が見えない。
さっき鹿沼さんが自分で見ていた時の姿勢を考えると、太ももよりももっと奥の可能性が高い。
であればやっぱり男である俺じゃなくて隣にいる母さんたちを呼んだほうがいいのかも。
そう思っていると、鹿沼さんは膝を立てて開いた。
「ここ……」
左手で股を隠し、右手で太ももの奥を指さした。
かなり低い位置にあったので俺は胸を地面につけて低い体勢でその場所を見る。
刺された場所は太ももの裏……というよりお尻といってもいいくらい深い場所。
これだと鹿沼さんをうつぶせに寝かせて見たほうが見やすい。
うつ伏せになってほしいと言うために見上げると、真っ赤な顔の鹿沼さんと目が合った。
「恥ずかしいんだから、早くしてくてる!?」
「わかったわかった」
俺は患部をよく見るために鹿沼さんの股へとぐっと頭を近づける。
「.......ッ!」
するとそれ以上近づくなの意味なのか、手が俺の頭をグッと押すようにして乗った。
鹿沼さんの刺された部分はアレルギー反応で広範囲に膨れていて、小さな刺し口に針は残されていなかった。
次にするべきは毒を搾り出す事。
俺は手を伸ばし、鹿沼さんの患部を軽く触る。
「ちょっとナル君、何して......あんっ!」
そしてちょっとつねった瞬間、鹿沼さんの口から変な声が漏れた。
鹿沼さんは敏感だと戸塚さんから聞いていたけど、ここまでとは。
っていうかこんな場面、角度的に誰かに見られたら別の事をしていると勘違いされそうだ。
その後、俺は鹿沼さんの刺された部分を小さくなってしまった氷で冷やした。
鹿沼さんの体調に何かあった時のために隣の母さん達の部屋まで見送り、俺は旅館の受付へ何か薬がないか聞きに行った。