【105】 二学期(文化祭②)
9月下旬だというのに、まるで真夏のように今日は暑い。
午前中はそうでもなかったけど、正午になるにつれてどんどん気温が上がって行き、午後になってもその気温を保っている。
「えっと......」
クリストファーさんとの勉強会が終わり八木と佐藤さんと合流したのだが、何故かクリストファーさんもついてきている。
当然八木と佐藤さんは困惑しているが、声が出せないので状況を説明できない。
着ぐるみ内は熱がこもりありえないくらい蒸し暑くなっていて、汗が止まらなくなってきている。
一刻も脱ぎたいけどファスナーが後ろにあるから自分一人では脱げないし、中身が俺である事を知ってる人にしか頼めない。
クリストファーさんがいては脱げないし、なんならめっちゃ密着している。
胸が俺の体に押し当てられていて、俺は支えるようにしてクリストファーさんの体を抱き寄せるように触れているから心臓がドキドキだ。
「羽切、お前マジか!?」
頼むから状況を察してくれと願っていたのだが、残念ながら叶わなかったらしい。
「へー、クマさんの中身は羽切さんって言うんですね」
「えっと……君、そのクマに変なことされなかった?」
「変なことですか?」
「胸触られたり」
「されてないですよ? むしろ勉強教えて貰えて助かりました」
佐藤さんは俺が着ぐるみを着て女子に悪戯しているんじゃないかと思ったらしい。
間違ってないけど、クリストファーさんには何もしていない。
それと生徒数の多いモンスター校という事もあり同級生であっても知らない人が多く、佐藤さんはクリストファーさんの事を知らないみたいだ。
「もう少し女の子触ってたいんだろうけど、欲望抑えられなくなって大問題になる前に暴露しておいた方が良いね」
「あのなぁ、着ぐるみ着てちゃしたい欲望も出来ないだろ」
「え?」
初めて俺が声を出すと、俺に引っ付いているクリストファーさんは瞬時に離れてこちらを見た。
「男の人だったんですか!?」
「隠しててごめん」
「い、いえ。何で声出してくれないんだろうってずっと不思議だったんですけど、謎が解けました」
「暴露したところで、できるだけ早く脱ぎたいんだよね。この中暑すぎて死にそうなんだ」
「じゃあ背中開けますね」
クリストファーさんは背中に周り、ファスナーに手をかけたのが感触で分かった。
しかし何かに苦戦していて中々開かない。
もうすぐこの暑苦しいのから解放されると思っていたのに焦らされていて、我慢の限界が近くなってきた。
「あっ」
俺の背中を開けようとする力が一瞬にして無くなった。
正面に着たクリストファーさんは苦笑いしていて、何かを見せるように手を目線の位置まで上げた。
人差し指と親指に挟まれているのはファスナーの取手。
「壊れちゃった」
「ま、マジか」
「でも大丈夫です! 学校のどこかに予備のがあると思いますし、最悪ハサミで切っちゃえばいいんですから」
「じゃあ早速、探しに行こう。もう限界だからとりあえず人気のない涼しい場所に行きたい」
「私達はどうしようか?」
「佐藤さん達は二人で文化祭回って楽しんできてよ。八木、頑張れよ」
「……?」
俺の「頑張れよ」に八木は苦笑いをしたが、佐藤さんは理解できなかったようだ。
「それじゃ、また後で」
「オッケー」
俺とクリストファーさんは二人から離れて校舎へと向かった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
俺は今、一年A組にいる。
ここでは女子高生によるマッサージをクラスの出し物にしていて盛大に賑わっている。
クラスにはカーテンで6つに仕切られていてまるで集団の入院室のよう。
マッサージの施術はベッドではなくて机を並べてその上にマットレスを敷き、更にその上に人が寝そべってマッサージをするというもの。
教室自体は確かに6つに仕切られているのだが、綺麗に6つになっているわけではなく小さな7つ目のスペースがあり、俺はそこでクリストファーさんを待っている。
そこには机は無く、しかしマットレスが一つだけ地面に置かれている。
「女子校の文化祭でマッサージって、なんかエッチだよね~」
「女子が女子にエッチなマッサージするわけないでしょ」
「そんな事無いよ~? 女の子限定の風俗ってのもあるわけだし~」
「どんな人が行くの? そんなところ」
「そりゃ、ストレス発散とか性欲発散したい人とか男だと恥ずかしいとか不安だと思ってる人とかだね~。それにやっぱ女同士の方が体の事よくわかってるから、安心して気持ち良くなれるんだよね~」
「美香ってそういう系すごく詳しいよね……ってか一番奥の部屋ってここかな?」
7つ目の部屋で涼んでいると、俺の目の前のカーテンが開いた。
聞いたことがある声、聞いたことがある名前が飛び出してきてすぐに知り合いであることは分かったし、別に鹿沼さん達が来てる事は驚きはしなかったが、まさか俺のいる場所に入って来るとは思ってなくて瞬時に座っている状態から立ち上がった。
カーテンから入ってきたのは学校の制服姿の鹿沼さんと戸塚さん。
「先どっちからマッサージしてもらう?」
「美香、先にいいよ」
「わかった~」
戸塚さんは地面に敷かれたマットレスにうつ伏せで寝た。
知らない女子だったらここで何もせずに沈黙して帰ってもらうが、今回は知り合いの二人。
バレても多分そこまで傷を負う事は無いし……それに鹿沼さん達を驚かせることが出来ると思うとちょっと面白くなってきた。
「それじゃお願いしま~す」
俺は戸塚さんの横に座って背中を親指で押したり、肩を揉んだりする。
いつもは戸塚さんからボディータッチしてくるけど今回は俺からボディータッチしてるので何だか変な感じだ。
「どお?」
「ん~、お姉ちゃんのと比べたら全然微妙かな~」
「そりゃ真里さんはプロ中プロだし、比べるのは無理あるでしょ」
「それもそうかぁ~」
戸塚さんの姉、真里さんはプロのマッサージ師。
それに加えてニオイでその人の様々な事が分かる特殊能力付きの異端者。
「っていうか、何で着ぐるみ着てるんですか~?」
「……」
「全然喋らないの不気味なんだけど~」
「何か事情があるんじゃない?」
「事情~?」
「例えば部活で顔に怪我しちゃって、人に見せたくないとか」
「それなら話すくらいは出来るでしょ~」
「そ、それはそうだけど……すごく人見知りなのかもしれないよ」
「それか中身の人が男だから話せないとかだったりして~」
ギクッ。
いつも通りの鋭い戸塚さんの指摘に一瞬俺の手が止まったが、すぐに再開した。
「ここ女子校だよ? そんな訳ないじゃん」
「外部から来た変態が偶然見つけた着ぐるみ着てこうやって女の子触って楽しんでるのかもよ~?」
「美香ってたまに凄い妄想するよね……もし本当にそうなら、取り押さえて警察に突き出して人生終わらせてやるんだから」
「景、怖ぁ~」
絶対にバレてはいけないと再確認すると、戸塚さんは後ろに両腕を伸ばしてきた。
「私生理近いと肩とか腰とか凝っちゃうんだよね〜。引っ張ってください〜」
どうやらマッサージに満足いかず、自分から要求することにしたらしい。
文化祭のマッサージに一体何を求めているんやら......。
俺は戸塚さんの腰に跨って要求通り手を握って後ろに引っ張る。
すると戸塚さんの上半身がえび反り、頭が俺の顔に近づいた。
「もっと〜。ほら、脇下から肩を拘束するようにして〜」
俺は言われるがままの行動をする。
戸塚さんは意外と腰が柔らかいみたいで、折れるんじゃないかと心配するくらいの曲線を描いている。
俺の顔は戸塚さんの肩の上にあって、すぐ左には戸塚さんの頬。
まるで後ろから抱き寄せているような.......いや、無理やり拘束しているような体勢。
「きっもちぃ〜」
戸塚さんはそう言うと、何故か俺の横顔に横顔を引っ付けてきた。
まさかこの人、発情してるわけじゃないだろうな?
思えば戸塚美香という人はド変態で、何をしでかすか分からないような人だ。
バイであると暴露されたけど、今までの行動を見てるとどちらかというと女好きのレズじゃないかと疑っている。
ここは女子校なので戸塚さんの求めている人材は大勢いて、見定めしているのではなかろうか。
そんな心配をしていると、俺の耳元に顔を強く押しつけてきた。
そしてーー。
「羽切君、何してるの〜?」
小声でそんなことを言われて心臓が跳ね上がった。
何故バレた?
どれだけ考えてもバレる要因が見つからない。
そして結論、これは戸塚さんの気まぐれで適当に言ったんだという事で完結。
とならばわざわざ答える必要はない。
「黙ってるつもりなら、大声で着ぐるみに入って女の子マッサージして勃起してる変態男がいますって叫んじゃおうかな〜?」
「何でバレた?」
「中で結構な汗かいたでしょ。ニオイが完全に羽切君だもん〜」
そういえばこの人も嗅覚が鋭かったんだった。
真里さんが凄すぎて完全に忘れてた。
「やっぱ、羽切君って変態だったんだね〜」
「これには訳があるんだ」
「女の子に触りたい欲が抑えられなかったのかな〜?」
「ち、ちげえって。これは佐藤さんがーー」
「美香、何か言った?」
「ううん、何も〜。それより景、そろそろ交代しよっか〜」
「もういいの?」
「私は十分かな〜。景、肩凝るって言ってたじゃん〜、これやればすぐに解消するよ〜」
一体何を企んでるんだ戸塚さんは。
凄く心配になってきた。
マットレスの上には今度は鹿沼さんの背中。
俺は跨って戸塚さんと同じように脇下から肩を持ってグッと自分の方へと寄せる。
「景の肩凝りの原因は胸だと思うんだよね〜」
「間違いなくそうだと思う。最近またサイズ上がっちゃって......」
「私たちくらいの年齢だと成長止まってる人がほとんどなはずなんだけどね〜。胸が原因で肩が凝るときはえび反りにした状態で胸を支えると解消するんだよ〜?」
「えっ、胸を!? じゃあ美香、ちょっと支えてくれる?」
「いやいや、そこのクマさんが後ろからした方が効果あるんじゃないかな〜」
「それはちょっと……」
「同じ女の子なんだから、別にいいじゃん~」
何言ってんだこの人!?
俺が後ろから鹿沼さんの胸を掴んで支えろって言ってんの?
マジで?
「あぁ、叫びたくなってきたな〜」
「生理近くて情緒不安定なの?」
「それもあるかもね〜。ほら、クマさん支えてあげて~?」
チラリと戸塚さんを見ると、ニヤニヤ顔になっていた。
これはもう、やるしかない。
こんなところで叫ばれて警察に突き出されるよりはマシだ。
俺は鹿沼さんの肩から手をずらして制服の上から胸を鷲掴みにしてグッと引き寄せる。
「あっ」
鹿沼さんは無意識の防衛反応なのか、俺の手首を掴んできた。
着ぐるみの上からでもわかるその大きさ、そして柔らかさ。
制服とブラジャーの上ではあるけど、手のひら全体に良い感触を感じる。
「どう~?」
「確かに肩とか腰には良いかもだけど、胸が痛いかな……」
「クマさんガッつきすぎじゃないですか~?」
しばらく黙って鹿沼さんの胸を堪能していると、すぐ隣のカーテンが勢いよく開いた。
「羽切君、ハサミ持ってきましたー! ……って、えええええっ!?」
入ってきたのはクリストファーさん。
クリストファーさんは俺達を見ると一度大きく驚き、すぐさま後ろ手でカーテンを閉める。
「羽切君........?」
俺の下にいる鹿沼さんは復唱し、俺の手を振り解いて無理やり体を捻って仰向けになった。
そしてその状態でクリストファーさんへと顔の向きを変える。
「ねえ、この人羽切君って言うの?」
「えっ、いや.......羽切さんだったかも?」
「ふぅーん、羽切さんねぇ」
クリストファーさんは中身が男である事を隠そうとしているのかもしれないけど、苗字が出てしまってるから意味がない。
鹿沼さんたちが同じ学校の同じクラスという情報がないから仕方がないけど。
鹿沼さんは俺の体に手を伸ばし、ベタベタと触って何かを確かめ始めた。
首、胸、腹と徐々に降りていき俺の下半身の固くなっている部分に触れた瞬間、一度目を大きく見開き瞬時に自分の体を抱きしめるかのように腕で胸を隠す。
俺は間違いなくバレたと悟り、ゆっくりと立ち上がる。
そして予備動作なしでカーテンの外へと飛び出し、教室のドアへと直進する。
「待ちなさいっ!」
後ろで鹿沼さんが叫んだが、一度逃げ出したらもう止まれない。
教室から飛び出して廊下を全力疾走。
「この変質者!」
一瞬振り返るとハサミを持った鹿沼さんが全力で追いかけているのが見えた。
人が結構いるから危ないと思ったのかハサミの刃の部分を握りしめていて、だけどハサミで殺傷しにきていると思うとヒンヤリと汗が出た。
「今はハサミを持ってる鹿沼さんが変質者だよ!」
「うるさい!」
廊下の途中に“この先立ち入り禁止”の紙が貼られた椅子が置かれていているのが見えたが、当然その領域に踏み入れダッシュで逃げる。
校舎が大きいから廊下も長く、文化祭の一般客が入れる場所に制限をかけているという事なんだと思う。
だからその椅子を通過した廊下には誰も人がいなくて、だからこそ人に紛れて隠れたり逃げ道を惑わせるということが出来なくなってしまった。
しばらく真っ直ぐ走ると突き当たりに当たり、右側には別の建物へ向かう外通路。左側には再度真っ直ぐの廊下があり、俺は右側の外通路を選んだ。
外通路を真っ直ぐ行き、扉を開けるとそこは体育館。
こんな広々とした場所では隠れることはできないし、出入り口が一つしかないから逃げ切れない。
どうやって逃げようかと体育館を見渡してみると、もう一つの扉が目に入った。
俺は急いでその扉へと走り開けると、予想通り体育館倉庫。
もう後ろから鹿沼さんが来てるだろうし、もしあの分岐点でこちらを選んだなら俺が出来ることはここに隠れることくらい。
中に入り、横引の扉を閉めて身を潜める。
体育で使うマットだったりボールだったりとどこの学校でも似たような物ばかり。
長い時間全力疾走してきたから疲れ、マットの上に腰を下ろして休憩。
ふと着ぐるみ内の風通しが良くなっていると思い、内側で振り向くと背中のファスナーが4分の1程開いていて、俺は残りの4分の3を力づくで開けて久々に外へ出る事に成功した。
外に出て気づいたのだが、女子校でも倉庫内のニオイは共学と何も変わらない。
「はーぎり君?」
その共通したニオイは何によって発せられているのだろうかとか考えていると、体育館に鹿沼さんの声が響いて一気に恐怖へと変化した。
俺は何も答えず沈黙。
「さっきの道、左が正解だったかー」
鹿沼さんがそう言った後、体育館の扉がガシャンと力強く閉まる音がした。
勝った。
俺は逃げ切った。
右手でガッツポーズをして外に出ようと倉庫の扉の取手を掴み、扉を俺一人が出れるくらいまで横に開いた。
「みーつけた」
「ひいっ」
するとそこには鹿沼さんが立っていた。
あまりにビックリして俺の口から変な声が出て、後ずさる。
鹿沼さんは倉庫内に入り、後ろ手で扉を閉めた。
薄暗い倉庫でハサミを持った鹿沼さんと二人きり。
「ここなら叫び声あげても誰も助けに来ないね」
「こ、怖いんですけど.......何をするんですか?」
「まず、羽切君の罪状を読み上げます」
裁判か? これ。
「被告、羽切成は着ぐるみを着て自分が男である事を隠し年頃の女の子の体を触りまくって興奮していたのは認めますね?」
「......はい」
「それに加えて私、鹿沼景の胸をマッサージと称し許可なく揉み、逃走した。認めますね?」
「......はい」
「言っておくけど、痛かったから」
「それはごめんなさい」
「全ての罪状を認めたという事で判決......有罪っ!」
鹿沼さんはそう言うと、突然姿勢を低くして俺の腰へ全力でタックルしてきた。
俺はその勢いに勝てず、後ろにあるマットに鹿沼さんに押し倒される。
「痛ててて」
いきなり何するんだと思い俺の下半身にいる鹿沼さんを見ると、俺のズボンのベルトを外しフックとチャックを開け、ズボンを俺の膝までいっきにずり下ろした。
そして再度俺の下半身に覆いかぶさるようにして接近する。
「な、な、何してるの!?」
「これは刑の執行!」
「意味わかんないよ!」
しかし俺の下半身はどうしようもなくムクムクと大きくなり始め、遂にはフルで硬くなった。
突起したパンツを見て真っ赤な顔の鹿沼さんはニヤリと不気味に笑う。
「私知ってる。とある国の女王に慕える男たちは全員、おちんちんを切るって事。そうすれば男は性欲が無くなるらしい」
鹿沼さんはハサミを持ち、チョキチョキと音を立てて開閉した。
とんでもない事を言い出した鹿沼さんに抵抗するべく、俺は両脚を鹿沼さんの脇下から腰に回して背中で足を交差しギュッと締め付ける。
「切るのはヤバいって!」
「どうせ一週間もすればタケノコみたいにニョキニョキ生えてくるんでしょ!?」
「どこでそんな間違った知識仕入れてきたんだよ!」
「問答無用!」
鹿沼さんのハサミが俺の下半身に伸びたと同時に、俺は挟んでいる鹿沼さんの上半身を俺の顔側へと無理やり持ち上げる。
「ひゃっ!?」
脚の力というのは体の中で最も筋力量があって、腕と比べると三倍以上。
それに鹿沼さんと俺では男と女の差もあるから本気で筋肉を使えば鹿沼さんの体を力づくで移動させることは出来る。
鹿沼さんはバランスを崩した事で俺の下半身に伸びていた手が今は俺の顔の左右にあり、俺は両手で両手を固定した。
俺の顔の真上には鹿沼さんの顔。
スラリと綺麗なインナーの地毛銀髪が俺の顔周りへと垂れてきている。
ここまで全力で走ってきたことで薄く汗もかいていて、何だか変な雰囲気になった。
「一回切ったらもう生えてこないの?」
普通じゃあり得ない質問が飛んできた。
「生えてこない。指とか切断しても生えてこないだろ」
「確かに......」
「切断は諦めたね?」
「さすがに諦めました」
文化祭に来てるのに結局は鹿沼さんと本気で悪ふざけ(本人は本気だったかもしれないけど)をしてる時が一番楽しい。
俺は上半身を起こすと、鹿沼さんも上半身を起こして俺の太ももに座った。
俺の下半身には鹿沼さんのお尻なのか太ももなのか、柔らかい感触で押しつぶされていて、どんどん膨らもうとする俺の体と体重を押し付けている鹿沼さんの体に挟み撃ちに会い少しだけ痛い。
俺の下半身は鹿沼さんのスカートの中にあるから本当に何と接触しているのかわからず、それが想像を引き立てる。
「私の胸揉んだ責任は取ってもらう」
「前の時は責任とか言わなかった癖に」
「あ、あの時は同意があったから。それに今回は本当に痛かったの!」
「じゃあ、痛みの責任だ」
「そう、痛みの責任」
……って何?
よくわからないけど、何だかんだこうやって俺も鹿沼さんと関係を継続することを選んでいる。
何かあれば次に繋がる何かを提供し合う関係。
毎回ではないけど、それがあるからここまで良好な関係を長続き出来ているんだと思う。
でもいつかは終わらせないといけない。
12月25日に旅立つことが決まったので、遅くても10月中には鹿沼さんに終わりを伝えようと思ってる。
だけどその言葉が思いつかない。
「もう関わるのを辞めよう」と言えばいいのかそれとも拒絶して関係を終わらせればいいのか。
出来れば傷つけない形で距離を取りたい。
「戻ろっか」
「そうだね」
そんな事を考えていると鹿沼さんは立ち上がり俺から離れた。
俺も立ち上がり、落ちている着ぐるみを手に取る。
「ねえ、責任の事なんだけど......約束でもいい?」
「約束?」
「ナル君が転校する最後の日までこうやって一緒にいてほしい」
俺に背を向けたて言った鹿沼さんの言葉は俺の思惑とは真逆の事。
関係を深めればお別れが辛くなるのは鹿沼さんも散々わかってる筈なのにそれでも尚一緒にいたいなんて言われ、心臓がキュッと締め付けられる。
「うん、約束する」
俺がそう言うと、鹿沼さんは体育館倉庫の扉を開けた。
これで一連の”お遊び”は終わりかと思ったが扉を開けたすぐそこに人が立っていて、その顔を見た瞬間、お遊びでは済まされないかもしれないという恐怖感で冷や汗が出た。
「キサマ……前に佐藤をナンパしていた××高校のエロ河童」
「あれは別にナンパしてたわけじゃ……」
「今回はナンパ成功して良かったな。倉庫にはマットもあるしやりやすかったろう?」
「やりやすいって……何がです?」
「文化祭で多くの人がいる中、人気のない倉庫での性行為はさぞかし興奮したろう?」
「あっ、いや違くてですね」
「二人、職員室へ来いっ!!!!」
そこにいたのは修学旅行の時に新幹線で佐藤さんをナンパしていると勘違いされて摘まみだされた時のあのゴリラ女教師。
何故か片手には竹刀を持っていて、怒声が体育館に響き渡った。
「……はい」
ゴリラ教師の威圧、他校で性交していたと勘違いされている事、そしてこれから最悪な事が起きるんじゃないかという恐怖感。
それらすべての恐怖感で動けずにいると、鹿沼さんが俺の手を取って引っ張ってきた。
「行こっ」
その顔は少し強張っているけど、口元は楽しんでる。
こんな状況で楽しめる精神状態は異常としか思えず、まだまだ俺は鹿沼さんの全部は知り得ていないんだなと感じた。