【104】 二学期(文化祭①)
なろうのサイト変わっててビビったぁ。
二話連続鹿沼さんと会話すらない回。
文化祭シーズンがやってきた。
全国的に文化祭は9月から11月にやることが多いが、場所によっては夏にやることもある。
この地域の三校では9月の後半から10月の前半にかけて行われ、それぞれ日にちが被らない。
9月後半は佐藤さんの女子高で文化祭があり、10月では××高校、そして最後に俺達の学校という順番で文化祭が開催される。
今日は佐藤さんが所属している女子校での文化祭。
女子高という事もあってチケットが無いと入れないが、八木からチケットを貰った。
校門の受付でチケットを渡し中へ入ると校庭には色んな屋台が立ち並んでいて、女子高の文化祭という事もあって女子率がものすごく高い。
この学校のであろう制服を着た女子、何故か体操着の女子、着ぐるみの女子(?)、何かの衣装を着た女子。
女子高生がここまで集結したのを俺は見たことがなく、ちょっと興奮する。
「なんか、怖いなここ」
一緒に来ている八木はそう声を漏らした。
この女だらけの世界に超少数派である俺らは注目される。
現に通り過ぎる女子達がチラチラこちらを見てるのもわかるし、少し遠くではこちらを見ながらヒソヒソと話している三人組もいて、怖いのも良くわかる。
ここは中高一貫の女子校だから男子と関わりがある人は少ない。
だから招待制である文化祭も男子を招待する人が少ないからほとんどいない。
俺の視界には100人くらいの人が見えるけど、男の存在はたったの8人。
「とりあえず、佐藤さんのところ行こうよ。クラスは?」
「一年B組」
「高校棟はどこだろうな」
「さあ?」
中高一貫校だから中学生用の棟と高校生用の棟が分かれているだろうし、広い上に建物も多く複雑そうだ。
「まあ、歩きながら探すか」
楽観的な俺たちは適当な校舎へと入り、廊下を歩きながらクラスを探す。
どこを見ても女の子ばっかり。
それぞれのクラスで出し物をしていて、廊下も賑やか。
どうやらここは高校棟らしく、教室の上には1年G組と書いてある。
つまりここをまっすぐいけばいずれB組にたどり着けるという事。
マンモス高という事もあって、クラスの数も半端なく多い。
仮に1クラス30人だとしたら高校一年だけで210人いる事になる。
中学高校の全学年だと1260人。
この校舎に1260人もの若き女子が集結していると考えると凄い。
「なあ、ちょっと寄り道しない?」
「いいよ」
文化祭に来てるのに目的地に直行というのは微妙だ。
せっかくだから色んなクラスの出し物を見ながら向かう方が楽しい。
俺達の目の前には1年E組。
「あのー」
俺達は教室の前に座っている受付の女子に話しかけた。
「いらっしゃいませ、ご主人様」
ご主人様……?
一瞬、俺は自分の耳を疑ったが、よく見るとその女子は制服じゃなくて可愛いらしいメイド服のようなものを着ている。
受付を終えて教室の中へと入るとそこはメイド喫茶になっていた。
席に着くとメニューが置いてあって、そこにはコーヒーやらカフェラテやら書いてある。
「値段書いてなくね?」
八木の言う通り、メニューには値段が書いていない。
「無料とか?」
「……マジ?」
「じゃなかったら、不親切すぎるだろ」
「だ、だよな……? 俺はカフェラテにするけど羽切はどうする?」
「俺も同じで」
「すいませーん!」
八木がメイド服の一人に声を掛けると「はーい!」とこちらへ駆け寄ってきた。
そして俺達は注文を終え、商品が来るのを待つ。
「後で一杯1万円ですって言われたらどうする?」
「その値段ならここにいる子猫ちゃん一人お持ち帰りできないと割に合わないな」
「お持ち帰りできるとしたら、羽切はどの子にする?」
「そうだなぁ」
周りを見渡してみる。
「全員……かな」
全員がメイド服を着ているからか可愛く見えるし、お持ち帰りできるなら全員したい所だ。
「羽切ってどんなタイプの女子が好きなん?」
「うーん」
「可愛い系? 綺麗系? ロンク派? ショート派? 巨乳派? 貧乳派? 活発派? 大人しい派?」
「正直、気が合う子だったら顔も性格もなんでもいいかな。でも胸は巨乳の方がいい」
「ほーん、巨乳派か。俺は貧乳派だな」
「貧乳の魅力ってどこにあんの?」
「貧乳って言ってもあれだぜ? まな板みたいなのは嫌だ。程よく膨らんでて手で包み込めるのが良いんだよ」
「カップで言うと?」
「BからCくらい」
「平均じゃねえか」
「大きさも重要だけど形とか色とかも大事だよな。鹿沼さんのはどうだったの?」
「綺麗だったよ」
「お前やっぱ見たんじゃねえかっ! 鹿沼さんのおっぱい見るなんて羨ましすぎるぞ!」
「落ち着け冗談だ」
「冗談かよ!」
童貞同士が胸について語り合うほど虚しい事はない。
それにここは女子校だし下手に変な話をしてたらつまみ出されるかもしれない。
「お待たせしましたー」
そうこうしてると俺達のカフェラテが運ばれてきた。
「二人は高校生ですか?」
「はい、××高校の一年です」
「そっか、その制服××高校のだ。今日は誰からチケット貰ってきたの?」
「B組の佐藤未央さん。コイツの彼女」
「えええええっ、噂の彼氏さん!?」
「そうですけど......」
「噂って?」
「未央言ってたよー? もう半年なのに何もしてこないから虚しいって」
「オイ」
俺はメイド女子から目を離し八木見る。
八木は冷製を装ってカフェラテを飲み始めていた。
「手は繋いだんだよな?」
「つ、繋いでない」
「なんで?」
「タイミングが分からん」
「んなもん、繋ぎたいと思ったらお前から握ればいいんだよ」
「俺からしなきゃダメな事!?」
「あたりめえだろ」
マジで半年間何してたんだよ。
夏休みもあったしデートをしてたのは知ってるが、まさか手すら繋いでないとは驚きだ。
「よしわかった。今日、佐藤さんと手を繋げ」
「はああ? 何故?」
「今日がそのタイミングだって言ってんだ。協力するから」
「私も協力していいかな?」
メイド服の女子は俺達と同じ目線まで腰を下ろして言った。
中高一貫の女子高ってなると男慣れしてなくて、こういう会話すらおぼつかないと勝手に思っていたが、意外とそうではないらしい。
「いいよ。じゃあチャット教えて」
「おっけーい」
俺はメイド服女子とチャットを交換する。
名前は陸と言うらしいが、苗字はわからない。
陸って名前は男っぽいなと一瞬思ったけど、言葉の響きは女でも可愛げがある。
っていうか今更ながらよく女子にチャット交換しましょうなんて言えたものだ。
文化祭で初めて会った女子に連絡先を聞くってもはやナンパみたいなモンだし。
俺とチャットを交換した陸さんは別のテーブルから注文で呼ばれ「またね」と離れていった。
時間が経つにつれてこの文化祭の来場者が増えてきているのか、教室の外では待っている人がいる。 俺達はあまりゆっくりとはせず、カフェラテを飲み干して次の教室へと向かった。
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1年E組から一つ一つの教室に入っていき、目的地の1年B組まで来た。
しかし教室には佐藤さんはおらず、その代わり5匹のでっかい犬とクマの着ぐるみを着た人間が躍っているのを目撃。
教室の扉は開いていて俺達はその外から中を見ているのだがこの状況で中々声を掛けずらく、ただただその状況を眺めている。
しばらく見ていると、一匹の犬がこちらに向かってぴょこぴょこと歩いてきて俺達の目の前に立った。
「遅かったねー」
「未央?」
「うん、ようこそBクラスへ」
「Bクラスは何してるの?」
「校庭でたこ焼き作ってるよー」
「じゃあその着ぐるみは何?」
「シフト制で暇な時はこれ着て他のクラスへの勧誘だったり、首から“たこ焼きやってます!”の看板ぶら下げて歩いたりするの」
「へー、今から?」
「そのつもりだったんだけど今日欠席者がいて、文化祭実行委員の私が責任を持って今から屋台で仕事しないといけないんだよねー。良かったら買いに来てよ」
「買いには行くよ。それより八木は佐藤さんと一緒に文化祭周りたいみたいだよ」
「そうなの?」
「う……うん」
そんな事八木は一言も言ってなかったが、強引に俺から提案させてもらった。
協力するとは言ったものの、手を繋ぐくらいは自分でやってくれないと進展はないぞと強めに言ったのだがまだ覚悟は決まっていないように見える。
「じゃあ後で一緒に回ろうよ……羽切君はどうする?」
「自動的に独りぼっちになっちゃうけど、別にいいよ」
「えー、流石に悪いよ」
「いいって。一人でも楽しめる人だし俺」
「……じゃあさ、私の代わりに着ぐるみ着て宣伝してくれる?」
「別にいいけど......それだと佐藤さんのシフトが終わるまで八木が一人ぼっちになっちゃうよ?」
「いや、宏平は私と一緒に屋台に行ってもらう」
「なんで!?」
「一緒にたこ焼き売ろうよ。絶対楽しいよ?」
「まあ良いけど......」
彼氏である自分が彼女のクラスの出し物に参加するってのは確かにちょっと恥ずかしいかもしれない。
というか、いきってると思われる可能性すらある。
八木の了承を得た佐藤さんは着ぐるみを脱いで渡してきた。
着ぐるみは頭と胴体が一緒になっている布製のもので、背中のチャックから出入りするもの。
やはり中は暑いのか、佐藤さんは汗をかいていて、少しだけ顔が赤い。
「皆んなー、私シフトの時間だからあとはお願いねー!」
「はーい」
「羽切君もよろしく」
「へい」
八木と佐藤さんは教室から出て行き、残されたのは着ぐるみを着た女子四匹と俺。
何か話しかけてくるのかと思いきや、あちらはあちらでコソコソ話していてその輪に入ることはできない。
仕方がないので俺は着ぐるみを着るが、ファスナーの位置が真後ろにあるから自分では上げられない。
「あの、これ閉めてくれませんかね?」
「いいよー」
意女子の一人が俺の元へ来て後ろのファスナーを上げてくれた。
そして首から例の看板をかけて廊下に出る。
何で俺がこんな事をしてるんだろうと一瞬思ったが、暇だからいいやと割り切って文化祭を楽しむことにした。
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さっきまで佐藤さんが着ていたからか着ぐるみ内は良い匂いで充満していて、それだけで俺の下半身がピクついていたのだが、今はフルで反応している。
「はい、チーズ!」
パシャリとカメラのシャッターが切られる音がして、女子達が俺の体から離れた。
そう、中身が男だと微塵も思っていない純白な女子校の皆さんがなんの躊躇いもなく俺の体に接触してくるのだ。
俺の首に腕を回して抱きつく写真を撮るときは柔らかい胸の感触が頬っぺたに強く感じるし、両腕を女子達の脇腹に回して写真を撮るときは偶然を装って胸を触るという荒技をして楽しむ事ができた。
中身が同じ高校の女子だと思っているから抵抗も何もなく、背徳感が凄い。
今俺は人生で一番多くの女子を感じているのだ。
男としての幸せ、ハーレム状態。
女子側の知らない所でエロスを感じるという状況は興奮する。
だけど、これに慣れるのは良くない事だ。
何故なら、痴漢だったり盗撮、寝ている間にイタズラする等がこの種類の興奮に該当するし、この欲望を欲してしまうといつかはこういった犯罪に手を染めかねないからだ。
それに今は中身が男だとバレただけで人生が終わりかねない。
俺は写真を一緒に撮った女子達から静かに離れて廊下を歩き出す。
二階に上がってさらに奥へと進むと、人気のない1年F組があった。
てっきりE組までしかないと思ってたけど、どうやらFまであるらしい。
しかし他の一年生のクラスとは離れた場所に一クラスだけあるのは妙だ。
それに文化祭なのに、クラスとしての出し物もしていないみたいだし。
近づいて中を覗いてみると、一人の女子が机に向かって座って勉強をしているのが見えた。
文化祭というイベントで一人勉強してるなんて相当真面目な人なのか、それともクラスに馴染めなくてそうするしかないのか。
小柄だけど、この学校では見た事が無い金髪の女子を眺めているとこちらを振り向いたので瞬時にしゃがんで隠れる。
「こんにちは、クマさん」
しかし女子は廊下まで出てきたので見つかってしまった。
俺は男であることをバレるわけにはいかないので、声が出せない。
「……?」
何も喋らない俺を見て女子は首を少し横に傾けたが、すぐに俺の手を握って教室の中へと引っ張り入れられた。
そして女子の机の方まで行くと、そこには国語の教科書と中間テストの解答用紙と問題用紙。
名前はクリストファー加恋と書かれており、点数は17点。
「ここ、わかんないんだけど教えてくれる?」
ペケだらけの解答用紙の一か所を右手で指さすと、左手で問題用紙の同じ個所を指さした。
現代文によくある物語の一か所に線が引かれていて、これがどういう意味かという問題。
17点という点数を取り、それでも恥ずかしがらずに他人に教えを乞うというのは中々できない事。
そんな健気な彼女を見ていると付きっきりで教えてあげたいという欲求が込み上げてくるけど、そもそも俺はその文章を読んでないし、声も出せないから無理だ。
それにここは女子校で男である俺が着ぐるみを着て女子に接近しているという事実を知られるのはあまりにもまずい。
「もしかして、私に教えるのイヤだったりする?」
沈黙していると、少し寂しい顔をして言ってきた。
俺はすかさず首を横へとぶんぶん振る。
何だか心が締め付けられ我慢が出来なくなった俺はシャープペンシルを借りてノートで会話することにした。
『今日、文化祭だけどどうして勉強してるの?』
根本的な質問をとに書き、見せる。
「私、先月転校してきたの。生まれた時からイギリスにいたんだけどね、日本に帰って来て全然勉強について行けなくて、テストもボロボロ。帰国子女クラスだけど留年はあるし、何よりも恥ずかしくて追いつくために勉強してるんだー」
ここの教室に机が8つしかないのは帰国子女クラスだからという事か。
日本の学生が親の都合で海外の現地校に通う場合、例えば休日の土曜日に日本人学校というものに通う事もあるが、この子は100%現地校しか通っていなかったという事なのだろう。
恐らく英語はかなりできるんだろうけど、他の科目がボロボロというだけで自尊心が傷つけられるというのはよくあることだ。
日本というのは得意なものを伸ばすという教育方針ではないので、不得意だったりどうしても興味のそそらない科目でも勉強しなくてはいけない。
それに、帰国子女という事実を隠す人もいると聞いたことがある。
帰国子女と聞くと英語がペラペラという認識を持つ人が多いが、実は中にはあまりできない人もいるのだ。
この子のように生まれた時からならまだしも例えば2年間海外で生活していて、現地校には通わず日本人学校しか行っていなかったという子や、現地校に行っていたが日本人が多くその人たちとつるんでいたという人は2年間あっても英語があまりできないという人もいる。
帰国子女なのに英語が出来ないという目で見られるよりも、帰国子女という事実を隠して英語が周りよりちょっと出来る人と認識された方が自尊心が傷つかなくてすむからわざわざ言わない。
『わからない場所全部教えてあげるから、イギリスの生活について逆に教えてくれない?』
「うん、いいよ。物々交換だね」
物々交換とはちょっと違うけど……俺はイギリスへ行くし、長く住んでいた人にその生活について教えてもらえるのはありがたい事だ。
外から太鼓の音や何かを焼いている音、人の気配、そして美味しそうな匂いが入ってきたけど、二人だけのすごく広く感じる教室で俺は着ぐるみを着た状態で、言葉も発せず勉強会をした。