【102話】 二学期(体育祭)
一週間、家に帰れないのでスマホで書きました。
なのでいつも通り、......やーーがおかしくなってると思います。
帰ったら直します。
体育祭。
それはクラス対抗で競い合い、順位を決める行事。
学校によってその競技や進行の仕方が違うが、一つどの学校でも共通していることがある。
それは男子運動部のやる気が異常に高いという点。
体育祭というのは運動部の男子にとっては女子にアピールする数少ない機会。
クラス対抗という事もあってクラス間の対抗意識が高まりり、だからこそクラスに大きく貢献する事で男としての価値を高める事ができると、男なら誰でもこう感じるはず。
集団の中で高い貢献度を示し自分のオスとしての価値を高めるというのは知能の高い哺乳類……特にその中の霊長類では当然のように行われている事だ。
俺達人間も動物な訳だし、異性に自分をアピールするのは当然ではある。
そして運動部はまさにこの体育祭という行事では圧倒的に有利で他の男と違うという事を見せつけれるチャンスなのだ。
「あれが噂の一年生? マジ可愛いな」
「しかもエロい」
「お前は何でもアリかよ。誰を見ても言うじゃんそれ」
「あの胸、鷲掴みにして突きまくりてえ!」
「そんなに大きいか?」
「お前馬鹿だろ、どう見ても巨乳だ。あぁどんな体してんのかなぁ」
「俺らみたいなモブじゃ一生拝めねえよ。ってか童貞がいきなりアレは高望みしすぎだろ」
「そうだよなぁ」
横から下品な会話が聞こえてきたので見ると、手すりに前のめりに寄りかかっている男子生徒二人が体育館を見下ろしていた。
上靴の色からして二年生で、彼らの視線の先には鹿沼さんがいる。
いくら共学だとしても周りに女子がいなければ男子間の会話にこういう話が出ることも当然ある。
年齢的に最も性欲が高く、異性を求める時期なのだから。
体育祭と言えばリレー系や玉転がし等あると思うが、うちの学校ではどちらかと言えば「サッカー」や「バスケットボール」等の一般的なスポーツを競技にしていて、今まさに体育館ではバスケの試合が行われている。
試合をするメンバー以外は体育館の二階で観戦することができ、そこには二年や三年もちらほらみられる。
鹿沼さんは前に運動神経も良いと自分で言っていたが、嘘ではなかったらしい。
ドリブルをして二、三人華麗に抜き去り最後はレイアップで得点。
可愛い顔には汗が流れ、健康的な体は動くたびに揺れ、一挙手一投足の動作に不思議と視線を吸い寄せられる。
この体育館にいる生徒のほとんどが、今鹿沼さんを見てるんじゃなかろうか。
本来ならば発作が起きるような状況だが、集中しているのと観客の位置が上の方だから気にならないのかもしれない。
鹿沼さんがクラスのために必死になっている姿は俺にとっては大いに違和感があり、モヤモヤする。
この数日間、鹿沼さんは体育祭を楽しみにしていて、クラスのために頑張るとまで言っていた。
転校人生の俺達にとってはクラスの行事とか学校の行事とかは正直どうでも良い事だった。
だって長くても半年、開催時期によっては一ヶ月もしない間に転校するわけだから行事で仲良くなろうとクラスの団結を高めようと関係ない事になるからだ。
しかし今の鹿沼さんはどうだろうか。
クラスの為と言っている時点で俺と鹿沼さんの間に距離が出来始めているのは間違いない。
三年間与えられた鹿沼さんは普通の高校生へと成長していて、同類だったはずの鹿沼さんが少しづつ普通になっていくのを見てると何だか置いてかれているような感覚に襲われた。
この感覚はいわゆる嫉妬というやつなのか、それとも羨ましいのか。
しっかりとはわからないけど、胸をザワザワさせるこの感覚は不快だ。
鹿沼さん関連で不快だと感じたのは初めてだけど、このザワザワ根底にあるのは鹿沼さんじゃなくて俺の方なのは理解している。
俺は変わっていく鹿沼さんを見て、何かおかしな感覚を抱いているのだから。
鹿沼さんの変化は喜ばしいことのはずだ。
前に修学旅行で三年間という時間を与えられて不安そうにしている鹿沼さんに言った。
ゆっくりでも良いから、三年間の高校生活を楽しんだほうがいいと。
それが今実現し始めている。
クラスのために頑張るという姿勢はクラスの居心地が良く、学校が楽しいから出る言葉だ。
じゃなきゃ、あそこまで熱く本気でプレイはしないだろうし。
「おーい、羽切」
モヤモヤザワザワした気持ちを感じながら鹿沼さんのプレイを見ていると、クラスメイトの鍵先がしたから声をかけてきた。
「ん? どうした?」
「もう試合始まるからグラウンド来いって!」
「わかった、すぐ行く」
鍵先登。
うちのクラスの3人しかいないサッカー部の一人。
俺は体育館の二階から階段を使って降り、サッカーグラウンドへ向かった。
サッカーという競技は1チーム11人。
うちのクラスには男子が27人いるから、今グラウンドにいるのはクラスの約半分という事になる。
その中でサッカー部なのはディフェンダー二人とフォワード一人で、他の8人は他部活もしくは帰宅部。
サッカーという競技は面白くて、フォーメーションというのがある。
ディフェンダーに4人、その前列に3人、さらに前列に2人、そして一番先頭に1人みたいに横に綺麗に揃えた配置を取り戦う。
つまり何が言いたいかというと、グラウンドに転がっているボールに闇雲に突っ込んでいって自分のポジションを離れるというのは良くないプレイとされる。
しかしながらサッカーを知らない人からしたらそんな事を説明されても理解できず、現にサッカー部の三人に説明を受けてもサッカーを知らない人はポカンとしていた。
俺もその重要性ははっきりとは理解していない。
だけどサッカーはもはや超歴史的なスポーツでヨーロッパではえげつないほど人気なスポーツ。
発祥はイングランドで、八世紀ごろ戦争で敗れた敵将の首を切り落とし、蹴って勝利を祝ったのが始まりだと言われている。
これだけ歴史が長く、人気で金が稼げるスポーツならば研究されまくってるだろうしフォーメーションにもかなり重要な意味があるのだと思う。
俺達のクラスのフォーメーションは4・2・3・1。
ゴールキーパーの前には四人が横並びその次は二人、そのまた次は三人そして最前線に一人。
俺は三列目の3人組の一人で、つまりは攻撃に貢献しなくてはならない。
一番先頭にいる一人はサッカー部だし、最終列の二人もサッカー部なので一応攻守に経験者がいる。
「どーするよ、これ」
俺たちはグラウンドにはいるが、まだゲームは始まっていない。
今は一番前線の一人とその手前の俺含めた三人が集まって話し合っている。
招集したのは先頭にいるサッカー部の坂田。
「どーするも何も、何とかするしかないだろ」
「っても相手サッカー部六人だぜ? 坂田一人じゃ厳しいのでは?」
「実際厳しい。お前ら何ができる?」
「何って?」
「例えば浮き球蹴れるとか、強めのシュート打てるとか」
「浮き球なら俺が蹴れるぞ」
「じゃあ羽切、お前は右サイド」
「了解」
「左利きいるか?」
「俺左利きだ」
「じゃあお前は左サイド」
「えっ、俺は?」
「お前は中央。基本的にパス回して俺につなげろ後は何とかするから」
「わかった」
やはり前線にサッカー部一人だと頼らざるを得ない。
坂田はサッカー部のディフェンダー達の元へと走って行った。
やるからには勝ちたいという事なのだろうか、それともモテたいという理由なのか本気度が違う。
チラリとグラウンドの脇を見ると、ゾロゾロとクラスメイトの姿や相手クラスの男女が応援に駆け付けている。
「あーあ……ただボコされて赤っ恥かくのは嫌だなぁ」
「おい羽切、やけに落ち着いてるな? 怖くないのか?」
「俺は別に怖くないけど」
坂田が完全に離れると、残された3人でサッカーとは関係ない話が始まった。
「今からサッカー部にボコされて、後でクラスで負けた原因みたいに言われるかもしれないんだぞ?」
「それが嫌なら体張って善戦するしかない」
「それもそうだけど……無理だろ。見ろよあっちの連中、体操着じゃなくてユニフォーム着てるぜ?」
相手クラスのサッカー部はユニフォームを着ていて、ガチだというのが分かる。
まあ彼らからすれば本業のサッカーでアピールしやすいのは間違いないから仕方がない。
「体育祭なんだからもっと楽しくできないものかね……」
左サイドにポジションが決まったやつは困った顔で言う。
勝利という一つの目標に向かってクラス一団となって戦うというのがクラスの団結力を高め、結果的に交流を深める事ができるという目的があるのだろう。
現に俺はサッカー部の連中や今話している二人とはほとんど話した事がなかったが、今は普通に話している。
最後尾に行っていた坂田が戻ってきて俺達にビブスを手渡した。
俺達はサッカー部以外全員同じ体操着だからどちらかのクラスがビブスを着ないと敵か味方か判断がつきにくい。
どう決まったのか分からないけど、俺たちのクラスがビブスを着ることになったらしい。
ビブスを着て俺のポジションである右サイドへと歩いていく。
右サイド側は観客が多いからよく見られるし凄いプレッシャーだ。
「羽切君〜、頑張れ〜」
名前を呼ばれ観客側を見ると、戸塚さんが座って手を振っていた。
その横には八木そして亀野。
八木と亀野は男子バスケ選び、戸塚さんはバトミントン。
鹿沼さんはまだ女子バスケの試合中でいない。
「戸塚さんの方は勝てたの?」
「負けちゃった〜、てへぺろ〜」
「てへぺろって......古いぞその言葉」
「クラス順位では二位だったし頑張った方でしょ〜」
「十分じゃん。男子バスケは?」
「申し訳ない……四位」
クラスメイトで学級委員長の亀野は苦笑いを浮かべている。
一応クラスの中心人物である亀野がこの調子なら俺達がサッカーで負けてもそこまで文句は言われないかもしれない。
「まあまあ、うちのクラス男子バスケ部少ないし仕方がない」
「さっきまで景の試合見てたんだけどね〜、あっちは一位だったよ〜」
女子バスケ部四人+鹿沼さんでかなり頑張ったらしい。
一年は五クラスあって、各競技ごとに順位が出る。
一位は5点、二位は4点、三位は3点、四位は2点、五位は1点。
その合計点でクラスの順位が決まるわけで、現在のクラス順位は校庭に大きく張り出されている。
現在、俺達のクラスは三位。
二位との差は1点で一位との差は2点。
逆に四位との差は1点で五位との差は2点。
今現在、サッカー以外の競技も同時進行で行われているため、その結果次第では上がったり下がったりする。
鹿沼さんの参加している女子バスケが一位通過という事でかなり順位を上げていて、もしかしたら一位の可能性もあるがまだ反映されていない。
どちらにしてもかなり点差が僅差であることを考えると、後半戦のサッカーが順位に与える影響はかなりでかい。
それに加えて一応クラス対抗競技の中で一番人数をかけて試合をするスポーツだし、一番注目される。
外野にいる戸塚さん達と話していると笛の音が鳴った。
見ると、いつのまにかグラウンドのセンターマークに置かれていたボールが坂田によって蹴られゲームが始まっていた。
俺は部活としてのサッカーは初めてだけど遊びではよくしてたし、最近では海外で活躍している日本人選手の試合とかをユーチューブで見て楽しんだりもしている。
理由は俺が次転校するイギリスという国はサッカー強豪国で、イギリスで活躍している日本人選手くらい知っておいた方が転校先の学校で話す話題ができると思ったからだ。
「羽切!」
中央から俺へとボールが渡り前に走ろうとした時、もう既に俺の目の前には人が立っていた。
サッカー部のユニフォームで見覚えのある顔だ。
「へっへー、抜かせないぜ?」
ザ・サッカー部という感じのシャープな顔立ちのカッコいい男。
確か修学旅行の時に鹿沼さんに告白して撃沈した奴。
相当に張り切っているのか、ワントップにも関わらずこんなところまで下がってきて守備までしている。
コイツが張り切ってるのは、鹿沼さんに再アタックするためのアピールなのか、それとも別の女子なのか。
いや、自分のおはこであるサッカーで負けたくないという純粋な気持ちなのかもしれない。
そんな事を考えていると、後ろから軽く体を当てられてボールを前に転がされた。
「ナイス」
俺の前に立ちはだかるサッカーユニフォームを着たソイツはボールを足元で受け、俺も取り返すべく瞬時に足を伸ばすが上手くボールを後ろ向きに転がしながら距離をあけられ、さっきボールに触った後ろのやつとワンツーで颯爽と抜かれた。
足元の技術、仲間との連携、体の使い方。
全てにおいて俺を凌駕していて、太刀打ちできる気がしない。
当たり前の事だ。
小学生の時からサッカーという一つの事を極めてきた男と変化し続けたけどいつも中途半端で辞めてしまう俺。
色々してきたけど自分が本気で好きな趣味だとか継続したいと思える事だとか、なりたい自分だとかを知らないままここまで来てしまった薄っぺらい俺。
だからなのか、俺の前を走っている後ろ姿のソイツを見て劣等感を感じると同時に羨ましいという感情も湧いてくる。
そして無意識にこういう奴が鹿沼さんと繋がるべきだと頭をよぎり、どこかで納得している。
「羽切っ! 追いかけろ!」
ただ突っ立ってソイツの背中を眺めていると、観客席からそんな声が聞こえハッと我に帰る。
俺はかなり遅く追いかけるが、時既に遅くシュートが放たれていた。
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気づくと真っ暗で狭い空間にいた。
今日は体育祭で勝つために本気でバスケットボールをしたから流石に疲れて寝てしまったらしい。
最終的に私達のクラス順位は三位だった。
良くもなく悪くもない結果。
最後の競技サッカーでは他のクラスと同等かそれ以下のサッカー部員しか居なかったのにかなり善戦してたし、だからこそ白熱した見てて楽しかった。
スポーツでいうジャイアントキリング......一般的には番狂わせと言うが、そういう事が何度も起きて学校行事で初めて興奮というものを感じた。
羽切君は右サイドだから私達から一番近くてよく見えるポジション。
本来のサッカーは前半後半45分ずつの90分試合だけど、5クラス総当たり戦で10試合やらないといけない体育祭では前半後半なく一試合30分一律。
それでも五時間掛かるわけだが、普段スポーツをしている人でも体力的にかなりしんどい。
しかし羽切君は勇敢にサッカー部に立ち向かい、時にはボールを奪ったり、抜いたり、ゴール前にボールを浮かせてチャンスを作ったりとかなり役割を果たしていたと思う。
私はサッカーに詳しくないから調べてみたけど、現代サッカーはサイドから崩すのが主流らしく、その重要性を知っているサッカー部は、本来の自分のポジションを離れてサイドにポジションを取ったりしていたので羽切君は常にサッカー部と対峙していた事になる。
羽切君は本当によく頑張ったと思うし、四位だった事の原因として責める人は誰もいない。
だけど何故だろう、羽切君は終わった後から下校時間までずっと元気がなかった。
それに美香や八木君といつも通り接していたけど、ふとした瞬間に羽切君がちょっと寂しそうな、思い詰めたような表情をしていたのを目にしてしまった。
そんな羽切君を元気づけようと学校帰りそのまま羽切君の家に入り、羽切君の部屋の押し入れに隠れたのだが私も疲れて気づいたら寝ていた。
どのくらい寝ていたのかスマホをポケットから取り出して時間を確認すると時刻は17時10分。
今日は六限まであったから二時間寝てしまったというわけだ。
羽切君も流石に帰ってきてるだろうし、驚かせるために出ようと襖をゆっくりと開ける。
羽切君の部屋は暗かったけど、リビングとの間にあるドアから光が漏れていた。
「成、転勤の日が決まったわ」
その扉の向こうからは声。
私はその声が発した言葉にドキッと心臓が強く脈打ち、一気に不安な気持ちになった。
「いつ?」
「12月25日」
「そう」
12月25日......。
最初に羽切母に伝えられた日付よりも一週間早くなっている。
あの時はまだ確定ではなくて、今回確定した事で息子に伝えにきたという事なのだろう。
今日は9月15日だから本当にもう時間がない。
確定した日付を聞かされて、羽切君がいなくなってしまうという現実に一気に引き戻された感覚に陥った。
緊張が一気に高まりじんわりと手汗が滲んできたのがわかる。
「景ちゃんとはどう?」
「どうって?」
「仲良くしてる?」
「してるよ」
「お付き合いはまだ?」
「付き合うことはないよ。鹿沼さんは俺みたいな何もない男よりもっと良い男がいるだろうし」
「はぁ。成、昔から言ってるでしょう? 他人と比較して自分に劣等感を抱くのはやめなさい」
「だって事実だろ」
羽切君に劣等感?
むしろ自身に満ち溢れてると思ってた。
そうじゃなきゃ転校の度に色んなキャラであんなメチャクチャなこと出来ないだろうし。
いや、劣等感が強すぎてどうでも良くなって開き直っている等可能性も無くはないか。
でも今までの羽切君からはそんな感じはしない。
どこか親子喧嘩みたいな雰囲気になってきて、私は出るに出れ無くなってしまった。
こんな親子の話を他人の私が聞いてるなんてバレるわけにはいかない。
「今まで私は何度も見てきたわ。大きなチャンスが舞い降りてきた時、自分にはまだ早いだとか自分には向いてないとか言って後で後悔する人を。その調子じゃあずっと童貞ね」
「大きなお世話だ」
「じゃあ現状は景ちゃんを置いてイギリスに一緒に行くって事で良いのね?」
「現状はって、この先もずっと変わらないよ」
「それはどうかしらねぇ。本当に恋しくなったら行きたくないって言うかも」
「もし仮にそうだとして、俺が行きたくないって言ったらその要望は通るのかよ?」
「通るわよ」
「へー、意外。まあ、そうなっても俺は行くけど」
「成はイギリスに行きたいんだ?」
「行きたいよ。何もない俺が自信を持てるチャンスかもしれないし」
「確かに日本以外を見ればいかに日本が住みやすい国かもわかるだろうし、移住すればそれだけ大変で自信がつくかもね。それに英語が出来るってだけで日本では相当重宝される人材になるわ」
羽切君は最近、イギリスに行きたがっているように見えた。
その理由は自分に自信をつけたいかららしい。
私には羽切君が他の人よりも劣っているとは思えないけど、結局は自分で自分を認める事ができないと何も改善しない。
でも自分で自分を認めるのって難しい。
結局は他人がその人と関わり続けて「こんな自分でも良いのかな」っていう諦めに近い形で認めるのが一番良い。
私は羽切君に救われた。
イジメと発作によって人と関わるのを怖がっていた昔の私は少しづつ居なくなって、前向きになれている。
それは羽切君が隣にいてくれたから出会えた人だったり、隣にいたから積極的になれたりしてそれに慣れてきたからだろう。
羽切君に残り三ヶ月でイギリスに行かないと言わせる事は不可能に近い。
だったらせめて私はそれまで羽切君の隣で支えてあげたい。
今までしてくれた事の恩返しを全部返したい。
羽切君がいなくなった後の生活を想像すると不安で泣きそうになるけど、それを払拭するくらい私の気持ちは強気だった。
その後、羽切家親子の会話を盗み聞きした後、押し入れに戻った。
強気な気持ちも真っ暗な押し入れに入るとすぐに揺らいだ。
諦められない羽切君への気持ちと変えられない未来。
その両方に挟まれて私は押し入れで夜を過ごした。
大谷翔平選手、結婚おめでとうう!
一般女性の方が夢があって良いと思う!
でも実際誰何でしょうねー?