【100話】 二学期(ドライブ)
【祝】100話
100話だから10,000文字書こうとしたけど、少し足りなかった。
ダーツ。
それは射的競技の一種で、競技で使用される矢の名称だ。
日本国内での競技人口は約600万人おり、世界大会というものも存在している。
ゲームの遊び方は単純で、一定の距離から1ターンに3投ボードに投げ込むのみ。
ただしゲームの種類は『01』・『CRICKET』・『COUNT-UP』の3つがあって、それぞれ勝利条件が異なる。
俺達が今遊んでいるのは最もオーソドックスなゲームルールである『01』。
「301」「501」「701」「901」「1101」「1501」の中から一つを選び、ボードに矢を投げてその数字を減らしていき、ピッタリ0になった方が勝ちというもの。
ちなみに両者が0を超えてしまった場合、初めに投げた順番で1投づつして中心に近かった所に刺さった側の勝利となる。
「はい、また私の勝ちー!」
鹿沼さんとの勝負は現在3勝0敗。
最後の1投は20のトリプルに刺さっており、ピッタリ0。
今日初めてダーツのルールを知ったのだが、どうやら点数の数え方には“シングル”“ダブル”“トリプル”というものがあるらしい。
その意味はそのままシングルは×1、ダブルは×2、トリプルは×3。
ダブルは最も外側の枠の中でトリプルは中心とダブルの間にある細い枠の中に刺すことが求められる。
ちなみに中心は50点なので、最も高い点数は20のトリプルという事になる。
どうしてかわからないけど先入観で中心が最も点数が高いと思っていたからここには驚いた。
どうやら中心にある枠よりもトリプルの枠の面積の方が小さいのが理由らしい。
「さてと、次何しようか」
ダーツボードに刺さっている矢を抜くと、振り返って鹿沼さんは言った。
俺達はこの施設に入ってビリヤードもしたしダーツも3ゲームした。
今日一日歩き回ったのに鹿沼さんはまだまだ元気そうだ。
「うーん」
「あれ? もしかして眠い?」
「どうして?」
「目がしょぼしょぼしょぼしてるから」
眠いっちゃ眠いけど鹿沼さん楽しそうだから我慢していたわけだが、どうやら眠たさが顔に出ていたらしい。
「まあ、眠いな」
「じゃあ戻って寝る? 私、眠くなるまで部屋で漫画とか映画見て過ごすからさ」
「鹿沼さんが良いなら」
「良いに決まってるじゃん。でもその前に漫画コーナーで10巻くらい借りてからね」
俺は鹿沼さんと漫画コーナーで面白い漫画を紹介して単行本15巻を持って部屋までの廊下を歩く。
個室部屋は意外とセキュリティーがしっかりしていて、個室部屋の廊下に入るのに一度カードキーをかざして扉を開けなくてはならず、その後に自分の個室部屋に再度カードキーをかざして中に入るという二重構造。
俺達は奈々美さんの部屋のも含めてカードキーを一人二枚持っている。
もちろん奈々美さんの部屋にも俺達の部屋のカードキーは置いてきた。
部屋に入ると俺は内側から鍵を閉め、靴を脱いでから敷かれているマットレスの上に横たわった。
部屋は縦長で狭いからもしここに鹿沼さんも寝るのならばかなり窮屈になりそうだ。
鹿沼さんは俺の隣で同じく仰向けに寝転がって、漫画を読み始めた。
俺は眠かったけど、意外に硬いマットレスになかなか寝れず何度も寝返りをうつ。
「寝れないの?」
俺は目を開いて横を見ると、開いた状態の漫画をお腹の上に乗せている鹿沼さんと目が合った。
「寝にくいねからねここ」
「家のベッドとは違うしね」
「でもまあこうやって寝転がってたらそのうち寝てそう。子守歌とか歌ってくれない?」
「子守歌って子供じゃないんだから。じゃあさ、少しおしゃべりしない?」
「いいよ」
お互いの事は過去も含めてかなり知っているので、特に話題はない。
それでも鹿沼さんは再度漫画を読みながらしゃべりだした。
「漫画とかの物語ってさ絶対恋愛要素あるじゃん? なんでだろうね」
「うーん」
世の中にある物語というのは恋愛要素がある場合がほとんどだ。
恋愛系の物語は当然だが、バトル漫画だろうがホラー映画だろうがほとんどの場合恋愛要素がある。
それが何故なのかなんて今まで考えた事も無かった。
「やっぱり恋愛要素があった方が読者が感情移入出来るとか?」
「どういう事?」
「漫画読んでると絶対好きなキャラクターっているじゃん? そのキャラクターが好きな人に振り向いてもらうために切磋琢磨する姿にドキドキしたりモヤモヤしたりまるで自分がそのキャラクターになったかのような錯覚に陥っちゃうとか」
「恋愛漫画だったらそれで理解できるけど、バトル漫画での恋愛要素ってどうして必要なんだろ」
「まあバトル漫画のモノによると思うけどさ、やっぱ現実世界と違って突然殺されちゃう可能性もある世界じゃん? そうなると好きな人が死んじゃうんじゃないかっていう不安を読者が感じて、それが逆に面白い要素になるんじゃない?」
「確かにねー」
「鹿沼さんの考えは?」
「そうだなぁ……。やっぱり恋愛要素があるとさ、そのキャラクターを魅力的に見せる事が出来ると思うし、物語としても広がっていくからじゃないかな」
「俺と違って原作者思考だね」
「好きになった瞬間とか好きな人にしか見せない意外な一面とかは魅力的になると思うし、キャラクターの背景とかと繋がってくるとすごく切なかったり悲しかったり……いわゆるエモい感じに出来るよね。恋愛事情に限った事じゃ無いけど、主人公とヒロイン以外の、物語に関係があるキャラクターの人間関係に焦点を当てれば誰がどんな問題を抱えてるのかとか、誰が誰をどう思ってるのかとか掘り下げれるよね。そうやって掘り下げていくと読者に物語の全体像を理解させることができるし、今後の展開とかの道筋に出来るんじゃないかな」
「さすが国語が得意なだけあるね。俺じゃそこまで分析できないよ」
会話が途切れ、沈黙の時間が流れた。
隣からはパラパラとページをめくる音のみ。
その音を聞くたびに鹿沼さんが何の漫画を読んでいるのか気になって仕方がなくなってきた。
俺が運んだのは15冊中5冊ある雑誌のみで、残りの漫画10冊は鹿沼さんが運んでいたからどんな漫画を借りてきたのか俺は知らない。
俺は頭を鹿沼さんに顔の横に移動させる。
「わっ、何!?」
「どんな漫画読んでるのか気になって」
「いきなり近づかないでくれる?」
「それはごめん。やっぱ嫌だよね」
「嫌なんじゃなくてっ! 今日汗かいたしお風呂入ってないし、着替えてないしでクサイからって意味!」
「俺が?」
「私がっ!」
前からそうだが鹿沼さんは自分の体臭にかなり気を遣っているらしい。
「そんなに気を遣うところかな?」
「お母さんが言ってたんだけど、男の人って女の人のニオイにすごく厳しいしクサイとすぐに幻滅して素気なく扱われちゃうから気をつけなさいって」
「俺鹿沼さんの汗のしみ込んだTシャツ頭からかぶってニオイ嗅いだことあるけど、全然臭くなかったよ?」
「はいいいいいい!?」
鹿沼さんは俺の体をグイーっと両手で押し退けてきた。
俺の体は壁に押し付けられ、鹿沼さんも反動で反対側の壁に腰がドンッと当たった。
「なになに、どういう事!? 私が脱いだTシャツ勝手に持ち出してそんなことしてたの!?」
「鹿沼さん少し落ち着いて。周り寝てる人もいるかもしれないし結構壁薄いからあまり声荒げると迷惑だよ」
「いいから説明してくれる!?」
鹿沼さんは声を3段階落として緊張の面持ちで言った。
「ラブホテルの時だよ。ライブハウスではしゃいでた時、結構汗かいてたでしょ? その後ラブホテルでシャツ脱いで俺の顔に投げてきたじゃん」
「全く覚えてない……」
「そんな汗が染みたTシャツでも全然臭くなかったし、気にしすぎだよ」
「それはたまたま臭くなかっただけかもしれないし……」
「はぁ……じゃあわかった。鹿沼さん、脇出して」
「脇?」
「体臭がキツイ人っていうのは、基本的に脇のニオイが中心なんだよ。だから今から鹿沼さんの脇の匂いを直接嗅いでクサイかどうか判断してあげる」
「ちょっ、自分が何言ってるか分かってる?」
「もちろん」
不安というのはそう簡単には取り除けないものだ。
それだけ俺が鹿沼さんが臭くないと言っても、さっきみたいに「たまたま臭くなかっただけかも」という思考が出てきてしまい無限ループが始まる。
その人が自分に自信を持つために必要なのは曖昧に「大丈夫」と言うんじゃなくて、他人がその人の不安の種の中に足を突っ込んだ上で「大丈夫」と言ってあげないといけない。
ここでは他人でしかも男である俺が鹿沼さんの脇に完全に鼻を突っ込んで「臭くない」と言う事で鹿沼さんの自信につながるはずだ
もし仮に本当に臭くても、臭くないと言えばいいし低コストハイリターン。
「嫌だ」
「だよね」
しかし鹿沼さんは拒否してきた。
別に驚きはしない、当然だ。
俺だって他人に自分の脇下をにおわせたくはない。
「ま、自分のニオイが気になるならシャワー浴びてきたら?」
「ここシャワーあるの?」
「あるよ30分までだけど」
「行く行く」
「女の人しか入れないスペースに女性用シャワー室もあるって書いてあったし、そっちの方が安心できるかも」
「やった!」
鹿沼さんは飛び起きて扉の方へお尻を滑らせ靴を履き始める。
シャワーを浴びれると知った瞬間、嬉しそうな表情に変貌したし鹿沼さんにとって相当重要な事らしい。
「ねえ」
鹿沼さんは扉の鍵を開けると何故かこちらを振り返った。
「何?」
「一緒にシャワー入る?」
「……」
そしてとんでもない提案をしてきた。
これは久々にアレだろうなと思って見ていると、思ったとおり悪戯な表情に変わって言った。
「なんちゃって」
鹿沼さんのこの表情は多分、俺にしか見せない。
俺にとってもどこか特別で鹿沼さんの表情の中でベスト3に入る好きな表情だ。
鹿沼さんは扉から廊下に出て行き閉まる寸前の隙間から「おやすみ」と言ってきたので、俺も「おやすみ」とだけ返すと、扉が閉まった。
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こういう施設のシャワーはあまり衛生的でないようなイメージがあったけど全然そんなこともなく、かなり綺麗でシャンプーやコンディショナー、タオル等も無料だった。
体をしっかり拭いて、下着と服を着て、ドライヤーをかけて。
一通り準備を終えて外に出ると今までの暑い空気ではなく常温の空気に空気に肌が触れてスッキリした気分になった。
施設内は相変わらず明るくて、時間感覚が狂ってしまいそう。
今はおそらく相当夜遅くて普通なら寝ている時間だろう。
私は女性専用スペースから共有スペースへと出て、今度は個室のスペースへと入って行った。
個室スペースはまるでホテルみたいに廊下があって左右に部屋がある。
私は廊下の一番奥から二番目の部屋の所定の位置にカードをかざし、鍵を開ける。
中に入ると羽切君が仰向けに寝ていて、私も起こさないように靴を脱いで隣に寝転がる。
共有スペースで時計を見たが、もう2時10分。
流石に寝なければいけないと思い目を瞑ってみるが、背中や脇下、胸の違和感に耐えきれなくなって一度起き上がる。
私は普段、寝るときはブラを着けない人だ。
それでも羽切君と寝るときは一応女として着けているわけだが、それはベッドだからまだ我慢できる。
しかし今ここに敷かれているのは固いマットレス。
どういう寝方をしてもブラの紐が肌に食い込んで痛いし違和感が拭えず、寝ないといけないのにこれでは寝れない。
もう一度チラリと羽切君を見ると、やはり爆睡中。
私はブラにホックを外し、Tシャツの中からブラを取り出す。
しかしこのブラをどこに置くかが次なる問題である。
その辺に置いておいたら羽切君にバレちゃうし、私は今日手ぶらで来てるから入れる場所がない。
唯一、隠せる場所は羽切君のリュックくらい。
しかし羽切君のリュックに私のブラを入れるというのはちょっと……。
色々と葛藤はあったが、結局羽切君のリュックにブラを隠し、しっかりチャックを閉めた。
起きた時に羽切君より先に起きればいいだけだし、まあいいかというやっつけ的な思考のまま再度寝転がり、目を瞑る。
しかしそれでも寝れる気配がしない。
固いマットレスのせいなのか、今日一日楽しくて終わらせたくないのか、原因はわからない。
何度も体勢を変えて羽切君に背を向けて横向きになる。
しかしどうしようもなく寝れない。
「ナル君、私寝れない」
何となく呟いてみるが、当然反応はない。
しかししばらくすると後ろにいる羽切君がモゾモゾと動いた音が聞こえ、左腕だけが私の体に覆いかぶさるようにして乗った。
いつもと違う寝にくい環境だから寝相も良くないのかもしれない。
私はあえて体を背中が羽切君に密着するまで寄せる。
するとまるで背中から抱きつかれたかのうような感じになって急激にドキドキし始めた。
よく見ると私よりも手のひらが大きくて、手首とかも太い。
羽切君は男で私は女だから当然っちゃ当然だけど、6月に再開した時よりもなんだか随分と男っぽくなった気がする。
いわゆる成長期というやつなんだろう。
羽切君の体は日々、変化してきている。
そんな事を考えていると羽切君の手が私の下腹部を触り始めた。
まるで子供を寝かしつける時のようにスリスリと撫でるような手つきで動かし始め、私の中で急激にエッチな気分になり始める。
「本当は起きてるんでしょ?」
私は羽切君が本当は起きていて、さっきの一緒にシャワー入る? の仕返しをしているのかと思った。
しかしあの仕返しにしてはちょっと過激だし、返事が全く返ってこない。
私は思春期で、当然性欲はある。
自分の胸だったり下半身だったりを触って一人で気持ち良くなることだってもちろんある。
ただその行為が何なのかを知ったのは本当に最近の事。
美香やお母さんから教育を受けて初めて自分の体に起きる現象やその役割、一人でしているその行為が何なのかについて知った。
それまでは自分の内側にあるその感情を性欲とは認識してなかったし、一人でする時もその行為がまるで悪い事をしているかのような罪悪感だったり、こんな事をしていたら体がおかしくなってしまうんじゃないか? みたいな不安があった。
ただ正直、中学時代その行為が何なのかを知ってなくて良かったとも思っている。
何故なら私の中学時代の半分以上は男に怯えて生活しており、もしその行為の意味を知っていたら多分うちに秘める生理的な欲望を全力で抑えつけていたと思うから。
人の体は不思議なもんで、男も女もほぼ同じ時期に精通するし排卵も起こる。
同時にテストステロンと呼ばれるいわゆる男性ホルモンが分泌され、性欲が高まり始める。
なんで女なのに男性ホルモンが必要かというと、女性ホルモンというのは男性ホルモンを変換して生成するかららしい。
つまり男性ホルモンが無いと女性ホルモンは生成されず、女性的な体にはならないという事。
「う……ん」
真後ろで再度もぞもぞと動き、気づくと私は羽切君の手を持って自分の胸に当てていた。
Tシャツ一枚しか隔たりのない私の胸に、私は私の意思で羽切君の手を触れさせて一人で興奮している。
こんな事をしてるなんて羽切君にバレたらどう思うだろうか。
そんな恐怖心がありながらも私はその行為が辞められず、一人ドキドキしながら夜を過ごした。
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「あ痛たたたたた」
目を覚ますと、響くような頭痛に襲われた。
昨日は羽切君に自分がお酒が強いという事を証明するためにちょっと飲みすぎてしまった。
見栄を張ったせいで酔いつぶれてしまい、その後の記憶が無い。
二人に迷惑をかけていないだろうか……。
起き上がって周りを見渡してみると、どこか個室にいる事はわかった。
扉には「部屋を出る時は電話!」と書かれた張り紙がされており、どうやら迷惑は間違いなくかけてしまったようだ。
しかし私がここにいるという事は、あの二人は私がいない事で起きた問題を一緒に解決した事になる。
偶然だけどグッジョブ。
問題を解決するのに協力し合うと、人と人の距離が物凄く縮まる。
相手が自分と同じように問題を解決するために資力を尽くしたという事実が信頼関係へと結びつくのだ。
私は机に置かれている二枚のカードキーを手に取り、貼り紙を無視して外に出た。
部屋の狭さ的にホテルではない事は分かっていたが、それでも外の廊下は綺麗だ。
カードキーに書かれた番号は私の隣の部屋。
そこに二人が寝ているという事だろう。
私は鍵を開け、中に入る。
すると想像通りそこには寝ている成君と景の姿。
景は成君に背中を向けて寝ており、成君は景の背中に引っ付くようにして寝ている。
相変わらず仲がいいのは良かったけど、そもそもこの部屋は何時までいられるのだろうか。
っていうか今何時だ?
私は景達を踏まないように奥にあるパソコンへと行き、電源をつける。
時刻は9:20分。
そして画面にはナイトプランと書かれており後10分で退室しないといけないらしい。
私は二日酔いで運転できる状態じゃないし、そもそも車がどうなっているのかわからない。
二人はまだまだ寝てそうだし、私もまだ休憩したいから延長しよう。
そう思った私はフロントに向かうべく部屋を出た。
しかし結局フロントなんてなく、自動で延長されるシステムらしく再度部屋に戻って二人が起きるまでゆっくりと休憩した。
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俺達が学校に着いたのは結局昼休みの最後の10分。
昨日は爆睡してしまった上に鹿沼母が二日酔いで運転できないとか言い出した上に制服に着替えないといけないので一度家に帰った後、学校にきたのでかなり遅くなってしまった。
「大寝坊だなオイ」
前に座る八木はニヤニヤしながらコチラを振り返った。
俺はリュックを机の上に置いて椅子に座る。
「まあ、色々あってな」
「色々ってまさか……女か?」
「何で女がいると大遅刻すると思ってんだ」
「いやいや、よく聞くだろ。朝方までシてて寝坊したみたいな」
「現実に存在すると思うか? そんな事」
「俺も見た事はない」
滅茶苦茶な理論に付き合っていると、5分前のチャイムが鳴った。
次の授業は物理で移動しなくてはいけないし、俺は学校のロッカーに教科書を全部入れているので今日分の教科書を出さなくてはいけない。
クラスの皆も次々と教室を出ていき、残ったのは俺と八木、鹿沼さんと戸塚さん、そしてその他数人のみ。
鹿沼さんは車でも爆睡していたのに今も物凄く眠そうで、戸塚さんの話を聞いてるのか聞いてないのかわからない顔をしている。
俺はとりあえず筆記用具を出そうとリュックを開けて中に手を突っ込む。
すると筆記用具とは違った何か違う感触がしたのでそれを引き抜いた。
「おい、羽切ソレ……」
俺が引き抜いたのはブルーのブラジャー。
カップが大きくて、だけど少し大人っぽいやつ。
それを見た途端、俺の脳内が急速に回転しそれでも理解が出来ず混乱した。
それでもここで慌てるのもカッコ悪い気がして平静を装って言う。
「ブラジャーだなコレ」
「んなもん見りゃわかるわ。誰のだよ」
「さ、さぁ?」
俺がそう言うと、八木は逆の俺の腕を掴んだ。
「羽切のリュックから出てきたんだぞ心当たりはあるだろ。どこの巨乳と昨日エッチしたんだ? 正直に言え」
「何で俺がエッチした前提なんだよ。母親のかもしれないだろ」
「母親が息子のリュックにブラジャー入れるか普通?」
「入れないだろうな」
「じゃあ誰のだ?」
「俺にもわっかんねえよ」
男同士だとブラジャー一つで盛り上がれる。
やはり女にしかないアイテムだしそのアイテムの内側は胸と接触していると知っているからエロスを感じるのだろう。
しかし本当に誰のだコレ。
ありえる可能性としては昨日と今日一緒にいた鹿沼さん親子のどちらかくらいだけど......。
「ま、まさか佐切さんか!? デート行ってきたんだろ?」
「デートに行ったのは土曜日だ」
「おいおい、二日連続デートからのってやつかぁ?」
「いい加減にしろマジで俺にも誰のかわかんないんだよ」
俺が少し強めに言うと、八木はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「ニオイ嗅いでみろよ」
「嫌だよ。臭いかもしれないだろ」
「でもよく考えろ、洗剤とかの匂いで誰のかわかるかも。少なくとも自分の家の匂いかどうかはわかるだろうから母親のかどうか判断つくだろ」
「た、確かに……」
それにコレが鹿沼親子のものならそれもニオイでわかる。
自分の家のニオイは常に身に纏ってるからわかりずらいけど、鹿沼家のニオイはかなり鮮明にわかる。
まあ正直、これは鹿沼母……奈々美さんのイタズラなんじゃないかと思っている。
だって人のリュックにブラジャー入れるメリットがそもそもないし、奈々美さんなら悪ふざけでそういうことしそうだ。
俺はニヤニヤしている八木を一度チラリと見て、ブラジャーに顔を近づける。
紐とかだとあまりニオイがわからないかもしれないからカップの方へ。
それもカップの外側じゃなくて内側。
俺も男だ、内側の方が興味がある。
「におうなバカっ!」
しかし隣から突然静止の声が聞こえ、俺の動作が止まった。
隣を見ると鹿沼さんが体ごとコチラを向いており、慌てながらブラジャーに向けて飛び込んできた。
しかし俺はひょいとブラジャーを上にあげてその突進をかわす。
すると鹿沼さんは机の上に乗っかるように倒れ込み、キッと睨むように俺を見た。
「私のブラ返して!」
どうやらコレは鹿沼さんのものらしい。
思い返せば今日起きてからずっとモジモジして何か言いたげだったし、常に片手で片側の腕を掴んでいた。
しかし疑問も多い。
「何でブラジャー俺のリュックに入れたわけ?」
「だって入れる場所なかったから」
「別にハンガーにでも掛けておけば良かっただろ」
「あまり好きじゃない柄だから見せたくなかったの!」
好きじゃない柄の下着は見せたくないらしい。
これは女心というやつなのだろうか。
「あ、あの……お二人さん?」
鹿沼さんを隔てた向こう側から聞こえる八木の声にハッと現実に戻された。
いつものような会話を鹿沼さんとしていたが、今は八木がいる。
そして鹿沼さんもその事実に気づき「どうしよう」という顔になった。
クラスを見渡すといるのは俺、鹿沼さん、八木、戸塚さんのみ。
不幸中の幸いだが、どう誤魔化すべきか。
そんな事を考えていると、五限スタートのチャイムが鳴った。
しかし教室にいる俺らは授業が始まったのに関わらず、誰一人としてうごこうとしなかった。
当初10話も書かず終えるつもりだったものが10倍の100話となってしまった。
色々反省点があるけど、まあそれは次の作品に活かせればいいかくらいの感覚で書いてるから読んでて面白くない話や苦痛になる話があるかもしれない。
終わり方は決まってるから、今はどうやってそこまでたどり着こうか試行錯誤中でやっぱ物語を書くことの難しさを痛感してる。
まあ、初めてだから許してね。