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《完結》 霊 感 聖 女  作者: 三條 凛花
第2章 呪の章
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4.はじめての友だち

 休日、家にいると、おばあさんはほとんど一日中、祖母の使っていた小部屋にこもりきりだった。


 ミシンのかたかたいう音や、生地をさっくりと切るはさみの音を耳にするのは心地よかった。


 彼女はどうにも夕方になると眠たくなるらしく、すうすう寝息を立てる彼女に毛布をかけると、神社に向かうのがわたしの日課となった。


 神社には驚くほど誰も来ない。

 だから、きっと、あのワンピース姿を見たことがあるのは、世界でただ二人だけ。おばあさんとルカだけだと思う。





 この家には息子のおじさんも住んでいることになっているらしく、数ヶ月に一度はあの人も泊まっていくことがあった。


「あの財産が焼けさえしなければ……」


 酒で顔を赤らめながら、おじさんはよくそう愚痴っていた。


 わたしがおばあさんの出自について詳しく知ったのは、誰にこぼすでもない、そのひとりごとから拾ったからである。


 そして、この家になぜかやってくるものの、わたしのことが恐ろしいらしく、自室と決めた祖父の書斎に鍵をかけて立てこもり、朝早くに逃げるように帰っていくのだった。


 ずいぶんあとになってわかったことだが、おじさんは、私の服をつくるための生地を運んできていたのである。


 もちろん、あの人がそれを善意でしていたわけではなく、どこからかお金を調達してきたおばあさんに頼まれているらしかった。





 家族とは違って、おばあさんやおじさんが亡くなることはなく、なぜかお金に困ることもないまま、私は高校生になった。



 そういえば途中で、霊能力の師匠たる人に出会ったのだけれど……。


 それはまあ、とりたてて重要なことではないので置いておく。佐保里の著書『霊能者龍花の心霊カルテ』に詳しくまとめられているし。


 ざっくりいうと変人で、けれども本物で、そしておばあさんに熱烈な片思いをしていた。


(そしてまったく相手にもされず、毎回豪奢な薔薇の花束を持参しては「どちらさま?」と聞かれるところまでがセットだった)


 高校生になったわたしにな、はじめての友だちができた。

 それが佐保里だった。





 佐保里と仲良くなったのは、入学してすぐのころ、席が前後になったのがきっかけだった。


 背中をつんつんと指で押され、わたしは驚いて振り向いた。


「ねえねえ、消しゴム貸してくんない?」


 佐保里は、透明感のある真っ白な肌が印象的な子だった。

 フレームの太い無骨な黒縁眼鏡をかけているから、瞳の印象があまり残らない。


 女性らしいものはそんなに好きではないようで、他の女子とはちがい、携帯電話やスクールバッグにもなにも飾りがついていない。


 シンプルなプラスチックの筆箱に、いろいろな濃さのえんぴつを入れているのが印象的だった。


 ふわふわのくせ毛は短くカットされていた。話し方もどこか男子っぽく、さっぱりとした気質。


 本人は「あたしガサツなんだよ」とよく言っていた。そしてたまに口が悪い。


 人に怯えられることも睨まれることもなく話しかけられたことがほとんどなかった私は、一瞬きょとんとして、それからやっと自分が話しかけられているのだと気がついた。


 それをきっかけに、わたしたちはなんとなく一緒にいるようになった。





 彼女は、話を引き出す天才だった。


 すでに大人に近い年齢になっていたし、呪いの子のうわさは根強く、クラスメートにも遠巻きにされている。だから、霊が見えることなど、誰にも話すつもりがなかった。


 それなのにするするとわたしから過去を引き出し、それでいて疑うことも嫌悪することもなかった。本当に不思議な人だった。


「これさ、小説にしてもいい?」


 そう言って彼女はいつも、放課後わたしに「取材」をした。駅前のベーカリーカフェで、春も夏も秋も冬も彼女は取材をして、それを小説に書き起こしていった。


 わたしはその一番の読者だった。






 そして、さらにもう一周季節がめぐり……いつもと同じカフェで、ナッツクリームたっぷりのパンを頬張っていたある日のことだ。


 まだ四時だというのに外はすっかり暗く、街灯や看板の光が、しんしんと降る雪を照らし出していた。


 大きさは不揃いで、まるでつくりものの造花のように大きな雪が、音もなく落ちるのを見ていたわたしは、驚いてパンを取り落とした。


「出版……?」

「そう! 連絡があったんだよ。あたしたち二人でさ、やろうよ」


 私が話したことを面白がって彼女が小説にしたところ、それが出版社の目に止まった。そうして、私たちの人生は大きく変わったのだった。





 驚いた。それに嬉しかった。友だちとなにかをするのは初めてだったのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 じわじわと湧き上がる歓喜のかげで、ふと、違和感を覚えた。


 そしてわたしは、カフェを飛び出し、雪道を走っては転びながら、バスに乗り込んだ。

このお話はもう少し続きます。

異世界編もう少しお待ちください……!


完結済み作品もいろいろあるのでよかったらどうぞ!


◾︎代表作→『愛し子は、森に捨てた』

……日間ランキング7位になった作品です。妖精もの。


◾︎オカルト×異世界→『憑かれ聖女は国を消す』

……憑かれたまま召喚され転移したら国が滅んだ話


◾︎オカルト×現代→『翡翠の泉を目指して』

……人とは違う力を持ったふたりの大学生の遠回りの話


その他、婚約破棄ものもたくさんあります。

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