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《完結》 霊 感 聖 女  作者: 三條 凛花
第2章 呪の章
6/22

1.聖女リュカ

 わたしの名前はリュカ。



 リュカ・フォン・ヴォルハルト。


 侯爵家の一人娘として生を受けた。神の愛し子だとか、聖女だとか呼ばれている。




 この呼び名が定着してしまったのは、一年前、領地のある街を訪れたのがきっかけだった。


 湖畔にあるその街は、まるで夢のような美しさを誇る。


 空を沈めたような湖面にきらきらと光が輝き、それでいて透明度の高い水の中には魚の姿がはっきりと見える。

 まるで魚が空を泳いでいるみたいに。


 しかし、その湖が完全な状態で見られるのは希少だ。この国の中でもとくによく霧が出る場所なのである。

 そして、その日もそうだった。




 湖畔にある屋敷に来るのは数年ぶりで、リュカは浮かれていた。


 湖のそばに美しい花畑があると聞き、護衛のマテオとともに向かった。屋敷から花畑までは、ほんの五分ほどだという。何かが起こるなどとは思いもしなかったのである。


 とつぜん響き渡った悲鳴に驚いて目をやると、霧とはまた別の、黒い煙のようなものが立ち込めている。


 人々はそれを見て叫び、逃げ惑っていた。




「魔獣よ! 魔獣がいる……!」


 マテオがはっと身を固くしてわたしの前に出る。


 魔獣とは実体なきものだ。

 こちらからは触れない。けれども、腕を掴まれて水の中に引きずり込まれたり、魔術を放ってきたりもする。


 また、何もないところから湧き出すように出てきたりもするのである。一説によると、魔獣による瘴気の影響で病気になったり、呪いを受けて不幸になったりすることもあるのだとか。




「お嬢様、早くこちらへ!」


 マテオは真っ青な顔をして言った。

 わたしの足もがくがくと震えた。魔獣を見るのははじめてだった。


 けれども、怯える気持ちの中にふと、一滴の違和感が落とされたのである。


「あれが魔獣……? どう見ても……」

「お嬢様!」


 薄目をこらしてみると、そこにあったのは黒い靄ではなかった。人間だ。下卑た笑みを浮かべたもの、うつろな顔をしたもの、憎しみを目に燃やすもの……。


「霊だ」


 ぽつりと漏らした。

 その瞬間、頭痛と共に膨大な量の記憶が流れ込んできた。それは、ここではないどこかで暮らした記憶。


 おばあちゃん。

 佐保里。

 そして、ルカ……。


 一瞬ふらついたものの、マテオに支えられてすぐに体勢を立て直す。


 次の瞬間には、わたしはもう、ただのリュカではなくなっていた。


 悔しさと不安がないまぜになって、目の前の悪霊たちに苛立ちをぶつけた。






 はっと何も無いところに目をやる。

 すぐそばに霊がいることに気がついたのだ。けれどもそれは、霊ではなくて……。


「佐保里……?」


 親友であり仕事上のパートナーでもあった、佐保里だった。着古したグレーのジャージに、トレードマークの無骨な黒縁メガネ、短い髪は前髪だけをクリップでとめていて。


 まるで、仕事中にそのまま抜け出してきたような……。


 それから彼女はたびたび生霊となって、こちらにやってくることとなる。


リュカの考察メモ

____________________________


・魔獣の瘴気→単に憑かれて体調を崩しているだけでは?


・魔獣の呪い→単に憑かれて不運になっているだけでは?


・魔獣の魔法→???


こちらの人間は皆、魔力と魔法を持っているらしい。そのため、死後もその能力が使えるということ?


・魔獣の見た目→???


私も認識する前は黒い靄に見えていた。そういうものだと伝わっていて思い込みで見えている?

検証の余地あり。

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