表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《完結》 霊 感 聖 女  作者: 三條 凛花
第5章 森の章
22/22

終章 半分だけ召喚

「わたしに視えてた寿命、合っていたのかも」


 さらさらと風の渡る庭園で、龍花はこちらを見ずに言った。


「114歳まで生きるってやつ?」


「うん。あっちでは28で死んだけど、ここで86まで生きたら、トータル114歳にならない?」


 そう言ってふわりと笑う龍花を見ていたら、胸が締め付けられた。


 長いこと友だちをやってきたけど、こんなふうにリラックスして笑う龍花を、あたしは見たことがない。あたしでは引き出せなかった表情だ。


 あたしこそが龍花を、最強霊能者・白雪龍花というアバターにしてしまったのではないかと、後悔すら滲んでいる。








 王宮での除霊騒動から5年が経った。


 その間に、龍花の元使い魔だったという第二王子ルカが魔道具をつくった。あちらとこちらで意思疎通ができるもの。あたしが望んだタイミングで行き来できるもの。


 長いようであっという間だった。








 二人は当然のように結婚し、ルカは公爵として王都の外れの、ちょうどいい場所に領地をたまわった。そして龍花は、ふっくらしたお腹を愛おしそうに撫でている。


「この子の名前、視えるの」


「まじかー」


「うん。この子はオリザ。オリザなのよ」


 それは龍花の親代わりだった女性の名前で。あたしはメモ帳を取り出して『90歳の私、異世界に転生したチート霊能者の娘になりました!?』とメモを取った。


「ちょっと」


 龍花は腰に手を当てて怒っている。あたしより身長が小さくなってしまったな、と、もう何度目かの思考を巡らせた。


「ってか、オリザさんが転生するなら師匠まで来たりしないよね? あの人の執念はただならぬものがあったよ。魔王とかに転生してさあ」


「沙保里」


 龍花がぴしゃりと言った。やばい。地雷、踏んだ。


「わたしのことはなんでも物語にしてくれていい。でも、オリザはだめ。オリザが大きくなって、本人に了承を取ってからにして?」














「半分だけ召喚。あの古文書の意味を、俺なりに推測した」


 龍花が呼ばれて席を立つと、すっとルカがやってきた。


「あたしも。答え合わせしよーよ」


「ああ。……召喚されたのは龍花の魂だけだったんじゃないかと」


「お。あたしも、同じ。身体をあっちに残してね。だから病気も外傷もないのに龍花は……。それから、"上がって"転生したっていうのがあたしの持論」


 ルカは神妙な顔で頷いている。


「滅ぼしたいが、過去には行けない」


 さらりと物騒なことを口にするルカに、そうだ、この人は元邪神なのだ思い当たる。あたしは口をつぐんだ。








 あれからもいくつもの怪異に襲われた。


 現代日本で倒したはずの悪婁が魔物として転移していたり、最恐怨霊といわれる崇徳上皇まで転生していた。


 龍花の使い魔たちも、呼び寄せた。






 あたしの日常は、どんどん怪異どころかファンタジーになっていく。日本に戻ったときのギャップがすごすぎて、たまにおかしくなりそうになる。


 でもあたしは、命ある限りずっと、龍花のことを書き続けようと決めているのだ。










 龍花は、憧れていた可憐な姿になり、たくさんの人に愛されながら暮らしている。その姿を見つめていたらふと、涙が落ちていた。泣いているつもりなんて、なかったのに。


 戻ってきた龍花が、驚いてハンカチを差し出す。背伸びしてあたしの涙をぬぐう。








 春の日差しが、あたしたちを見守るように照らしていた。





 ──霊感聖女・完──

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ