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《完結》 霊 感 聖 女  作者: 三條 凛花
第4章 流の章
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2.王家の罪

 ルカの両親である王と王妃は、決して悪人ではない。

しかし、どうやらこの血族はかなりのことを続けてきたように思われる。



 八百年前。異世界から聖女を召喚したと記録にある。

それは特に目的があったわけではなく、他国からの難民によってもたらされた情報を試してみただけの、実験的なものだったと。

 また、半分しか召喚に成功していなかったという記述がある。意味は不明。

最終的には扱いに困った聖女を()()しているようだ。



なお、これは個人的な推測なのだが、この国ではじめて魔獣が確認されたのがこの時期だったようで、聖女召喚によってなにか影響があったのでは、と。





 三百年前。再び聖女を召喚している。

難民の祖国を調べあげたところ、召喚された人間には何らかの特異能力があり、それによって彼の国が繁栄していることがわかったからだ。


 聖女は反抗的だったため、当代の王子によって魅了魔法をかけた。

しかし、王子・その婚約者・聖女の三名は、不慮の事故によって死亡した。




 百年前。

さらに聖女が召喚された。聖女は魅了魔法によって王の忠実な僕となり、側妃として生を終えている。





 そもそも召喚術には生贄がいる。最初の召喚術で使われた命は、他国からの難民だった。その後の召喚では、犯罪者、そして無辜の民も含めた多くの命が奪われている。


 手記の最後には、このように記されていた。




『私は、同じような間違いが起きないためにここにすべての情報を集めた。

 誰にでも読めるわけではない。我が母のように、攫われてきた聖女の血族にしか読めぬ文字で書き記したものだ。

 どうかこれ以上犠牲を出さぬよう、正しく管理してもらうことを望む』



 これを読んではじめて、ルカはこの手記だけが別の言語で書かれていたことに気がついた。

なぜ自分がこれを解読できたのかはわからなかった。






 この手記を読んでいると、胸の奥がざわざわする。いつも感じている焦りの正体にたどり着けそうで、ルカはくり返しくり返し手に取っていた。


その日もそうだった。


 王城のほうではなにやら夜会が行われているようだが、兄・ナサニエルには守りの魔道具を持たせているから心配はしていない。


 しかし、ーー持たせた守りの魔道具には、対となるものがあり……ルカは、それがけたたましく鳴り響いたのに気がついた。


昨晩完成したばかりである、聖剣の模造品を手に取り、生まれてはじめて慣れ親しんだ一室を飛び出した。





 魔道具の反応を辿って、開けた部屋にたどり着く。そこには着飾ったたくさんの人間がおり、中央部に兄がいた。婚約者らしい令嬢を庇っているようだ。


「あれは、魔獣か……?」


 ルカはぽつりと漏らす。兄のそばには、黒く蠢く巨大ななにかが鎮座していたのだ。




 魔獣という存在は、やはり書物で見て知っている。

 時折王城にも現れることがあるようだが、ここには魔導士が常駐しているため、迅速に対応できるようだ。


 魔獣と呼ばれたなにかは、多くの人間の声を切り貼りしたような奇怪な声を発している。けれども、なぜだろう……。

懐かしさを覚えずにはいられなかった。





 兄のところへ行こうかと思っていたときだった。広間に悲鳴が響き渡る。


「龍花!」

「リュカ様!」


 声が向けられた先には、桃色の髪をした少女が、魔獣に襲われそうになって呆然と立ちすくんでいた。



 その瞬間、ルカの頭の中が真っ白になった。駆け出すそばから、数百年分の記憶が流れ込んでくる。


絶望、怒り、ーーそして小さな幸福な日常。気がつくとルカのてのひらからは吹雪が飛び出し、その中を跳ぶように駆けて、魔獣に剣を突き立てていた。





 そして、ずっと焦がれていたその人を胸の中に閉じ込めたのだ。


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