1.ルカ・ネーベルミスト
いつもどこかに焦りがあった。
早く探さないと、と。何かを失ってしまったようなむなしさと、それを見つけ出さなければいけないという使命感のようなもの。
ルカ・ ネーベルミストは、この国の第二王子として生を受けた。兄である第一王子以外には、忌むべき存在として扱われながら。
それには理由がある。
代々、王家に生まれる者たちは、燃えるような赤髪や、太陽のような金色の瞳を持って生まれた。そのどちらかがあるのが普通だった。
その中で、ルカは銀の髪に紫の瞳で生まれてきたのである。
国王夫妻は仲がよく、鑑定魔法で王の血筋であることが保証された。しかし、人々は面白そうなほうを是とする生きものである。
不貞の子ではと疑われた王妃は心を病んだ。ルカを視界に入れることさえ受け入れられなかった。王妃を深く愛する王は、息子を見限った。
ルカは、何代か前の王族が道楽で作った図書室の奥に幽閉されるようにして暮らし、病弱な第二王子として表に出ることなく十五年が過ぎた。
そこを訪れるのは兄王子のナサニエルだけ。
彼は本当によくできた人間で、何度もルカの境遇を変えるように王に進言し続けていた。それが叶わぬとわかると、環境の改善に取り組んでいた。
ルカを疎む両親にならい、使用人も同じような態度を取っていた。
そういう者たちを一掃し、信頼できる使用人を探してきてくれたのもナサニエルだ。
自分の教師に頼みこみ、ルカのための課題を用意させてくれた。王太子として忙しく過ごす中でも、必ず自分を見つけて、自らルカの教師役を努めてくれることもあった。
「私の治世になったら、必ずおまえをここから出すから」
彼はそう約束した。
ルカは生まれつき感情が平坦だった。だから、自分が置かれた環境を辛いとも悲しいとも思ったことがない。幽閉生活でも特段困ってはいなかった。
しかし、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるナサニエルの手伝いになるのであればいいか、と気軽に考えていた。礼代わりにと、彼の身を守るための魔道具なども持たせていた。
時間は山ほどあったので、図書室に収集された魔法書を試し、自ら陣を構築したり、魔道具作りをしたりして過ごしていたのである。
図書室の蔵書は偏っていた。物語の類はない。ほとんどが魔法書で、一部は血なまぐさい歴史書、召喚術、手記である。蔵書数は数万冊を超えたが、すべて読み終えたのは十歳になるころだった。