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《完結》 霊 感 聖 女  作者: 三條 凛花
第3章 悲の章
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4.ユリアの悲劇

「うげ、なんだあれ……」


 あたしは思わずこぼした。


 あんなの、災厄級じゃんか。この禍々しさは悪樓(あくる)に対峙したとき以来だな……。ちなみに悪樓というのは、日本神話に登場し、ヤマトタケルが退治したとされる怪魚である。


 つまりこれは、そういう古い時代のものだ。





「はあ……。王家は闇が深そうね」


 素に戻った様子で龍花がつぶやいた。


「ねえ、ユリア。あなたたちが亡くなったとき。どうしてシャンデリアが落ちてきたのだと思う?

 それは、こいつに引きずり込まれたからよ」

『え?』

「あれはいろいろな悪意の総合体。生霊とか死霊とか、とにかくいろんなものを取り込んで膨れ上がったモノ。そして、こういう蠢くものたちっていうのはね、もう意識がないの。とにかく自分たちと似たものを取り込もうと動く。

 ーーあなたも、その一部になりかけてる」


 ユリアの目に光が戻ってきた。しかし、同時に彼女はがたがたと怯えだした。


 床から立ち上る黒い靄は、先ほど龍花が剥がした人型二体のほうへもずるり、ずるりと這い寄っていく。


 霊体一体はさっさと逃げ出したところを、龍花に強制的に()()()()()。もう一体は足を縫い留められたようにその場から動けずにいたが、龍花が結界を張る。


「ーールカがいないから、これほどの相手をなんとかできるかわからないけれど……」


 ふう、と龍花はため息をつく。


「ルカ?」


 聞き覚えのない名前に首をかしげていると、彼女は決意したように、ふたたび印を組み直した。


 目をとじて、聞き取れない日本語ではないなにかを唱え始める。これまでにも何度も何度も見てきた光景だ。



 本来なら、彼女がこうして呪文をとなえはじめると、その瞳は虹色に光る。そして魔法のようにてのひらから出てくる清廉な光が、霊を絡め取るのだ。


 龍花の瞳は金色には光っていた。けれども、かつての魔法のような光が出てくることはなく、その額には脂汗が滲んでいる。





「ーー佐保里」


 龍花が苦しげに、薄く目を開けてあたしに言う。


「あなた、いま生霊なんでしょう? ここではきっと、魔獣だと思われる。だから、みんなを広間の外へ追い立てて」

「でも……」

「早く、ーーお願い!」

「無理だよ。だってだれもあたしのこと見えてないよ?」

「……っ!」


 龍花はこちらに手をかざす。話す余裕もないらしかったが、その力強い眼差しが、なにか仕掛けをほどこしてくれたことを語っていた。




 龍花と霊との戦いを描いてきた小説が人気だったのは、彼女のキャラクターだけじゃない。その圧倒的な力にも理由があった。ただの人間でありながら、悪神とも対峙できる力。


 だから、あたしは見たことがなかったのだ。こんなふうに苦戦し、ぎりぎりになっている彼女を。いつだって彼女は飄々と霊を浄化してきた。


 嫌な予感にさいなまれながらも、貴族らしい少年少女に向かって突撃する。

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