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《完結》 霊 感 聖 女  作者: 三條 凛花
第3章 悲の章
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2.マルグリットの悲劇

「魔獣ではございませんと申し上げたではありませんか」


 人差し指を立ててこんこんと説明するように、美少女龍花が口にする。


「いいですか、霊です」

「れい」


 令嬢がくり返す。その髪色にぎょっとする。黄緑である。


「まあ、ハイディ様!よくできました! そうです。霊です」


 龍花が花が開くような笑みを浮かべ、ハイディと呼ばれた黄緑髪令嬢の顔がぼんっと赤くなった。


「霊とは死後の姿です。

 教会の教えにもあるでしょう? 善行を積めば、死後の世界で休息ののち、生まれ変わるのだと。

 霊とはそこに行きつけていないもののことを言うのです」


 気がつくと、彼女のまわりに人が集まりはじめており、婚約破棄だなんだと叫んでいた王子男たちの周りからは少しずつ人が減っている。


「自分が死んでしまったのだと気づかないもの。人に害をなすことを楽しんでいるもの。ただ怯えて周りに攻撃しているもの。さまざまなのです。ーーまあ、ちょうどあちらに良い見本が!」


 龍花の目が輝く。


「--この婚約破棄、霊の仕業ですね」





 リュカは王子男たちのもとへしずしずと歩みを進める。


 そして、彼女を囲んでいた人々もそれにぞろぞろとついていき、王子男たちはふたたび広間で注目を浴びることになった。




「ーーむ、聖女リュカ」


 赤髪の王子男が龍花に気がつく。

 龍花はひくりと口元を歪めた。聖女と呼ばれたのが嫌だったのだろう。元日本人的な感覚として。


 すぐに表情を取り繕って、龍花は「ごきげんよう。ナサニエル殿下」と言った。あたしは驚く。なんでも顔に出るタイプだったのに、と。



「ご歓談中のところ、お邪魔してしまい申し訳ございません」

「良い。許す。ーーそれで、どうしたのだ? ぞろぞろと引き連れて」

「実は今、皆さまに講義をしていたところなのです!」

「講義?」

「ええ。殿下にぜひ見本となっていただきたくて……」

「私に?」


 王子男がうれしそうににやにやとする。

 かなり端正な顔立ちだというのに、鼻の下がのびただらしない表情に、あたしは思わず顔をしかめ、舌を出した。

 この感じだと「生霊」はどうせだれにも見えないのだろう。


「良いだろう。では、自由にやりたまえ」


 王子男は鷹揚にそう言った。


「感謝いたします、殿下。

 ーーでは、皆さま。ご説明いたします。先ほどお話ししたことを覚えていらっしゃいますか?」

「れい」

「そうです!」


 龍花が答えたお嬢様に笑顔を向ける。またも黄緑髪令嬢である。彼女はふたたびぼんっと赤くなる。


「霊はだいたい3つのタイプに分けられます。

 そして、ここにまさに! その3種類が揃っているのです」


 龍花の目がきらりと光る。

 彼女はどこからか宝石でできた数珠のようなものを取り出すと(日本で持っていたものを似せて作らせた特注品なのだろうか。やけにきらきらしい)、三人の背を順番に叩いていく。


「これが自分が死んでしまったと気づかないもの」と、王子男を。

「ただ怯えて周りに攻撃しているもの」と縦ロール姫を。

「そして、最も厄介な、人に害をなすことを楽しんでいるものです」と黒髪フリフリドレスを。


 すると三人はへにゃりと座り込んだ。

 周囲の人に手を借りて起き上がったとき、王子男が憑き物が落ちたようにすっきりとした顔をしていたのに驚く。





「マルグリット!」


 まっさきに立ち上がったのは王子男だった。

 不快そうに眉をひそめ、黒髪フリフリドレスに掴まれた腕をほどくと、先程まで糾弾していた縦ロール姫に駆け寄る。


「マルグリット……。ずいぶんと顔色が悪い。あちらで休むか?」


 先程までの下卑た雰囲気も、頭の悪そうな感じもすっかり消えている。少女に向けられる視線は、愛しい者を慈しむそれだ。

 婚約破棄だなんだと叫んでいたのをすっかり忘れているように見える。


 マルグリットと呼ばれた彼女も、先ほどまでの怯えた様子はなく、ぼうっとしているが、王子に手を差し出されて顔を赤らめ、柔らかく微笑んだ。




 そのときだった。


「きゃあっ!」


 広間のあちこちから悲鳴が上がった。

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