同性の言葉
佐々木と合流して、車はコンビニに寄ったが、林さんは車から出なかった。
代わりに俺が林さんの食べ物を買っていた。
男三人がコンビニにいるところで、林さんが俺にメッセージを入れてくる。
『ちょっと、早く持ってきてよ』
俺が何も返事をしないでいると、林さんが音声通話してきた。
『早くしてよ。私のだけでも先に持ってきて』
「なら、自分で降りて買えばよかったじゃないか」
『とにかく早くして』
そこで通話が切られた。
「村上、何今の」
近くにいた毛利がそう訊いてきた。
「いや、なんでもない」
「お前、実は、林さんとも出来てたのか?」
俺は両手を振って否定した。
「そんなわけない。お前が狙っているって知ってるのにそんなことするかよ」
「……」
「なんか、早く食べたいらしいから、俺は先に会計するよ」
レジを通って車に戻ると、林さんは奪い取るようにしておにぎり、サンドイッチを口に入れていく。
しばらくして、毛利と佐々木が戻ってくると、林さんが言った。
「ごめん、もう少し買ってきて」
「えっ、まだ食べるの? 朝、気持ち悪いってもどしてたじゃない。大丈夫?」
「いいから買ってこい」
男三人が、全員林さんの顔を見た。
とにかくお腹が減っている、ということなのだろう。
「……」
俺は何も言わずに車を出ると、おにぎりとサンドイッチをさっきの倍買って戻った。
「ごめん、村上くんの食べ物食べちゃった。お金は払うから」
「えっ、ああ…… 分かった」
俺は林さんに食べ物を渡した。
車はインターチェンジに向かい、高速道路に入った。
研究会の連中を乗せたもう一台の車とは、坂のサービスエリアで待ち合わせている。
走っている最中も、林さんは黙々と食べ物を口にしていた。
初めは毛利と話していた佐々木も腹が減ってきたのか、コンビニで買った肉まんの袋を開け、食べようとした。
まだ温かったせいか、車内に肉まんの匂いがパッと広がった。
「ウッ!」
林さんが口を押さえて、大きな声を出した。
「臭い! ごめん、窓開けるわよ」
運転している毛利は、注意する。
「おい、高速道路だぞ」
「別に顔を出すわけじゃないでしょ、換気するだけ! ほら、村上くんも」
窓を開けると同時に、林さんが吐くのではないかと思いエチケット袋を手元に用意した。
程なく車内の温度が下がり、佐々木も肉まんを胃に収めたため、車内の匂いは消えた。
窓を閉めると、耐えられなかったのか毛利が言った。
「林さん、今日、なんか変だよ」
「俺もそう思う。二日酔いにしちゃ変だよ」
林さんは情緒不安定なのか、泣き出しそうな声で言う。
「食欲もそうだけど、肉まんの匂いが、こんなに鼻につくなんて…… 私もなぜだか、よく分からない」
車内が重い空気に包まれ、坂のサービスエリアに着くまで沈黙が続いた。
サービスエリアで別の車に乗った連中と合流した。
林さんは少し状態が良くなったので、研究会の連中と一緒にサービスエリアに入った。
別の車の連中はコンビニに寄っていなかったらしく、サービスエリアで食事をとるらしい。
林さんはそこでも食事を続けた。
「美奈ちゃん、胸大きくなった?」
研究会のもう一人の女性で、三崎洋子と言った。
「……そんなわけないじゃん」
「いや、明らかに大きいでしょ」
林さんは小さい声で、三崎さんに耳打ちする。
「(今ブラしてないから、あんまり胸のこと言わないで)」
「(してないのにそんななの?)」
「なんか匂いにも敏感になったみたい」
急に三崎さんが表情を変えた。
「(まさか、妊娠してないよね?)」
「……」
俺は三崎さんの言葉を聞いてしまった。
妊娠? 最初の吐き気、胸が大きくなったり、今まで平気だった匂いがダメになったり、全ては、そこにつながるのだろうか。
「村上くん?」
「何、三崎さん」
ジロジロと見定められているようだった。
「まさか、村上くん?」
俺は顔を逸らしてしまった。
「そうよ」
「は、林さん、何を」
いや、俺はしていない。
したのは如月さんだ。
だって、林さんは昨日の合コンで初めてを経験して、俺と五分になったと言った。昨日の今日で妊娠していたとしても、そこまで派手に兆候が出るのだろうか。
林さんの口元だけが緩んだ。
「バカね。妊娠してるわけないじゃん」
三崎さんは大きな声で笑った。
「いい、村上くん。女の方がそう言うのはわかるようになってるんだから。兆候が出たり、お腹が大きくなったりするのに、いったい何日かかると思ってるの?」
林さんがお腹を押さえた。
「さあ、そろそろいくか?」
と研究会のメンバーが、話しかけてきた。
そこで話は終わり、またそれぞれの車に乗り込んだ。
高速道路を進み、目的の高原についた。
見晴らしの良い丘の駐車場に車を止める。そこから山々を眺めて過ごし、近くのレストランで昼食をとる予定だった。
林さんが、佐々木にスマフォを預けると言った。
「私と村上くんが並んでるところを撮って」
そう言うと、林さんが俺の腕にしがみついてきた。
俺は瞬間的に毛利を探した。
レストランの方に行ったのか、もう周りにはいなかった。
「村上くん、ほら、笑ってよ」
山々をバックに写真を撮った。それなら自撮りでも良かったと思ったが、林さんは佐々木に要求した。
「もっと後ろから全身を入れて撮って」
「なんでそんな写真を」
「なんとなく。旅の思い出のために」
佐々木がスマフォを返してくると、写真を見てから俺に向けた。
「ほら、綺麗に写ってる」
その映像の中の俺の、ぎこちない顔だけが印象に残った。




