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スマフォゲーム

 俺は大学の授業を受けるため、電車に乗り込んだ。

 休講があったから、この後の電車でもよかったのだが、わざといつもの時間のいつもの車両を選んで乗った。

 それはラジオくんの横に座る女性に会えるかもしれない、と思ったからだった。

 扉が空いて、乗り込むとラジオくんが座っていた。

 空いている席はなく、真正面のつり革を掴んでしまった。

「昼のラジオは、ヒミツ光のヒマに任せて……」

 また同じラジオの内容を語り始めた。

 すると、すぐに女性が止めた。

「ほら。ここはどこ?」

 それは、まるで子供を諭すように感じた。

 だが、ラジオくんの顔や体は俺より上に思える。隣の女性は、俺と同じか、若いくらいに見える。

 年恰好を推測しても、子供がいるとは思えない。

 それとも美魔女で、倍の年齢なのだろうか。

 女性に言われたせいで、彫像の様に固まって真正面を向いているラジオくん。

 俺はその女性を見ずにはいられなかった。

 ちょっと頻繁にみすぎているか、と思った時、女性と目が合ってしまった。

「!」

 女性は気づかないフリをしているだけで、エッチな視線に気づくという。

 俺は失敗(ミス)を犯したと思った。

 女性の視線を外せなかったのだ。

 俺とその女性(ひと)はずっと目を合わせて見つめ合っていた。

 やばい。

 女性の背後、窓の外をじっと見ているフリをし続ける。

 ラジオくんがいつもの駅で降りる。

 女性は、ラジオくんに手を振った後、再び俺と目を合わせると言った。

「空きましたよ?」

 いや、椅子を開けてくれと思って見ていた訳じゃない。

「すみません」

 とだけ言って、その女性の横に座ってしまった。

 横に座ってしまえば女性を見つめることはないだろう。

 そんな風に軽く考えていた。

 流石に真横に顔を向けて耳や首筋を見ることはないが、膝や操作しているスマフォなど、彼女の全てが気になってしまい、チラチラと見てしまう。

 彼女はスマフォを操作しているうち、俺も知っているゲームをやり始め、体に力が入るらしく、腕や腿がちょくちょく当たってきた。

 その異性との接触、で俺は完全に舞い上がった。

 もう、チラ見どころか彼女のスマフォをガン見していた。

「あれ、どうして、ああ…… 負けちゃった」

 俺は気になっていた。

 スペシャルゲージが溜まっているのに、必殺技を使わないのだ。

 確か、最初のチュートリアルで説明があったはずだけど。

「あの、スペシャル使えば良かったんじゃないですか?」

「!?」

 彼女が驚いた顔で横を向いた。

 それはそうだろう。普通にキモい。

「あっ、ごめんなさい。つい目に入っちゃったもので」

「それなんですか!?」

 彼女は静かな車内で場違いに大きな声を上げた。俺を牽制していると思った。

「ごめんなさい。キモいですよね。謝りますから大声を出さないでください」

 彼女は口を手で押さえて、頬を真っ赤にした。

 今度は囁くような声で耳打ちしてきた。

「あの…… ごめんなさい。その必殺(スペシャル)って?」

 近づいてくる顔、耳に入る吐息と声。

 俺の興奮は最高潮になっていた。

 何も考えられなっていたが、とにかくゲームの説明をした。

 彼女は喜んだ。

「上の方がチカチカしているのは気になってたんです。そうですか、これを押せばよかったんですね」

 ターミナル駅に着く頃には、彼女のゲームもステージが進み、レベルも上がっていた。

 俺は「じゃあ」と言って電車を降りた。

 すると、後ろから彼女に呼び止められた。

「ねぇ、お名前は?」

「村上です」

 俺は手を振って乗り換え改札に向かっていた。

 するとさらに彼女の声がした。

「村上さん、バッグ忘れてませんか」

「!」

 顔が熱くなった。

 人の流れに逆らって、電車に戻り、彼女のところについた。

 彼女は網棚を指差していた。

「これ」

「ああ、俺のです。ありがとう」

「私は如月(きさらぎ)です。よろしく」

 そう言って握手を求めるように手を出してきた。

 電車は折り返すので、入れ替わりに入ってくる乗客が入ってきていた。

 その客に迷惑がられながらも、俺は手を握り返した。

「よろしく」




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