フィールド
「村上パパ!」
「忠さん!」
蓮の首輪も、林さんの首輪も、俺と同じように鳴り、振動していた。
「とにかく落ち着いて」
「早く行かないとここで死んじゃうよ」
蓮の方がよっぽど冷静だった。
俺は他人の子の言葉で、自分を省みて、冷静さを取り戻しつつあった。
「なんで俺たち三人が……」
「何かないの? 銃で撃たれないようにする方法」
俺は必死に考えた。
何かで聞いたことがあるのは、銃から逃げるときは銃から離れるように逃げろと言うことだった。
今考えれば、距離があれば威力が落ちるし、狙いも定めにくい。理にかなっている気がした。
ただ、この限定されたフィールドでその法則が適用出来るかはわからない。
「とりあえず、銃に近づいたら負けだ」
「当たり前じゃない」
「その当たり前を訊ねたのは誰だよ」
スピーカーから声がする。
『早くゲートに入れ。さもないとその場で首を落とすぞ』
蓮に手を引かれながら、俺と林さんは洞窟の出口に向かう。
「みんな近づいて撃たれている。とにかく建物に近づかないことだ」
「首輪を爆破されちゃうわよ」
確かにその通りだ。
「絶対に警告するはずだ。この場に集めたのは、銃で撃って殺したいからだ。だから警告された時、少し前に出ればいい。前に出過ぎると死ぬから、また少しずつ後ろに下がるんだ。それを繰り返せば時間は稼げるはずだ」
「その後は?」
正直、そこまで考えていない。
俺はその場で考えたことを口にした。
「弾がなくなれば、建物に近づいて突破できるかも」
ゲートに首輪を近づけると錠が開く。
「弾がなくなるなんてことある?」
「いくら何でも、手元の弾がなくなれば、補充が必要になるだろう。だからチャンスはゼロじゃない」
扉が開いた警報音が鳴り響く。
「限りなく可能性が低そうだわ」
扉を閉めると、一旦警報音が止まった。
俺たちは通路を進む。
「それと、さっき、連中の行動を見てたか?」
「なんの話?」
「遺体を処理する前に、連中が先に白い機械のついた棒で首の辺りに触れていた。おそらくあの白い機械がこの首輪の解除装置だ。逃げ出す時に必要になる」
林さんが最後の扉に首輪を近づける。
「何でそんなことがわかるの?」
次に蓮が扉に首輪を近づける。
最後に俺が扉に首輪を近づけた。
警報音と共に、扉の錠が解錠した。
「この首輪だって結構な装置だ。壊れてなければ、きっと再利用するだろう。それに遺体を運んでいる時に暴発したりしても危険だから、絶対に解除すると思うんだ。だからあの機械が解除の装置で間違いない」
俺は白い機械のついた棒が置いてある、建物の一階の端の方を指差した。
「……」
蓮が扉を握って、後ろにいる俺と林さんを振り返った。
俺は言う。
「とにかく信じてくれ。弾切れの瞬間があると」
蓮は言った。
「僕、パパを信じる」
「そうね。私も信じるわ」
「ありがとう」
洞窟内とフィールド側のスピーカーから声が響く。
『早くしろ!』
蓮が頷くと、俺と林さんも頷いた。
扉を開けて外に出る。
蓮が転びそうになりながらも斜面を降り切った。
林さんは躓いてしまい、転がりなら降りた。
俺は少し左のルートを、お尻を突きながら、降りた。
扉はドアクローザの力でゆっくりと閉まる。
『さあ、獲物がフィールドに放たれました。これは親子です』
直後、いきなり銃声が響いた。
どこに着弾したのかすらわからない。
「届いたの?」
「わからない」
蓮が林さんの手を取って立ち上がらせる。
『母が子を庇うか、子が親を庇うか。三人の行動は見ものです』
蓮が少し前に出る。
「だめよ!」
銃声が連続して起こる。
弾は地面に跳ねたように見えた。
蓮には当たっていない。
「ここまでなら平気かも」
「美奈子。じっとしていると首輪を爆破されて殺される。少し進もう」
「……」
俺たちはゆっくりと動くと、またいくつか銃声が聞こえてくる。
ほぼ同時か、少し遅れて弾が跳ねた。
少しずつだが、着弾場所が近づいている気がする。
「やっぱり後ろに……」
『それ以上、後ろにいるなら首輪を爆破します』
しまった、作戦に気づかれた。
『十、九、八、七……』
何とかならないか。ギリギリ射程の外に居たい。
「さっき弾が跳ねたのが、あの黄色い石の辺り」
「どこのどれが黄色い石なのよ?」
「僕がわかるよ」
蓮は平然と前に進んでしまう。
同時に銃声がする。
土や石が弾け飛ぶ。
「蓮は危ないから一人で前に出ないで!」
『ダメダメ、もっと前にくるんだ。一人だけじゃダメだ。全員で出てこい。六、五、四……』
「ママ、早く! この距離なら僕を盾にすれば大丈夫」
「蓮、そんなのだめよ。死ぬなら私が盾になる。あなたはまだ生まれたばかりなの」
俺は林さんに向かって、蓮と同じ『俺が盾になる』と言えなかった。
どうして蓮はそんなことが言えるのか。まだ数週間しか生きてない子供なのに。
「とにかく前に出よう。首輪の爆発で死ぬのは嫌だ」
俺は怖くて林さんの手を握った。
「忠さん。私たちは蓮の前に出て、蓮の盾になるわよ」
「……」
ぐいぐい手を引っ張られて、俺と林さんは蓮の前に回り込んだ。
『さあ、親が子を庇う展開だ! さあ、皆さん狙って!』
背後に着弾している。つまりもうここは射程の内側に違いない。
「左に、左に避けよう。蓮も左に!」
なるべく不規則に動くしかない。
一定のスピード、リズムだと読まれてしまう。
「右、ちょっとだけ右」
何かが太ももに当たった。
「!」
繋いだ手を離し、俺は地面に倒れた。




