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復讐者が征くゾンビサバイバル【第三章完】  作者: Mobyus
第五章 山梨編
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第79話 Prayers for a peaceful end.

 雁坂トンネルを抜け、歩くこと10分ほど。ロードサイドに中規模の休憩施設があった。

 感染者や元凶がいないか警戒しながら村雨さんと共に敷地へと足を踏み入れる。

 駐車場には3台ほどの乗用車が停まっているが、車内にも敷地内にも人の気配はない。


 建物へと近付いて行き、正面入口の前に立つ。ドアに張り紙があった。


『館内は施錠されていません。お困りの方はご自由にどうぞ。災害時につき販売物を自由に飲食して構いませんが、館内を荒さないようお願い申し上げます』


 と書かれていた。

 ドアを開けて中を確認するが、特に荒された形跡などはなく、お土産物販コーナーがそこにあった。

 野菜や総菜などの生鮮食品は既に売り場から撤去されているようで、残っているのは加工食品と飲料。それでもそこそこの量がまだ残っていた。

 恐らく、ほとんど山梨埼玉間で人の移動はなく、ここに立ち寄った人が少なかったんだろう。


 俺はまずペットボトルの飲料水を4本補充し、続いて缶コーヒーを4本手に取った。バックパックから空のペットボトルを取り出して、水4本、コーヒー2本を入れる。

 食料系は、日持ちしそうな瓶入りのジャムを2つ、お土産用のクッキーを2箱頂いて行く。

 本当はもう少し持って行けるが、他にもここに立ち寄る生存者がいるかもしれないことを考慮して、残しておくことにした。




「周辺には生存者も感染者もいませんでした」


 飲料と食料を手に入れ、建物の外へ出ると、建物の裏や周辺を確認していた村雨さんが戻って来たところだった。

 感染者もいない、というのが少し気掛かりではある。駐車場にある3台の乗用車の持ち主は一体どこに消えたのか。とはいえ、今はそれほどに気にすることでもない。


「そうですか。こっちは少しですが飲み物と食料が手に入りました」


 そう言って手に持っていた缶コーヒーのうち1本を村雨さんに差し出す。缶コーヒーがブラックであるのを見て少し残念そうな顔をした彼女だったが、それも一瞬のことでお礼の言葉と共にそれを受け取った。




 休憩施設をあとにし、道路を南へ進む。

 道路脇に疎らにある民家は人の気配などもなく、静かだった。この周辺の人たちはどこかへ避難したのだろうか。もしくは既に…


 そう思考した瞬間、村雨さんが89式を構えた。

 俺も咄嗟にライフルの銃口の先を見て89式を構える。


 だが、俺も村雨さんもすぐに銃口を下に降ろす。どうやら地元住民が道路にいるだけのようで、相手もこちらに気が付いて立ち止まったようだ。

 対象との距離は50メートルほど。それなりに高齢な老夫婦のようだ。田舎の爺さん婆さんの典型的な服装をしており危険はないと判断できる。


 俺と村雨さんは友好的な態度を示すために軽く手を振りながら、その老夫婦へと近付いて行った。


「こんにちは~」


 俺は努めて自然な口調で声を掛ける。村雨さんも軽く会釈をし、俺と共にさらに老夫婦へと近付いていく。彼らは逃げるような素振りもなく、こちらが近付いて行くのを待っていた。


「どおも、こんにちはぁ」


 数メートルまで近付いて行くと、70代後半の婆さんのややしわがれた声で挨拶が返ってきた。とりあえず感染者でも敵対的でもないことが分かって安心した。


「あんさんら、自衛隊け?」

「はい、そうです」


 俺は一瞬どう答えるか迷ったが、俺の隣にいた村雨さんがすぐに答えた。まあ、彼女が自分を自衛官というのは嘘じゃないから構わないが。


「へぇー、えらいねぇ、山越えてきいたんかい」

「ええ、まあ、トンネル抜けてきただけですけど」

「て、歩きでけ。ならよたいけんど、家よってけし」


 老婆はそう言って振り返り、近くの住居へと向かい始めた。そして隣でこちらを見ているだけだった老爺も、特に何を言うでもなく少し遅れて老婆の後を追って建物へと向かった。


「…どうします?」


 こちらの返答を待つことなく行ってしまう老夫婦に戸惑いながらも、村雨さんに問う。


「せっかくなので、少しお邪魔になりましょう」


 とのこと。もしかしたら元凶が通ったのを見ているかもしれないし、火急の用もない。俺は村雨さんに頷きで返して、老夫婦の後を追った。




 彼らの後を追って、玄関へと入る。俺と村雨さんは畳敷きの大きめの居間に通された。


「今茶淹れるから、こっちんこうし」


 そう言って用意してくれた座布団を指さす老婆。


「ああ、どうもありがとうございます」


 礼を言いながら座布団に座る前に背負ったバックパックを降ろす。


「大荷物じゃん、どっから来たとー」


 襖で仕切られた隣の部屋に行きながら聞いてくる老婆。ここは無難に…


「俺は東京から」

「私もです」


 …しばし返事もなく、隣の部屋で何かかちゃんと音がするだけ。


「ほー、東京け、何しに来たけ」


 と言いながら早足でお盆を持って現れる老婆。見た目は70代も後半に見えるが、ずいぶん丈夫なお身体らしい。

 しかし、何しに来たのかというのもまた難しい質問だ。


「民間人に危害を加えている集団がいるので、それを阻止するために来ました」


 俺が答えに詰まっていると、すぐに村雨さんが代わりに答えてくれた。確かに村雨さんが言うならそれは事実だが、俺がその答えをすると嘘になるな…

 老婆はそれを聞いて少し不安そうな顔をしながら、俺たちの向かい側に座ってテーブルにお盆で持ってきたグラスと麦茶を置いた。


 俺と村雨さんは注いで貰った麦茶を飲みながら、老婆と話をした。

 まず一番重要な元凶が通ったかどうかを聞いた。答えは、確かに一昨日の昼過ぎに何台かの車が通った音を聞いたそうだ。久しぶりに車の音を聞いたため外へと出てみたが、既にその時には見えなくなっていたという。元凶が山梨方面に来ていたのは確実のようだ。

 そしてそれから周辺の住民がいないことについて尋ねると、ほとんどはアウトブレイクから数日後のライフライン途絶後すぐにまとまって別の場所へ向かったそうだ。この老夫婦はしばらくは自給自足できるだけの食料の備蓄、井戸の水、畑を持っているためこの場所に残ったのだそう。ちなみにさっきから姿の見えない老爺は裏の山で薪を集めているらしい。


 そして東京の様子や日本という国家の崩壊、多くの人が感染者になってしまったこと、自衛隊が北海道に大規模な避難所を作ったことなど、こちらの知っていることを話した。

 老夫婦は話を聞いても動じる様子もなく、そうかそうかと話を聞いているだけであった。

 なんというか、既に覚悟を決めて達観しているような、そんな雰囲気だ。




 その後、1時間ほど休憩させてもらった俺たちは、老婆に礼を言ってその場を後にした。少なくともあの老夫婦が安らかなる最後を迎えられることを祈りつつ。



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