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復讐者が征くゾンビサバイバル【第三章完】  作者: Mobyus
第四章 過去回想編
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第76話 地獄の蓋

時系列:物語開始のおよそ1年前。第75話の翌日

場所:島根県某所

 俺は川崎に指示された場所に車を止めて、サイドブレーキを引き、エンジンを止めた。


 周囲はまだ真っ暗で、時間は午前3時半。助手席にいる川崎は起きているが、後部座席にいる4人はばらばらの体勢で眠っている。


「おい、全員起きろ。着いたぞ」


 川崎が後部座席に声を掛ける。その声を聞いて軽い呻き声のような音を出しながら、4人は起きる。


「ここからは歩いて行く。準備を始めてくれ」


 そう言って川崎はドアを開けて車を降りる。俺も続けて車から降りて、車の後ろへと向かうと、川崎がバックドアを開けたところだった。

 川崎と俺はギターのハードケースを車内から取り出し地面に降ろし、ケースのロックを外して蓋を開く。

 中にはギターが入っているが、ハードケースに入れるにしては薄いエレキギター。


「…」


 エレキギターを取り出して横に置き、ケースの底を引っ張る。ケースの底は二重底になっており、隠してあるブツをゆっくりと取り出した。


 今回チョイスしたのはVSS Vintorez という特殊な狙撃銃だ。9×39㎜という薬莢長の割に口径の大きな特殊な弾薬を使用する、静穏性の高い銃だ。実戦で使うのは初だが、さんざん地下の射撃場で撃ったため、操作感覚はばっちりだ。PSO-1という4倍率のスコープが取り付けられており、SVDスタイルの木製ストックは黒く塗られている。

 隣では川崎も同じ物を取り出して、チャージングハンドルを動かして確認している。

 ちなみに、この銃は川崎の私物だそう。アフガニスタン紛争の末期に敵から鹵獲した物を密輸したらしい。弾薬もSP-5というフルメタルジャケット弾をたんまりと持って帰って来たんだとか。馬鹿だ。


 銃と共に隠されていたマガジン収納用のサイドポーチを腰に取り付けて、そこに3つのマガジンを入れ、1つを銃に取り付ける。

 20連のマガジンを4つで総弾数は80とやや少ないが、今回は川崎も同じ装備で参加し、他の味方もいる。


「準備は、できてるか…」


 他の4人に声を掛けようと振り返った川崎は、既に4人がそれぞれに得物を持って待っていることに気が付いたようだ。赤城はぼこぼこになっている使い古された金属バット、牧田はバール、村上は鉈、そして飯塚は刀のような物を持っている。

 飯塚、車の中にいた時は顔が見えていなかったためわからなかったが、たぶん俺より若い。おそらく未成年だ。


「行くぞ」


 川崎はそう言って歩き出した。それに続いて赤城、牧田、村上、飯塚と続き、俺が殿になって移動を始める。

 山の奥へと続く幅が1メートルちょっとの未舗装路を、ずんずんと進んで行く。




 道中で赤城は自分の配下の3人に話しかけている。内容は割と普通の世間話と言ったところか。

 しかし、俺はどこかでこいつの声を聞いたことが…


「そうか…」


 森の中の茂みが揺れる音、そしてこの声、思い出した。思わず声に出たくらいだ。

 こいつは、俺が初めて人を手に掛けた時、相手の女性と電話で話していた男だ。おそらく女性の息子と思われる人物を殺し、その断末魔を聞かせるという鬼畜の所業を行った人間だ。

 銃のグリップを握る手に力が入る。トリガーに指を掛けて、銃口を奴に向けて、撃ち殺したい衝動に駆られるが、今ここでそんなことをするわけにはいかない。

 俺は川崎の手下になって、殺し屋を続けても、悠陽を守り抜くと決めた。そのためなら、自分を人殺しにした人間に対する感情を押し殺せた。


 静かに深く息を吸い、吐く。




「見えたぞ」


 2時間ほど歩き続けると、うっそうとした森を抜けた。そして200メートルほど先に集落があるのが見えた。集落は東西と北側が山に囲まれる形の盆地にあり、俺たちはその西側からやって来た形になる。

 川崎はその場で身を屈め、双眼鏡を取り出して偵察を開始した。俺の前にいる4人は川崎の後ろについて同じように身を屈めた。


「何か、祭事のようなものを準備しているようだ」

「情報通りじゃねえか…油断してるなら一気に仕掛けるか?」


 川崎が双眼鏡を覗きながら言うと、食い気味に赤城が反応した。


「ああ。だが、俺と向井が射撃位置に着くまで待て」

「ちっ、わぁったよ。位置に着いたら知らせてくれや」


 川崎は赤城の答えに黙って頷いて、俺について来いのハンドサインを出してきた。

 俺は黙って従い、川崎の後を追う。


 細い道から外れて、集落が良く見える高台に来た。木が切り払われているところを見るに、普段はここに誰かがいるようだったが、今は人の気配はない。


「お前はここで奴らを援護しろ。俺は他に行く」


 川崎が早口でそう指示して足早に立ち去ろうとしたが、俺は疑問を投げ掛けた。


「合図は、合図はどうする?」

「お前に合図は送らん、好きにやっていい」


 とだけ残して、行ってしまった。

 好きにやれ、か。


 俺はVSSのチャージングハンドルを引いて、弾薬をチャンバー内に送り込んだ。

 片膝を着いて銃を構え、スコープを覗き込んで赤城たちの待っている場所を確認する。


「え…?」


 いない。

 さっきまで道の外れにいた赤城たち4人がいなくなっている。どうなってる?川崎が俺を置いて行ってからまだ30秒しか経っていない、赤城達に突入していいという合図は送っていないはずだ…

 スコープから目を離し、肉眼で赤城達の位置を確認する。彼ら4人が集落に向かって走っているのが見える。


「あいつ、先走りやがったのか…」


 俺がその様子を10秒ほど眺めていると、とうとう彼らは集落へと突入した。建物で4人の様子は見えなかったが、100メートル以上離れたこの場所にも聞こえてくるような怒号と叫び声がして、戦闘が始まったことがわかった。

 銃を構え、スコープを覗く。建物と建物の間に牧田と村上、そして見知らぬ白服の男が見えた。白服の男は果敢にも素手でバールを持つ牧田に抵抗しようとしていたが、腕をバールで殴られ、顔をバールの先で突かれて倒れ込んだ。牧田は容赦なくバールを振り上げて倒れ込んだ白服の男の頭へと振り下ろした。

 スコープ越しにそれを見ていると、既に村上の姿は見えなくなっている。他の標的に向かって行ったのだろう。

 しかし…牧田は少しも躊躇いがなかったな。俺は毎回毎回、トリガーを引く度に躊躇いがある。人の命を奪うことに、罪悪感を覚える。だが、彼は、彼らはそれが一切ない。それが何故かは考えるまでもなく理解できる。()()()()()()()()の戦いをしているからだ。


 銃の向きをゆっくりと変えて、別の方向を見る。赤城が白服の初老の男をバットで殴り倒していた。そのまま赤城は男の胸を足で勢い良く踏み付け、バットを高く振り上げて振り下ろす、高く上げて振り下ろす、高く上げて振り下ろす。

 複数回も金属バットで殴りつけられた初老の男の頭は潰れ、顔はぐしゃぐしゃになり、穴という穴から中身が飛び出していた。

 思わずスコープから目を離しそうになったが、赤城の後ろには鍬を高く掲げたまま走ってくる白服が見えた。

 レティクルの左下にある簡易距離計に赤城の身体を合わせて測距、だいたい140メートル前後か。

 中央の照準点を赤城の後方に動かし、トリガーを引く。


 ―――ツァンッ―――


 少し強めの拍手をした時のような音と共に、銃口から秒速300メートル毎秒の速度で弾頭が射出される。

 0.5秒後には赤城の後ろに迫っていた白服の胸部へと銃弾が直撃し、鍬を振り上げて走る勢いのままに前方へと倒れ込んだ。鍬は手から離れて赤城の足元へとすっ飛んでいき、赤城はそれに気が付いて振り返る。

 赤城は周囲を見るような動作もなく、うつ伏せに倒れ込んでいる白服へ走り寄って行き、走る勢いをそのままに後頭部にバットを振り下ろした。ビクッと腕と脚が浮き上がるのが見えた。


 容赦ねえな、マジで。


 その後も、赤城は2,3回ほど力一杯に後頭部に向かってバットを振り下ろした。原型を留めていない頭…金属バットで殴ってるとはいえ、数回の殴打で頭蓋骨を砕いて頭を潰せるとは、腕力のリミッターがぶっ壊れてるんじゃないのか。バットを握っている手には相応の衝撃があるはずだが、赤城の表情は笑っていた。






第四章 過去回想編はいったんここまでとなります。

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