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復讐者が征くゾンビサバイバル【第三章完】  作者: Mobyus
第四章 過去回想編
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第73話 意思の疎通

時系列:第72話の翌日

場所:不明


 外から鳥のさえずりが聞こえて来た。同時に陽の光がカーテンの隙間から射し込んでくる。

 俺は目を覚ました。隣で寝ている悠陽を起こさないように、ゆっくりとベッドから降りて、服を着る。


 トイレで用を足して、手を洗い、顔を洗い、歯を磨く。昨日までのことが嘘のように、平穏な朝。

 洗面所から出ると、悠陽も起きていたようで、ベッドの上に座って目を擦っている。


「おはよう」

「うん…おはよ…」


 そう挨拶を交わしていると、俺のすぐ後ろにある扉がノックされた。鉄の扉をゴンゴンゴンと強めに叩く音で、一瞬ビクッとした。

 悠陽が服を着ているのを確認して、俺は扉に向かって少し大きめな声で「どうぞ」と答えた。

 ガッチャン。という音がして開錠され、扉が開かれる。扉の向こうには昨日と同じように川崎がいた。


「起きていたか。準備もできているようだな、来い。女は部屋にいろ」


 と川崎の指示が来る。俺は部屋にいる悠陽の方へと振り返って。


「行ってくる。大丈夫だから、心配するな」


 と声を掛ける。だが、悠陽はやはり心配そうな表情でこちらを見つめている。

 俺はそんな彼女を残して、部屋から出た。川崎は俺が出て来た扉を施錠して。


「ここの鍵を持っているのは俺だけだ。彼女は安全だ。保障する」


 と俺の目を見て話した。

 信用していいのか、それはまだわからないが、今はただ黙って頷くことしかできない。




 建物から出て、また森の中へと向かう。まさか、またフェンスの中に閉じ込められて同じことをさせられるのか?と思ったが、以前とは違う場所へと向かっているようだった。


「今日は銃の扱い方を学んでもらう」

「…何?」

「銃、だ。鉄砲。わかるか?」

「あ、ああ、わかるが…そうすれば俺も彼女も助かるのか…?」

「そうだ。お前はわからんが、あの娘は絶対に大丈夫だと約束する」


 俺はわからない?どういうことだ。だが、悠陽は大丈夫、という言葉は今までの行動からして信用はできる。信頼はできないが。


 そこからまたしばらく歩くと、小さなコンクリート造りの建物が森の中にあった。川崎は迷わずにその建物のドアを開けて中へと入って行く。俺も彼に続く。

 建物内は暗く、埃っぽい。川崎が壁の方に手を付けると、明かりが灯った。うお、眩しい。


「こっちだ」


 そう言って川崎は床板を外し、下を指さした。

 床下には穴が開いており、梯子が取り付けてあった。俺は言われた通り、梯子を下りていく。そして続いて川崎も梯子を下り始めた。


 地下にはまた部屋があった。暗くてあまり見えないがかなり広い部屋で、上と同じように埃っぽく、それに加えて何かが焦げたような臭いもする。

 川崎がまた壁のほうに手を伸ばすと、明かりが灯る。

 バッ、バッ、バッ、と端の方の天井から順番に眩しい光が放たれる。それと同時に、周囲の景色が一気に広がって行く。そこは、洋画でたまに見るような射撃場だった。


「お前は今から、銃の扱いを学んで、殺し屋になる。そうすればあの娘の命は保障する、絶対にな。だがお前は、死ぬかもしれん。それも、お前次第だが」


 と俺の後ろにいる川崎が話す。

 殺し屋になる、だと…?まだ、俺に誰かを殺させるつもりなのか…?

 俺は振り返って川崎を睨む。


「そう睨むな。俺も悪いとは思っているが、俺も、お前と状況はそう変わらん」

「なんだって…?」

「俺も、孫を、な」


 と言葉少なに語る川崎。

 そう、か。同じように人質を取られて、半ば無理やりやらされているのか。


「前に電話で、あの娘を殺したくはないと言ったな。あれは本心だ。俺は誰も殺したくはない。だが、俺の中には命に優先順位がある、誰かを守るために誰かを犠牲にする場合は、常にその優先順位に従って行動する。だから、俺に、お前やお前の恋人のことを殺させないでくれ」


 たぶん、川崎の言っていることは本当のことだろう。瞳孔の開き具合からして、かなり感情に揺らぎがある。少し揺さぶってみるか…?


「…そういえば、あの部屋の鍵はあんたしか持ってないって言ってたな?今、俺があんたをここで殺して、鍵を奪うことができれば、俺は彼女を助けられるのか?」

「やってみる価値はあるかもしれん。だが、俺に従えばそんな危険な賭けに出る必要はない、失敗すればお前もあの娘も、死ぬことになるんだぞ」


 確かに、この男を信頼するなら、そんなことをする必要はない。俺が手を汚せば、悠陽は助かる。簡単なことだ。

 だが、俺だってこれ以上、人を殺したりしたくはない。川崎と俺は同じだ。


「…確かに、俺はあんたと同じだ。川崎さん。俺も、誰も殺したくはない。そこは同じだ」

「…」

「なら、互いに協力できるんじゃないか?あんたの孫を救えれば、この意味のわからないことをする必要はないんだろ?」


 川崎は手を顎に当てる。そして少し考えてから。


「…無理だ」


 と答える。だが続けて。


「今はな。だが、もし、俺も、お前も、同じように大切な人を救ったうえで助かる見込があると判断すれば、その時は今のお前の提案に乗ろう。だから、それまでは俺の言う通りにしろ」


 川崎は一瞬たりとも俺の目から視線を外さずに、そう続けた。

 俺は、この男を信頼することに決めた。たぶん、それが一番良い選択肢だと確信した。










第69話で向井が、川崎がなぜ元凶に協力しているか知らない、という旨の発言をしていましたが、訂正しました。

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