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復讐者が征くゾンビサバイバル【第三章完】  作者: Mobyus
第三章 埼玉編
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第69話 怨敵-肆-

 登り傾斜の道路は終わった。やっと登り切った…

 この林道を進めば、ダムの南側へ行ける。そしてそのまま通り抜けると、奥秩父もみじ湖の湖畔を行く道路が続いているはず。


 木々の隙間からループ橋が下に見える。ってことは既にダムの一番上と同じくらいまで登って来てるってことか。

 ダムまで近いな。


 と思っていたら目の前にトンネルが見えた。そしてその右側には側道があり、大滝ダムへと続いているようだった。

 そしてその側道から、人が歩いているのが見えた。


「やべっ」


 俺と村雨さんは急いで道路脇にある森へと飛び込んだ。




「こっち側まで歩哨が…」

「やはり重要な拠点があるだけあって、厳重ですね…」


 森の中で木々に紛れて、小声で話す。

 しばらくすると、歩哨は歩き出して、ダムの方へと戻って行った。どうやら四六時中見張っているというわけではないようだ。

 その隙を狙って、トンネルの方へと進む。


 トンネルは超暗い。電気が来ていないうえにどちらの出入口も山の陰になっているために入ってくる光の量が少ない。さらにその上、トンネルは緩やかなカーブになっているため、視界はほぼ0だ。

 スッと、村雨さんの手が伸びてきて、俺の腕を掴んだ。


「はぐれないためです。暗いですから」


 俺は掴まれている腕とは反対の手で、トンネルの壁を伝うようにして進んで行く。




「ったく、このトンネル暗すぎるぜ…」

「お前がランタン持ってくるの忘れたんだろうが…」


 おっと、びっくりした。声がしたことより、腕が潰れそうなくらいの力で掴まれたことにびっくりした。

 俺は立ち止まって、小声で。


「ナイトビジョン、貸してください」


 と村雨さんに頼んだ。ハッ、という声と、バックパックをごそごそとする音が聞こえる。




「おい、何か言ったか?」

「は?」

「今、何か聞こえ…」

「ばっかおまえ、変なこと言うなよ…」




 声が徐々に近付いて来てるな。

 そう思っていると、手にポンと何かが置かれた。ナイトビジョンだ。

 それを覗き込むと、真っ暗なトンネル内がシアン色で見えるようになった。前方から、2人の男が歩いて来ているのが見えた。1人は猟銃のような物で武装している。




「な、なあ。マジで、な、なんかいるのか」

「ま、まあ、山の中のトンネルだからな、野生動物がいたって不思議じゃねえだろ」

「あ~。そうか、鹿とかタヌキとかかな」

「鹿なら仕留めて持って帰ってみゴァッ…」

「なっ!なんだ…!」


 ドサッ


「ひっ…お、おい、ふ、ふざけるなって、シャ、シャシャッ、シャレになんねぇっゴガァ…」




 真っ暗闇の中、マチェーテで喉を掻き切られた男が2人、死んでいる。


「容赦ないですね、向井さん…」


 村雨さんにナイトビジョンを返して、トンネルを進んで行く。

 やがて明るくなり始め、村雨さんはナイトビジョンをバックパックへと戻す。


「眩しい…」


 トンネルの出口の先は眩し過ぎて見えない。ただ、人の声や気配はない。

 トンネルを抜けて外に出ると、右手にはダム湖の奥秩父もみじ湖が見えた。渇水期なのか、かなり水量は少なく、湖底が薄っすらと見えている。

 周囲を警戒するが、誰もいない。少しトンネルから離れると、ダムが見えた。天端にはさっきトンネルの手前で見た歩哨が歩いている。他にも数人の人影があったが、ダム湖の方を見ている者はいないようだ。

 そのまま、湖畔に続く道路を進む。


「あった…」


 見つけた。元凶の拠点で間違いない。湖の反対側にある入り江のような形状の先、谷を切り開くような形で複数の建物がある。ダム湖に面した山肌に真新しい建物群があるという、違和感の塊。


「ビーコンの反応的にも間違いないですね…」


 もはやビーコン要らなかった気がしないでもないが、念には念を、だ。

 しかし、よくもあんな場所に宅地造成の許可が出たな。普通はあり得ないはずだが、県政や国政に元凶が侵食していた可能性もあるな。


「あとはあそこが良く見える場所を目指しましょう。ここを登ります」


 と言って村雨さんは後ろにある急斜面を指さした。おい、マジか。

 法面の横にある整備用の階段があるが、その先はほぼ崖。他に迂回できる道はないし、そもそも来た道を戻ることすら危険だ。行くしかないか。

 疲労で限界に近い身体に鞭を打って、村雨さんに続いて急斜面へと歩き出した。





 急傾斜地を登り続けること3時間。ようやく元凶の拠点が良く見える場所を発見した。たぶん携帯電話用の基地局だった場所のようで、周囲の木々はある程度伐採され、奥秩父もみじ湖を見渡すことができる。拠点までの距離はジャスト1キロ。

 夕陽は山の向こうへと落ち、既に周囲は暗くなっている。


「動きがあります。たぶんどこかで死体が見つかったんでしょう」


 と双眼鏡を使って拠点を偵察している村雨さんが報告する。ま、斜面を登っている間に見つかったんだろうな。死体を見れば、手練れによる襲撃だと気付いただろうし、警戒して当然だ。


「歩哨が数組出て来ました。武装しているようです」


 俺は村雨さんから双眼鏡を受け取り、拠点の方向へと向ける。

 拠点は恐らく宅地として造成された場所にあり、斜面に棚田のように建物が立ち並んでいる。拠点の入口は1つで、かなり厳重なフェンスと歩哨によって防備されている。そして、そこから20人ほどの人間が拠点外へと向かって歩いているのが見える。武装は手斧や手製の槍、ハンマーなどの鈍器がほとんど。一部はAKのような自動小銃で武装している上に防弾装備を身に着けているようだ。今までの連中とは一線を画す装備だ。

 そしてそのまま、じっくりと双眼鏡を覗いていると…





「ッ…」


 思わず、声が出てしまいそうになった。そうか、銃を持っている者がやけに多いと思ってはいたが…


「向井さん…?どうかしましたか」

「俺に、戦い方(コロシ)を仕込んだ人間がいます」

「え?」


 俺は村雨さんに双眼鏡を返し。


「あの拠点の出入口にいる初老の男です」


 短い白髪、三白眼、葉巻を咥えている60代くらいの男。俺に銃器の取り扱いと人の撃ち方を教えた人間だ。


「何者なんですか?」

「中東で個人で傭兵をしていたそうです。本名かどうか知りませんが、川崎と名乗っていました。実力は本物です。銃を持っている連中は、奴に訓練を受けていたんでしょう」


 思わず、拳に力が入る。恋人を人質に取られた俺は、彼女の命を救うために必死であの川崎という男から戦い方を学んだ。命がけで、何度も何度も死にそうになった。


 夕日は完全に落ち、周囲は急速に暗闇へと飲まれていく。村雨さんも双眼鏡で偵察するのを止めた。


「航空支援の到着まで、18時間です。それまでここでじっとしていましょう」


 俺はその言葉に頷いて、その場に座った。





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