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復讐者が征くゾンビサバイバル【第三章完】  作者: Mobyus
第三章 埼玉編
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第63話 脱出

 翌朝、完全装備の俺と村雨さんが護衛する形で、避難行動が開始された。

 一度では全ての人を運びきれないため、前半と後半に別れることとなる。前半は子ども、老人、女性を中心に運ぶことになっており、健康な男性を中心に病院に残ってもらうことになる。

 若木さん、佐川さんも前半に行こうと提案したが、私たちは大丈夫だと言って病院に残ることに。


 そしていよいよ出発。俺は最後尾のトラックのドライバー兼護衛だ。先頭には村雨さんと安部医院長が乗っている。その間に5台のトラックが連なって、病院を出発した。

 ちなみに、俺の運転するトラックには数人の男性と荷物が載せられている。そりゃ大型無免の俺がたくさんの人を荷台に乗せるのは危険だからな。先に避難したいと懇願した若い男たち数人を荷物番として乗せ、病院に残っていた食料や医療物資を見張らせている。




 結論から言うと、道中は何も問題がなかった。稀に感染者がいたものの、大型トラックを止められるわけもなく、跳ね飛ばされた感染者は道路のガードレールの向こうへ。荷台の人たちがそれを目視しないのはトラックの良いところだな。

 峠を越え、群馬県に入る。そしてしばらく走ると、前方のトラックが停車した。それで1時間ちょっとで目的地の町に到着したようだ。


 建物が増えてきたところで、前方のトラックが停車。それに続いてこちらも停まり、前方からの指示を待ちながら、バックモニターとミラーで後方を警戒していた。

 数分すると、前のトラックがまた動き出した。俺もそれに続いてトラックを進める。


 なるほど。道路にバリケードが設置されていたのか。片車線のバリケードが撤去されて通れるようになっており、その傍らには数人がトラックを見上げて立っている。見たことない顔だ。病院から来た人じゃない、こっちの地元住民らしい。


 トラックはそのまま進み、町の中心付近までやって来て曲がった。そのまま学校の敷地内へと進入していく。校庭にトラックが停まり、俺もそれに続いて停車した。

 エンジンを切って、トラックから降り、荷台の扉を開けた。顔色の悪い男たちが、ふらふらと出てくる。


「荷物、降ろし始めてください」


 俺はそう言って、安部医院長のもとへ向かった。


「向井さんも来たのね。とりあえず、この学校の校舎や体育館を使っていいそうよ」

「そうですか、よかった」

「ええ。人と荷物を降ろしたら、病院に戻って残りの人たちを連れてきてちょうだい。私はこっちでやることがあるから」

「わかりました」


 トラックから続々と出てくる避難者たち。子どもや老人は体育館へ。俺の乗っていたトラックの荷物も、同じく体育館へと運び込まれた。




「2度目の輸送は7台も必要ないから、2台は置いていく。向井さんと村雨さんは先頭と最後尾に別れて乗ってください」


 ドライバーのリーダーである花丸さんから指示され、今度は俺が先頭に、村雨さんが最後尾に乗り込んだ。


「じゃあ出発」


 そう言って5台のトラックは、病院への復路を進み始めた。


 道中は往路と同じく順調。峠を越えたところで、花丸さんが話し始める。


「向井さん、あの村雨さんって自衛官とかなり死線をくぐって来たみたいだね」

「え?」

「往路の時に、安部医院長と村雨さんが話していたんだ。東京のど真ん中で命を救われたとか、奥多摩で例の奴らを撃退したとか」

「ええ、まあ」




 そうやって花丸さんの話に曖昧な相槌を打ちながら、復路も1時間ほどで病院に到着した。

 トラックは病院の敷地に続々と入って停車する。そして最後尾のトラックが停車すると、村雨さんがすぐに降りて来た。


「向井さん、感染者です。トラックの音に引き寄せられて来たみたいで」

「数は…?」

「パッと見ただけですが、10から20くらいかと」

「花丸さん!乗車を急がせてください、感染者が来てます!」


 そう言って、俺と村雨さんは道路と敷地を隔てる門から出て、感染者の迎撃に当たる。

 銃声を出せば感染者はさらに寄ってくるが、既に道路に20体ほどの感染者が見え、どんどん近付いてくる。しかも、その数は徐々に増えつつあるようだ。


「向井さん、これを」


 ライフルの弾倉をチェックし、チャージングハンドルを引いてチャンバーに弾薬を送り込み、発砲可能状態にしたところで、村雨さんが何かを差し出してきた。

 これは…


「ヘッドセットですか」


 ヘッドセットとは言っても、音楽を聴いたりするための物ではなく、タクティカルヘッドセットだ。

 周囲の音を遮断することなく、通信を行うことができるうえに、銃声や爆発音など一定上の音量をカットする機能が付いている物だ。

 米軍が使ってるのと同じ社名だが、ナンバリングは不明。


 村雨さんから受け取って装着する。


『チェック』


 装着すると村雨さんの声が耳元で聞こえて来た。


『今は設定していないので、こちらから一方的にしか通信できません』


 そう言いながら彼女は俺の方を見て来たので、親指を立てて返答した。すまないが、自衛隊式のハンドサインは知らないんだ。


『来ます。数はどんどん増えているようです』

「花丸さんっ!!急がせて!道路が塞がれる!!」


 俺は大声で、病院の敷地内で人を荷台に詰め込んでいる花丸さんに叫んだ。乗車率はまだ2割ってところか。

 道路の方に目を向けると、30以上の感染者が道路を埋め尽くしていた。病院の門までの距離はまだ50メートル程ある。いや、50メートルしかない。


 横にいる村雨さんとアイコンタクトして、ライフルを構えてホロサイトを覗く。


 ダンッ、ダンダン。と銃声が響く。ヘッドセットはしっかりと役割を果たして、つんざくような銃声を除去してくれる。耳に掛かる負担はかなり少ない。


 1体、2体と感染者を倒し、横目で病院を見る。乗車率は3割くらいか。


 先頭の感染者は残り40メートル程度まで近付いて来ている。感染者の総数も40以上に増えて来た。どうやら近くの交差点を曲がって続々とやって来ているようだ。


 ホロサイトを操作して、照準を修正する。やっぱり少しズレていた。

 そしてまたトリガーを引いて、感染者を撃つ。




『リロード』


 そう言って村雨さんは弾倉を交換する。そして、また次から次へと発砲して確実に感染者の頭を撃ち抜いていく。マジで精密な射撃だな。特に感染者との距離が40メートルを切ったあたりから、ほぼ1発で1体を仕留めているくらいだ。不規則に動く感染者の頭をこうも的確に撃ち抜けるなんて。

 やはり本職は違うな。付け焼き刃で強制的に短期間で身に着けた俺の射撃技術とは根本的に違うものだ。


「リロード」


 聞こえているかはわからないが、そう掛け声を出しながら弾倉を交換する。


 チラッと横目で乗車率を確認する。7割くらいは終わっているな。

 列に並んでいる若木さんと佐川さんと目が合う。聞きなれない銃声と、近付いてくる感染者の足音や呻き声を聞いて不安な表情をしている。


 すぐに視線を正面に戻し、照準を感染者の頭に向ける。


 ズリッ


「ちっ、後ろからも来てます!」


 正面よりかなり数が少ないが、後方からも感染者がやって来ている。3体、いや4体とこちらも徐々に増え続けている。足音に気付けたのはヘッドセットのおかげだな。


『後方を頼みます』

「了解」


 俺はその場で180度身体の向きを変えて、片膝をついて射撃体勢を取る。10メートルほどまで迫って来ている感染者を1体倒し、89式を地面に置いて、.30-06のライフルを取り出してスコープを覗き込む。

 村雨さんが対応している方向には逃げないが、俺が向いている方向は逃げ道だ。こっちにいる感染者はしっかり排除しなければならない。


 倍率のサイトを覗き込んで、感染者の頭に照準を合わせる。まだ若い女の顔が映り込む。色白な顔には無数の赤黒い傷跡がいくつも刻まれ、目玉は今にも飛び出しそうなほど見開かれ、長い髪は血と埃でベトベトになり傷だらけの顔面に貼り付いている。


「くっ」


 トリガーを引くと、スコープは明後日の方を向く。もう若い女の顔は映らない。

 そしてまた、次の感染者の頭に照準を合わせてる。また顔が見える。トリガーを引く。


 8体ほどの感染者を狙撃で排除し、逃げる方向の道路はクリアになった。こっちは感染者が少なくて幸いだった。

 .30-06のライフルをしまい、地面に置いた89式を持って振り返る。


 感染者の群れは既に17,8メートルほどまで迫っていた。片膝をついて射撃する村雨さんの足元には2つほど空のマガジンが落ちている。リグにしまう時間すら惜しいため、地面に落としたのだろう。

 病院の方を見る。最後の1人がトラックに乗り込んでいる最中だった。花丸さんが荷台の扉を閉じて、ロックを掛けた。そして運転席の方へと走っていき、乗り込む。


 俺は村雨さんの肩をトントンと叩き、地面に落ちたマガジンを拾って、彼女のリグに入れる。


「全員乗り込んだみたいです。トラックが動きます」


 村雨さんは照準を覗きながら立ち上がり、ちょうど動き出したトラックを見る。

 先頭のトラックが1台、病院の門から出て行った。2台、3台、4台。その間、俺と村雨さんは、今も迫りくる感染者に向けて発砲する。

 5台目のトラックが門から出て来たところで停まった。俺と村雨さんは助手席に向かって走り、ドアを開けて乗り込んだ。

 それと同時にトラックが発進し、開いていた扉が慣性でバンっと音を立てて閉まった。


「ふぅ、間一髪だったね」


 そう言って花丸さんはシフトレバーを操作して、トラックをさらに加速させる。


「前のドライバーたち、道はわかるんですか?」

「ああ、大丈夫、みんな地元の人だから」

「はあ、はあ…」


 村雨さんは座席の後ろにあるスペースで荒い息をし、呼吸を整えている。大型トラックのキャビンは案外広い。3人程度なら普通に乗れる。


「村雨さん、大丈夫ですか」

「はい。大丈夫です」




 それからは、感染者や襲撃者と出会うこともなく、5台のトラックは無事に目的地へと到着した。




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