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復讐者が征くゾンビサバイバル【第三章完】  作者: Mobyus
第三章 埼玉編
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第54話 狩人‐肆

「声を出せば殺す」




 俺は今、元凶の拠点となっている保養所の宿泊部屋で、マチェットを男の背中に押し当てている。

 建物内に入るのはそれほど難しくはなかった。施錠もされていないし、玄関を見張ってる者もいなかった。もちろん裏口も同じだ。

 そして角部屋に入って、中を軽く物色していたところに、この男が帰って来た。血塗れになっている白服を脱ぎ捨てて、タンスから新しい白服を取り出そうとしている。こいつ、ボロ小屋の中に飛び込んだ奴か。


「…」

「聞かれたことだけに答えろ。そうすりゃ命だけは助けてやってもいい」

「わ、わかった…」


 男は小さい声でそう答えた。


「よし。まずこの保養所、お前ら信者は何人いる」

「80人くらいだ」

「他の拠点の場所は」

「わ、わからない…」


 握っているマチェットの角度を変え、刃先を首に当てる。


「本当だ…俺は下っ端で、本当に知らない…」

「じゃあ次だ。捕えてる人間、何人いる」


 男は僅かな間を置いて、口を開く。


「…20人、別館に閉じ込めてる…」

「どこから連れて来た。あの公園か」

「は、半分は避難所になってた公園からだ…」

「もう半分は?」

「…近隣住民とか…」


 俺はそれを聞いて、マチェットを握る手に力が入った。


「ま、待ってくれ、殺さないでくれ」


 首に押し当てられた刃が動いたのがわかったのだろう。男は命乞いし始めた。


「こっちを向け」


 俺がそう指示をすると、男はそれに従ってゆっくりと振り向いた。男と目が合う。恐怖に引きつりながらも、マチェットの刃が自分から離れたことに安堵している表情を見せる。


「お前は」

「…?」

「殺さないでと言われて、殺さなかったのか?」

「…!」


 俺がそう言うと男の目は泳いだ。こいつ、あの公園を襲撃した実行犯の1人で間違いないな。命乞いをする罪なき人々を殺して回っていたんだろう。


 男の目が泳ぎ、こちらから視線を外した瞬間に、マチェットの刃先を男の首へと突き出した。

 咄嗟に男は両腕を盾にしながら後退するが、そのすぐ後ろにはタンスがありすぐに背中をぶつけて止まる。マチェットの刃先は男の腕を貫通し、勢いそのままに喉仏を穿つ。


「ゴボッボボ…ゴガ…」


 首から噴き出す返り血を浴びながらも、男が絶命するまで力を緩めることはしなかった。




 男が力なく倒れ、物音がしなくなると、周囲は静まり返った。

 と思ったが、すぐに部屋の扉が開く音が聞こえた。


「おい、何の音だ…っ!なんだおま…」


 ドアノブが動いた瞬間にはマチェットから手を離し、肩に掛けていたライフルの銃口をドアへと向け、入って来た者と目があった瞬間にトリガーを引いた。


 ズバンッという発砲音は周辺に響き渡った。

 扉を開けて入って来た白服の胸のあたりが真っ赤に染まり、廊下の反対側の壁に背中を付けて倒れている。


 俺はすぐにマチェットを回収し、廊下に続く扉の方へと向かうが、すぐに複数の足音が近付いて来ていることに気が付いて、踵を返して部屋の窓へと向かった。

 幸い、ここは1階だ。窓を開けて外へと出る。

 後ろでは死体を発見した信者たちが大声を出して周囲に危険を知らせている。


 そんな敵を尻目に、捕らわれている人たちがいる別館へと向かった。

 別館は渡り廊下などで繋がっているわけではなく、離れになっていた。建物も古く、おそらく旧館か何かだったのだろう。

 こちらも入り口を見張っている者はおらず、容易く中へと入ることができた。


 中に入り、廊下に来ると足音が聞こえて来た。白服の女が廊下の奥からこちらへと近付いて来ている。

 咄嗟に廊下から玄関に戻ると、少し早足になった足音が近付いてくるのがわかった。

 すぐそこまで来ている。


「ねえ、ちょっと、さっきの音はいったい…」


 相手が角まで来たところでこちらから飛び出していく。

 相手までの距離は1mもなかった。そのまま突っ込んで肩でタックルを喰らわせる。全体重を乗せた悪質なタックルを胸に受け、そのまま立っていられる者はそうそういないだろう。

 白服の女を押し倒す形で一緒に倒れるが、すぐに立ち上がり状況を飲み込めていないまま痛みに呻く白服を掴んで、近くにあった掃除用具室へと入って行った。


「うぅ…何を、なんでこんな…」


 引き摺られた体勢のまま、信者がそういう。


「お前は看守か」

「あなた、こそ、何よ」

「聞かれたことだけに答えろ」


 そう言いながらマチェットを取り出して、床に仰向けになっている女の首に刃を向ける。女は血の着いた刃を見て、怯えた表情を見せる。


「ひっ、お願い、殺さないで…」

「お前はそう言って命乞いをすれば、助けてやるのか?」


 女はその言葉を聞いて目が泳ぐ、ことはなく。


「え、ええ、そりゃ、そうでしょ、人殺しなんて私…」


 咄嗟の嘘、ではなさそうか。もしこれが演技ならトップ女優顔負けの演技だぞ。


「なら、聞かれたことだけに答えろ、命は助けてやってもいい」

「わ、わかったわ」

「お前は看守か」

「看守…?ここにいる人たちは外で保護した人たちで…」

「お前、何も知らないのか」

「…えっと、ええ、そう、かも。皆、私の事を親の仇のように睨み付けるのよ、た、助けてあげているのに…」


 なるほど、こいつ、本当に何も知らないんだな。


「ここに何人いる、信者以外だ」

「18人、いるわ」

「なんのために、捕えた…いや、保護?している」

「そりゃ、外にはゾンビがうじゃうじゃいるから、でしょ」

「…そうか。この別館の扉の鍵は」

「ま、マスターキーを持ってるわ」

「どこにある」

「胸のポケットに」


 そう聞いて俺は咄嗟に手を出す。


「いやっ!」

「ちっ、デカい声を出すな。はぁ、出せ、早くしろ」


 そう言うと、女は床に倒れていた状態から上半身だけ起き上がり、白服の内側の胸ポケットから鍵を取り出した。

 俺はその鍵をひったくるように奪った。


「大声を出したら、殺すぞ」

「…」


 女は俺を睨みながらも頷いた。

 俺はすぐ近くにあった手拭いだか雑巾だかを掴んで、女に猿轡をさせた。多少抵抗したが、構うことはない。また同じもので手と足を縛って放置した。


 掃除用具室を出ると何やら呻く声が聞こえたが、それを無視して別館の廊下を歩いて行き、鍵の掛かっている宿泊部屋へと向かう。この別館は平屋で、部屋の数はそんなに多くはない。


 鍵をマスターキーで開け、扉をゆっくり開けて中へと入る。

 部屋は余裕のある広さで、5つのベッドが置かれており、そのベッドのすべてに人が寝かされていた。

 寝かされていた、というのも全員が猿轡を付けられ、ベットに拘束帯で縛られ、点滴を付けられていたのだ。

 まさか人体実験かとも思ったが、見たところ皆意識があるようで、部屋に入って来た俺のことを睨みつけている。

 俺は小さめの声で。


「助けに来ました。落ち着いてください」


 そう言うと、こちらを見ていた人たちの目が驚きに変わる。


「今助けるので、大きな声は出さないでください。全員助けます」


 そう言って一番手近にあるベッドに寝かされている人から拘束を解いていく。




「大丈夫ですか」

「ええ、ええ、私は、大丈夫です…」

「点滴を外します、いいですか?」

「いえ、自分でやります。一応、看護師でしたので」


 1人目の女性の拘束を解いて、点滴を外そうとすると、看護師だというため自分でやってもらった。俺みたいな素人がやるよりはいいだろう。


「立てますか…」

「はい、大丈夫です」

「俺が拘束を解いていくので、点滴を外してあげてください」

「わかりました」


 俺が拘束を解いて、1人目の女性が点滴を外す。僅か2分ほどで部屋にいた5人全員を解放した。


「他にも捕らわれている人がいるので、助けます。手伝って頂ける方は、ついて来てください」


 そう言って次の部屋へ。

 次の部屋にも同じように5人が寝かされていた。看護師の女性が手伝ってくれたため、こちらもすぐに開放が終わった。

 そして3つ目の部屋へ。ここも5人が寝かされていた。


 さっきの女の情報通りならあと3人か。そう思いながら最後の部屋へと入ろうとした時、別館の外から声が聞こえて来た。


「おい、逃げ出した奴がいるぞ!!」

「逃がすな!捕えろ!」

「どうなってる!別館を見てこい!!」


 何、どういうことだ…そう思って窓から外を見ると、2つ目の部屋で助けた若い男女が、互いに手を取り合って保養所の敷地内を走っているのが見えた。

 3人の白服の信者に追われている。


「クソ、勝手なことを」


 そう吐き捨てながら、看護師の女性にマスターキーを渡して。


「あと3人この部屋にいるはずです。それを解放してあげてください」


 女性が頷くのを確認して、俺は別館の玄関へと向かった。




 玄関には斧やらパイプやらを持っている信者が入って来た。警戒しているようで、さっきの騒動のせいもあって人数が多い。

 5人か。


「あ、あんた、大丈夫なのか」


 俺が玄関の方を覗いていると、後ろの廊下の少し奥からこちらに声を掛けて来る初老の男性の声。さっき助けた人の1人だが、デカい声出すなって言ったのに…


「おい、今の声聞こえたか」

「ああ、こっちだ!」


 走って来る信者を、角で迎え撃つ。

 ライフルを構え、飛び出して来た信者が驚いて止まった瞬間に、トリガーを引く。


 1人、2人、3人、飛び出して来た白服の信者を撃つ。.30-06のハイパワー弾薬を胴体に喰らって、それぞれが倒れて、動けなくなっている。

 次の数人は、目の前で撃たれた仲間を見て、飛び出してくることはなかった。


「クソ、撃たれた、撃たれたぞ!!」

「こっちだ!こっちに来てくれ!!」


 マズいな。80人いる信者が全員やって来て包囲されたら、逃げられない。

 俺は角に銃口を向けながら、音を立てないように後退していき、助けた人たちがいる部屋の前へとやって来た。


「囲まれる前に逃げます。ついて来てください」

「お、おい、あんた、まさか撃ったのか…」

「ええ、早く、逃げますよ」

「ひ、人殺しについて行けって言うのか…!」


 スッと頭が白くなる。なんで、助けてやった奴に、そんなこと、言われないと…


「じゃあ、いいです。逃げたい方だけ、ついて来てください。命は保障します」


 そう言うと、部屋から2人が出て来た。そして2人が残った。

 そして次の部屋へと行く。扉が開いており、話を聞いていたのか、俺を見て怪訝な顔をする者がいた。


「逃げたい方だけ、ついて来てください」


 そう言うと1人だけが部屋に残り、2人が部屋から出て来た。


 さらに次の部屋でも同じやり取りをする。2人だけしか出て来なかった。3人が部屋に残った。


 そして最後の部屋、看護師の女性が3人を解放し終えており、ついて来るかどうかを尋ねた。

 最後の部屋からは全員が出て来た。

 総勢、10人。俺は彼らを連れて裏口へと向かった。


 俺が先頭に立ち、裏口を出る。すると走ってやって来た白服の信者たちに取り囲まれた。


「逃がさねえぞ!」

「囲め!こっちだぁ!」


 2人だけか。俺はライフルを構えて、2発、弾丸を撃ち込む。


「こっちです。小走りで行きます」


 そう言って走り出す。ぞろぞろとついて来る12人を軽く振り返って確認する。


 そして、さらにその後ろ、出て来た裏口から見える別館の廊下。そこでは、さっきついて来ることを拒んでいた数人が、やって来た信者たちと取っ組み合いをしていた。


「おい、まさか…」


 俺らが逃げる時間を稼ぐために…?


 本館からやって来る増援の信者たちは、ほとんどが別館に残った人たちの鎮圧に向かって行く。逃げ出したこちらを追って来るのは数人だけだ。




 俺は入って来た時とは反対側の保養所の出入口まで走り、振り返る。

 10人が裸足で走ってやって来る。さらにその後ろには5人ほどの白服の信者。


 なお、保養所の出入口には全く人がいなかった。さっき俺が本館で起こした騒ぎのためにここを離れたのだろう。

 何か起こると持ち場を離れてしまう、警備としては素人もいいところだ。


 逃げ出して来た10人を敷地外へと逃がし、俺は追って来る信者に銃口を向けた。

 信者たちは撃たれると思ったのだろう。走る勢いそのままにその場に伏せた。


 そして、そのまま撃たずに敷地の外へと向かった。






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