第53話 狩人‐参
視点‐ボロ小屋で生き残った信者の1人
血塗れのボロ小屋の中、頭に風穴の空いた死体と窓枠にくの字になってる倒れている死体が視界に映る。
銃声が止まってから20分くらい経った。だが、周囲を伺うようなことはせずにただただ頭を低くしている。
どんな銃で、どんな場所から狙われているのかもわからない。いつ弾丸が飛んできてもおかしくない。
死ぬのかもしれないという恐怖が収まることはなく、身体を震わせている。
また5分くらいすると、足音が聞こえて来た。奴が殺しに来たのかと、身体が強張ってガタっという音を立てる。
「おい、誰かいるのか、返事を…な、なんだこれ、どうなってる!?」
聞いたことある声だ。仲間だ。近付いて来て、ボロ小屋の外に倒れている死体を見たのだろう。
まだ狙撃手が狙っているかもしれない。仲間に危険を知らせないとと思うが、同時にあえて教えなければまだ奴が狙っているかどうかわかると思い付いた。悪魔のような考えだが、俺と一緒にボロ小屋に入って伏せている男も、近付いてくる仲間に警告をしない。
しばらくすると、ボロ小屋の窓からこっちを覗き込んでいる白服を着た男と目があった。
「お、おい、何が起こってる…」
「撃たれ、ないのか…」
「何?撃たれのか?襲撃されたってのか?」
「あ、ああ。遠くから狙撃されたんだ…それで急いでこの中に入って、動けずに…」
「クソっ、おい、今は安全みたいだ。早く出てこい、保養所内に戻るぞ」
なんとか身体を起こし、一緒にボロ小屋で隠れていた男と一緒に外へと出る。姿勢を少し低くして、仲間の後ろをついて行った。
それから5分ほど歩いて、保養所内に戻って来た。服は血塗れで、ガビガビになっている。
敷地を覆っている外壁を通り抜けると、3等の信者がやって来た。ここのトップ3の1人で、名は釜嶋という。
「おい、何があったのか説明しろぉ!」
強面でガタイの良い男に怒鳴られ、身体が強張るが、俺と一緒に逃げて来た男はもう喋れそうになかったため、何とか口を開いて説明を始める。
「じゅ、銃声が聞こえたんで確認のために南側のボロ小屋に行ったんです、あの米田さんがライフルを持って監視してるとこです…それでボロ小屋を覗いたら、中で米田さんが死んでて…」
「あ?米田が、やられたってのか?クソが!ここで銃の取り扱いができるのは奴だけなんだぞ!」
「ひっ、そ、それで、死体を確認しようとしたら狙撃されて…米田さんもどうやら、狙撃されて死んでたみたいで…」
「ちっ、相手は何者だ?姿は見たんだろぉな?」
「そ、それが、全く…。射程の長い銃を持ってるってことくらいしか…」
「クソ、役立たず共め。スマホのカメラでも使って確認しろや」
「き、昨日から釜嶋さんも使えないって言ってたじゃないですか…」
「あぁ、そうだったな!クソが!」
それだけ言うと、イライラした様子で立ち去っていく釜嶋。ほんと、怒鳴り散らしてるだけじゃねえか。クソ、なんであんな奴が…
「おい」
立ち止まって振り返り、こちらを睨む釜嶋。
「とりあえず着替えてこい。お前ら、明日の朝まで歩哨だ。敷地内でいい、外壁に沿って歩いてろ」
「は、はい…」
そう言って釜嶋は立ち去って行った。
俺は自分の部屋まで戻って、血塗れになった服を脱ぎ捨て、タンスを開いて新しい白服を…
「声を出せば殺す」
背中に冷たい鉄のようなものが当たる感触と共に、声が聞こえた。




